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日本人は民主主義を捨てたがっているのか?

カテゴリー:社会

著者  想田 和弘 、 出版  岩波ブックレット
 とても共感できる指摘ばかりの本でした。
もしかしたら、日本人は民主主義を捨てたがっているのではないか。そのような疑念が頭を支配している。少なくとも、自民党議員やその支援者のなかには、捨てたがっている人が一定数いることは間違いない。一昨年暮れの衆議院総選挙、そして昨年夏の参議院選挙、いずれも6割以下という歴史的な低投票率だった。客観的にみて、民主主義の存続そのものが危機にさらされているにもかかわらず、半分近くの主権者が審判に参加することすら拒んだ。
 自民党政権の樹立によって何となく進行するファシズムに、一部のネット右翼は別として、熱狂はない。なにしろ、半分近くの主権者が投票を棄権している。
 人々は無関心なまま、しらけムードのなかで、おそらくはそうとは知らずに、ずるずるとファシズムの台頭に手を貸し、参加していく。低温やけどのように、知らぬ間に皮膚がじわじわと焼けていく。
政権を握った自民党は、かつて日本を長らく支配していた老舗政党である。日本人の多くは、「民主党政権以前に戻した」くらいのつもりなのだろう。したがって、危機感の温度も低く、進行しているのがファシズムであると気づく人すらごく少数だ。危機を察知するセンサーが作動せず、警報音が鳴らない。
 恐るべきことに、たぶん安倍自民党はこうなることを意識的に狙っている。安倍自民党は、「衆参のねじれ」やら「アベノミクス」とやらを前面に「争点」として押し出し、それにつられて、あるいは共犯的に一部を除いたマスコミもそればかりを論じる。それにつられて、一部を除いて主権者もそればかりを気にする。あるいは、何も気にしない。騒がない。投票にも行かない。半分近くの主権者が棄権する。
 その特徴は、真に重要な問題が議論の俎上にのせられないまま選挙が行われ、大量の主権者が棄権するなか、なんとなく結果が決まってしまうというもの。
 選挙が、私たちの社会はどういう方向に進むべきか、重要な課題をかかげ、意見をすりあわせ、決定するための機会としてまったく機能していない。それでも、勝負の結果だけは出る。
 そして、結果が出た以上、選挙戦でスルーされた重要課題も、あたかも議論され決着がついた事項であるかのように、勝者によって粛々と実行されていく。よって、誰も気づかないうちに、すべてが為政者の望むどおりに何となく決まっていく。「熱狂なきファシズム」とは、このことである。
 政治家は政治サービスの提供者で、主権者は投票と税金を対価にしたその消費者であると、政治家も主権者もイメージしている。そういう「消費者民主主義」と呼ぶべき病が、日本の民主主義をむしばみつつある。主権者が自らを政治サービスの消費者としてイメージすると、政治の主体であることをやめ、受け身になる。そして、「不完全なものは買わぬ」という態度になる。それが「賢い消費者」による「あるべき消費行動」だからだ。
最近の選挙での低投票率は、「買いたい商品=候補者がないから投票しないのは当然」だという態度だし、政治に無関心を決め込んでいるのは、「賢い消費者は消費する価値のないつまらぬ分野に関心を払ったり時間を割いてはならない」という決意と努力の結果なのではないか。
投票に行かない人が、テレビの街頭インタビューで、「政治?関心ないね。投票なんて行くわけないじゃん」と妙に勝ち誇ったようにいうのは、自らが「頭の良い消費者」であることを世間にアピールしているのだ。
 しかし、消費者と主権者とは、まったく別のもの。決定的に異なる。民主主義では、主権者は国王の代わりに政治を行う主体であって、政治サービスの消費者ではない。消費者には責任はともなわないが、主権者には責任がともなう。
 わずか80頁の薄いブックレットですが、とても刺激的で意味深い、考えさせられる文章ばかりで、みるみるうちに本が赤くなってしまいました。赤ペンで至るところに棒線を引いていったからです。
 ぜひ、あなたにも一読をおすすめします。
(2013年11月刊。600円+税)

四分の三世紀の回顧

カテゴリー:司法

著者  白井 正明 、 出版  白井法律事務所
 著者は日弁連公害対策・環境保全委員会でご一緒させていただきました。私よりひとまわり年長の先輩弁護士です。このたび大変な大作を贈呈いただきました、まだ全文通読したわけではありませんが、ここに少しだけ紹介させていただきます。
 なにしろ本のタイトルがすごいのです。なんと1分冊目のタイトルは「宇宙・人類・法」です。なぜ宇宙なのかと言うと、著者は都立高校時代に天文気象部に所属し、天文学者になろうとして以来、宇宙に関心を持ち続けているからです。それは隕石やクレーターの踏査に出かけるまでの熱中度です。
そして、人類というと、歴史、それも日本史から世界史まで。なんと古代エジプト史までさかのぼります。世界各地を旅行し、その旅行記も印象深いものがありますが、皆既日食を見に、世界各地へ出かけていく行動力には驚嘆するばかりです。
 そして二分冊目のタイトルが、この「四分の三世紀の回顧」なのです。弁護士生活50年を振り返り、弁護士会活動そして弁護士としての奮闘記をまとめた弁護始末記など、とても役に立つ内容になっています。
 著者は、よほど書くのが好きなようです(私も同じですが・・・)。よくもまあ、ここまで微に入り、細には入り、書きまったくものだと思うほどの弁護士奮戦記になっています。
 弁護士3年目にして、古展ちゃん事件(小原保被告)の上告審の国選弁護人になったとのこと。昭和43年のことです。子どもの誘拐事件です。結局、死刑判決で確定したわけですが、犯人が要求した身代金が50万円だったのを知り、時代の差を感じました。なにしろ、例の3億円強奪事件で世間があっと驚いた時代のことです。
 著者には、ぜひとも引き続き健康で、ご活躍されますよう祈念しています。
(2013年9月刊。2800円+税)

カラスの科学

カテゴリー:生物

著者  ジョン・マーズラフ、トニー・エンジェル 、 出版  河出書房新社
カラスは世界一賢い鳥だ。こんなサブ・タイトルがついています。
 カラスは人間の顔を識別し、記憶する。
 カラスは針金をいじって曲げ、まっすぐな串から便利なフック(鉤)につくり変える。
 人の音声による命令を学ぶ能力は、犬、カラス、幼児の順になる。
 イギリスの有名な作家、チャールズ・ディケンズは、ワタリガラスをペットとして飼っていた。ディケンズは、このワタリガラスに、「元気だぜ」、「弱音を吐くな」、「やかんをかけて、お茶にしよう」という言葉を教え込んだ。うひゃあ、すごいですね。
 ワタリガラスは、同種の仲間の意図することも理解する。餌を隠した場所をほかの個体に見られ、それを横取りされそうなときには、貯食したものを移動させ、餌を隠したことを知らないワタリガラスが周囲にいるときは、そのままにしておく。
 何年も前にワタリガラスを捕獲して足環をはめた研究者が顔を見せると、ワタリガラスは即座に危険人物として見分ける。
 カラス科の鳥は、ほかの動物に比べて前脳が大きくて、そこで感覚情報への行動反応をまとめ、方向づけるために多くのニューロンとシナプスを費やしている。
カラスは何歳になっても芸のレパートリーを広げることができる。
 カラスもカササギ属の鳥も、「ハロー」と言うことができる。
 カラスのしゃべる能力は、鳴管によって可能になっている。これも知能に依存する。
大きな前脳と、前脳内の声の中枢と視床間にある専用ループが、カラスの耳にしたことを声に出させる主要な特徴である。
 ワタリガラスは、隣家の犬の餌やりの時間になると、定期的に飛んでいって、嫌がらせをした。カラスはタバコより酒を飲むのを好む。そこで、酔っぱらったカラスを見かけることがある。千鳥足になり、やたらに鳴いて飛んでいく。
ワタリガラスは、人間が何を知っているかも理解している。年齢を重ねるにつれて、ワタリガラスの理解力は高まる。
ワタリガラスは、風の強い日、空中で強風に乗ってサーフィンをして遊ぶ。
 遊ぶカラスは、滑りやすい斜面を勢いよく滑り落ちる。うつぶせや仰向けで頭から先に滑ったり、樽に入って遊ぶ子どものように横向きに転がったりする。
 「楽しい」というのは抽象的な観念ではなく、人間だけが体験できることでもない。
 カラスは、自己認識、洞察、復讐、道具使用、頭のなかでのタイムトラベル、欺き、仲間殺し、言語遊び、計算された命知らずの行為、社会的学習、伝統といった、これまで人間特有のものとされてきた特徴を備えている。
人間がカラスに惹きつけられる理由は、カラスが人間に似ているためでもある。
 なーるほど、と思いました。それにしても、私の住む団地はゴミ出しをめぐってカラスとの壮絶な戦いが今なお続いています。わが家のゴミはネットを張って、ブロックで押さえ込んで防いでいるのですが・・・。
(2013年9月刊。2800円+税)

ミツバチの会議

カテゴリー:生物

著者  トーマス・シーリー 、 出版  築地書館
タイトルがいいですね。あれ、何のことだろうと好奇心をかきたてられます。
 ミツバチは蜂蜜をつくって人類に貢献してくれるだけでなく、もう一つ、民主的な意思決定の力を存分に利用できる集団の作り方を教えてくれる。
 ミツバチのコロニーの女王は、王として決定を下す存在ではない。王として産卵する存在なのだ。唯一知られている女王の統治行為は、新たな女王の育成を抑えること。女王は、決して働きバチの上司ではない。
 晩春から初夏にかけて、ミツバチの群れは分蜂し、新しい家探しをはじめる。
 分蜂群は、数百匹の家探しバチを派遣して、周囲70平方キロメートルから巣の候補地を探す。十数カ所以上の使えそうな場所を特定すると、それぞれいくつもの基準で評価し、新居としてもっともふさわしいものを民主的に選ぶ。十分な広さがあり、しっかりと保護された空間が基準である。ミツバチの尻振りダンスは有名です。これは、一連のダンス周回からなり、1回のダンス周回には、尻振り走行と戻り走行が含まれる。
 女王バチは驚くほど多くの卵を産む。1分に1個以上、1日に1500個をこえる。一つのコロニーの女王は夏中かけて、15万個ほど、2年から3年生きるとすると、50万個の卵を産むことになる。
 女王バチは、生涯の最初の1週間に、女王はコロニーの巣から飛び立ち、同じ地域の別の巣から生まれた10匹から20匹の雄バチと交尾して、一生涯分のおよそ500万の精子を受けとる。雄バチは、コロニーで、もっとも怠慢なハチである。
 働きバチが蜂児を育てる時期は、周囲の気温がマイナス30度からプラス50度に変動しても、コロニーの内部温度は常に34度~36度である。これはヒトの深部体温よりわずかに低い。
 分蜂群には、およそ1万匹の働きバチがいる。そのうち、2~300匹が巣作り場所の探索バチとしての役割をもつ。分蜂群の探索バチは、尻振りダンスで宣伝する価値のある巣作り場所を2~30カ所探し出す。
 招集バチは、候補地を宣伝するダンスに追従し、飛んでいった宣伝されている場所を突きとめ独自に評価する。候補地を詳しく調査して満足すると、分蜂群に戻って、自分もその場所を支持するダンスを行う。
 よりよい候補地を報告するハチが、より強いダンスをする。ハチは、ある場所を、すでに訪ねたことのある他の場所と比較して、相対的な質を評価しているわけではない。分蜂バチは、さまざまな情報源からの情報をまとめ、他のハチに何をするか命令するリーダーがいないなかで新しい巣を選ぶ。もっとも大切な女王バチですから、この選出にあたっては傍観者にすぎない。
 リーダーなしに機能することで、探索バチは、よい集団意思決定を脅かすもっとも大きな要因の一つである。独裁的な指導者をうまく避けている。
ミツバチの新しい巣の探し方、その決め方がリーダーなしで民主的にやられていることを知って、感嘆しました。人類は、ミツバチにも学ぶべきなのですね。
(2013年10月刊。2800円+税)
 11月に受験したフランス語検定試験(準1級)の結果が判明しました。3点たりなくて不合格でした。残念でした。自己採点では68点でした(これでも不合格と思っていました)が、実際には64点でした。合格点はいつもより低くて67点(120点満点)ですので、3点足りなかったというわけです。
 今回は書きとりを見直して、かえって間違ってしまったということもありますが、要するに実力不足です。このところ、ずっと準1級は合格してきましたので、本当にガッカリです。でも、めげずくじけず、毎朝、NHKのラジオ講座を聞いています。頭のリフレッシュには最高です。

マダガスカルへ写真を撮りに行く

カテゴリー:アフリカ

著者  堀内 孝 、 出版  港の人
もう若くないカメラマンが、若いころの撮影の苦労話をふくめて語っています。
 アフリカ大陸の近くにあるマダガスカルは大きな島というべきでしょうね。バオバブの木で有名です。そのバオバブも減っているようなので、心配です。
 マダガスカルでの撮影の苦労話は、まことに悲惨なものです。秘境ツィンギーに至る旅程は、読むだけで背筋が凍ってしまいます。
村までの30キロは歩くか牛車で行くしかない。牛車に乗ると、車輪が金属製なので、石や段差があると衝撃が背筋を直撃し、とても座ってなんかいられない。
 仕方なく歩くと、今度は、汗がとめどなく流れ出て目に入って、開けていられない。
 足の露出した部分にアブがたかって血を吸うのにも参った。初めは気がつかないが、数分もすると、気が変になるほど痒くなる。日本から持参したキンカンを塗っても、全く効かない。
 歩く途中で、ミネラルウォーターを飲み尽くし、道沿いにある溜まり水を飲んで歩いた。下痢が心配だったが、脱水症状を起こすよりはましだ。一か八かだ。
 うひゃあ、これは、なんともすさまじいですよね。次は、さらに怖い話です。
 道に迷い川岸に着いたころには、どっぷりと夜が更けていた。月明かりのなか、ブーツと短パンを脱いで頭に乗せ、パンツ一枚で川に入る。「ワニがいるから気をつけろ」と言われたが、もう運を天に任せるしかない。ときどき、川の中で何かが足に触れるとヒヤッとしたが、なんとか無事に渡りきった。
 ええーっ、ワニのいる川をパンツ一枚で夜中に渡るなんて・・・。小心者の私には、とてもできないことです。
ヒルだらけの湿地を抜け、夜も歩いて家の軒下を借りてゴザを敷き、野宿をする。無数の蚊の攻撃を受けたが、運良くマラリアにかかることはなかった。若さとは恐ろしい。いま考えたら、かなり無謀だ。
ええーっ、かなりどころではありませんよ。私なんか、絶対に、ゼッタイ、できないことです。
 マダガスカル人は、20もの民族集団に別れている。中央高地にいるアジア系の人々は、インドネシア系の祖先をもつ。西海岸地方に暮らすのは、イスラム教が多い。
 この本を読むと、若いときには、多少の無茶は付きものだし、必要不可欠なものだとつくづく思います。40、50、60歳になると、とても、そんな無謀なことはできなくなるのです。
(2013年3月刊。1200円+税)

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