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「サル学」の系譜

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  中村美知夫 、 出版  中公叢書
 アフリカでチンパンジー研究を日本人が初めて50年。1965年10月に始まり、今なお調査は継続されている。
 これって、とてもすごいことですよね。大変な苦労があったし、あると思いますが、関係者のご苦労に対して心から敬意を表します。
 そして、対象となるチンパンジーが今や絶滅するかもしれないというのです。アフリカの森がなくなり、自然が破壊され、また観光客が知らず知らずに人間の病気に感染させているそうです。本当に人間はもっと反省する必要がありますよね。
 チンパンジーは、ゴリラと違って、「政治をするサル」として、政治的駆け引きに長け、ときに殺し合いまでします。その点、本当に人間そっくりなのです。
 そのため、チンパンジーを観察していた長谷川眞理子先生は、チンパンジーが嫌いになってしまったとのこと。
 日本サル学には独自の方法論がある。餌づけ、個体識別、歴史的方法そして共感法である。個体識別は、たとえば100頭のチンパンジーがいたとして、そのすべてを見分けて、名前をつけ、親子関係も特定していくのです。
 ええっ、チンパンジーってどれも似たような顔をしているから、見分けられるはずがないでしょ。そう思うのは素人で、プロは微妙な顔の違いを素早く見分けて、ノートに記入していくのです。すごい名人芸です。
共感法こそ、もっとも日本的なユニークさをもつ。サルの生活にとけこみ、一体化し、相互に通じあう感情的チャンネルをもつことによって、かれらの生活を実感的に感知する。
 チンパンジーのすぐ身近にまで接近しても逃げられないという関係を確立するのです。これって、すごく根気のいる仕事もありますよね・・・。
 ゴリラは、より草食の傾向が強く、チンパンジーは果実食の傾向が強い。
 伊谷教授は、森の中を1日40キロ歩いた。食料を担いでのサファリでは1日10キロも歩けたらいいほうなのに・・・。1日40キロだなんて、まさしく超人的ですね。
 チンパンジーは、サルと違って雌が集団を抜け出て、他の集団へ移っていく。それも発情が可能な雌だけ。性的に受け入れ可能な状態であることが集団を動く際の条件となる。
 人間と同じく、チンパンジーでも年寄りは保守的だ。年配の雌ほど臆病な傾向が強い。
 チンパンジーは3歳までに母親が死ぬと生き残ることができない。そして、離乳後であっても、母親を失くすと、生存上不利になることが調査して判明した。
 チンパンジーは、50歳以上まで生きる。
 「サル学」とありますが、ニホンザルではなくて、アフリカにおける日本人によるチンパンジー研究の歴史をコンパクトにまとめた本です。
 その苦労をしのびつつ、一気に読了しました。
(2015年9月刊。1900円+税)

マルトク・特別協力者

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者  竹内 明 、 出版  講談社
 久しぶりに警察小説を読みました。
 警備公安警察が活躍する話なのですが、首相官邸の思惑とは違ったところで行動するハグレ警察官が登場したりして、読ませます。
 ネタバラシになるようなことは紹介できませんので、専門用語の解説をとりあげてみます。
 マルトクとは、特別協力者のこと。公安組織が獲得し、情報提供者として運用する、外国の諜報員や犯罪組織の構成員のこと。
 リエゾンとは、外遊中の政治家の移動、買い物、食事までのロジステックを組む、いわば御用聞き。もてなす相手によって、大変な気苦労を強いられる。一方で、気の利いた立ち回りができれば、政治家とのパイプができる。若手外交官にとっては貴重な仕事だ。そうやって人脈がつくられていくのです・・・。
 警視庁では、人事異動の直後に新しい上司が部下の自宅を訪れる「家庭訪問」という前近代的な制度がある。配偶者との不和はないか、子どもの非行はないか、怪しげな人物と同居していないか、そういった素行を確認する。
 尾行するときの対象者を客と呼ぶ。客に気づかれないために、尾行班のうち一人だけを客の直近に置き、頻繁に入れて替えていく。これが先頭引きという尾行陣形だ。
 秘匿尾行は狩猟に似ている。背後につける者は客の視線や息づかい、筋肉の緊張から目的地を読みながら追っていく。
訓練された諜報員は尾行者を切るための点検を行う。電車の「飛び降り」や「飛び乗り」逃げ場のない路地で180度方向転換をする「佇立反転」。中には尾行者を捕まえ、逆問(逆尋問)する猛者(もさ)もいる。
 公安総務課機材班。公安部の秘撮・秘聴の機材には、世間に公開できない非合法のものも存在する。こうした特殊機材を一元管理し、開発、設置、運用まで手掛けるのが機材班だ。
 著者はTBSに入社して海外特派員やテレビのキャスターなどで働き、公安警察への取材を続けているとのことです。
 この本を読むと、警察っていったい、何をするところなのか、常識が反転することになると思います。ご一読ください。
(2015年10月刊。1500円+税)

秀吉研究の最前線

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者  日本史史料研究会 、 出版  洋泉社 歴史新書Y
 秀吉についての最新の研究成果がコンパクトにまとめられた新書です。
 五大老・五奉行という呼称は、秀吉の当時は使われておらず、江戸時代に入ってから一般化した。五大老とは、江戸幕府の大老にちなんでつけられたものなので、江戸時代の呼び方。五奉行は、あるときは「年寄」ないし「奉行」と呼ばれていた。
 五大老の日常的かつ本来の職務は領地給与であった。五大老は、あくまで秀吉の代行者にすぎなかった。五奉行の職務は、豊臣家直轄領の統括であった。
そして、五大老が上位で、五奉行が下位であったというのは、安易すぎる結論であって、見直されてしかるべきもの。
 秀吉は、武家出身者として初めて従一位関白に任官した。秀吉は、死ぬまで太政大臣の地位に留まっていた。
秀吉の実父は誰なのか分っていない。実母はなか(のちの大政所)。
刀狩以降も、民衆は丸腰ではなかった。江戸時代の百姓は領主に数倍する鉄砲をもっていた。ただし、百姓から帯刀権が剥奪された。
 清須会議は有名だが、会議というのは明治になって学者が名づけたもの。当時は、「談合」と呼んでいた。このとき、信雄と信孝が争ったのは織田家の家督ではなく、「御名代」であった。
 秀吉は名護屋城における最重要拠点を家康に任せていた。つまり、秀吉は家康を警戒していなかった。
 40代、50代の学者による研究会がまとめていますので、信頼性があります。
(2015年8月刊。950円+税)

移民たちの「満州」

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  二松啓紀 、 出版  平凡社新書
  アベ首相のいう「美しい国「」は戦前の満州をかかえた日本をさしているようです。
  では、その満州に夢を持って渡っていった日本人が、結局、どんな悲惨な目にあったのかを今の私たちが思い出すのも意味があることでしょう。
  京都府は長野県に後れをとったが、10ヶ年で20万人を満州へ移住させるという壮大な目標をかかげた。しかし、幸か不幸か(幸に決まっていますが・・・)ほとんど実現していない。
  1933年3月、第一次の武装移民425人が満州に入植した。大阪市の2倍、横浜市の広さの土地450平方キロが日本人の土地になった。しかし、武装集団から襲撃され、屯懇病(ホームシック)で、まもなく半数ほどが退団した。ここは満州開拓発祥の地と喧伝されたが、その実態は失敗の連続だった。
  1936年当時の日本の人口は7000万人。満州移民500万人という計画は、人口の7%を移すという、とんでもない計画だった。
  日中戦争がはじまり、移民消極論が再び台頭し、最終的に青少年義勇軍は3万人あまりで、6割の達成率だった。ほとんどの道府県で割り当てを下まわり、達成したのは、石川、佐賀、大分の三県のみ。九州から佐賀、大分の二県があるのは興味深いところです。
  同じ海外移民でも、南米ブラジルは遠いけれど、匪賊は出ない。満州は近いけれど匪賊が出る。
国策とか天皇を錦の御旗にかかげたとき、ごく普通の人々が想像力を失い、思考停止に陥り、良識なき選択を繰り返していった。
  満州開拓は、無人の地に入植したのではない。現地の中国人を追いだして日本人の土地にしたのである。
  大分県日田市から行った大鶴開拓団は、一人の残留者もなく引き上げることができた。すなわち在籍者220人の8割の176人が戦後の日本に生還した。その主たる理由は、現地の中国人と良好な関係を築いた点にあった。だから戦後に、避難するのに現地の人々に協力してもらったという。
  誰かのものを奪えば、あとで生命か何かを奪われることになるのです。海外植民地の悲劇を繰り返すのはゴメンですよね。
(2015年7月刊。840円+税)

イスラーム国

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  アブトルバーリ・アトワーン 、 出版  集英社インターナショナル
 「イスラーム国」は、今や単なるテロリスト集団ではなくなってしまいました。
  日本人が人質となり殺害されてしまいましたが、今後もありうると本書は日本人に警告しています。
遠く離れた日本にまで、イスラーム国の脅威が及ぶことはないと楽観するのは禁物だ。イスラーム国は、世界でもっとも大きい脅威の一つであり、まったく新しいタイプの脅威である。その理由は、三つある。一つは、イスラーム国が経済的に自立した組織であること。モスルのイラク中央銀行から615億円(5億USドル)を強奪し、石油販売で1日246億円の収入があり、イラクとシリアの半分を占める支配地域の住民1000万人から税金を徴収している。
  二つ目は、兵器を自給していること。2700をこえる戦車、装甲車、軍用車両を所有している。三つには、支配地域を統治する能力を有していること。
  「イスラーム国」は今や「国家」に近い組織になっている。アルカーイダとは異なるイデオロギーや形成過程と目標をもつ組織である。
  「イスラーム国」が他ジハード組織と異なるのは、自らのイデオロギーにもとづき社会を根底から変革すること、変革のためには残忍な行為もいとわず、むしろ敢行すること、西欧による植民地支配を区別して考えないこと、にある。
  イラク旧政権の将校たちが、「イスラーム国」の中枢部を担っている。
  「イスラーム国」の戦闘員は12万人に達し、さらに増え続けている。
  「イスラーム国」は「電子軍」と呼ばれる、高度な技術をもったサイバー集団を有している。イスラーム国は、「身代金ビジネス」をすすめ、2014年の1年間に24億円を上回るお金を手にした。
「イスラーム国」による過剰な暴力は、意図的かつ計画的なものである。残虐行為は、脅迫であると同時に、抑止ともなる。人々への脅迫は、それ自体が武器である。
  イスラーム国の戦闘員10万人のうちの30%以上が外国人である。外国人戦闘員の出身国は80ヶ国にものぼる。ヨーロッパ人のなかではフランスが多く6%、次いでイギリス人の4.5%を占めている。
  「イスラーム国」がアルカーイダなどの組織と異なるのは、広報宣伝をインターネットのみならず、街頭でも堂々とおこなうこと。人生経験に乏しい若者にとって、その宣伝は、とても魅力的なものにうつった。
  「イスラーム国」はインターネットを通じた広報宣伝に加え、モスクの行事やムスリムの移民コミュニティ内のグループを通じてリクルートを行ない、ラディカルな思想を広めている。
  「イスラーム国」のメディアは、これまでに例を見ない高いクオリティを斬新さをもっていて、欧米諸国のメディアを圧倒した。この心理戦は、ときに実戦よりも重要な意味をもつ。
  「イスラーム国」の実体を知りたいという方は、強く一読をおすすめします。
(2015年8月刊。2400円+税)

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