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東京ブラックアウト

カテゴリー:社会

著者  若杉 冽 、 出版  講談社
 私も、世の中の仕組みをまったく知らなかった高校生のころ、漠然とキャリア官僚になるのもいいかなと思っていたことがあります。世のため、人のため、国の政治を少しでも良くしたいという思いがあったのです。官僚って、世の中のことを少しでも良くしたいと考えている人たちの集団とばかり考えていたのです。ところが、現役キャリア官僚の書いたこの本によると、まるで違った存在だというのです。悲しくなってしまいます。日本一のエリート頭脳集団が、国民を守るというより財界・大企業の利権、そして、それにくっついて自己の保身を図るばかりだなんて・・・。信じたくない現実、目をそむけたくなる真実が情容赦なく暴露されています。その典型例が原発です。ひとたび事故を起こしたら、人間の力ではどうにも抑えることができません。この本でも、ありうべからざる原発事故が起きて、ついに東京首都圏に人間が住めなくなる状況が描かれています。
 3.11の福島原発事故も、その寸前まで行きました。今では多くの人が忘れ、目をふさいで「原発再稼働」もありかな、なんて脳天気に考えています。私には、とても信じられません・・・。今では、間違ってキャリア官僚なんかにならず、本当に良かったと心底思っています。といっても、良心的なキャリア官僚が少なからず存在するのを否定するつもりはありません。人をけ落として出世していく主流が問題なのです。
役人がもっとも忌み嫌うのは、自分に責任がかぶせられることだ。霞ヶ関では、他人の意見に同意して相手に好感を持たれるよりも、相手の意見に反対して恨みを買うことのマイナスの影響のほうが大きい。人をほめて引っ張り上げるよりも、悪口を言って足を引っ張るほうが、はるかに楽しいからである。
上からのトップダウンではなく、下からのボトムアップを通例とする日本の官僚制での意思決定では、コンセンサスがとれたもののみが成案となる。結局、恥を知らず、最後まで寝転がった者が勝ちなのだ。
 官庁では、公開の場では、実質的な議論はなされない。
国家公務員上級職試験に受かった連中(キャリア官僚)と、地方公務員試験に受かった連中とでは、試験合格に必要な知的能力の差も、就職後のきたえられ方も、月とスッポンほど違う。
 原発からの住民の避難計画は、住民の安全のためになるかどうかというところにその本質があるのではなく、原発を再稼働させるため住民との関係でどのように納得感を醸成するのか、そこに本質がある。
 キャリア官僚たちは、国益だと口先では言い続けながら、経産省の利益を拡大するためにひたすら汗を流す。その流した汗の量で出世が決まり、利権の分配も決まる。
 そんな国益と私益の二重構造に役所の仕組みがなっていることに、本省の課長たちはとっくに気が付いている。気が付いていないとしたら、よほどのバカである。そんなバカは、ろくな仕事もできないので、ぐるぐる衛星のように外郭図体を回されて、国益と私益の二重構造に気が付かないまま、退官させられる。
 そこまでバカでない者は、国益と私益の二重構造にうすうす気がつきながら、目の前のお金の誘惑に負け、再就職先を官房長からあてがってもらう。退職後の天下り先での給料は、いわば口止め料なのだ。
 政府が原発再稼働を急いでいる本当の理由は、発送電の分離を阻止することにある。原発事故が起きて、メルトダウンが進行しはじめると、住民の避難が遅いことが被害拡大の原因だとされてしまう。
 電子力会社や国にとって、住民の安全というのは、原発再稼働のためのお題目にすぎない。メルトダウンが起きてしまえば、事故の極小化が優先であり、周辺住民は単なる足手まといになるだけ・・・。
 覆面している現役のキャリア官僚ですが、ここまでバラしていいのかと思わせるほど、官庁内部のやりとりが克明に紹介されています。さもありなんと、ついつい思ってしまいました。
(2014年12月刊。1600円+税)

亡命者、白鳥警部射殺事件の闇

カテゴリー:社会

著者  後藤 篤志 、 出版  筑摩書房
 白鳥事件とは、1952年1月21日、札幌で公安警察官の白鳥(しらとり)一雄警部が自転車に乗って帰宅途中、同じく自転車に乗った男からピストルで射殺されたというもの。
この事件については、殺人事件の逮捕状が60年以上たつのに今なお更新され続けている。容疑者二人が海外逃亡により時効が停止しているため。しかし、その二人は既に中国で死亡している。
 白鳥事件というと、村上国治(くにじ)氏が無実を主張した冤罪事件として定評がありました。白鳥事件を担当した安倍治夫検察官は、のちにユーザーユニオンで活躍した弁護士です。松本清張の冤罪説と真っ向から対立しています。
 白鳥警部(36歳)は札幌市警察本部の警備課長。スパイの元締めもしていた。米軍のCICとも情報交換していたようだ。白鳥警部の警察手帳には、白鳥警部の行動記録が書かれているためか、警察は裁判所へ証拠として提出されなかった。また、自転車は2台とも証拠として提出されていない。
そして、幌見峠で発見されたという弾丸は、とても雪の下で埋もれていたものとは思えないものだった。冤罪説は、この弾丸を最大の根拠としている。
 このころ、日本共産党は中国共産党にならって、軍事武装闘争をすすめていた。軍事部門として、中核自衛隊が存在した。この中核自衛隊は軍事組織として、純粋に組織に対して忠誠を近い、命をかけて仮想敵とたたかった。
 同じ年(1952年)4月、吉田内閣は破壊活動防止法案(破防法)の制定を提案した。
 また、同年6月には、大分県竹田の菅生村で駐在所が爆破される事件が起きた。警察の自作自演の「爆破」だったことが、裁判になって判明した。
 10月1日は衆議院選挙の投票日。共産党は前回の35議席が一挙にゼロになった。
 白鳥警部を実際に射殺した実行犯も、支援グループも中国へ密航して渡った。そして、前述のとおり、中国で実行犯は病死したのです。
 当時の社会情勢を抜きにして白鳥事件を語ることは出来ません。この本は、その点がよく描かれていて、説得力があります。
 要するに、ニセ弾丸はあるものの、村上国治が命令して起きた警察官射殺事件だったのです。今では考えられないことですが、戦後まもなくの殺伐とした世相では、ありえたのです・・・。
 白鳥事件についての最新の到達点が明らかにされています。
(2013年9月刊。2200円+税)

日本人の値段

カテゴリー:中国

著者  谷崎 光 、 出版  小学館
 日本人の技術者が中国へ数千人ほど渡って、中国企業で技術指導している実情をレポートしている本です。
 韓国では年俸5000万円というように高給だけど、スキルと情報だけを取り出したら日本人技術者は、使い捨てされる。これに対して、中国は、もう少し長いスパンで見る。
 中国企業で働く日本人の車のエンジニアで年俸3600万円(200万元)という人は少なくない。多いのは2700万円(150万元)ほど。ただし、これに加えて、高級マンションが用意され、通訳と送迎がつく。年に数回の日本への帰国費用も会社が負担する。
 設計図や断面図を見て、ここで問題が発生すると分かるようになるまでには何十年もかかる。成功体験は意味がなく、不具合をどれだけ経験しているかが、エンジニアのレベルを決める。こういう技術者を中国企業は求めているのです。
 日本人は、みんなで力をあわせて開発することにはバツグンに強い。
日本のエンジニアは、信頼性に命をかけている。中国人の安全意識は極端に低い。車の品質由来による日常の事故は、圧倒的に中国産の車が多い。
 中国の金持ちは、中国の純国産車には乗らない。国家のリーダーの乗る国産高級車(紅旗)も、エンジンとトランスミッションは日本製である。外観は中国製だが、中身は日本製というのは、北京の地下鉄や高速鉄道のように、けっこう多い。ちなみに、日本車では、日産のほうがトヨタより人気があり、売上げも多い。
 中国で高級車に乗っているのは、一党独裁を最大限に利用して、大バクチを打って巨額のお金をつかんだ人々である。中国の金持ちは、日本車の客に合わせたような従順な感じを嫌う。だから日本車は選ばない。
 中国の会社は、どこでも全部門に不正のチームがはりめぐらされている。
 中国のあらゆる組織、あらゆるお金とモノとサービスが動くところ、不正のないところはない。低価格の部品へのすり替え、製品の横流し、処分品の横領、仕入れ先からのバックマージンなど以外に、サービスセンターなら修理費のごまかし、製品の消耗品の転売、おまけの販売など、さまざまな手口がある。
 日本の企業には、必ず基礎研究と開発研究の両方がある。これに対して、中国の研究所は、買ってきたものをバラして単に設計する場所でしかない。
 ところが、家電のような身近なものでも、分解して研究し、そのまま再現できるかというと、そうではない。同じものを安定した品質で何万個もつくるのは難しい。開発は、技術のない中国には、不可能なのである。そこで、技術者の引き抜きに走る。一番安上がりである。
 技術とは、設計図や一つの工程の特殊な作業だけではなく、総合力が必要であり、それが生産技術なのだ。日本は、これが強い。
 中国へ進出している日本企業は、2012年時点で1万4000社以上。
 中国の企業にいる日本人技術者は3000人以上。そして、中国からの日本人技術者への求人は増える一方なのである。
 中国で暮らしていると、モノの品質の良し悪しを決めるのは、最後は素材だということが、良く分かる。優秀な部品をつくる素材の基礎技術は買えない。
 日本人技術者は、相手に合わせて、うまく調節できるから、中国企業から非常に評判がいい。柔軟な日本人は、実はタフなのかもしれない。
 日本の中小企業は、たしかに中国から撤退している。しかし、大企業は引くに引けない。日系の企業数は減っているが、一社あたりの社員数は増えている。
 中国において日本人技術者がひっぱりだこだという実情を知ると同時に、その理由も分かりました。いろいろ勉強になる本です。
(2014年12月刊。1300円+税)
 東京は有楽町の映画館で「ミルカ」をみてきました。2時間半の長大作ですが、映像にひきずり込まれ、あっという間でした。
 インド映画につきものの歌と踊りはほとんどありません。どうやら監督が嫌いのようです。
 1960年のローマオリンピック。陸上競技400メートル。インド代表のミルカはトップを走っていたのに、ゴール寸前で後ろを振り返ったため、4位になってしまった。なぜ、うしろを振り返ったのか。その謎が映画の進行とともに解明されていきます。
 ミルカは、ミーク教徒です。頭の上で、長く伸びる髪を丸くまとめているのが、ちょんまげのようでユーモラスです。日本にもミーク教徒が2000人ほどいて、寺院も東京と神戸にあるとのこと。
 インドからパキスタンが分離・独立したときの悲劇がかかわっています。
 ミルカの子ども時代の少年も可愛いらしいのですが、大人のミルカ役はなんと本職は高名な映画監督だというのです。その鍛え抜かれた肉体美には圧倒されます。
 人生を考えるうえで参考になる映画でもあり、大いに一見に値しますので、機会があればぜひご覧ください。

イスラム国、テロリストが国家を作る時

カテゴリー:アラブ

著者  ロレッタ・ナポリオーニ 、 出版  文芸春秋
 
 今注目されているイスラム国とは何者なのか・・・。
 イスラム国は、その前は「タウヒードとジハード集団」の一部だった。タウヒードとは、神の唯一絶対性を表す言葉だ。神はすべてであり、神はあまねく存在するという意味。
 人差し指を突き出して、神は唯一無二であることを表す一神教の仕草は、今日ではイスラム国の公式の挨拶となっている。
 イスラム国では、女性は男性の親族の付き添いなしで外出してはならず、全身を覆わなければならず、公の場でズボンを着用してはいけない。
イスラム国の支配する地域の住民は、過激なサラフィー主義に改宗するか、でなければ処刑される。
 イスラム国を育んだのは、グローバリゼーションと最新のテクノロジーである。
イスラム国が過去の武装集団と決定的にちがうのは、その近代性と現実主義にある。
 イスラム国がムスリムに向けて発する政治的なイメージは、力強く、魅力的だ。それは、カリフ制に回帰しよう、これこそがイスラムの新しい黄金時代だというだという呼びかけである。
 イスラム国は、支配した地域の住民の承認を得ることにも熱心だ。道路を補修し、家を失った人のために食糧配給所を設置し、電力の供給も確保した。
 イスラム国の第一義的な目的は、スンニ派のムスリムにとって、イスラエルとなること。つまり、かつての自分たちの土地の権利を現代に取り戻すこと。
 イスラム国は、ソーシャルメディアを巧みに活用している。残虐行為をスマートな動画や画像に編集して、世界じゅうに流している。恐怖は宗教の説教よりは、はるかに強力な武器になる。イスラム国は、ケータイで簡単に見れる形式で残酷な処刑や拷問の写真や動画を投稿している。のぞき見趣味のはびこる現代のハンチャル社会では、きれいに切り取って差し出されたサディズムは格好の見せ場となる。
 イスラム国は、アル・バグダディとカリフ制国家にまつわる神話を織り上げた。
イスラム国は潤沢な収入源をもっている。シリア各地の油田や発電所をおさえている。また支配下にある地域の企業から税金を取りたて、武器・装備品をはじめとする商品の取引にも課税している。
 イスラム国が過去の武装組織にまさっているのは。軍事行動力、メディア操作、制圧地域での生活改善プログラム、そして何より国家建設である。
 アル・バグダディは、アメリカ軍に捕まり5年のあいだ服役していた。その服役中は非常におとなしく、目立たなかった。アル・バグダディは、バグダッド大学でイスラム神学の学位をとっている。
 アル・バグダディは、どんな新参者も歓迎する。他の組織は、スパイや密告者を恐れて、志願者を受け入れないことが多い。
 イスラム国は、どこからも支援をうけずに財産を築き自立を果たした。
 イスラム国は、軍隊や行政に階層構造をもち込んだ。そのおかげで、個々の部隊が犯罪者集団や烏合の衆に堕落する危険は少なくなっている。
 イスラム国の歩兵の平均給与は、月41ドルで、イラクの肉体労働者の給与に比べてはるかに低い。つまり、イスラム国の兵士の士気を高めているのは、報酬の高さではない。
 アメリカ軍は過去50年間、ずっと戦争してきた。そのアメリカ軍が敗北したということは、軍事的行動以外でしか物事は解決できないということを証明している。外国の軍事介入が中東の不安定化の解決にはならない。戦争以外の手段を模索するしかないのだ。
 アメリカの失敗に大いに学んでいるイスラム国です。アメリカのような軍事一辺倒で解決するはずがないということを認識させてくれる本でした。
(2015年2月刊。1350円+税)

東アジア共同体と沖縄の未来

カテゴリー:社会

著者  東アジア共同体研究所 、 出版  花伝社
 今日、世界の生産物、モノの取引の7割はアジアの諸国を通じて行われている。
 今や中国などのアジア諸国は、かつての安価で大量の労働力による「世界の工場」から、分厚い中間層による「世界の市場」へと変貌している。
 かつてはアメリカやヨーロッパ諸国が、世界の生産と貿易と市場の中心だった。しかし、今、その中心がアジアへと移動し続けている。物流の担い手は、いまでは巨大コンテナ船だが、そのコンテナ船に積まれて運ばれる物流の3分の2は、アジアの港湾を中心に運送され、荷揚げされ、消費地へと運ばれている。しかも、アジアの港湾で荷揚げされる物流の半分、世界総量の40%は、アジア域内同士の交易が占めている。
 このように、物流の中心は今や欧米世界からアジア世界へと転移している。
 1980年の港湾ランキングで上位に港湾のうちアジアの港はわずか4港しかなかった。
 今では(2012年)、上位に主要港湾のうちロッテルダムが10位に入っているだけで、ドバイ含めると、11港すべてが広域アジアに属している。
 ところが、日本はトップの東京湾が世界24位、神戸が49位で日本の港は衰退している。
 中国の漁民に変装した特殊部隊が島に上陸するとか、架空の話をふくませて、脅威をあおる。ほら北朝鮮が強いぞ、ほら中国は怖いぞ、尖閣が危ないぞ、だからアメリカ軍の基地はそのままでいいし、自衛隊の増強が必要なんだと言っている。
 自民党は今までの反共イデオロギーの代替物として、これをフルに活用し、親米と反米の矛盾を露呈せずに体面を保ってきた。かつて、ソ連軍が北海道に攻めてくると言って置かれていた海上自衛隊がやることなくなって、その失業対策として西南諸島対策の必要性が言われているだけのこと。
 今の天皇は、きわめて強い思いを沖縄に寄せ、しばしば沖縄を訪れ、そのたびに、「沖縄県民の苦労を日本人全体でわかちあわなければならない」という談話を発表している。
 そして、琉歌を独学で学んで詠んで、毎年、発表している。琉歌を読むヤマトンチューというのは、聞いたことがない。
 今の天皇は一昨年(2013年)12月23日の80歳の誕生日を迎えたときのコトバのうち、NHKは大事なところをわざと隠して報道した。
 天皇は何と言ったか・・・。
 「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法をつくり、さまざまな改革を行って今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ改善していくために、当時のわが国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています」
 いまの安倍政権が平和を、そして民主主義を壊す可能性があるという危機感から出てきた言葉である。だからこそ、NHKは、「平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法をつくった」という部分をカットして、そこは報道しなかった。
 これは本当にひどい話です。安倍・籾井ラインのなせる悪行もきわまれりと思います。
 味わい深い、価値のあるブックレットです。
(2014年10月刊。800円+税)
  庭仕事をしていると、近所の奥さんが、昨日、そこにタヌキがいましたよ、と話しかけてきました。やっぱり先日、庭の生ゴミをほじくり返した犯人はタヌキだったのです・・・。
 いつものようにジョウビタキが、すぐそばまでやって来て、私に挨拶します。掘り返した土のなかにいたミミズを放り投げると、おいしそうに食べていました。かといって、私がエサを与えるのを期待して近づいてきているとは思えません。
 ジョウビタキは縄張りがあると紹介されています。縄張りのなかで土を起こしているのを監視しているのかもしれません。
 ずい分と日が長くなりました。今では夕方6時まで庭仕事が出来ます。

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