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ナチスを撃った少女たち

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ティム・ブレイディ 、 出版 原書房
 このタイトルから、てっきり小説だと思って手にとって読みはじめたのですが、ノンフィクションなのです。ナチス占領下のオランダで、銃を手にとってナチスの将校そしてスパイ・裏切り者たちを撃ち殺していった3人の少女たちが描かれています。
当時、20歳の大学生と17歳と15歳の少女が主人公。20歳のハニーは現場からは逃げられたものの、ついに検問にひっかかって正体がバレて銃殺されました。あと2人の姉妹は長生きして、姉は2016年に92歳で亡くなり、妹も2018年に同じく92歳で亡くなっています。
 若い女性がまさかテロリストだとは思われなかったので生きのびていったのですが、ナチスの将校を殺害すると、ナチスは報復として無関係の市民を10人ほども殺害するので、世間の評判は必ずしもよくなかったそうです。なので、途中からは裏切り者の粛正(殺害)を主としています。ちょうどアンネ・フランクが隠れ家に潜んで生活していたころの話です。オランダでレジスタンス活動がこんなにも活発だったということを初めて知りました。
 とはいっても、実はオランダにいたユダヤ人の生存率は他国よりも明らかに低かったのです。ナチスが支配しはじめたときにユダヤ人が8万人いて、助かったのは、わずかに5千人だけ。オランダにいたユダヤ人の75%がホロコーストで命を失った。オランダから絶滅収容所に送られたユダヤ人は10万人にのぼった。
 1945年5月5日、オランダは連合軍によって解放された。ドイツの支配が5年続いた。ハニーがナチスによって銃殺されたのは、その少し前の4月のこと。姉妹の母親も左翼の活動家だった。
ドイツがオランダに侵攻してくると、オランダ女王は国民をナチスの前に放り出して、いち早く安全なロンドンに脱出していった。900万人のオランダ人は、あっという間にドイツ軍の支配下に置かれた。5ヶ月間は続くと予想されていた戦いは5日間でケリがついた。なにしろ、オランダには自転車連隊2個があるだけ、しかも、そのひとつは軍楽隊がついていた。
主人公の若い3人の女性が活動していたハールレムはオランダ西部の海に近い低地にある、由緒ある古都。チューリップ栽培が今日まで経済の要となっている。
ハニーは、アムステルダム大学に入学した。そして、政治活動と勉学に明け暮れた。ハニーは、左翼の女子学生の研究会のリーダーだった。
ナチス支配下のオランダには保安警察と秩序警察の二つがあった。レマンと呼ばれたオランダ人スパイを多数かかえていた、IDカードを持たない人々は身を隠す人(オンデルダイカー)と呼ばれた。この人々をレジスタンスはかくまった。
レジスタンスに加わる意思が本物か、スパイではないかというテストは過酷だった。
「きみたちは人を撃てるか?」
レジスタンスには、豪胆さと粘り強さが不可欠だった。レジスタンス運動の初期には、武器の入手先は、敵のドイツ兵しかなく、奪うしかなかった。レジスタンスは小さなグループがいくつもあり、内部で抗争もしていた。
レジスタンスは、毎日のように地下新聞を発行していた。地下室の印刷機や、ステンシル転写機を使っての発行だった。
綱渡りのような危ない日々がずっと続いていた。3人のうち2人の姉妹が戦後まで生きのびたのは、まさしく奇跡的です。
それにしても、20歳前後というと、男性でも女性でも、危険をものともせずに突進するのですね。私も同じ年代のとき、鉄砲ではありませんが、「明寮攻防戦」のとき、階段の上にいて、下から攻撃してきた日大全共闘の学生とゲバ棒でやりあったことをつい思い出してしまいました。今なら絶対にしませんし、できませんが、当時は怖さを感じることもなかったですね。それが若さというものなんだろうと思います。
若いオランダ人女性たちの命がけのナチスへのレジスタンス活動を知って息を呑む思いをしました。
(2024年8月刊。2200円+税)

生きのびるための事務

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 坂口恭平(原作)、道草晴子(マンガ) 、 出版 マガジンハウス
 どうやら著者は有名な人のようですね。私はまったく知りませんでした。早稲田大学の建築科を卒業して、作家であり、画家であり、また音楽家、建築家というマルチタレントです。
 私は音痴で、楽器はまるでダメ。せめて絵が描けたらと思いますが、小学校のとき銅賞で入選したのが最高です。マンガが描けたらいいなと思いますが、写実的な絵は残念ながら描けません。写真は好きで、そこそこの写真集を出しましたが、趣味の域を出ません。やっぱり写真は被写体のよさと、シャッターチャンスに恵まれるかどうかです。なので、いい写真をとろうと思ったら、四六時中カメラを携帯していて、チャンスを逃したらいけません。
 著者はそううつ病であることを公言しているそうです。とても偉いと思ったのは、2012年から、死にたいと思った人ならだれでもかけられる電話サービス「いのちの電話」(090-8106-4666)を続けているというのです。24時間、365日、著者につながるそうです。1日15人、年に6000人から電話を受けているとのこと。まったく頭が下がります。
 この本は5月に刊行されて、7月初めにすでに5刷、5万部も売れているそうです。読んでみて、ナットクでした。
 著者が20年前、ほとんど無一文の状態にあったとき、この苦境をどうやって脱出したのか、マンガで紹介されていきますので、よく分かります。そのときでも、「きっと、うまくいく」という確信があったそうです。シンプルに一つずつ、起きた順に対処していく。そうすると、別に死ぬことはない。大丈夫だと思ってやってきた、というのです。
 もし、人が自らの夢の方向に自信をもって進み、頭に思い描いたとおりの人生を生きようと努めるならば、ふだんは予想もしなかった成功をおさめることが出来る。これは、『森の生活』という本を書いたアメリカの哲学者ソローの言葉。著者は、この言葉どおりに生きていったのでした。
 すべての行動をコトバや数字に書きかえる。「事務」とは、行動をコトバに置きかえること。楽しいことは続けたくなるし、継続すること自体が才能になって、そして最後は、どうせうまくいく。いやあ、すごいですね。この自己肯定感にみちあふれたコトバの威力って・・・。
生きてるあいだにすることって、自分が何が好きなのかを探して、それが見つかったら、死ぬまでそれをやり続けるだけのこと。それ以外の人生は、どれもつまらない、ただの退屈な時間だ。
私にとっては、調べものをして、少し考えて、書いていくこと、これが楽しいことです。
 すべての自由な人間は冒険を恐れずに楽しむ。そして、冒険があるところには「事務」がある。冒険を始めないかぎり、事務なんて存在しない。
「事務」とは、抽象的なイメージを数字や文字に書きかえて、具体的な値や計画として見える形にする技術。
この本を読んでいると、何かしら元気が湧いてきます。そうか、自分でもできるかもしれないと思わせるのです。
 ヘタウマなマンガによるシンプルなストーリー展開なので、心にすっと入ってくる良さもありました。
(2024年7月刊。1600円+税)

内閣官房長官の裏金

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター
 政権を握るということは、毎月1億円を好き勝手に使っていいということ。税務調査の心配もないし、領収書も不要。飲食代金に使おうが買収・供応資金に使おうが勝手次第。
 月1億円を自由に使える。これが官房長官の機密費です。
 ところが、実は、外務省にも同じような裏金があるのです。外交交渉で、外国の政府要人を買収・供応するための資金として「活用」されているようです。ときには、大使や外務省の担当官が、着服しているのが発覚して問題になったりもしますが、たいていは闇の中です。
この本で取り上げている裏金は、正式には「内閣官房報償費」と呼ばれます。月1億円、年12億円がきっちり支出され、使い残ったとしても国庫に返納するということはありません。
 会計検査院の実質的な審査はありませんし、領収書のチェックもありません。
 消費税を導入するとき、この官房機密費が十数億円も使われたことが明らかになっています。表向き反対していた公明・民社の議員を「買収」したのです。
 与野党対決の予想される重要法案を成立させるための国対費は1件あたり5千万円、ときに数億円になる。つまり、野党議員を裏金で「買収」していた(る)ということです。ひどいものですね…。
 沖縄県知事選挙にも、この官房機密費が使われました。1998年11月の知事選のときには1億7千万円が支出されたとのこと。
 国会議員が「海外視察」に行くときには餞別(軍資金)として、与党議員だと新人でも30万円、中堅以上なら100万円。いやあ、おいしいエサですね…、これって…。
 退任する日銀総裁、検事総長、会計検査院長にも百万円単位が渡される。最高裁長官には渡されないのでしょうかね…。
 著者は、この裏金の実態を明らかにしようと、裁判を起こしました。そして、ついに最高裁ですら、全面的ではないにしても、一部の開示を明示するよう判決したのです。
 著者の執念には、ほとほと頭が下がります。
(2018年7月刊。1200円+税)

ザボンよ、たわわに実れ

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 力武 晴紀 、 出版 花伝社
 戦前、1930年代に存在した無産者診療所。そこで活動した若き「女医」、金高(かねたか)満すゑの半生を紹介した本です。
戦前、治安維持法という悪法が人々の自由な言論と行動を厳しく弾圧していたとき、不正を憎み、目覚めた若者は行動を起こしました。
 この本の主人公・満すゑは佐世保に明治41(1908)年に生まれました。私の父は明治42年生まれなので、一つだけ年長になります。
 佐世保は昔も今も「軍港」です。昔は日本海軍の拠点港であり、今は米軍と海上自衛隊が支配しています。母親が急死し、叔父の家へ父親と二人で同居するようになり、やがて父親も病死してしまいます。それでも、養女となって佐世保高等女学校に入学。片道3時間かけて、毎日、徒歩で通学したというのですから、想像を絶します。午前5時に家を出たというのです。
女学校時代は「女傑」と教師から評価されていたといいます。教師から頼まれて女学校内の派閥抗争の仲裁人になったというのです。もはや、並みの女の子の域を超えていますね…。そして、上京して、東京女子医学専門学校に入学します。よほど、学業成績が良かったのでしょう。
 そして、この女子医専に社研(社会科学研究会)があり、満すゑも入って活動を始めます。
 なぜ戦争なんかするのか、生活が苦しくなるばかりなのに…。そんな疑問をもってレーニンの「帝国主義論」を読んで納得するのです。私も大学生のころ、マルクスそしてレーニンの本を必死で読みました。今ではほとんど内容なんて忘れてしまいましたが、ともかく、その緻密な論理展開にはしびれした。そうか、そういうことなのか…。目が覚める思いでした。
 満すゑは1931(昭和6)年の卒業試験の最中、特高警察に検挙されました。学生仲間がかばってくれて試験を受けていたのですが、ついに捕まってしまい、卒業できなくなりました。それでも、学校当局は卒業式のときに、名前を呼んだというのです。
 そして、五反田駅近くに1930年1月に設立された大崎無産者診療所に入って、医師の資格はないまま手伝うようになります。いま全国各地にある民医連の通院・診療所のハシリです。
 1933(昭和8)年8月、満すゑは27歳のとき、治安維持法違反で検挙され、翌年、5月に起訴されます。
 私の父・茂は当時、法政大学法文学部の学生で、我妻栄から民法を教えられ、また高文司法科試験を受験しました(不合格)。まったく同じころ東京にいたわけです。
 そして、満すゑは市ヶ谷刑務所に2年半、囚人として収容されました。出所したときは、すっかり衰弱して、肋骨がゴツゴツ浮き出て、洗濯板みたいな身体になっていたそうです。
 それでも満すゑは1939年4月、女子医専に復学し、翌1940年3月、31歳のとき卒業することができました。
 そして新潟に行き、五泉診療所そして葛塚診療所で医師として働くようになったのです。
戦後は、民医連の病院のいくつかで働き、最後は東京中野区の桜山診療所で働いた。
 すごいですね、三度も検挙されたけど、屈することなく医師として活動を続けたのです。1997年12月、89歳で死亡。その一生を追った労作です。
(2023年11月刊。1800円+税)

タコの心身問題

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ピーター・ゴドフリー・スミス 、 出版 みすず書房
 この本を読むと、タコは意外なほど賢く、好奇心の旺盛な生き物だということがよく分かります。タコは、食べられないことが明らかなものにさえ関心を示す。
大腸菌は単細胞生物だが、自分にとって好ましい物質とそうでない物質とを区別することができる。好ましい物質であれば、その濃度の高いほうに移動するし、逆に好ましくない物質であれば、濃度の低いほうに移動する。大腸菌の外面には、そうした「感覚器」が並んでいる。この「感覚器」は、正確には、大腸菌の外膜を構成する分子である。
 実験室内でテストを受けさせると、タコはおしなべて良い成績をとり、かなり頭が良いことが分かる。
 タコは見慣れないものを弄(もてあそ)ぶだけでなく、有効に活かすこともある。
 タコは好奇心が強く、順応性もある。冒険心がある一方、日和見主義なところもある。いやあ、これって、人間の若者そっくりですよね。
 タコには5億個のニューロンがある。いったい、どうやって、こんなことを数えられたのでしょうか…。
 タコは捕食者であり、自らが動いて獲物を襲う。
 タコは非常に社会性が高い動物とは言えない。
 タコの心臓は一つではなく、三つ。その心臓が送り出す血液は赤ではなく、青緑色をしている。酸素を運ぶのに鉄ではなく、銅を使うから。
 タコは知覚の能力も、運動能力も非常に優れている。大規模な神経系と、活発に動くことのできる複雑な構造の身体をもった動物である。行動も非常に柔軟で、変幻自在だ。
 タコは方向感覚にも優れている。
 タコは身体の色を変える能力に長(た)けている。
 その皮膚は、重層構造のスクリーンのようになっていて、脳によって直接、制御される。脳内のニューロンは直接、皮膚につながり、筋肉を制御する。皮膚には、ピクセルのように色を発する小胞が何百万とあり、筋肉は脳の指令を受けて、その小胞を制御する。何かを感じると、それに従って、即座に色が変化する。一つの色素胞が発するのは一色のみ。
 イカには、人間に対して有効的なものがいれば、強い敵意を示すイカもいる。それでも、友好的なイカのほうが、ずっと多い。
 頭足類の身体の色変化には、擬態と信号伝達の二つの大きな役割がある。
タコの寿命は1~2年が普通。最大のタコであるミズダコも野生ではせいぜい4年しか生きられない。衰えが始まると、あっという間に健康が損なわれてしまう。好奇心旺盛な知性をもつタコだが、2歳になる前に死んでしまう。
 タコのメスは多数のオスと交尾をするが、産卵の時期には、巣穴に入ったまま動かない。卵を産むと孵化するまで抱いている。一度に産む卵は何千。幼生たちが水の中に出ていくとメスのタコは死ぬ。
 大阪はタコ焼き。そのタコがこんなに知能の高い生物とは…。うかうか食べられませんよ。
(2023年11月刊。3300円)

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