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イスラム戦争

カテゴリー:社会

著者  内藤 正典 、 出版  集英社新書
 日本がやるべきことは武力行使ではない。憲法9条の戦争放棄、あくまで平和外交を主体としたものであるべきと力説している本です。著者は現代イスラム地域研究を専門とする同志社大学大学院教授ですので、イスラムとは何か、ムスリムそしてイスラム国の現実をふまえた提言がなされていて、とても説得的です。
もともとムスリムは戦争に向いていない。イスラムを創始したムハンマド自身が商人出身だった。都市に暮らす商人の宗教としての性格が色濃く映し出されている。
 トルコ政府は、アメリカ主導の中東における軍事力行使には、これまで一度も参加したことがない。中東におけるアメリカの最大の同盟国であるトルコは、集団的自衛権の行使について、きわめて慎重かつ、アメリカの意にそわない決定を続けてきた。
 トルコは、PKKとの長い戦いのあげく、テロ組織とはいえ、軍事力でつぶすことは出来ないことをよく知っている。したがって、イスラム国に対する武力攻撃に加わっていない。
 安倍内閣が進めている集団的自衛権の行使容認は、日本にとってとてつもない危険と不利益をもたらす。
 アメリカの戦争に日本が加担するということは、あまりに世界を知らなさすぎる。地球は、アメリカを中心にまわっているわけではない。現在の状況で、中東において日本が軍事協力を求められたとき何をすべきかと質問されたら、自分は「何もしてはならない」と答える。
 アメリカが日本に対して集団的自衛権行使を求めてきたら、それはイスラム圏である可能性が高い。アメリカの情報をもとに武力行使に日本が協力したら、世界じゅうのムスリムを敵に回しかねない。世界のムスリム人口は、あと十数年で20億人をこえるだろう。
 多くのムスリムにとって、アメリカという国家のイメージは、子殺しであり、母殺しである。圧倒的に悪者のイメージが強い。
 イスラム国を武力で叩けば叩くほど、事態は悪化していく。
 「勇ましい」安倍首相に拍手する日本人は少なくないという現実がありますが、実は、それは日本という国と日本人にとって大変な危険をもたらすことになることを、きわめて冷静かつ実証的に説明した本です。今、多くの日本人が読むべき本として一読を強くおすすめします。
 ちょうどこの本を読もうとしているところに、奈良の峯田勝次弁護士から、ぜひ読むようにというハガキが届きました。峯田先生、ありがとうございました。
(2015年2月刊。760円+税)

安倍官邸と新聞

カテゴリー:社会

著者  徳山 喜雄 、 出版  集英社新書
 新聞が安倍首相の言動の問題点を国民にきちんと伝えているのか、私は日頃から大いに疑問を感じています。この本は、新聞を漫然と読んではいけないと警鐘を乱打しています。まことに、そのとおりだと思います。
 安倍官邸のメディア戦略は巧妙で、きわめて有効に働いている。
 新聞は二極化現象を起こしている。読売・サンケイ・日経新聞に対して、朝日・毎日・東京新聞が対抗している。
 安倍首相をとり巻くスタッフたちは、周知な準備をしたうえで、ひそかにリークしながらメディアをうまく利用している。
 集団的自衛権の論議のとき、安倍首相の私的諮問機関である安保法制懇の議論状況は、読売新聞を通じて流された。それは北岡伸一座長代理が読売新聞の主要な社外筆者であることにもよっている。政府関連の情報を読売新聞が独自に流していった。
 そもそも、この安保法制懇というのはメンバー14人の全員が集団的自衛権の容認賛成派で占められていた。法律上の根拠もない機関なのに、あたかも権威ある機関であるかのように報道するのは、いかがなものなのでしょうか。
 2013年10月に、アメリカのケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日したとき、二人そろって千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪問した。これは、安倍首相に対する「靖国参拝しないように」というメッセージであったことは明らか。それにもかかわらず、安倍首相は靖国神社の参拝を強行した。アメリカの面子は丸つぶれだったので「失望した」とコメントした。
 安倍首相の意向が働いた人事として、日銀総裁、日本郵政社長、内閣法制局長官、海上保安庁長官、そしてNHKの会長と経営委員・・・。
 NHKの籾井勝人会長は、まさに安倍首相のロボットのような存在です。
 NHK会長が、その発言を問題視され、国会で答弁を求められるなど、きわめて異例のこと。公共放送機関のトップというか、そもそも報道機関として権力監視という役割を籾井会長は自覚していない。要するに、いつだって、何だって金もうけの対象としてしか考えていないような人物なのでしょうね。残念です。
安倍首相の二枚舌を許さない厳しい報道を新聞はもっとすべきだと思います。
(2014年9月刊。760円+税)

獄中メモは問う

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

著者  佐竹 直子 、 出版  道新選書
 作文教育が罪にされた時代。作文や紙芝居が罪になるなんて、どうしてですか。治安維持法とは、何を処罰する法だったのですか・・・。本当にひどい話がありました。
 治安維持法が制定されたのは、第一次世界大戦後の1925年8月(大正14年)のこと。
 1935年8月、北海道内の教員有志16人が札幌に集まり、北海道綴方(つづりかた)教育連盟を設立した。メンバーは60人あまりにまで広がった。酪農、農作、漁業、炭鉱・・・。子どもたちの綴方(作文)に、しっかりマチの特性が表れていた。
 1940年、綴方教育に特高警察の手が伸びた、2月に山形県の教員2人が逮捕されたのが最初だった。11月に北海道綴方教育連盟事件が発生した。
 綴方事件で逮捕された道内の教員は1941年4月までの累計で56人。そのうち12人が起訴され、死亡した1人を除く11人の有罪判決が確定した。綴方教育の実践で逮捕された教員は全国で137人。このうち北海道が75人と、半数をこしている。
 逮捕された教員に押された共産主義者という「赤い烙印」は、残された家族も苦しめた。通りを歩けば、後ろ指をさされ、友人に道であって目礼しても無視される。
 起訴された12人の教員の多くは、拘束中に依願退職した。慕っていた「先生」を突然失った教え子たちの動揺も大きかった。
 この本は、逮捕・勾留された教員のメモや日記が最近になって発見され、それを解読して紹介しています。逮捕された教員たちは、警察・勾留所にいたとき、メモをひそかにやりとりしていたのです。それには、理不尽にも逮捕された教員たちに同情する警察官や職員の助勢があったようです。
 旭川刑務所では、廊下の掃除を担当していた模範囚が食事の出し入れのために小窓から、こっそり独房間のメモの受け渡しをしてくれていた。
 戦後になって、逮捕されていた教員の一人は、次のように当時を振り返った。
 「治安維持法は悪法であったが、しかしそれは当時の国法である。実際に違反したのであれば、処罰を受けてもあきらめようがある。だが、明らかに冤罪を承知のうえで、多数の教師を共産主義に仕立てた彼ら(警察・検察官)こそ、まさに法を愚弄するものと言ってよい」
 子どもの作文で、犬殺しに殺された犬をかわいそうに思っているところを書いているのは、弱者への同情心を養うため。それが、やがて階級闘争心になる。
こんな論法で処罰されたというので、たまりませんね。風吹けば桶屋がもうかるどころの騒ぎじゃありません。こじつけがひどすぎます。
 また、紙芝居を実演して児童を左翼的に導くべく努めた、というのもあります。
高田富与弁護士(当時50歳)、浜辺信義裁判長の素晴らしい活動が紹介されています。
 高田弁護士は、市議も兼ねていて、3期目。他の仕事を断ってまで綴方事件の弁護に集中したため家族の生活費にまで事欠いていた。浜辺裁判長は、不当な弾圧の実態をあばこうとした。浜辺裁判長は、公判中に被告人を呼び出して面談した。
 高田弁護人が申請した50人のうち、浜辺裁判長は12人を採用した。治安維持法事件で弁護側の求める証人が認められたこと自体が異例だった。しかも12人が採用されたことは・・・。
 高田弁護士の最終弁論は200頁に及んだ。浜辺裁判長は、公判のあと11人の被告人を一人ずつひそかに呼び出して面談した。
 「無罪判決では必ず検事が上告する。・・・実刑を受けないのだから、早く世の中で働いたらどうか?」
そして、判決は、求刑3~5年のところ、懲役1年から2年だった。そして、執行猶予もついていた。
貴重なナマの記録を掘り起こして、この本のように誰でも読めるようにしてくれた著者たちの努力に対して心より感謝します。それにしても、戦前の悪夢をよみがえらせようとする特定秘密保護法は早く廃止しないといけません。安倍政権はひどすぎます。
(2014年12月刊。1296円+税)
春になりました。庭のあちこちに黄水仙が咲いています。チューリップもぐんぐん伸びて、花を咲かすのも間近となりました。
 日曜日は、午前中に雨も止んでくれましたので、午後遅くから球根の植え替えに取りかかりました。すると、まもなく、いつものジョウビタキがやってきて、すぐ近くの枝にとまって、じっと私の作業を見守っています。私も畑仕事を中断して、じっとジョウビタキを見つめます。愛するもの同士の見つめあいは、至福のひとときです。そのあと、私が掘り起こしたあとに地虫がいるようで、今日もついばんでいきました。といっても、私には、ミミズ以外の地虫は発見することができません。
 枝にとまっているジョウビタキを、じっと観察していると、何やら小さなさえずり音が聞こえてきます。いつもの叩く音とは違います。軽快な鳴き声です。
 夕方6時半まで外は明るく、植え替えに精を出し、終わって湯舟につかります。気分爽快な春の一日でした。

1941年。パリの尋ね人

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  パトリック・モディアノ 、 出版  作品社
 ノーベル文学賞を受賞したフランス人による本です。
 著者の父親はギリシャ系のユダヤ人ですが、ドイツ占領下のパリで、偽名をつかって闇ブローカーで生きていた謎多き人物でした。
 そして、この父親は息子(著者)や家族を迷惑視し、結局、捨ててしまったのです。母親は女優でしたが、旅に出ることも多く、子どもを放ったらかしにしようとしたのです。
 結局、著者と弟の二人は両親にかまってもらえず、友人宅に預けられたり、早々に寄宿学校に入れられてしまうのでした。このような不幸な親子関係の下で成長した著者は、孤独感、生のはかなさの意識の濃い作品を生み出していったのです。
 モディアノは、ドイツ軍占領下のユダヤ人弾圧という悲劇の責任の多くがフランス人側にあることを自覚し、これを小説の形で暴き出した。
 フランス人におけるゲシュタポ(ナチスの組織)といっても、ゲシュタポの組織で働いている怪しげなフランスが描かれた。4万人のフランス人がゲシュタポの下で働いていた。
戦後のフランスでは、復興のために必要だった国民の団結意識育成のため、フランス人はド・ゴールを先頭にしてレジスタンスで一致していたのだという神話が、神話と意識されながらも長く暗黙裡に受け入れられてきた。
フランス社会は、1970年代以降から、占領下におけるヴィシー政府の対独協力政策の解明に乗り出しており、ユダヤ人の絶滅収容所送りにフランス当局が積極的に参与した事実が明らかにされた。このことは、現在ではフランスの学校教育の現場でもはっきり教えられている。
 これって、日本の政府・文科省とはまるで違いますね。真実に向きあうことを自虐史観と決めつけ、真実に目を閉ざす教育を日本の学校当局は子どもたちに押しつけようとしています。とんでもないことです。
1941年12月31日付け「パリ・ソワール」という新聞に、15歳の少女、ドラ・ブリュデールを「尋ね人」として探しているという小さな案内広告が掲載された。ユダヤ人の少女である。
 著者は、このユダヤ人少女の行方を探しまわったのです。このドラ・ブリュデールは、ドランシー収容所に入れられ、1942月9月18日、アウシュヴィッツ向けの列車に乗せられた。父親と一緒だった。この1000人は9月20日、アウシュヴィッツ収容所に到着した。859人は直ちにガス室に送られた。1945年時点の生存者は21人だった。
 ドラの住んでいたパリの風景は、実は、今もほとんど当時のままです。これが、日本とはまったく違うところです。昔の景観を大切に残すのがフランス風です。日本では、ごく一部を除いて、みんな近代的に変えてしまいます。昔の景観を保存しようというのは、ごくごく一部でしかありません。
 このようにして、アウシュヴィッツに消えていった600万人の人々には、それぞれの人生があったことを想起することが出来るのは、本の力です。大切な本だと思いました。
「自虐史観」攻撃なんかに惑わされず、歴史としっかり向きあう勇気、そして、間違った歴史を克服する力を身につけたいものだと痛感します。
(2014年12月刊。1800円+税)
 アメリカ映画「アメリカン・スナイパー」をみてきました。イラクにおいてアメリカ軍が侵略軍でしかなかったことがよく分かる映画だと思いました。小さい子どもたちもアメリカ軍を敵とみなしているのです。
 イラクの人々を160人も殺した狙撃兵(スナイパー)は自らの心を深く傷つけてもいたのです。そして、同じように、この戦争の大義がどこにあるのか、多くのアメリカ兵が現地で疑問を持っていた様子がうかがえました。なにしろ、実際にやっていることは民衆を敵として兵器を向けた戦闘活動なのですから、疑問を感じるのも当然です。
 ベトナム侵略戦争のときも、最盛時50万人のアメリカ軍はベトナム民衆を敵としてたたかい、結局、惨敗してしまったのでした。
 やはり、武力だけで民衆を制圧、支配することはできないのです。
 前にみたデンマーク映画「アルマジロ」を思い出しました。出撃基地内に縮こまっている点がそっくりです。

窓から逃げた100歳老人

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ヨナス・ヨナソン 、 出版  西村書店
 スウェーデン発の奇想天外なストーリーです。
この100年間に世界で何が起きているのかをおさらいすることのできる痛快本でもあります。ありえない、こんなこと絶対にありえない、なんて思っていたらダメなんです。ふむふむ、なるほど、そう来たか。では、この次はどんな展開になるのだろうか・・・。
 その発想の奇抜さには、何度となく腰を抜かしそうになりました。400頁の本ですが、私にしては珍しく、3時間もかけて読みふけってしまいました。
 話は100歳の老人の脱走劇に始まるのですが、このストーリーは、老人の青年時代の回顧談というか、世界の超有名人と交わって活躍する話が盛り込まれているので、面白いのです。
 スペインのフランコ将軍、アメリカではロスアラモスの原爆製造会議に参加して、トルーマン副大統領と仲良しになる。中国に渡ると、毛沢東夫人の江青の生命を助ける。
 イランでは、秘密警察に捕まって処刑される寸前にまでなってしまう。しかし、結局、ウィンストン・チャーチル首相の危機を救って、本人も無事に脱出できる。
 次には、ソ連に渡って、ベリヤやスターリンと一緒に食事をする。しかし、ついには、強制収容所に送られてしまう。そこを何とか脱出して、金日成と金正日に面会する。まあ、よくも、こんなストーリーを考えついたものです。
 一応の史実を下敷きにしていますので、次の展開を知りたくなって、ついつい読みすすめてしまったのでした。
 映画はみていませんが、スェーデン初の喜劇作品として読むと、気持ちが軽くなります。
(2014年10月刊。1500円+税)

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