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古代ローマ帝国1万5000キロの旅

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  アルベルト・アンジェラ 、 出版  河出書房新社
古代ローマ帝国の実態を克明に紹介した画期的な本です。この本によっていくつも新しい知見を得ました。なかでも怖いなと思ったのは、古代ローマでは誘拐が頻繁だったということです。
ローマ人の誘拐の主な目的は、さらった相手を奴隷にすることにあった。奴隷は毎年50万人も新しく加えられていた。どうやってか・・・。第一に戦争によって、第二に国境の外での人間狩り、第三に誘拐によって。
誘拐はどこでも起きる可能性があり、安全な場所などなかった。パン屋のあるじがお客を、宿屋が泊まり客を誘拐して奴隷として売り飛ばすことさえあった。路上も危ない。帰宅の途中、仕事への途中で誘拐されることさえあった。そして大農園のなかで、劣悪な労働環境の下で、死ぬまで働かされた。誘拐は、手っとり早く、ただ奴隷を手に入れる手段になっていた。誘拐犯が好む相手は子どもだった。古代ローマでは、出かけるときには誰もが外で誘拐にあうという危険な認識をしていなければならなかった。うへーっ、こ、これは怖いことですね。
 話は変わりますが、私はフランスのポン・デュ・ガールに行ったことがあります。南フランスのアヴィンヨンからバスで1時間ほどのところにありました。古代ローマの水道橋なのですが、実に状観です。三段になったアーチ型の優美かつ壮大な水道橋です。本当に圧倒されます。高さ48メートル、長さ370メートルというものです。2000年前のものが今もそのまま残っているなんて、すごいことですよね。
 水道橋ですから、要するに水を流していたわけです。どうやってか・・・。勾配をつけていたのです。水源から町までの50キロメートルを、山あり、谷あり、川ありの所を一定の勾配で水を通したのです。その勾配は1キロメートルあたり25センチというのです。1センチの誤差もなく、50キロにわたって導水管を通していたというのですから、古代ローマ人の土木技術の水準の高さには開いた口がふさがりません。それをわずか15年で完成したというのです。ここまでくると、いやはや、何とも言いようがありません。
古代ローマ人の造ったもっとも偉大な建造物は、何か・・・。それは、道路である。全長8万キロ以上になる。地球を2周できる計算だ。
そして、これは軍事目的でつくられた道路だ。古代ローマの道路は、水はけがよく、水がたまらない。道幅は4メートルあって、2台の馬車が行き違えるようになっていた。
古代ローマの女性は、法律上夫や兄弟に干渉されることなく、家族の遺産や財産を自由に使うことができた。女性も男性と同じように寝そべって食事するし、公共浴場に行くし、飲酒もする。そして、容易に離婚できたので、次から次に離婚した女性も少なくなかった。
古代ローマの女性は、大きな権力と夫からの自立を得ていた。離婚も、数人の証人の前で宣言するだけでよかった。離婚するときには、基本的に持参金の金額が女性に返還された。
古代ローマのスタジアムには15万人も収容できるものがあった。現代のスタジアムでも、その規模のものはない。映画『ベン・ハー』は、古代ローマの競技用戦車そのものを再現しているのではない。あれでは、あまり重すぎて、レースに参加することはできない。
古代ローマ人の生活をまざまざと再現してくれる面白い本です。
(2013年2月刊。3200円+税)

コリーニ事件

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  フェルディナント・フォン・シーラッハ 、 出版  東京創元社
日本とはかなり異なる弁護士事情です。私は弁護士生活40年になりますが、刑事裁判で無罪判決をもらったのは、たったの2件しかありません。うち1件は検事控訴されることなく一審で無罪が確定した詐欺事件でした。もう一件は検事控訴されて二審は逆転有罪となり、最高裁で有罪が確定した公選挙違反事件(演説会の案内ビラを配布したのが戸別訪問とみなされた事件です。こんなのが罪になるなんて、公選法のほうが間違っていると、今も考えています)です。残る事件は、いわゆる情状弁論を主とするものばかりです。したがって、ドイツ流に言うと、私は「勝てない弁護士」ということになりそうです。でも、本人も周囲もそんなふうには思っていません。
 この本は、ドイツの現職弁護士が書いた殺人事件の顛末を描いた推理小説です。ですから、ネタバレは禁物です。とは言っても、少しだけ紹介します。
弁護士は新米で、法廷での手続もよく分かっていません。
 経済界の大物経営者が突然、見知らぬ男に殺害されてしまいます。男は殺害後、すみやかに自首します。そうすると、弁護人として一体何ができる、何をするのでしょうか・・・。
 この本のオビによると、「ドイツでは35万部突破!」ということです。
 殺人行為を被告人が否定せず否定する意欲もないとき、そのとき、弁護人は何をしたらよいのか・・・。
 実は、被害者は元ナチスの高官だったのです。そして、この本の著者も有名なナチス高官のシーラッハの3世です。そうなんですね。ナチス高官の3世たちが今のドイツで活躍しているというわけです。ヒトラー暗殺未遂で首謀者だったドイツ国防軍の高官の3世も紹介されています。
ドイツでこの本が35万部売れたというのは、それだけナチス・ドイツが単なる過去の問題ではないことを意味しています。ひるがえって、日本ではどうなんでしょうか、過去への反省があまりにも足りないように思います。安倍さんのように開き直りが目立ちすぎますよね。これでは国際社会に受け入れられません。日本が侵略戦争したことをきちんと反省してこそ、日本の生きる道はあるのです。それは自虐史観などと言うものでは決してありません。加害者は忘れても被害者は忘れないのです。
(2013年4月刊。1600円+税)

安倍政権と日本政治の新段階

カテゴリー:社会

著者  渡辺 治 、 出版  旬報社
2012年12月の総選挙で自民党が圧勝し、それによって誕生した安倍政権への支持率は7割近いという高い支持率を誇っています。しかし、この本は、その自民党「圧勝」は実は「幻」でしかないことを明らかにしています。「落日」の前に「栄華」に過ぎないというわけです。いやはや、政治という奈落の舞台の奥深さを垣間見た思いのする本です。
 たしかに自民党は議席では圧勝したが、その政治的基盤はきわめて脆弱(ぜいじゃく)だ。自民党は得票率こそ0.89ポイント増やしたが、得票数では219万票も減らした(比例代表選挙)。2009年の総選挙で自民党は歴史的大敗をこうむり、119議席に落ちこんだ。それから1ポイント弱しか獲得票は増えていないのに、議席は175議席も増やし、「勝った」のだ。これは、もっぱら小選挙区での勝利による。
自民党が大勝したのは、民主投票が歴史的に激減したことによる。民主党の得票数は、なんと2021万票も減った。その獲得票は42%から16%へと実に26%も減らしている。民主党票の激減は地方でも大都市でも、同じように生じている。民主党への「左」からの支持層も「右」からの支持層も相次いで離反した。この結果、自民党はただ黙って座っているだけで、民主党が落ちたために「大勝」したのだ。
 このように、自民党は議席で「圧勝」したけれど、政治基盤は脆弱なまま。保守二大政党の機能麻痺が起きて、保守多党制の時代に入った。
 保守二大政党制は、当の政権にとって、その喪失は悪夢であるが、保守支配層にとってみたら、すこぶる安定した体制なのである。
うむむ、さすがは政治学者ですね。どっちに転んでも、なるほど大差はありませんよね。ライスカレーとカレーライスほどの違いもありません。
 例の維新の会は、相次ぐ橋下代表の暴言によって、このところ一気に支持率を著しく低めてしまいました。
維新の会が「躍進」したのは、民主党政権に期待して、裏切られた大量の票が自民党に帰らず、かといって「左」の共産党にも行かず、「第三極」の新しい政治を求めたことにある。
ここでは、「左」の責任というより、マスコミの責任が大きいように私は思います。マスコミは、あまりに「第三極」「橋下」「維新」を持ちあげすぎですよ。
 維新の会は、政治対立軸を大きく右にずらす役割を担っている。構造改革と軍事大国化の双方を急進的に主張する政党に脱皮している。
このところ革新政党の退潮が著しい。なぜなのか?それは、小選挙区制によって、悪しき「常識」が定着したことによる。選挙区で革新政党に投票しても議席に結びつかない「常識」が定着してしまった。そのうえ、マスコミは少数政党の政策を報道せず、無視するようになった。その結果、浮動票の減少、獲得票の固定化の傾向が著しい。
現代のマスコミは、大政翼賛会の時代のマスコミより悪い役割を果たしている。現代のマスコミは、決して権力的な統制下にあるわけではない。しかし、支配階級の意を受けた方向に「善導」する役割を果たしている。そして、マスコミは小選挙区制下での少数政党の停滞を自らの少数意見無視の姿勢の正当化の材料として使っている。
 そこには、マスメディアも企業であるという論理がある。つまり、お金もうけのためには、何をしても許されるということです。そこに「社会の公器」という視点はありません。
 たとえば、来年から消費税の税率が5%から8%に上がろうとしています。新聞協会は新聞についてだけは消費税率を上げしないように政府に強力に働きかけています。一方で「増税賛成」と大声で叫びながら、実は自分だけは「増税」しないように陳情しているというのです。まさに二枚舌の典型です。許せませんね。
 アジアのなかの日本を考えるとき、アメリカは今や日本より中国を重視している現実をみなければならないアメリカのアジア戦略にとって、中国は欠かせない存在である。中国が一番警戒しているのは、日本の軍事大国化である。
 日本政府は3.11の福島第一原発事故の原因の究明も尽くさないうちに、日本の「原発」を世界各地に輸出する話が進んでいます。安倍首相がトップセールスに駆けめぐっているのは見苦しい限りです。「原発輸出」って死の商人のすることではないでしょうか・・・。それよりむしろ日本の技術力とあわせて、平和憲法の前文と9条を世界に普及しましょう。日本の政治のあり方をさわやかな切り口で考えさせてくれるブックレットです。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2013年5月刊。1200円+税)

逆転無罪の事実認定

カテゴリー:司法

著者  原田 國男 、 出版  勁草書房
私より少し先輩になる元裁判官による刑事裁判のあり方を世に問う本です。
 私などは、この本を読みながら、いかにも底の浅い弁護活動をしてきたか、深い反省を迫られました。いえいえ、これまで手抜き弁護してきたつもりではありません。もっと複眼的思考で掘り下げて考えるべきだったという意味です。
 なにしろ、著者は最後につとめた東京高裁の8年間になんと20件以上の逆転無罪判決を言い渡したと言うのです。信じられません。年に2件もの無罪判決なんて、ありえません・・・。そして、いずれも検察官による上告がなくて、無罪判決は確定したというのです。いやはや、なんということでしょうか・・・。すごいです。著者は次のように述懐します。
 これほど、警察・検察の捜査や第一判決に問題があるなど、初めのうちは考えてもいなかった。ここには刑事裁判のおそろしさがある。人が人を裁くという本質的な難しさだ。
 著者は、ありきたりのような人定質問も大切にしているとのこと。
この段階こそ、相互の人間関係ができる、もっとも重要な瞬間なのである。
 そして、起訴状の朗読で地名を正しく読みあげるのは大切なこと。
証人尋問のとき、ウソを見抜くのは、なかなか難しい。韓国では、偽証罪の被疑者は138人、うち起訴されたのは9人のみ。
裁判官は、法廷で時間を気にしてはいけない。気にしていることが見抜かれ、被告人はいろいろムダな抵抗をしてくる。
 裁判官が被告人に判決を言い渡したあと控訴をすすめることがあることにも一理ある。
 判決は自信をもって言い渡すべきである。しかし、誤っている可能性は常にあるから謙虚な気持ちを失ってはならないのだから、ありうる説示なのだ。なーるほど、ですね・・・。
 とても本当とは思えないことも、一度は本当かもしれないと思ってみることだ。勘というのは非常に大切。人間の知恵の集積なのだ。冤罪を見抜く力は、いわば総合的な人間力だから、社会での経験や個々の人生経験がものを言う。毎日の新聞を読んでいないのは論外・・・。
 以下、無罪判決がコメント付きで紹介されています。いずれも、とても実践的な内容であり、明日といわず今日からの本格的な弁護活動にすぐに役立つものばかりです。
 多くの弁護士に一読を強くおすすめします。
(2012年11月刊。2800円+税)
 仏検(一級)が近づいてきました。過去問をやっています。仏作文はとても難しくて、まるで歯がたちません。いえ、文法も難問です。
 毎朝の書き取りに加えて、フランス語の勘を身につけるために仏和大辞典で類似語を調べたりもします。
 こうやって努力していても、語学力の上達はあまりなく、せいぜい低下するのを喰いとめるのに役立つくらいです。トホホ…。

ドアの向こうのカルト

カテゴリー:社会

著者  佐藤 典雅 、 出版  河出書房新社
この本でカルト教団とされているのは、日本でも全国各地で今日なお活発に布教活動している「エホバの証人」です。9歳から25年間のカルト生活を振り返った、壮絶な書物です。エホバの証人についてのコメントは、すべて著者によるものです。私のコメントではありません。念のために申し添えておきます。
 エホバの証人には、さまざまな抑圧の決まりごとがある。誕生日、クリスマス、正月など全ての行動はご法度。学校では体育の授業から運動会の騎馬戦まで禁止。国歌のみならず、校歌をうたうのも禁止。タバコはもちろんダメで、乾杯するのも禁止。信者以外の人と友達になるのも注意の対象となる。だから、多くの女性信者は独身を余儀なくされる。
 エホバは、この世はすべてサタンの配下にあると教える。世の終わりであるハルマゲドンは今にでもやってくると信者は信じている。だから、エホバの証人の子どもは、教団と親のいいつけを守らないと神によって滅ぼされると洗脳される。そして、一度、洗脳されたら信者は洗脳されたことに自覚のないまま自分の感覚を抑圧して生きていくことになる。そのため、うつ病、慢性疲労症候群、原因不明の病気に悩まされる信者が多い。
 エホバの証人は、春の記念式以外は、一切祝わない。
 エホバの証人は政治に一切関わらないので、選挙で投票はしない。
 エホバの証人は親は子どもを叩くのがあたりまえだ。
 エホバの証人は、宗教法人「ものみの塔聖書冊子協会」の一般名称である。ものみの塔はエホバの名前を擁護する唯一の真のキリスト教団体だという。
 エホバの証人は、死んだら霊魂はないと信じている。
 エホバの証人は、日本に22万人いる。
 証人の伝道は月90時間、毎日3時間、奉仕に出ると達成できる。
 エホバの証人の女性は、日よけのツバの出ている帽子をかぶり、日傘をもち、伝道カバンをもって、地味な色気のない長いスカートをはいている。
 この本には書いてありませんが必ず、数人からなるグループに、リーダーの男性がいるのも特徴の一つです。
 有名人にもエホバの証人は多い。マイケル・ジャクソン、ケビン・コスナーの妻、ジョージ・ベンソン、ラリー・グラハム。プリンス。矢野顕子。白井儀人(クレヨンしんちゃん)。
エホバの証人は霊魂不滅は信じていないが、地上の楽園は信じている。そして、14万4000人だけが特別に選ばれて、天国で永遠に生きている。
 この本には書かれていませんが、この14万4000人は、既にアメリカ人だけで満杯になっていて、日本人は入れるはずがないといいます。このように大いなる矛盾をかかえた「宗教」です。
 エホバの証人は世界中に750万人いて、日本に22万人弱の信者がいる。
どうやって、14万4000人を選抜するのでしょうか・・・。
 エホバの証人は、自分の本当の人生は楽園で始まると考えている。そして、自分をこの世においては死んだものとしている。
 まったく、わけの分からない教えです・・・。カルト宗教の怖さが伝わってくる体験記になっています。
(2013年1月刊。1800円+税)
 日曜日の午後、サボテンの世話をしました。親サボテンにくっついている子サボテンを火ばさみではさんでねじり切って、地面におろしてやります。
 こうやってサボテンは次々に代を重ねていきます。
 ふっくらした小さなサボテンの世話をすると心がなごみます。トゲにだけは注意しています。

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