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子どもは、みんな問題児

カテゴリー:人間

                              (霧山昴)
著者  中川 季枝子 、 出版  新潮社
 絵本「ぐりとぐら」は、うちの子どもたちに大好評でしたし、私も大好きでしたので、何度も何度も読み聞かせました。子どもを膝の上に乗せて絵本を読んでいるときは、人生の至福のひとときだと思います。
 著者は、保育園で主任保母として働いていました。絵本も、その体験をふまえて生まれたのでした。それでも納得のいく絵本は、そんなにつくれなかったというのです。やっぱり、何事も簡単なことではないのですね・・・。
 子どもの時代というのは、大変なもの。実にきびしい。何をやるにも一生けん命なので、欲ばる子は、欲ばって欲ばって、欲ばる。本当に、いつも全力で生きている。そんな子どもたちをみていると、自分がもう一度、子どもになりたいと思わない。
 大人はウソをつけるし、いい加減なことも言えるし、ごまかすこともできる。なんて気楽なことか・・・。だから、子どもは偉いものだと、いつも感心している。
 実は、私も同感なのです。私は子ども時代には戻りたくありません。私が戻りたいと思う時代は、大学1年生と2年生の2年間だけです。不安でいっぱいでしたが、まだ将来を考えるゆとりが少しはあったからです・・・。3年生からは将来への不安が強くなり、戻りたくはありません。高校生よりも前にも戻りたくありません。
子どもは、お母さんが大好き。ナンバーワンは、お母さん。ナンバーツーはお父さん、スリーがおじいちゃんとおばあちゃん。保育者はナンバーフォー以下。
 男の子は、お母さん、べったり。保育園で子どもを注意するとき、「そんなことをしたら、お母さんが悲しむでしょう」というのが、一番効果がある。子どもにとって、自分の大好きな人を悲しませるわけにはいかない。
 遊びは、子どもの自治の世界なので、大人は無神経に踏み込んではいけない。しかし、子どもから決して目を離してはいけない。常に全神経を子どもに向ける。
保育園の魅力は、家庭では味わえない、もっと大がかりな遊び場があること、そして、知恵も体力も対等な同年齢の子どもがいること。
 子どもは人に関心をもつことが大切だ。子どもは、常に成長したがっている。まさに、全身これ成長願望のかたまりである。
 子育てはスリル満点で、だからこそ面白い。
 子どもをバカにしないこと、バカにされないこと。私は私、子どもは子ども。ひとりの個人として付き合うことも必要で、無理して子どもに合わせることはない。
 著者の「いやいやえん」も、私は大好きでした。子どもが大きくなって絵本を読む機会がなくなってしまったのが残念です。
(2015年4月刊。1000円+税)

わが盲想

カテゴリー:人間

                                (霧山昴)
著者  モハメド・オマル・アブティン 、 出版  ポプラ文庫
 アフリカはスーダンから19歳のときに日本へやって来た盲目の青年の哀しくも面白い奮闘記です。
 私の娘も、突然、弱視になって盲学校に在学中ですので、目が見えないことの不便さをしのびながら読みました。
 それにしても、底抜けの楽天性であるので、まるで漫談を読んでいるように気楽に読める本です。じめじめした暗さがのないのが救いです。
 著者は、今37歳。19歳の時に日本に来たので、もう20年近く日本にいるから、もちろん日本語はぺらぺらだ。それも、おやじギャグがうまい。
 本をつくるには、視覚障害者向けに、音声読み上げソフトがついたパソコンを使う。イヤホンをつけてキーボードを打つと、打った文字を機会が読み上げてくれる。漢字変換するにしても、「ごとう」と打って変換キーを押すと、「前後の後」、「藤の花のフジ」と機会が言うので、正しい漢字が読みあげられたときにエンターキーを押す。このように、すべて音声による作業である。
 著者が日本に来たのは1998年1月のこと。東京は雪景色だったから、寒さに震えてしまった。そして初めて食べた日本食はカレーライス。あっという間に三杯をたいらげた。
 スーダンでも、イスラムの世界ではどこでも、自分の裸を他人に見せてはいけない規則がある。だから、公衆浴場は困る。そうなんですか・・・。
 福井県で勉強を初め、こてこての福井弁になじんだようです。
 「スーダンって、どこにあるのですか?」
 「ヨルダンという国があるでしょ。その隣にヒルダンがあって、その真ん中にアサダンとスーダンがあるんです」
 これって生真面目な人が聞いたら、本気にしてしまいますよね。
 著者はスーダンの女性と結婚することが出来ました。その女性が示した条件は二つ。
 お酒を飲んでいませんか?
 お祈りをしていますか?
 スーダンでは、酒飲みは社会的信用は低い。実は、著者は日本に来て、お酒を飲んでいた時期があったのです。でも、お酒はやめていたので、飲んでいないと即答することができたのです。偉い!
 スーダンでは、結婚する前に、新郎と新婦の家族が、それぞれ相手の家族について調べる習慣がある。近所の評判とか、両親の職場での評判を聞いて、家族同士のつきあいができるかどうか判断するのだ。こうして、著者はたった1ヶ月前に電話で知りあった女性と結婚した。スーダンでは、あることだが、日本では口が裂けても話せない。
 スーダンの伝統的結婚儀礼では女性しか出席しない。それぞれ女性が50人ずつ集まった。新婦は新郎に向かって牛乳を口にふくむと、遠慮なく吹っかけた。
 『恋するソマリア』を書いた高野秀行氏が著者の友人とのことで、最後に二人の対談ものっています。
 お寿司が大好きな盲目のスーダン人です。こうやって人間の輪が広がっていくのって、いいですよね・・・。これこそ、まさに積極的な平和主義の実践だと思いました
(2015年2月刊。640円+税)

無人島に生きる七六人

カテゴリー:人間

                               (霧山昴)
著者  須川 邦彦 、 出版  新潮文庫
 明治32年4月から12月まで、太平洋の真只中で、日本人船員16人が遭難したあと無人島にたどり着いて全員が無事に日本に帰り着いたという実話です。
 明治の日本の男たちは、実にたくましいと驚嘆しました。
 私が何より感嘆したのは、16人の男たちが守り通した「四つのきまり」です。
 一つ、島で手にはいるもので、暮らしていく。
 二つ、出来ない相談を言わない。
 三つ、規律正しい生活をする。
 四つ、愉快な生活を心がける。
 無人島に生活するに当たっての誓いです。最後の四つがいいですね、笑いを忘れないようにしたのです。
 そして、勉強もしたというのですから、本当に偉い人たちです。
 船の運用術、航海術の授業。数学と作文の授業もある。習字は、砂の上に木を削った細い棒の筆で書く。石板の代わりにシャベルを使い、石筆にはウニの針を使う。漢字と英会話、英作文もある。
 一日の仕事がすんで、夕方になると総員の運動が始まる。相撲、綱引き、ぼう押し、水泳、島のまわりを駆け足でまわる。それから海のお風呂に入って、そのあと夕食。規則正しく、毎日これを繰り返す。月夜には、夜になってすもうをとる。そのために立派な土俵をつくった。
 夕食後には、唱歌。詩吟も流行した。
 雨の日は、みんなほがらかに、にこにこした。雨水は、飲用水になる。午後から茶話会をし、おやつを食べた。米のおかゆを雨水でつくって食べる。実に美味しい。
 余興の隠し芸を披露して、おなかの皮をよじって大笑いする。ウミガメ(正覚坊)の卵はうまい。そして、海藻を食べているから、肉も美味しい。
 無人島にいるとき、ぽかんと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが、一番いけないこと。
 16人は、順番に、まわりもちに決めた。見張り、炊事、たきぎ集め、まき割り、魚とり、ウミガメ(正覚坊)の牧場当番、塩づくり、宿舎掃除せいとん、万年灯、雑業・・・。
これらの仕事は、どれも自分たちが生き延びるためには、ぜひやらなければいけない仕事だ。みんな熱心に自分の仕事に励んだ。
 涙の出てくるほど、美しく、たくましい和装「ロビンソン・クルーソー」集団の話です。
 実話なので、感慨深いものがあります。ちょっと疲れ気味だと感じているあなたにご一読をおすすめします。私の生まれる直前、昭和23年6月10日の本が復刊したものです。
(2010年6月刊。430円+税)

孤児列車

カテゴリー:アメリカ

                               (霧山昴)
著者  クリスティナ・ベイカー・クライン 、 出版  作品社
 実話にもとづくアメリカの小説です。舞台は戦前のアメリカです。
 1854年から1929年まで、身寄りのない子ども、家のない子どもたちが、アメリカ東海岸の都市から中西部の農村へ続々と送られた。引き取り先を見つけるためだったが、現実には労働力として期待された。
 20万人をこえる子どもたちが列車で運ばれた。多くの子どもたちは、働き手として、きびしい環境に置かれ、虐待され、逃げ出していった。
 このような現実は、やがて闇に埋もれていった。それを2013年に掘り起こしたのが、この本であり、全米で180万部も売れた。
 戦前、1930年代のアメリカでは、常に1万人以上の子どもたちがニューヨーク州の路上で暮らしていた・・・。
 新しい家庭と町に温かく歓迎される子もいたが、殴られたり、虐待されたり、ののしられたり、無視される子もいた。
 子どもたちは、自分の文化的アイデンティティや生い立ちを忘れ去った。兄弟姉妹が引き裂かれるケースも多く、連絡をとりあうことも認められなかった。
 心も体も成熟していない都会の子どもが、農場のきつい仕事をこなすよう求められた。多くは、イタリア、ポーランド、アイルランドからの移民の子で、なまりが変だとからかわれた。英語がろくに話せない子もいた。
 新しい家庭でのしっとや競争が不和を生み、多くの子どもが自分はどこにも属していないという気持ちを抱くようになった、自分を求めてくれる人を探して、家から家へ転々とする子もいた。逃げ出した子は多かった。
 たくさんの写真が紹介されています。
 小説で、その辛い日々が再現されています。それにしても、累計20万人とは、大変な人数です。それが忘れられていたというのです・・・。ここにはアメリカン・ドリームは影も形もありません。
(2015年3月刊。2400円+税)

戦場

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  亀山 亮 、 出版  晶文社
 まだ30代の戦場カメラマンの撮った、危ない写真が盛りだくさんの写真集です。
 本当に勇気ある若者です(今や、でした・・・)。私の子どもが戦場カメラマンになりたいと言ったら、もちろん反対します。幸いにして、そんなことは言いませんでした。
 各地の戦争の実相を知りたいと思いますが、それを自分の子が死の危険を冒してまで戦場に出かけて撮ってくるなんて、ぞぞっとします。
 著者の行動力には脱帽です。とてもマネできません。著者は、なんと高校生のうちから三里塚の農家に泊まり込んで撮影していました。そして、専門学校に入り、そこからメキシコに渡るのです。
 中南米の紛争地帯に5年間もいました。まだ、20歳前後のことです。いやはや・・・。
 雑誌が写真を求めるのは、ネタとしての商品価値で、クオリティは二の次。
 要するに、自分が必死の思いで撮った写真が売れないし、それでは生活できないのです。
 そして、パレスチナに渡って取材中に、イスラエル国境警備隊のうったゴム弾によって左目を失明してしまうのでした。
 日本のメディアは、なんの保障もせずにフリーランスをイラクに行かせ、問題が起きると、即、切り捨てる。そうなんですよね。NHKが、その典型でしょう。
 アフリカの少年兵、そして精神病院に収容された人々の話と写真は、悲惨としか言いようがありません。それでも目をそむけてはいけないと思い、写真をじっと見つめていきました。
 本当に世界は戦争だらけなのです。そこへ、自民・公明の安倍政権は日本の自衛隊を送り込もうとしているのですから、大変なことです。戦争が隣り合わせになる社会にならないように、今、大きな声を一人ひとりが上げるべきではないでしょうか・・・。
 それにしても、もうあまり無茶はせず、元気でお過ごしくださいね。
(2015年2月刊。1800円+税)

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