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中世の騎士の日常生活

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マイケル・プレストウィッチ 、 出版 原書房
 リアルな騎士の生活を紹介した本です。興味深く読み通しました。
中世のヨーロッパには紛争が絶えなかった。なので騎士は苦労せずに雇い主を見つけられた。フランスとイングランドの争いは1337年に始まり100年間も続いた(百年戦争)。
 フランス側からみると、敵のイングランド王家はフランス王に謀反を起こしている臣下である。イギリス側からすると、フランス王家の血を引くイングランド王がフランスを自分のものだと考えるのは、しごく当然のこと。だから、国家間の紛争というより、フランスの内戦のようなもの。1346年のクレシー、1356年のポワティエそして1415年のアジャンクールの戦いでの三度のイングランドの大勝利によって、区切りがついた。
剣術は万人向けの武術ではない。エリート兵だけの技術である。
 騎士に読み書きは必須である。点呼名簿を保管し、令状に目を通して、それに従い、合意や契約を結ぶ必要がある。
 騎士になるには、①体力があり、②馬を扱え、③槍と剣をうまく使え、④宮廷作法を身につけていることが必要。
 イングランドでは、年間40ポンド以上の価値のある土地を所有している者は騎士になれる。つまり、身分が低い、あるいは怪しげな出自をもつ者でも騎士になるのは、フランスよりも簡単。
叙任の儀の前には沐浴(もくよく)し、しばらく湯船につかる。日頃は風呂に入ることはあまりなくても、罪を清めるために沐浴は必要。
 ひとたび騎士になったら、旗(バナレット)騎士へと出世する道が開かれる。
 フランスのブシコー元帥、ベルトラン・デュ・ゲウラン総司令官の2人ともそれぞれの法廷をもっている。元帥は、軍事にかかれる幅広い分野の司法権がある。
 1306年、のちのエドワード2世が王太子に叙任されたときの祝宴には、うなぎ5000匹、タラ287匹、カワカマス136匹、サケ102匹が供された。肉はどうしたのでしょうか…。
 クロスボウ(石弓)は、恐ろしいほど重くて太い矢を放つ。イングランド軍は長弓を使う。サラセントは、異なるタイプの短い弓を使う。
 甲冑(かっちゅう)の総重量は22~27キロくらい。暑いときに、身につけると窒息する恐れがある。甲冑は完全に身を守ってくれるものではない。1337年、ウィリアムは1本の矢が三枚重ねの鎧下と三層の惟子を貫通して死んだ。
 テンプル騎士団は、14世紀初めに解体された。たくさんの土地を所有し、一大金融機関になっていたので、フランス王フィリップ4世がその資源に目をつけた。テンプル騎士団員54人は、1310年5月12日、異教徒の罪で火あぶりにされた。
 騎士が特定の領主に仕えると決めたら文書で契約を交わしておくのが最善。2通つくって、各自1通ずつもっておく。
 1346年、エドワード3世は、兵役に就くことを条件に1800人の犯罪者に恩赦を与えた。
行軍の速度は、1日8~10キロほど。ところが、1355年に突撃した黒太子は1日に40キロも進んだ。
略奪と横領は戦争につきもの。
1358年のフランス農民一揆のとき、農民たちが騎士を火あぶりにして、その肉片を妻子に無理やり食べさせた。騎士に同情する必要なんてないと考えたのだ。
 十字軍といっても、ほかのキリスト教徒に対する十字軍もあった。騎士には十字軍に参加する義務はない。
敵を捕虜にしたら、身代金を要求できる。アジャンクールの戦いで、フランス軍の反撃を恐れたヘンリー5世は捕虜の殺害を命じた。これは多額の身代金を得るチャンスを失うという点で、財政的には愚かな判断だった。捕虜や身代金は売買もできた。
 「実践非公式マニュアル」というものですから、かなり騎士の実情を明らかにしているように読みながら思いました。
(2024年4月刊。2500円+税)

清代知識人が語る官僚人生

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 山本 英史 、 出版 東方書店
 中国には「陞官発財(しょうかんはつざい)」という言葉がある。役人になって金を儲けることを意味する。
 警察を含めて官庁に裏金があり、大問題になったことがあります。ところが、自民党の国会議員が何千万円、いえ何億円もの裏金を手にしていたことが暴露されても、それを恥じて辞めた議員はいませんし、自民党の総裁選の9人の候補者は全員が裏金問題は済んだことと知らん顔をしています。まさしく無恥厚顔の党です。こんな政党に票を入れてはいけません。そして、投票所に行かないのは、自民党に投票するのと同じです。
子どもは、勉強を始めると、儒教の基本教典を丸暗記させられる。
 童試という試験は三段階。県試、府試、院試。県試の最初の試験は、夜明けに試験場に入り、日が暮れる前に答案を提出する、丸一日の試験。
 試験の不正もあった。カンニングペーパーの持ち込み。そのため、世界最小の印刷物が生まれた。替え玉受験もあった。本人確認が難しい時代なので、案外簡単だった可能性がある。童試に合格すると、生員になれる。庶民と違った扱いを受ける。
 清朝は中国支配のため、科挙を復活させた。試験本番は2泊3日、独房のような、窓も何もない小さな部屋にこもって答案を作成する。この2泊3日を3度も繰り返すので、6泊9日を過ごすことになる。ほとんどの受験生が徹夜の状態。そして、丸々3日間、試験官以外は誰とも話してはいけなかった。
 科挙を受験するのは14万人ほどで、そのうち全国で1400人前後の挙人が誕生した。会試に合格すると、1ヶ月後に殿試がある。そして、最優秀者は「状元」という称号が与えられた。清朝268年間に、状元は114人が誕生した。
中国の知識人は、身なりを整えた者が酒に酔い潰れている姿を見るのを昔も今も嫌がる。
 中国の県は、現代日本の感覚では「市」に近い。役所の置かれた場所は県城と呼ばれ、城壁で囲まれた町の中心にある。知県は、地元を直接に統治するので、地方官とも呼ばれた。知県の二大業務は、銭殻と刑名。銭殻とは、住民税を中心とする財務行政。刑名とは、裁判を中心に紛争を解決し、治安を維持する司法行政のこと。
 知県は、硬軟両方の措置を講じて租税を確保しなければならない。思うように徴税できない知県の責任は重大で、厳しい処分が待っている。
 裁判のときは、入れ知恵し、訴訟をそそのかす訟師(しょうし)という生員崩れの専門家が背後にいることが多い。裁定(判決)を下すのが、月に40件、年に300件くらいあった。知県の午後は、訴訟の審理に当てられる。知県の俸禄(給料)は70万円ほど。
 中国では、伝統的に官僚の給料は著しく低い額に抑えられていた。
 知県は実質的な収入が莫大なものになった。年に2~3万両の給料をもらえた。官僚の世界での上司対処のコツは、敬意と忠謹にあると考えている。
 官僚は全員、3年ごとに勤務評定を受けた。不謹(不真面目)、罷軟無為(無気力)、浮躁(軽率)力不足、年老、有疾の6ランクがある。清朝の官僚には定年退職の規定がなかった。
 清朝時代の官僚の実際を知ることのできる本でした。
(2024年4月刊。2400円+税)

農はいのちをつなぐ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 宇根 豊 、 出版 岩波ジュニア新書
 庭に植えたカボチャは花こそたくさん咲いたのに、ひとつも実がなりませんでした。なぜ、でしょうか…。残念です。来年はもう少し研究して植えつけ、育てるつもりです。
サツマイモのほうは、地上には勢いよく葉が繁っていますが、肝心の地中部分はどうでしょうか…。今月末から11月にかけて掘り起こすつもりです。実は、これまで何回もチャレンジしましたが、毎回、うまくいきませんでした。野菜育ての本を立ち読みすると、ツルの先端が少しばかり上向きになっているのが良いのだそうです。そこまでの目配りはしていませんでした。果たして、どうなることやら…。
 もう一つ、アスパラガスを昨年、植え替えました。今のところ、あまり調子良くはありません。来年の春に、太い芽を次々に出してくれたら、うれしいのですが…。
 「百姓」という言葉は、「日本書紀」に登場しており、決して差別語ではない。明治以降の歴史教育が差別を助長した。今では「百姓」という言葉のイメージは、明るさを取り戻している。そうなんですよね。また、士農工商も、以前と違って、格差を意味していないそうです。
稲株のまわりにはオタマジャクシが35匹いる。オタマジャクシは、10アール(1千平方メートル)あたり20万匹が生息する。しかし、カエルになって翌年また会えるのは1千匹。残りの19万9000匹は、いったい、どうなったのか…。きっと、その多くは食べられたのだろう。
赤トンボは、毎年、東南アジアから飛んでくる。海の上を20日も飛ぶことになる。
花粉はミツバチの幼虫の餌食になる。
 稲穂は刈り入れる直前、交雑したがっている。
江戸時代の百姓は80%、明治時代には64%、大正時代には57%、1960年には37%だった。ところが、1990年に14%、2020年には、わずか3.8%。
ごはん1杯は、米粒3000~4000粒、つまり稲3株となっている。
野の花が咲き乱れるには、適度な草刈りが必要。
食べるということは、「いのち」を奪いながら、「いのち」を引きつぐこと。すごい行為だ。
 農業の営みを私たちはもっと大切にしなければいけませんよね。自給率から3割のまま、大軍拡して、ミサイルをどんどんアメリカから買い入れても、日本人が生きのびることができるはずもありません。
(2023年11月刊。990円)

西南諸島を自衛隊ミサイル基地化

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 土岐 直彦 、 出版 かもがわ出版
 沖縄と西南諸島の島々で自衛隊によるミサイル基地化が急速に進んでいます。
 台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄やミサイル要塞の島々は真っ先に標的になる。「ミサイル戦争」下、島の住民が逃げ惑う惨状がやってくる。
有事の際には米軍と自衛隊とが「統合軍」を形成する。もちろん自衛隊は、米軍の指揮下に置かれる、「目下の軍隊」である。いま、日米の司令部統合体制は事実上、できあがっている。
 自衛隊は平時から米艦を防護するし、基地は共同で使用し、訓練に使う。物品・役務も提供させられる。
理不尽のきわみは米兵器を「爆買い」させられること。それも米海兵隊が買わなくなった古い型の水陸両用車(1両8億円)を52両も買うなど、米軍にとって不要になった兵器をアメリカの軍需産業を救済するために買わされる。これが日本の「軍事力強化」の内情というのですから、思わず涙が出てくるほど情けない話です。
 馬毛島(まげしま)の基地建設にあたって、反対派の行動を監視するため、漁師を4時間5万円で雇っている。これは、月に100万円もの収入になる。こうやって札束で反対派を黙らせてしまうのです。ひどいものです。
 宮古島駐屯地の造成工事が始まったのは2017年10月30日。住民への説明会は11月19日に開かれ、翌日が起工式。説明会の開催は単なるアリバイづくりのため。そして、「保管庫」ということだったのに、実は「弾薬庫」で、中距離多目的ミサイルや追撃砲、弾薬を置いておく弾薬庫だった。この弾薬庫は、民家から、250メートルしか離れていない。また、この弾薬庫にはまったく逃げ場がない。
 西南諸島の住民を台湾有事の際には九州へ避難させる計画だそうです。冗談なんか言ってほしくありません。いったい九州のどこに島の住民10万人以上を受け入れる場所があるのですか。
 また、船や飛行機で運ぶそうですが、ミサイル攻撃を受けているなかで、そんなことしたら、まさに対馬丸の悲劇の再現ではありませんか。
 軍事には軍事で対抗する、なんて古い発想をきっぱり止めましょう。平和は軍事力では決して得られないものなんです。目を覚ましましょう。
(2022年4月刊。1600円+税)

「帰れ」ではなく「ともに」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 師岡 康子 ・ 崔 江以子 ・ 神原元 ほか 、 出版 大月書店
 川崎市は、人口155万人の大都市です。京浜工業地帯の工場群のすぐ近くに「桜本(さくらもと)」があります。東日本有数の在日コリアン集住地区になっています。
大学に入ってすぐ、高校の先輩に誘われて私は川崎セツルメントというサークルに入りました。そして、セツルメントなるものが何なのか、何をするのかまったく知らない状況で、現地に出向きました。そこが桜本だったのです。
桜本で川崎セツルは子ども会活動を展開していました。そして、そこに学生が下宿していたのです。いかにも安そうな古びた木造アパートの2階に先輩セツラーの部屋があり、学生が5人ほど膝を詰めて話を聞きました。なにしろセツルメントに入ったばかりで、桜本という下町そのものの町並みも珍しくて、今もって忘れようがありません。
今、桜本の子どもたちが通う市立さくら小学校では、毎年1回、キムチ漬けの体験教室が開かれる。6年生になると参加できる。お楽しみの授業。6年生70人分の白菜を3日前から塩漬けにして、キムチを生徒たちがハルモニたちと一緒につくっていく。
 近くに、1988年に開設された川崎市立の「川崎ふれあい館」がある。崔さんは「ふれあい館」で職員として働いている。
 そこにヘイトデモが押しかけてきた。2013年5月のこと。レイシスト(差別者)たちが「日本浄化」などを叫んで襲いかかった。
 当初、川崎市はヘイトデモに慎重な姿勢を示し、重い腰を上げることはなかった。そこで国会議員に桜本へ視察に来てもらい、実情を訴え、見てもらった。そして、ついにヘイトスピーチ解消法が成立した。2016年6月のこと。
 川崎市長は、「自治体でやれることをして、ヘイトスピーチがおこなわれないようにすると答弁し、実行した。また、法務局はレイシストに対して、ヘイトスピーチ解消法を踏まえ、人格権を侵害する不法行為だと認定して勧告した。
 ところが、インターネット上のヘイトスピーチはエスカレートしていった。インターネットなんか見なければいい、気にしすぎだというのは、あまりに現実を知らなさすぎる空論だ。なにより仕方がないとして、やり過ごすのは、差別を放置することになる。
 インターネットこそ、ヘイトスピーチの震源地であり、拡声器だ。
そこで、裁判を起こし勝訴したのです。一審は人格権を侵害していることを認め、レイシストに対して91万円を支払えと判決した。さらに二審の東京高裁は賠償額を40万円も積み増しを認めました。すごいです。拍手します。
 ヘイトスピーチとは、差別的言動のこと、言動による差別。悪質・異質な人々と決めつけ、人間の尊厳を攻撃している。ところが、ヘイトスピーチがネット上で展開すると、たちまち236万件もの閲覧数となる。いやですよね…。
 ヘイトスピーチには、「排除類型」「害悪告知類型」「侮辱類型」の4つに分類されている。
 ヘイトスピーチそのものが違法である。在日朝鮮人・韓国人に対しての「帰れ」発言は、理不尽だ。彼らの大半は望んで日本にやって来たわけではない。
 在日朝鮮人の多くは、現在、特別永住者の在留資格をもつ。「帰れ」発言は、「日本に住まわせてあげている」という意識に裏づけられている。しかし、自分たちの力でなんとか生活してきた在日朝鮮人の歴史を踏まえると、それは「倒錯的な主人意識」というよりほかにない。
 誤った右翼へのヘイトスピーチを真実だと思い込んで行動している日本人の若者が少なくないのが、本当に残念です。でも、ヘイトスピーチを許さない社会づくりは着実に前進しています。本書は、その歩みを具体的に紹介し、読み手を励ましてくれます。
(2024年10月刊。1800円+税)

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