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会計士は見た

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  前川 修満 、 出版  文芸春秋
ソニー、東芝、スカイマークなど、世にも名高い超大企業が次々に大きく揺らいでいます。なぜ、そうなったのか、公認会計士が公表された企業決算書を読んで鋭く指摘しています。大塚家具では創業者の父親は従業員を大切にしてきたことがよく分りました。パートは正社員数の1割未満しかいない。ほとんど正社員で運営されている。たとえ実績が悪化しても、従業員を解雇せずに切り抜けようとしてきた。
 「お客様への対応は、ちゃんと教育を受けた正社員にのみ行わせる」
 「縁あって入社した従業員は、簡単にクビにはしない」
 大塚家具は無借金経営できた。誠実かつ堅実な経営をしてきた。企業者である父親は、従業員と家具をこよなく愛する社長だった。娘との争いが続いていましたが、これからどうなるのでしょうか、、、。
 ヤマダ電機に対抗していたコジマは、大塚家具と同じく、ほとんどの従業員が正社員だった。ヤマダ電機は、成長期にパートを増やしたが、同時に正社員も増やした。それに対して、コジマは、正社員を減らしてパートを増やしたため、従業員の士気が低下してしまった。
ケーズデンキは、「がんばらない経営」をモットーにしている。ポイント制をとらず、社員に売上ノルマを課さない。社員に無理はさせない。あえて一等地にも出店しない。
ケーズデンキの社員は平均年齢32歳、平均勤務年数6.5年、平均給与は426万円。そして、ヤマダ電機は、29歳、4.8年、370万円。これに対してコジマは、28歳5.6年、383万円。
結局、従業員を切り捨てる企業よりも、大切にする社会のほうが、長い目で見て、大きく伸びるということなんですね・・・。
目先の株主への高配当を最優先するような企業だったら、つぶれても仕方のないことだと改めて思いました。
(2015年12月刊。1200円+税)

ブラックホール・膨張宇宙・重力波

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者  真貝寿明 、 出版  光文社新書
 光陰、矢の如しです。一年の過ぎるのが本当に早いです。人生の折り返し点をとっくに過ぎている今、この先、地球と宇宙そして人類がどうなっていくのか、ちっぽけな存在である私の死後、いったい意識が消失したあと、何が待ち受けているのか・・・。ぜひ、知りたいところです。
 ブラックホールとは、光さえも脱出することができない重い天体。だったら、ブラックホールなんか私たちは見えないはず。ところがブラックホールは観測されている。なぜ?
 実は、ブラックホールそのものが見えているわけではない。それでも、ブラックホールの存在が分るのは、ブラックホールに吸い込まれているガスの分子同士がぶつかりあってX線などの電磁波を強力に放射するから。ガスが「明るく光る」ため、ブラックホールに吸い込まれていく姿が見える。だから、ブラックホールは、天文学的には「明るい天体」とも言える。ええっ、そうなんだ・・・。
 銀河系の中心部分にも、超巨大なブラックホールが存在している。太陽の実に300万倍以上の質量と見積もられている。
 ここで、クエスチョン。鏡を手にもって自分の顔を見ている人が、光速で動いたとすると、鏡に顔は映るのか?
 その答えは、鏡に顔は映る。なぜなら、光速で人間が動いていたとしても、光はその人から見て光速で動くから。
 なんとなく、分ったようで分らない話です。
 時間の進み方は、観測する人によって変わる。ロケットの速度が速ければ速いほど、地球の1秒に比べてロケットの1秒は遅くなる。だから未来に行くタイムマシンは可能だ。光速に近いロケットで宇宙のどこかに飛び、そして戻ってくればよい。浦島太郎の話は竜宮城が光速近いスピードで移動していたとすれば、ありうる。ただし、過去に戻るタイムマシンは不可能。
現時点での宇宙像は次のとおり。宇宙は何らかのメカニズムによって誕生し、インフレーションと呼ばれる急激な真空の膨張を起こした。インフレーションは、当時の地平線スケールをはるかに超える大きさまで引き延ばし、現在我々が観測している範囲を超えてほぼ一様な宇宙を実現した。インフレーションは、膨張領域同士が衝突する現像で終了し、高温高密度の「火の玉」となり、ビックバン宇宙モデルに引き継がれる。火の玉は、宇宙の膨張にしたがって温度を下げ、宇宙全体の大規模構造ができていった。宇宙は現在なお加速膨張を続けている。
 重力波とは、時空に生じた「ゆがみ」が波となって伝わる現象である。これまで地球上で重力波をとらえたことはない。重力波は、とてつもなく弱い波だから。
 そこで、日本は岐阜県神岡の山中に長さ3キロのトンネルを2本掘って、大型低温重力波望遠鏡「カグラ」を建設中である。人工的に重力波を作り出すことはできない。宇宙でつくられる重力波を観測するしかない。
 連星パルサーの発見により、重力波の存在が間接的にせよ確かめられた。
 重力波の観測が現実すると、中性子星の軌道パラメーターが分るだけでなく、これまで不明だった原子核の状態方程式が決まり、ブラックホールが形成される直接の証拠を得ることになる。また、銀河中心のブラックホールの形成過程や初期宇宙の解明、あるいは重力理論の検証にもつながっていく。
 宇宙に涯があるといいます。では、その外側は、いったいどうなっているのでしょうか・・・。暗黒かつ真空の世界なのでしょうか?
宇宙の話ほど、ロマンをかきたて、日頃のこせこせした悩みを忘れさせるものはありません。
(2015年9月刊。900円+税)

アジアのなかの戦国大名

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者  鹿毛敏夫 、 出版  吉川弘文館
  戦国時代の大名が海外貿易に積極だったことがよく分かる本です。
  周防(すおう)山口に本拠を置く大内氏は、15世紀半ば過ぎ、それまでの対朝鮮交易に主体的に乗り出していった。大内氏は、16世紀半ばの天文7年と天文16年の2度とも、遣明船経営を独占した。
  天文7年(1538年)の遣明船は、大内船三艘で編成されていたが、各船には百数十人が乗り込み、総勢400人をこえる船団だった。
肥後の戦国大名である相良(さがら)氏も遣明船を派遣した。相良晴広は、天文23年(1554年)に、「市木丸」を明に派遣した。このとき、日本からは、銀を持っていった。豊後(ぶんご)の大友氏も遣明船を派遣した。
  これまでの通説では、大内氏が滅亡した天文20年(1551年)をもって勘合貿易が断絶されたとされているが、実は、このように相良、大友、大内ら西日本の地域大名によって遣明船は派遣され続けていた。
  ただし、それは明(中国)側にとっては、密貿易(倭冠船)そのものでもあった。
  すなわち、16世紀に日本の地域大名が派遣していた遣明船は、明政府から日本国王使船として認められたら正式な朝貢貿易船として振る舞い、認められなければ密貿易船として南方海域で私貿易活動を行うというように、裏表を使い分ける二面性を有していた。
  15世紀の遣明船が日本から中国(明)へ運んだ最大の輸出品は硫黄だった。木造帆船に軽自動車54台分の重さの硫黄を積んで東シナ海を横断した。
  宋代の中国では、火薬を兵器として利用することが拡大し、黒色火薬の原料としての硫黄の需要が急増した。11世紀の宋政府は、日本から大量の硫黄を買い付け、軍需物資として硫黄を国家的に管理した。このころの日本では硫黄が、鬼界島(硫黄島)や大分で掘られていた。
  ゴールド(金)ラッシュ、シルバー(銀)ラッシュと同じように、サルファ―(硫黄)ラッシュが出現していた。15世紀から17世紀までのこと。
  カンボジアやシャム(タイ)とも九州の諸大名は取引をしていた。カンボジア国王は、大友氏へ返礼として象を送ろうとしたようです。
  西日本で多くのキリシタン大名が生まれたのも、これらと関係がある。戦国大名で最初に受洗したのは肥前の大村純忠。その後、九州では有馬氏や大友氏、中・四国では宇喜多氏や一条氏、幾内では高山氏。このように、西日本で多くキリシタン大名が生まれている。
 戦国時代の日本の実情について知らないことがたくさんありました。
(2015年9月刊。1700円+税)

あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  津田 久資 、 出版  ダイヤモンド社
 灘高そして東大法学部を卒業した著者は東大卒よりお笑い芸人のほうがすごいと強調しています。なぜ、どこが、すごいのか・・・。
テレビに出ているお笑い芸人の大半は、かなり優れた思考力を持っている。彼らは、深く考える習慣をわがものとしているので、強い。
 アイデアの質の高さは、アイデアの量が大きい。つまり、一流と言われる人ほど、発想量が多い。トップクラスのコピーライターは、100本のコピーを仕上げてもってくる。三流とか四流のコピーライターは、100本持ってくることはなく、あれこれ弁解する。
優れたアイデアを出せる人は、自分の直観力に信頼を置いていない。一流のクリエーターほど、愚直に考えて発想の数をギリギリ増やしている。
 発想することの本質は、思い出すこと。発想すると思い出すの両者は、頭の中から何かを引き出す点で共通している。
 「思い出す」のは、頭の中の情報(知識)を顕在化させること。「発想する」とは、頭の中に潜在的に眠っているアイデアを顕在化させること。
 ひとが考えているかどうかを決めるのは、その人が書いているかどうかである。アイデアを引き出すとは、アイデアを書き出すこと。
私も絶えず、頭の中に浮かんだことをメモに文字化するようにしています。車を運転中に、ふとひらめくことがあります。そんなときには、安全に心がけながらもメモを素早くとります。文字にしないと、すぐに忘れてしまうからです。
 頭の中に、いくらいいアイデアがあっても、それが文字にならない限り、どうしようもない。
 頭の中の情報は「絶対量」を増やすよりも、多様性(幅)を重視すべき。
 頭の中の情報を「知識」で終わらせず、「知恵」へと深めるべき。
 知恵とは、成り立ちや、理由までふくめて理解された知識のこと。知恵に転化された知識は、ほかの知識とより結びつきやすい。メモをとったら、なるべく早く文章にしておくこと。これが大切。
 このあたりは、まったく同感です。こまめにメモをとり、文章化していくのです。私が日頃実践している手法が高く評価されていて、とてもうれしく思いました。
(2015年11月刊。1400円+税)

ムシェ、小さな英雄の物語

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  キルメン・ウリベ 、 出版  白水社
 1937年、スペインのバスクから2万人の子どもたちが海路、フランス、ソ連、イギリスそしてベルギーへ旅だった。スペイン内戦からの疎開だ。この2万人のバスクの疎開児童は、その後、どうなったのか・・・。
 この本は、バスクの少女・カルメンチュのベルギーにおける里親となったロベール・ムシェの人生を追跡しています。
 ロベールは、より良い世界のためにすべてを捧げた。当時は、そういう人間が必要とされた。戦争のなかで、もっとも人格に優れた人たち、心優しい人たちが命を落とした。
 ところが、英雄であることは、裏の、陰の側面をもっている。それは、後に残された者の苦しみ。夫と父親を亡くした苦しみを、生き残った人々に残した。そして、その後の社会の担い手になるのは、その生き残った人々なのである。
 ロベールはレジスタンス活動をしていくなかで、ついにナチスに捕まり強制収容所に入れられた。そして、強制収容所のなかで、ロベールは若い弁護士と知りあった。収容所内でもレジスタンス活動はあり、政治犯たちは囚人たちを目立たないようにして保護していた。
ロベールの収容所での役割は、希望を広めること。この地獄も終わりが近いことを伝えることだった。
ナチスの目的は、囚人たちに死の脅威のほかには何も考えられなくなるように仕向けること、苦悶と屈辱を味わわせることだった。それに対して、レジスタンス運動のグループは、言葉を用いて、口伝えで情報を広め、士気を高め、希望をよみがえらせることでナチスと闘った。言葉こそがささやかな武器のなかで、もっとも強力なものだった。この秘密裡の活動を通じて、ロベールは生き返った。人々に勇気を与える役目をこなしながら、愛する妻子のもとに帰れると知ったことで、生きる喜びがふたたび湧きあがってきた。
 ロベールには、人生で何より大切なことが二つあった。それは、愛と正義。この二つの目標を持つことで、ロベールはその長く厳しい冬を耐え抜いた。
 著者は1970年にバスクで生まれています。親の世代に何がバスクで起きたのかを調べて小説風の読み物に仕立てたのです。
 バスクを旅だった2万人の子どもたちの多くが再びバスクに戻ることはなかったようです。
 有名なゲルニカの虐殺が起きたころのスペイン内戦にからんだ話でした。まったく知らなかった話です。
(2015年10月刊。2300円+税)
今年は国際的にも、日本でも大変な年でした。フランス大好きな私にとって、パリの同時多発テロはショックでした。空爆でISを「退治」できるはずがありません。暴力の連鎖がひどくなるばかりです。アベ首相の安保法によって自衛隊が海外へ戦争しに出かけることが可能となり、日本の平和が危なくなってしまいました。安保法を運用させない、その廃止を目ざして新年もがんばります。
今年よんだ本は540冊になりました。そして、40年前の修習生活をようやく小説化することができました。春までの出版を目ざしています。私がこの本で訴えたいことは、裁判官にもっと勇気をもってもらいたいということです。夫婦別姓の最高裁判決は自民党への気がねのしすぎです。福井地裁の原発容認は電力会社に屈服してしまっています。残念です。
新年もどうぞ、ご愛読ください。

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