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白い包哮

カテゴリー:生物

著者  長澤 幹 、 出版  未知谷
圧倒的迫力の本です。すごいものです。日本狼の生態と猟師(またぎ)の生態・生きざまがことこまやかに描写され、息つく間もなく話が展開していきます。
 主人公は、初めのうちは、猟師の岩作です。
 猟師(またぎ)は、春から秋にかけて農業に勤(いそ)しみ、その合間に山の恵みや薪の採集などに努める。冬から春にかけて白神山地の奥深い森林で数日間にわたって狩猟を行う。狩猟の対象は主にカモシカとクマだ。
 夏場、狩りの季節の前に、あらかじめ森林の中に猟師小屋と呼ばれる簡易な小屋をたて、ここに食料などを運び込んでおく。狩猟が始まること、ここを基地として寝泊まりしながら狩りを行う。この小屋は非常に簡易かつ粗末なものなので、長持ちはしない。風雪にさらされて壊れると、翌年はまた新しい小屋を作る。
猟師は数人で組をつくる。棟梁は絶対命令者で、猟師の頭をシカリと呼ぶ。
 猟犬は獲物を見つけたら行動を制限し、留めておくことが重要で、優秀な猟犬はこまめに動き、獲物と一定の距離を保ちながら威嚇し続けることのできる犬でなければならない。そのためには、無闇な闘争心よりは、獲物の変化に応じた怜悧な判断力と獲物を引き止める胆力が優先する。
秋田犬は闘犬として好まれたが、その前身は「秋田マタギ」と呼ばれ山岳狩猟犬であり、 見た目に堂々とした風格があって、日本犬らしさをもった犬である。もともと闘犬としての資質をもっており、力も強いが、我も強い。反面、落ち着きがあり、飼い主の言いつけを忠実に守るという性格がある。
 秋田犬はもともと頭のいい犬で、上手にしつければ飼い主思いのいい猟犬になる。
秋田犬のユキが、ひょんなことからオオカミの群れの一員となり、ボスオオカミとの仔をもうけます。ギンゲです。太陽の光が当たると、胴体が銀色に輝くので、銀毛(ギンゲ)と呼んで岩作の子・源兵とともに生活しています。いよいよ、この本の本当の主人公ギンゲの登場です。
 猟師の岩作と熊がたたかううちに、岩作が転落死してしまうのでした。
 残された家族はギンゲを飼う余裕などありません。ついに犬好きの山林地主に譲り渡します。そして、さらに別の和歌山に住む大好きの大地主へと・・・。
 そこを嵐の夜に脱走したギンゲは故郷の白神山地へ仲間のオオカミの群れとともに戻ってきます。
 とにかくスケールも大きいオオカミの話です。
 鹿児島への出張の一日、ずっと読んでいました。本当に充実した一日となりました。ありがとうございます。著者にお礼を申しあげます。
(2013年5月刊。2200円+税)

小さいおうち

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  中島 京子 、 出版  文春文庫
直木賞の受賞作です。モノカキ志向の私ですから、日頃、直木賞か芥川賞、それでなくても文化勲章を狙っていると高言している身として、この小説の出来の良さにはただただモノも言えません。直木賞を受賞したのに何の異論もありません。細かい部分(ディテール)の描写といい、筋の運びとして、そして見事な結末には息を呑むしかなく、文句のつけようもありません。
 山田洋次監督が映画にしてくれて、来年1月には見れるとのこと。今から楽しみです。
 先日、妹尾河童原作の映画「少年H」をみましたが、戦前の平和な生活がいつのまにか戦争へ突入していく情景が、きめこまかに再現されていました。
裏表紙に、この本のストーリーが要領よく紹介されています。
 昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが、平穏な日々にやがてひそかに”恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて―。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。
 戦前の上流サラリーマンの家庭生活が、住み込み女中の目から、ことこまやかに描写されていますから、つい没入させられます。そして、いつのまにか微妙な男女の機微に触れていきそうです。
 女中タキのお見合い話をふくめて、戦争が日常生活に忍びこんでくるのです。
 この本には、私のつれあいがこよなく愛する永藤(ながふじ)菓子店が登場します。上野駅近くにあって、タマゴパンなどで有名なのでしたが、今は閉店してしまいました。
あと味もさわやかな、ロマンあふれる小説です。
(2013年6月刊。543円+税)

ワークルール検定2013

カテゴリー:司法

著者  NPO法人・職場の権利教育ネットワーク 、 出版  旬報社
職場で生かす労働法100問というサブタイトルのついた本です。働きやすい職場を実現するために、全国で初めてのワークルール検定試験が実施されるとのこと。その公式テキストブックでもあります。
 150頁ほどの薄い本です。設問が100問あり、正しいもの、あるいは誤っているものを選んでいく形式です。
 一般常識、労働契約、労働条件、雇用終了、労働組合の5分野に分かれた設問があり、基礎的なことがしっかり頭に入っていく仕掛けです。
 ブラック企業を見分ける指標として若者の早期離職があるが、離職率の高い業種を選べ、という設問もあります。
 キャリア権という私の知らない権利が紹介されていました。
キャリア権とは、労働権を中心において、職業選択の自由と教育権を統合した性格の権利である。
パワハラについて、OA機器を使えない上司に若い部下が嫌がらせをして、機器の使用方法を教えないとか、代わってやってあげないというのもパワハラに含まれるとのこと。OA機器の使えない私は、これを読んで、ああ、救われたと思いました。
懲戒解雇にあったとき、職業規則で不支給と定められているときにも退職金が支給されることがある。
 この点は、私も誤解していたことがありました。
 とりわけ若い人に大いに普及したい本です。
(2013年4月刊。1000円+税)

影絵はひとりぼっち

カテゴリー:人間

著者  藤城 清治 、 出版  日本図書センター
有楽町の駅近く、銀座に藤城清治の美術館があるのを発見しました。たまたまのことです。迷わず入館しました。すごいです。影絵によるメルヘンの世界にたちまち浸ることができます。
 著者が影絵を始めたのは終戦直後、軍隊から再び大学に戻ってからのこと。慶応大学では児童文化部。これって、大学のサークルのことでしょうか・・・。私の大学生のとき、セツルメント活動にも児童文化部がありました。今も絵本を描いている加古里子(かこさとし)さんは、セツルメントの大先輩です。
 影絵には先達がいない。ただただひとりで考え、工夫し、悩み、ひとりで暗中模索しながら、一本の影絵の道を歩いてきた。あるときは立ち往生し、あるときは脱線したり、よろめいたりしながら、危なっかしい足どりで、今日までやってきた。
 今になってみれば、それがかえってよかったのかも知れない。模倣したくても模倣するものは何もなかったから、すべて一から十まで自分で考えなければいけなかった。否応なしに世界中どこにもいない独自のスタイルの影絵劇が出来ていった。
 光を通してみる影絵には、反射光でみるものとは比べられない美しさがある。切り抜いた黒い線と形、うすい紙、色の紙の重なりなどを、光が通してつくり出す透明な階調は、実際に光にあててみると、ドキッとするほどの美しい魅力がある。
 影絵を展示するには、電源そのほか厄介な問題がたくさんあり、そのうえ破れやすいので持ち運びが大変だ。
影絵は実際に絵の具で描いた絵以上に、印刷されたとき原画との違いが大きい。
 さまざまの材質の紙や厚さの異なった紙に裏から光をあててみると、紙の光を通す度合いによって、いろんな階調が出来る。もちろん、光をまったく通さないところは、真っ黒になり、光をよく通すうすい紙はハーフトーンになる。和紙の繊維やハトロン紙の縞模様なども面白い効果となる。色セロファンやプラステートは透明感のある美しい色彩を出してくれる。最近は、プラステートにいろんなナンバーのうすい色から濃い色調まで何十種類の色ができたので、微妙な色調が意のままに出せるようになった。
 影絵の原画は1メートル近い大きさのものをつくる。印刷効果は、実際に印刷される大きさの1.5倍ほどが一番いいと分かっているけれど、10倍くらいの大きさでつくる。
 影絵の美しさは、なんと言っても逆光の美しさにある。逆光にうつし出される黒いシルエットの妖しい美しさに魅せられて、もう35年になる(1983年)。
 赤を出すためには、赤のフィルターを貼るしかない。しかし、赤いフィルターを貼っただけでは、逆光の場合、100%色は出ない。赤のまわりを、赤の色が出しやすいようにつくってやらなければならない。赤を赤らしく美しく見せるということは、赤だけの問題ではなく、赤を引き立てる環境をつくってやることが一番大切なことだ。
 このように、影絵の世界は奥深く極まりない。
 メルヘンの世界にしばらく浸ってみるのも、頭の洗濯になっていいものです。気分がすっきりします。あなたも、ぜひ足を運んでみてください。
(2007年4月刊。1800円+税)

ビッグデータの正体

カテゴリー:アメリカ

著者  ビクター・マイヤー・ショーベルガー 、 出版  講談社
この本を読むと、ビッグデータが世界を変えるかどうかはともかくとして、日頃の日常生活を私たちの知らないところで大きく変えようとするものだということは分かります。とんでもない社会に生きているのですね、私たちって・・・。なにしろ、私たちが何をしたかが知られているというだけでなく、何をしようとしているか、何をしたいのかまで機械的に高い精度で読みとられているというのです。
 グーグルは2009年、アメリカの冬のインフルエンザの流行を予測し、国内どころか週単位までの流行まで特定した。
 グーグルでは全世界で1日に30億件以上の検索が実行されている。そのうち、上位500万件の言葉を抽出し、インフルエンザとの相関関係を調べた。データ量、処理能力、統計処理のノウハウでグーグルは群を抜いていた。
 データ利用に関する知識が変化した。昔は、データは何のかわりばえもしない陳腐な存在と考えられていた。ところが、その常識は崩れ去った。データは、ビジネスの素材に生まれ変わり、重要な経済資源として、新たな経済価値の創出に活用されていることになった。
 フェイスブックでは、1時間に新規アップロードされる写真は1000万枚をこえる。「いいね!」ボタンのクリックやコメント投稿は1日に30億回。
 グーグルが運営するユーチューブは月間利用者数が8億人。ツイッターのつぶやきは、年200%の勢いで増加しており、2012年には1日に4億ツイートに達した。
 量が変わることで、本質も変わる。ビッグデータは、限りなくすべてのデータを扱う。
 量さえあれば、精度は重要ではない。重要なのは、理由ではなく結論である。
 固定電話を使った選挙世論調査はミスが大きい。ケータイしかもっていない有権者、これは若い世代やリベラル派に多い、が対象になっていない。だから、標本の無作為性が失われている。コミュニティーの外部の接点をもつ人がいなくなると、残った人々は、まるでコミュニティーが崩壊してしまったように、突如として求心力を失う。
 集団では外部の人々とつながりをもつ人間のほうが盛り上げ役になっている。つまり、集団や社会の中では、多様性がいかに大切かということ。
 ビッグデータの世界に脚を踏み入れるためには、正確はメリットだという考え方を改める必要がある。
 ビッグデータの恐ろしさは、次のような記述にもあらわれています。
 84ヶ国240万人のユーザーが2年間に投稿したツイッター5億9000万件を分析してみた。すると、1日のあいだに人々の気分が変化するパターンも、1週間に変化するパターンも、文化圏の違いに関係なく似ていることが判明した。今では、人々の気分までデータ化している。
 この本は、ケータイ使用によるガンの発生リスクの増加は認められなかった、としています。本当に安全なのでしょうか。
 ビッグデータを上手に利用している企業がすでに生まれている事実にも驚かされました。
 大企業だけでなく、小企業にもビッグデータは驚くようなチャンスをもたらしている。ビッグデータは、業界を超大手と小規模に2分してしまう。中堅どころには厳しい向かい風だ。
今や東ドイツの秘密警察(シュタージ)も舌を巻くほどの個人情報が収集され、蓄積されている。支払いにクレジットカードを使った時点で、あるいはケータイ電話で話をした時点で、私たちの行動は常に監視されている。
そうなんですね、ちっとも知りませんでした。この網の目から逃れるのは、とても難しいことです。だったら、現実を直視しなければいけませんよね。奥の深い本でした。
(2013年6月刊。1800円+税)

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