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亡国の経済

カテゴリー:社会

著者  しんぶん赤旗経済部 、 出版  新日本出版社
TPP(環太平洋連携協定)は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4ヶ国が結び、2006年5月に発効した協定がもとになっている。
 そのTPPにアメリカが参加することを最初に表明したのは、2008年のブッシュ政権時代のこと。アメリカが経済競争力を高めるためには、アジア太平洋地域とアメリカ経済の結びつきを強めることが重要になっていたからだ。
 このころ、アジア太平洋地域では、アメリカを除いた形での経済の結びつきを強める動きが表面化していた。「アジア重視」は、これに警戒感を抱いたアメリカ政府の巻き返しでもあった。オバマ政権は、その巻き返しを加速させた。
 アメリカ政府の対日要求は、アメリカの多国籍企業の要求を反映したものだ。小売業で世界最大手のウォルマートは、コメの関税が日本での企業活動を妨げている、米国産リンゴについて日本政府が防疫のための措置を義務づけとして輸出が抑制されていると不満を表明している。カリフォルニア・チェリー協会は、ポストハーベストの防かび剤の登録手続の緩和を、カリフォルニア・ブドウ協会は日本の残留農薬基準の緩和を要求している。
 本当にとんでもない要求です。自分たちの金もうけの前には日本人の生命・身体・健康なんて、どうでもいいとアメリカの企業は考えているわけです。
 アメリカ資本は、日本企業の様式取得を進めている。日本の有名な企業でも、外国人持ち株比率が30%をこえる企業が増え、60%をこえる企業も出てきている。オリックスは60%近い、楽天も4割に近い。中外製薬に至っては76%になっている。
 アメリカ型の企業は、株主配当を重視し、従業員のリストラが簡単に断行される。アメリカが押し付ける雇用の流動化によって、日本に進出したアメリカの人材派遣会社にとってはビジネスチャンスになる。
 TPP参加によって日本の食料主権がますます脅かされてしまいます。
安全な食料を安定的に入手することは、国連の諸決議も認める、人々の権利である。日本は、日米安保条約の下で経済的自主性を欠き、食料主権を著しく制限されてきた。それが日本農業の衰退と食糧自給率の低下を招いてきた根源である。
 農業を守るため、関税などの国境措置と国内での農業支援を組み合わせて実施するというのは、ヨーロッパでも行われている当然の措置である。ところが、TPPはそれを不可能にする。
 農業は守られなければいけません。それは第一義的なものです。国土を荒廃させては、日本人に食べるものがなくなってはいけないのです。政府、自民党のトップの頭の中にはお米や野菜、そして牛肉や魚などが、お金を自動販売機に入れたら苦労せずに手に入れると錯覚しているのではないでしょうか。とんでもないことです。
また、TPPが日本の司法に与える重大な影響も決して黙って見過ごせないものがあります。150頁ほどの薄い本ですが、考えるべき論点の指摘がぎっしり満載の本でした。
(2013年7月刊。1200円+税)

伝説の弁護士、会心の一撃

カテゴリー:司法

著者  長嶺 超輝 、 出版  中公新書ラクレ
最後まで面白く読み通しました。司法試験を長く目ざして挫折したという著者の本ですが、モノカキとして大成されていることに敬意を表します。引き続きのご健闘を期待します。
合格後のことを何も考えず受験対策に没頭している人ほど、がんがん受かっていく現実がある。
 本当に合格後のことについて何も考えていないのかはともかくとして、そのようにしか思われない多くの人が合格しているのは現実です。ただ、合格して弁護士になってみたものの、まったく不向きだったという人も少なくない現実もあります。人間に関心がない、現実の紛争の渦中に飛び込んで身をもって解決しようという発想のない人が弁護士になったら(そういう人が現にいるのです)、本人にも周囲にも、もちろん依頼者にとっても、大いなる悲劇となります。
 大阪空港騒音差止訴訟がとりあげられています。画期的な判決が出ました。もちろん私は関与していませんが、原告弁護団長の本村保男弁護士はとてもカッコ良かったですね。話しぶりがあざやかというか、さわやかでした。大阪弁護士会の会長に就任して、民事当番弁護士制度を実現するなどしたあと、70歳のときにアルツハイマー病にかかって亡くなられたたとのことです。
 水俣病訴訟もとりあげられ、久留米の馬奈木昭雄弁護士が登場します。私が一番最初に出会ったのは40年以上も前に、まだ司法修習生のとき、東京の弁護士会館での講演でした。弁舌鋭い闘う青年弁護士の話に、私はただただ圧倒されてしまいました。
 この本は、そのあと、戦後の日本の刑事裁判、そして戦後の極東軍事裁判をあつかっています。そうなると、欠かせない弁護士は誰でしょうか・・・。
この本は、いくつかの単語を伏せ字にして読み手に推理させます。残念ながら私は一問も正答できませんでした。
 答えは有名な布施辰治です。布施弁護士は、弁論の途中で突然、沈黙してしまいます。どうしたんだ、気分が悪くなったのか弁論のネタが尽きてしまったのか・・・。やがて、みなが動揺し、いらだち始めた。
 布施弁護士は、やおら口を開いた。
 陪審員諸君、私がいま発言を止めた時間は、何分ぐらいだったと思われるか?5分か、10分かと、相当長い時間と思われただろう。ところが、たったの30秒である。・・・。
 すごいですね。いろいろ、本当によく調べているのに感嘆しました。
(2013年9月刊。860円+税)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

カテゴリー:日本史

著者  加藤 陽子 、 出版  朝日出版社
東大教授が中学生・高校生の20人に向けて近代日本史を熱く語っている本です。とても分かりやすく、しかも切り込む視点が鋭いので、思わず引きこまれてしまいます。
国民の正当な要求を実現しうるシステムが機能不全に陥ると、国民に、本来なら見てはならない夢を擬人的に見せることで国民の支持を獲得しようとする政治勢力が現れないとも限らないという危惧があり、教訓とすべき。
 日本国憲法を考えるときも、太平洋戦争における日本の犠牲者の数の多さ、日本社会が負った傷の深さを考慮に入れることが絶対に必要だ。巨大な数の人が死んだあとには、国家には新たな社会契約、すなわち広い意味での憲法が必要となるのは真理である。
戦争は、国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の憲法に対する攻撃という形をとる。
 相手国がもっとも大切だと思っている社会の基本秩序、これを広い意味で憲法と呼んでいる。これに変容を迫るものこそが戦争なのだ。
ジャン・ジャック・ルソーは、戦争とは相手国の憲法を書き換えるものと喝破した。
 アメリカは、戦争に勝利することで、最終的には日本の天皇制を変えた。
イギリスの歴史教授E・H・カーは、歴史とは現在と過去との間に尽きることを知らぬ対話だと言った。
 田中正造は、日露戦争について反戦論、非戦論で、はっきりした立場をとった。ところが実は、日清戦争には賛成している。のちに足尾銅山鉱毒事件で明治天皇に直訴状を出した田中正造は、日清戦争について、「良い戦争だった」と書いていた。
 日露戦争に関して、ロシアの学者は、どちらが戦争をやる気だったかという点で、ロシアの側により積極性があったとしている。戦争を避けようとしていたのは、むしろ日本で、戦争をより積極的に訴えたのはロシアだという。
日露戦争(1904年)の前の1900年に山県内閣は衆議院選挙法を改正した。直接国税15円以上を納付するという制限から、10円以上にして、5円下げた。その結果、45万人だった有権者が98万人となった。そして、1908年の選挙の時には158万人になっていた。
 また、1900年の山県内閣の選挙法改正によって、被選挙権は基本的に納税資格が不要とされた。それまでは地主議員ばかりだった国会に実業家や新聞記者などが登場するようになった。
 1933年(昭和8年)、熱河侵攻作戦という、最初はたいした影響はないと考えられていた作戦が、実のところ国際連盟からは、新しい戦争を起こした国と認定されてしまう危険性をはらんでいた作戦だったことが衝撃的に明らかにされてゆく。天皇も首相も苦しむが、除名や経済制裁を受けるよりは、先に自ら連盟を脱退してしまえ、という考えの連鎖によって日本の態度は決定された。
 日本近代史の歴史を若い学生、生徒とともに考える絶好の本です。最後まで面白く読めます。
(2013年3月刊。1700円+税)

白い包哮

カテゴリー:生物

著者  長澤 幹 、 出版  未知谷
圧倒的迫力の本です。すごいものです。日本狼の生態と猟師(またぎ)の生態・生きざまがことこまやかに描写され、息つく間もなく話が展開していきます。
 主人公は、初めのうちは、猟師の岩作です。
 猟師(またぎ)は、春から秋にかけて農業に勤(いそ)しみ、その合間に山の恵みや薪の採集などに努める。冬から春にかけて白神山地の奥深い森林で数日間にわたって狩猟を行う。狩猟の対象は主にカモシカとクマだ。
 夏場、狩りの季節の前に、あらかじめ森林の中に猟師小屋と呼ばれる簡易な小屋をたて、ここに食料などを運び込んでおく。狩猟が始まること、ここを基地として寝泊まりしながら狩りを行う。この小屋は非常に簡易かつ粗末なものなので、長持ちはしない。風雪にさらされて壊れると、翌年はまた新しい小屋を作る。
猟師は数人で組をつくる。棟梁は絶対命令者で、猟師の頭をシカリと呼ぶ。
 猟犬は獲物を見つけたら行動を制限し、留めておくことが重要で、優秀な猟犬はこまめに動き、獲物と一定の距離を保ちながら威嚇し続けることのできる犬でなければならない。そのためには、無闇な闘争心よりは、獲物の変化に応じた怜悧な判断力と獲物を引き止める胆力が優先する。
秋田犬は闘犬として好まれたが、その前身は「秋田マタギ」と呼ばれ山岳狩猟犬であり、 見た目に堂々とした風格があって、日本犬らしさをもった犬である。もともと闘犬としての資質をもっており、力も強いが、我も強い。反面、落ち着きがあり、飼い主の言いつけを忠実に守るという性格がある。
 秋田犬はもともと頭のいい犬で、上手にしつければ飼い主思いのいい猟犬になる。
秋田犬のユキが、ひょんなことからオオカミの群れの一員となり、ボスオオカミとの仔をもうけます。ギンゲです。太陽の光が当たると、胴体が銀色に輝くので、銀毛(ギンゲ)と呼んで岩作の子・源兵とともに生活しています。いよいよ、この本の本当の主人公ギンゲの登場です。
 猟師の岩作と熊がたたかううちに、岩作が転落死してしまうのでした。
 残された家族はギンゲを飼う余裕などありません。ついに犬好きの山林地主に譲り渡します。そして、さらに別の和歌山に住む大好きの大地主へと・・・。
 そこを嵐の夜に脱走したギンゲは故郷の白神山地へ仲間のオオカミの群れとともに戻ってきます。
 とにかくスケールも大きいオオカミの話です。
 鹿児島への出張の一日、ずっと読んでいました。本当に充実した一日となりました。ありがとうございます。著者にお礼を申しあげます。
(2013年5月刊。2200円+税)

小さいおうち

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  中島 京子 、 出版  文春文庫
直木賞の受賞作です。モノカキ志向の私ですから、日頃、直木賞か芥川賞、それでなくても文化勲章を狙っていると高言している身として、この小説の出来の良さにはただただモノも言えません。直木賞を受賞したのに何の異論もありません。細かい部分(ディテール)の描写といい、筋の運びとして、そして見事な結末には息を呑むしかなく、文句のつけようもありません。
 山田洋次監督が映画にしてくれて、来年1月には見れるとのこと。今から楽しみです。
 先日、妹尾河童原作の映画「少年H」をみましたが、戦前の平和な生活がいつのまにか戦争へ突入していく情景が、きめこまかに再現されていました。
裏表紙に、この本のストーリーが要領よく紹介されています。
 昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが、平穏な日々にやがてひそかに”恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて―。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。
 戦前の上流サラリーマンの家庭生活が、住み込み女中の目から、ことこまやかに描写されていますから、つい没入させられます。そして、いつのまにか微妙な男女の機微に触れていきそうです。
 女中タキのお見合い話をふくめて、戦争が日常生活に忍びこんでくるのです。
 この本には、私のつれあいがこよなく愛する永藤(ながふじ)菓子店が登場します。上野駅近くにあって、タマゴパンなどで有名なのでしたが、今は閉店してしまいました。
あと味もさわやかな、ロマンあふれる小説です。
(2013年6月刊。543円+税)

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