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「間(ま)」の極意

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 太鼓持 あらい 、 出版 角川ワンテーマ新書

 太鼓持という職業の人は落語の世界でしか知りませんが、それを仕事としていた人の語りは、さすがに、なるほどそうなのかと思わせる内容でした。

どうして「間」が空くことが怖いのか。自信がないから。余裕がないから。「間」をうまくつかむには、メリハリが大事。

 太鼓持ちは、予想に反するような対応をすることで期待に応える。なので、芸もわざとはずしてやったりもする。

ドキドキ感をなくしてしまう、慣れてしまうのは怖いこと。ドキドキして怖いのは当たり前のこと。むしろ、それは謙虚でいることの証拠。

 お座敷で人を楽しませるというのは、人の気持ちを明るくし、なごませる。だから、基本的に自分も裏のない、純粋な、いい人間であろうとする。同時に、人のいやな側面をあまり見なくてすむ。

他人(ひと)の話を聞くときに何が大切かというと、その人が何を言おうとしているのか、そこに思いを馳(は)せて、きちんと聞いてやること。ひとの話のなかには、その人の希望とかお願いの気持ちが何らかの形で込められているもの。

 十一屋さんというのは、土。つまり、泥くさい、野暮な客。若松さまとは、世間知らずのおめでたい人。めかいちさんとは、助平のこと。箒(ほうき)とは、浮気者。七夕さんとは、一年に一度しか来ないのに、よく来ていると吹聴している客。

 座敷でやたらと女将や仲居さんにいばりちらす人がいる。よほど、人間としてのスケールが小さい人。弁護士である私に対して威張りちらす人がたまにいます。びっくりしますが、こちらは独立自営業者ですので、早々にお引取り願います。上に立つ人の多くは意外に腰が低いものです。

 太鼓持ちとして、下手に出ること、謙虚になって接することは、自分を卑下することではない。むしろプライドがあるからこそ、できるもの。とっさのつくり話も、他愛のないウソも、相手に対して誠意ある態度で、まじめに真剣にやる。これが太鼓持ち。

太鼓持ちという職業は絶滅寸前。戦前の東京には3万数千人いたのに、今や東京に4人、関西には著者一人のみ。この「今」というのは、25年前のことです。もう絶滅してしまったのかもしれません。

 著者は私と同じ団塊世代です。面白い本(新書)でした。

(2001年11月刊。571円+税)

佐藤ママの、やっておくべき9歳までの受験準備

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 佐藤 亮子 、 出版 小学館

 中学受験をするにしても、しなくても、9歳までが大切だという子育てを詳しく解説している本です。

9歳というと、小学3年生です。それまでの学習の蓄積が中学受験に向けた勉強の基礎になる。小学3年生までの教科内容は保護者が教えることができる。

 しかし、中学受験に必要な学習内容は難しいので、保護者は教えられないし、中途半端に介入すると子どもが混乱してしまう。塾など、プロにまかせたほうがいい。

 きっとそうなんでしょうね。私も昔、ツルカメ算などで苦しんでいたような記憶があります。

 耳学問を大切にする。絵本を読み、童謡を歌って聴かせ、美しい言葉を耳からインプットして語い力をつけ、豊かな感性を育てる。そして思い切り遊ぶ。

 遊びは子どもの想像力を育て、成長する糧(かて)になる。

 また、子どもの話をよく聴く。インプットと同じく、しゃべるというアウトプットも大切なこと。人間はインプットとアウトプットを繰り返して、知識や技能を身につけていく。

 佐藤ママの勧める勉強法の特徴は、合理的な方法で、ムダを省き、楽しくできる工夫をするということです。実に徹底しています。

 「くもん」の幼児教室に1歳半から長男を通わせていますが、それは佐藤ママの気分転換も目的の一つだったとのこと。なるほどですね…。

 子どもはウソをつくもの。佐藤ママは、まずはだまされたふりをする。そしてあとで、「ウソって、必ずバレるのよね」と、さりげなく言う。「ウソを一度つくと、次にまたウソをつかないといけなくなるのよね…」と付け加える。すると、子どもにとって、ウソがバレるのが一番怖いことなので、自然とウソをつかなくなる。これまた、なーるほど、です。

掛け算の九九は歌をメインにして覚え、表で補う。今は九九の歌というのがあるのですね。ある段はマーチ風、ある段はバラード風。段ごとに曲調が変わって九九が唱えられる。これを佐藤ママは車の中で聴かせたそうです。

 私は、すぐ上の兄が泣きながら九九を暗唱させられるのをそばで見ていて、こりゃあ大変だ、泣かないですむよう早く覚えておこうと思ったことを今でも覚えています。兄弟が多いことの利点です。

佐藤ママには子どもが4人いて、「お兄ちゃん」とは呼ばず、全員を名前に「ちゃん」づけで呼んだとのこと。これはいいことです。「お兄ちゃんだからガマンしなさい」とか、「ここはお兄ちゃんに譲ってあげなさい」と親から言われるのは、子ども心に納得できないものです。みんな一人の人間として平等に扱うことを徹底した。偉いです。

たとえば、誕生日のプレゼントは、その子だけでなく、全員にそれぞれに合ったものをプレゼントする。さすが、です。兄弟ゲンカしたときも、「お兄ちゃんだからいい」とか言わず、ともかくまずは両方の言い分をよく聞く。そして、解決策を示して納得させる。

 佐藤ママの家には子ども部屋がない。リビングに机を並べる。4つの机が並ぶ。親の目の届かない部屋に子どもを置かない。いやあ、とてもよく考えられています。

 とっくに子育ては終わり、孫の勉強にも一切口出ししない私ですが、とても参考になりました。というのも、弁護士として、子どもの親権者・監護者争いの渦中に身を置くことがあるものですから…。

 佐藤ママの夫である真理(まさみち)弁護士より贈呈してもらいました。いつもありがとうございます。

(2026年2月刊。1760円)

江戸から見直す民主主義

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)

著者 田中 優子 ・ 関 良基 ・ 橋本 真吾 、 出版 現代書館

 江戸時代も末、土佐藩の山内容堂は大政奉還を建白し、それを将軍慶喜も受け入れました。将軍慶喜としては、列藩の藩主による合議体によって朝廷を動かしていき、結局のところ、再び権力を握るつもりだったようです。

それはともかくとして、大政奉還建白書には庶民も議員になれると書いてあるので、議会が出来て国づくりが進んでいたら、日本は世界に誇るべき市民改革・平和革命を実現できたことになる。

 ところが、薩摩の西郷隆盛も長州の高杉晋作たちも、幕府を暴力的に倒したかった。将軍職を離れたとしても慶喜たちが合議体の有力な一員として残るなんてことは許せなかった。それで、江戸に騒動を起こして鳥羽・伏見の戦いにもってゆき、引き続き戊辰戦争で徳川幕府は体制を倒したかった。自分たちの権力を暴力的に実現したかった。その後、明治10年の西南戦争で薩摩の力をそいで、長州の山県有朋と伊藤博文が権力を握った。なるほど、そういうことなんですね。 長州勢は公議所なんて余計なものは置かずに、自分たちの権力を築き上げたかったのです。

 イギリス公使館への放火には伊藤博文も加担している。高杉晋作は高槻藩士である宇野八郎を卑怯な手口で暗殺した。さらに、伊藤博文は、国学者の塙(ハナワ)次郎を殺した殺人犯。韓国の王妃(閔妃)の暗殺を指示した日本公使の三浦悟郎は、長州藩出身で、元は奇兵隊士。伊藤博文も奇兵隊の出身(正確には力士隊に所属していた)。三浦悟郎とは幕末以来のテロ仲間。

「五箇条の御誓文」は、神権政治のもとになった文章。天皇が神様に向かって誓っている。誓う対象は国民ではなく、神様になっている。

 江戸時代の村の寄合いは全会一致になるまで話し合うのが原則だった。「反対」ということはなく、「不承知」であって、全員が納得するまで話し合って修正していった。

 江戸時代の後半には、村役人を「入札(いれふだ)」つまり投票で選ぶ慣行が広まっていた。明治2年には、50あまりの藩で地方議会を設置していた。明治8年に、公選制による県会が開設されていたのは少なくなかった。その一つに三潴県(久留米・柳川)も含まれている。

 江戸時代において、天皇は儀礼を司る存在だった。この伝統を生かしたら、天皇は主権者になることはなく、象徴的存在だった。ところが、江戸幕府を実力(武力)で打倒した藩閥政治は、祭政一致体制として、軍事力を最優先とする国づくりが行われた。日本人は国民ではなく、臣民となった。明治維新によって生み出された「国体」は、江戸の伝統から乖離(かいり)した奇異な体制だった。

 明治維新は、江戸文明のもつ民主的な要素を否定し去ったものであることを初めて認識しました。

 

(2025年12月刊。2530円)

ナルコトピア

カテゴリー:アジア

(霧山昴)

著者 パトリック・ウィン 、 出版 光文社

 黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)とは、東南アジアにおける麻薬生産の中心地。ほぼ全体がビルマ(ミャンマー)に含まれるが、中国、ラオス、タイの国境地帯にも広がる山岳地帯。ナルコトピアとも呼ばれる。この地域におけるヘロインとメス(覚せい剤のメタンフェタミン)の経済規模は、ビルマ一国のGDPを上まわっている可能性がある。

 ワ州連合軍(UWSA)は密林に生息するただのマフィアではない。ワ州と呼ばれる、人口50万人以上の正真正銘の民族国家を運営している。独自の学校、電力網、国旗や国歌まである。その領土は3万平方キロメートル。ワ州には3万人の兵士と20万人の予備兵がいる。ワ人は、迫撃砲やドローンなどのハイテク兵器も保有していて航空機もミサイルで撃ち落とすこともできる。UWSAは東南アジアにおける麻薬取引の中心にいて、毎年、メスだけで600億ドルを稼ぐ。

UWSAは法律をつくり、祖先伝来の土地を守り、道路を建設し、税金を集め、運転免許証を発行している。ヘロインとメスはUWSAの最大の収入源。

アメリカの機関であるCIAとDEAは争っている。その職員の出自は異なる。DEA捜査官の多くは元警官か元軍人で、労働者階級の出身。CIAの職員は、アイビーリーグなどの名門大学の卒業生。DEA捜査官は悪人を投獄するのが第一の仕事と考えている。CIAは、悪人を雇って極悪人に関する情報を得ようとする。

ゴールデントライアングルには、CIAが先に現地入りし、DEAはあとから来た。ゴールデントライアングルの末端にいる最重要顧客はアメリカ人。

ミャンマーの軍は、アウンサン・スーチーを監禁し、その支持者を大量に虐殺した。1万人近くを射殺している。天安門事件をこえる大虐殺だ。

メス工場は上空から見ると、車庫や倉庫のようで、宇宙から探知されにくい。以前は、CIAがワ州のケシ畑を偵察し、ケシの潜在的な収穫量を推測できたのだが……。

現代アジアの労働力にとって、スピードは言うことなしのドラッグ。ヘロインのもたらす心地よい麻痺は魅力を失い、労働者はバニラの香りのするスピードを求めた。1錠わずか2~3ドル。1錠の煙を吸えば、連続シフトをこなせて、割増賃金でさらにピンクの錠剤を買うことができる。

今世紀、ヤーバーは500億錠以上も生産された。設計の勝利だ。見た目は菓子のようで、カラフルでブランド化しやすい。価格は1錠が1~5ドル。タイは、2001年の1年間で、9000万錠という記録的なヤーバーを押収した。

UWSAはアヘンケシ撲滅を完了させ、今ではビルマはアヘンの世界供給率の5%しか生産していない。アメリカ占領下のアフガニスタンがとって代わった。

2021年10月、タイとラオスの国境で摘発された麻薬は、アジア史上最高を記録した。5500万個。ヤーバーと、1.5トンのクリスタル・メスが隠されていた。それは、「ワ産メス」だった。

ワ州には、中産階級はほとんどいない。いるのは、エリートと平民のみ。今では、中国系犯罪組織がメス製造所を運営している。

まったく知らない地域の、恐ろしい話でした。世の中には、こんなところが今もあるのですね……。潜入ルポなので、ぞくぞくする展開です。

(2025年11月刊。3520円)

あきらめない弁護術

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 神山 啓史 、 出版 現代人文社

 この本のタイトルには、実は「神山啓史流」というのが頭についています。司法研修所で刑事弁護教官にもなった神山啓史弁護士の弁護の技(わざ)を若手弁護士に継承してもらうことを目ざして、神山弁護士にインタビューした内容が中心になっている本なのです。ですから、話しコトバですし、裁判所に提出した手書きの書面のコピーとか、現場に行って再現実験したときの写真も紹介されていて、とても読みやすい本になっています。

 再審事件は辛い。辛いと弁護士もダメになる。弁護士がダメになったら、誰が冤罪を晴らすんだ。だから楽しくやらなきゃダメ。仲間いて、楽しくやって、あきらめず……、いつも、ワイワイ、ガヤガヤ。「元気のある弁護団」が事件を動かす。

 神山弁護士の弁護活動は、要するに、全部やる、普通にやる、ということ。

神山弁護士は弁護団会議のときホワイトボードを活用する。書き出して議論を整理する。だから、神山弁護士が会議中に座っていたことはほとんどない。分担した書面の内容を担当者まかせにせず、皆でしっかり勉強して、そのうえで起案するという手順を守る。全員がホワイトボードを見ながら発言を積み重ねていくから、議論は外れないし、深まっていく。

 証拠物を収集したときには封緘(ふうかん)するだけでなく、回収してから封緘するまでを動画撮影しておく。これによって検察官から関連性を争われないようにする。

神山弁護士には「証拠を創る」という発想がある。新証拠を準備するため、次回の会議まで一つずつアイデアを持ち寄ることにする。

鑑定結果は、誰が鑑定人になるかによって大きな影響がある。

 刑事手続のあらゆる場面において、弁護人から先に「いつまでに何をするので、こうしてくれ」言うべき。

ムダをムダと考えずに、やってみる。思いつく、すぐに、自由に、大胆に。検察官に会って交渉することは大事なこと。その結果として、起訴前に神山弁護士は検察官から証拠を見せてもらえたことがあるとのこと。すごいことです。

 神山弁護士は、被告人の供述調書にあるような窓をくぐり抜けることは無理だという再現実現を試みた。それをやっているときの写真の神山弁護士の笑顔は楽しそうです。ところが、検察官側の証人として登場した警察官は2人とも、軽々と窓をくぐり抜けた。それで裁判は負けた(有罪になった)。実は、警察官たちは必死の練習を積んでいたことがあとで判明した。いやあ、さすが警察です。裁判所を騙したわけですよね。

神山弁護士は法廷傍聴もしています。裁判員裁判が始まったので、刑事裁判は少しは良くなったかと期待していたのに、完全に裏切られたと言います。そして、弁護人が罪情認否のとき、「被告人と同じです」というのは明らかに手抜きだと、厳しく批判します。

 「公訴事実に争いはありません。被告人には刑の執行を猶予するのが相当です」

こう言うべきだとしています。私にとって、耳の痛いコトバでした。

 神山弁護士の肉声が聞こえてくるような本です。弁護士生活50年をこえた私にもとても勉強になりました。

(2025年3月刊。2970円)

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