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自衛隊の転機

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  柳澤 協二 、 出版  NHK出版新書
 先日、著者には福岡でも講演していただきました。防衛官僚のトップ近くにいた体験にもとづき、自衛隊の海外派兵の危険性を力説されました。もちろん、安保法制にも反対です。
自衛隊員の生命を軽々しくもてあそんではいけない、国民の人権を踏みにじってはいけないという信念は強固なものがあり、とても分かりやすい話でした。聞いていて、胸にストンと落ちました。
著者は1970年に防衛庁に入って退官するまで40年間、防衛官僚として仕事をしてきました。2004年から2009年まで、内閣官房副長官補として首相官邸で働きました。
自衛隊の海外派遣は、三つの矛盾をかかえている。その一は、国内で戦うことを前提としているため、補給などの後方支援部隊の規模を小さくしていること。第二に、隊員の心構え。自衛隊員の多くは、人助けのために入ったというもの。第三、憲法との整合性。武器の使用を考えてこなかった自衛隊員が海外で「交戦」など出来るはずもない。
海外警備活動は、これまで3回しか発動されたことはない。これは、あくまで警察行動であるから、自衛隊員が出ていっても、海外公船に対する実力行使はできない。
イラク派遣のときには、アメリカへの付きあいなのだから、危険をおかすまでもないというのが当時の政権の認識であり、これを反映していた。
当時は、自衛官が撃たれることばかりを心配していた。
武器使用は、自衛官個人の権限として想定されているものなので、自衛官個人が一義的に責任を負うことになる。
安保法制ができて、自衛隊のリスクは格段に高まった。軍法のない自衛隊は使えない。
アメリカは、陸戦(陸上戦闘行為)には、ほとほと嫌気がさしている。
日本の自衛隊は、冷戦時代の防衛力に比べて一回り小さい規模になっている。「陸」は18万人から16万人弱へ、「海」は60隻から54隻へ、「空」は430機から340機へとそれぞれ減っている。
現場感覚にもとづき、自衛隊のあり方とその実態について議論がたたかわされた本でもあります。                          (2015年9月刊。780円+税)

きみは特別じゃない

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  デビッド・マカルー・ジュニア 、 出版  ダイヤモンド社
 アメリカにも、こんなにいい教師がいるんですね、感激しました。
 世界中を戦争に巻き込んで大勢の人々を苦しめているアメリカですが、善良で、真面目に人生とは何かを考えている人も少なくないことを知ると、少しだけ救われる気がします。民主党のサンダース候補も、そんな尊敬すべき一人だと私は考えています。
 アメリカは東部ボストン郊外にある名門の公立ハイスクールの卒業式で語られたスピーチが本になっています。こんなに長いスピーチをしたのかしらん・・・、と不思議な気がします。
いつも本は読んでほしい。人生に不可欠な栄養分として本は読むこと。全力で、大切な人を大切にし、大切なものを大切にする。切迫感をもって、時計の針がカチカチ言うたびに、残りが少なくなっているという気持ちを持ってほしい。始まりのときがあるように、終りのときも来る。その日の午後は、どんなに天気が良くても、きみ自身は、その究極の儀式を味わえる体ではなくなっている。充実した人生、ひと味ちがう人生、意味のある人生というのは、自分で築きあげるもので、自分がいい人だからとか、お母さんが出前を注文してくれたからといった理由で転がり込んでくるものではない。結局のところ、きみが「自分とは何か」を考えるから、自分がいる。きみが考えなければ、きみの「自分」はない。容赦なく、立ち止まることなく、秒針は進んでいく。「いま」だと思った瞬間はもう過ぎて、次の瞬間になっている。そして、その「次の瞬間」も、たちどころにまた過去になっていく。
人の一生は際限なくサイコロを転がしていくようなものだ。予想は、そのつど裏切られ、まるでハムレットのように変転を繰り返す。
人類の財産とも言える本は思考を広げ、よりよいものにするのを助けてくれる。だから、本を読むと、より広く、よりよい思考ができるようになる。何より大切なのは、発見があることだ。本を読むことは、他人の目で体験を積むことだ。読書は自分を大きくする。
教師が成功するか否かで、わたしたち人類の未来が決まる。ほかに、そんなことを言える職業がどこにあるだろうか・・・。教師は、子どもを一人ずつ育てて、未来を積み上げている。
学ぶことは、正解にたどり着くことではない場合のほうが多い。ほんとうの意味での勉強は、理解を広げること、知を深めることだ。それは、楽しいことであり、わくわくするものである。
自分が楽しいと思うこと、いいと思うことに没頭し、その結果や評価は成り行きにまかせること。今という時間を大切にし、先のことは何とかなると信じることだ。
大学は、とても楽しいところ、元気いっぱいの通過儀礼だ。ちょっと背伸びをして、初めて味わう独立した気分を楽しみ、何度かためになる失敗もして、強い友情の絆を結び、何か面白そうなものを発見したり、探検したりして集中し、打ち込む能力を養い、技を磨き、卒業証書をもらったら、さっさと残りの人生へと向かい、一人前のいろんなことのできる人間を目ざす。大学時代の友情は、死ぬまで続く。その場所を大切に思う気持ちは、時間がたてばたつほど募っていく。
 私にとって高校までは苦痛の時代でしたが、大学に入って、ようやく人間になれたと思いました。それは「大学紛争」(東大闘争)もありましたが、3年あまりの学生セツルメント活動がすべてのような気がします。このときの友情と思い出こそ、今日の私をつくっています。もし、今の大学生がそんな思いが出来ないとしたら、本当にお気の毒だと言うしかありません。ちなみに、私もアルバイトは家庭教師など週に2~3回はしていました。オカムラ家具の運びという軽作業もやっていました。それでも、アルバイトによる拘束は現在のほうが圧倒的に強いとのこと。看過できない現状です。
 私のときには授業料が月1000円、そして寮費(もちろん食費は別です)も月1000円でした。今のような40万円も50万円もかかる授業料なんて、国の政策は間違っています。それで、「一億活躍」だなんて、チャンチャラ笑わせます。もっと大学生も国民も怒るべきです。
(2016年2月刊。1600円+税)

坂の途中の家

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  角田 光代 、 出版  朝日新聞出版
 裁判員裁判が始まって、もう何年にもなりますが、まだ私の属する法律事務所は弁護士が5人いるのに、誰も経験したことがありません。もちろん、私たちが敬遠しているのではありません。私は、今でも当番弁護士も国選の被疑者弁護そして被告人弁護はしています。そして、殺人事件の弁護人にもなったこともあります。
 ところが、逮捕された被疑者を調べているうちに、弁護人の私の働きによってではなく、嘱託殺人に切り替えられてしまって、裁判員裁判の対象事件にはなりませんでした。私以外の弁護士4人も同じような状況です。体験していないので、裁判員裁判の是非を体験をふまえて論じることの出来ないのが残念です。
 この本は、子育て中の主婦が補充裁判員になって、その審理過程を描いています。被告人は、我が子を殺してしまった母親です。ひょっとして、自分も、我が子を殺してしまったかもしれないという巧みな心理描写がありますので、裁判員裁判の進行過程が一気に読みものになっていくのです。そこらあたりは、さすが作家の筆力です。
 子どもと一日中ずっと一緒にいたら、かなりのストレスがたまると思います。保育園は、その意味でも不可欠だと、私は体験をふまえて考えています。
この裁判員裁判では、検察側の提示する鬼のような母親と、弁護側の提起する哀れな母親のどちらが真相なのか、そのはざまに置かれて裁判員たちは悩みます。実は、その点は、裁判官だって同じことなのです。裁判官だから分かるということでは決してありません。文章をもっともらしく書くのには長けているだけなのです。
この本では、真相が明らかにされるということはありません。
 40年以上も弁護士をしている私ですが、ことの真相って、本当に分からないものだと、日々、昔から実感しています。
(2016年1月刊。1500円+税)

戦場中毒

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  横田 徹 、 出版  文芸春秋
戦場カメラマンの体験記です。
私には、こんな勇気はとてもありません。危険な、戦場の最前線に出かけて写真をとるのです。まさしく命がけの仕事です。
弁護士も変な人たちから狙われ襲われて命を落とすこともありますが、それは、幸いにしてごくごく例外的なケースです。ところが、戦場カメラマンは、戦場に出かけること時代が命がけです。そして、案内し、安全に誘導してくるはずの現地人に裏切られてしまったら、もうどうしようもありません。
戦場カメラマンになるには・・・。動きまわってばかりでは、集中力が切れ、身の安全も確保できない。めったやたらと動き回らず、まずは周囲の状況を確認する。それから、目の前で起きていることだけを落ち着いて撮る。そんな写真がモノになる。
インターネットとスマートフォンが普及したため、放送・出版業界は根本的な苦境に立たされた。まるで想定外の出来事である。
アメリカにとって、アフガニスタン戦争は、戦死した兵士よりも自殺した兵士のほうが多い。人間の精神は、場所が変わったからといって、電気スイッチのように簡単に切り替えることはできない。
1997年のカンボジア内戦のとき以来、戦場の実情を写真にとってきました。いやはや、まさに日々、生命をかけて写真をとってきたことがよく分かります。私には絶対にできませんが、著者のような人たちがいるおかげで、世間の一断面が居ながらにしてつかめます。ありがたいことです。
(2015年10月刊。1500円+税)

「仮面の日米同盟」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  春名 幹男 、 出版  文春新書
 安倍首相は、こう言います。
 日本が集団的自衛権を行使することによって、日米同盟は完全に機能する。そして、抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていく。つまり、アメリカ軍は日本を守ってくれているから、日本に平和がある。
果たして、そう言えるものでしょうか・・・。
 日本を防衛するために、アメリカの若者が皿を流したり、命をかけたりするほどの関与をアメリカが約束したなどと、新ガイドラインのどこにも書かれていない。日本が攻撃を受けたとき、真っ先に血を流す可能性が大きいのは、日本防衛に「主たる責任」を追う自衛隊員だ。アメリカ軍は、それを「支援」するだけだし、その「支援」も具体性に欠ける。在日アメリカ軍は日本本土を防衛するために日本に駐留しているわけではない。それは日本自身の責任である。在日アメリカ軍は、韓国、台湾そして東南アジアの戦略的防衛のために駐留している。
 日本国内およびその周辺に配備されたアメリカ軍部隊は、アジアにおけるアメリカの他の防衛公約を満たすのが第一の目的であり、日本防衛のためではない。日本にいるアメリカ軍には、守るための装備はない。攻撃用の装備しかない。そもそも任務(ミッション)が違う。
日本の自衛隊は日本防衛を任務としているが、アメリカ軍は日本の外に出ていくのをミッション(任務)としている。
 日本にあるアメリカ軍の基地は沖縄をふくめて、ほとんどすべてがアメリカ軍の兵站(へいたん)の目的のためにある。アメリカは、日本に対して「嫌だったら、日本から撤退するぞ」と脅してきた。しかし、本当のところアメリカ側には日本から撤退する気は、さらさらない。
 戦後の日米関係において、日本の政権が独自外交路線をとり、アメリカを排除した東アジア共同体のようなグループ形成に動くと、アメリカ政府は、そんな日本の政権を可能な限り相手にせず、徹底的に冷淡な対応をしてきた。そのため民主党・鳩山政権は倒れてしまったのです。
 アメリカは、在日米軍基地を維持するために沖縄返還交渉に応じた。佐藤首相とニクソン大統領の密約の内容は、「沖縄返還時に、アメリカはすべての核兵器を撤去するが、有事の際には、核兵器を沖縄に再び持ち込むことを認める」というもの。これは長く秘密にしてこられた。この点、少なくない日本人が誤解していますよね。日本にいるアメリカ軍は、日本人を助けるために日本にいるって・・・。もちろん、それはまったくの幻想です。
 アメリカとは日本にとって何なのか、なぜ、日本人はこんなにアメリカを「好き」なのでしょうか・・・。その一つに、テレビがあります。テレビでアメリカがいかに優しい国であり、強大な軍事力を持つ国なのか、絶えず見せつけられるなかで、かつての栄光(積極的な)面を示されています。でも、そのアメリカでもサンダース旋風が起きているということは、弱者が目覚めて立ち上がりつつあるということですよね。いつまでたってもアメリカの軍事力に頼っているわけにはいきません。
ご一読をおすすめしたい本です。
(2015年11月刊。800円+税)

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