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ホープレス労働

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  増田 明利、 出版  労働開発研究会
 バブル崩壊と、その後の失われた20年で日本の働き手の姿は大きく変わった。2000年ころを境として、それまでの標準的な働き方や生活様式は揺らいできた。それまでに比べて、正規雇用につきにくくなっているし、正規雇用につけたとしても、かつてのような賃金上昇は期待できない。
今や大卒でも3年後の離職率は30%。履歴が汚れると言ってさっさと辞めていく。1ヶ月未満で辞めたら、年金保険料の記録が残らない。
ブラック企業ではダメになったら使い捨て。そこでは従業員は部品ですらない。単なる燃料扱い。
ブラック企業であくどい仕事をして歩合がついて月収40万円。でも良心が痛んだ。
IT企業で諸手当こみで額面30万円。手取りは25万円。でも、それだけ働いていても残業代が出るのは30時間まで。あとはタダ働き。
毎年4人から5人は過労で倒れて入院してしまう。そして、高脂血症と血糖血の異常が多い。一日中、パソコンの前に座っていて、食べるのはファーストフードやジャンクフードばかりだから、そうなるのも必然。
女子社員だと、20代なのに更年期障害みたいになってしまう。男性は過敏性腸症候群。IT企業、死の行動って感じ。
求人が多いのは、ブラック企業だと叩かれているファミリーレストランのチェーン店、居酒屋、回転寿司、そして介護職。
派遣社員は一匹狼。群れることはない。正社員の人から求められるまで、こちらからは求めない。これが大事。自分から食事や遊びに誘うことはない。
「おい、おまえ。そこの派遣。あんた、、、」。
完全に見下している正社員は多い。
フリーターという語感の軽やかさとは裏腹で、現実には低賃金、低技能の使い捨て。安易な選択をして、自ら将来を閉ざしてしまうことになる、、、。
大きな会社のなかで、出世するしないというのは、必ずしも実力ではない。その人の上司の好き嫌いや相性、全体のバランスのなかで決まっていく。
脱サラも大変。勢いと思い込みで脱サラすると間違う。飲食店経営は手軽に始められるが、難易度は高い。始めるために半年くらいは飲食業で働き、理想と現実のギャップを知るべき。現場経験や土地勘がない未経験者が成功する可能性はほとんど皆無。 
大陸ヨーロッパ型は、福祉社会を目ざしている。アメリカ型は能力ある者には高額、ない者には最低限しか支払わない。日本はアメリカ型を選んだ。
でも、それでいいのでしょうか。底が抜けたアメリカ型では日本の将来はありませんよね、、、。
 読んでいくうちに目の前が真っ暗になってしまう本でした。でも、こんな本が出されるだけまだ見通しはあるということなのでしょうね。そう言いきかせるしかありません。
(2016年6月刊。1300円+税)

鳥の行動生態学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  江口 和洋 、 出版  京都大学学術出版会
 このところ我が家の庭にハトの出没が目立ちます。どうやら金木犀の木に営巣しようとしているようです。小枝を口にくわえて飛んでいく姿をよく見かけます。少し前には、スモークツリーの木にヒヨドリが巣をつくって子育てしているのをヘビに狙われ、ついに2羽のヒナがヘビのエサになってしまいました。ヒヨドリが巣をつくっているのに気がついていなかったので、ヘビ接近で警戒態勢に入っているのを見ても、何だか今日は騒々しいなと他人事(ひとごと)みたいに構えていたので、気がついたときには遅かったのです。
 鳥が恐竜の仲間だなんて、信じられませんよね。あの巨体で地球を支配していたのに、その仲間の子孫が空を飛んでいるなんて・・・。
イモ虫が蝶になって軽やかに空を飛ぶのも想像を絶しますが、同じようなものです。
鳥類の一夫一妻は、全体の9割を占める。ところが、鳥類には、つがい外交性が認められる。つがい外交性とは、社会的なペアの絆があるにもかかわらず、ペアの片方または両方がペア以外とも交配する、遺伝的には乱婚の一種である現象をさす。
 一夫一妻の鳥類の90%以上がパートナー以外との子供を残していることが判明した。これは、過去40年間の鳥類学のなかでも、もっとも大きな発見の一つ。この発見は、鳥のDNA研究がすすんだことによるものです。90%というのは、人間の浮気による子供の比率より、さすがにはるかに高い比率だと思います。
 鳥類1万種のうち、100種(1%)が絶対的托卵鳥。親が他の種の鳥に子育てを託すというのです。それがうまくいくために、卵の色や模様を似せている鳥がいるのです。
多くの鳥類は、なぜか色鮮やかな卵を産む。しかし、真っ赤や黄色の卵はない。青字や緑色の卵は多い。
 鳥はエサをとるためにいろんな工夫をしている。なかには道具までつくっているし、固い石をつかって、食べやすいようにしている。ニュージーランドのカレドニアガラスは先端にフックのある道具をつくり出して、エサをとる。ミヤマガラスは針金を曲げて加工し、虫の入ったバケツを釣り上げるのに成功した。
シジュウカラは、カラスへの警戒音を聞くとヒナは巣のなかでうずくまる。ヘビへの警戒音を聞くと一斉に巣を飛び出す。
 鳥に関する地道な研究の成果が、豊富な写真とともに一冊にまとめられています。
(2016年3月刊。3200円+税)

強父論

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  阿川 佐和子 、 出版  文芸春秋
書かれている文字どおり読んだら、それこそとんでもない父親ですよね・・・。なにしろ、テレビを見ていても、何をするにしても、「女はバカだ。だからダメなんだ」なんて口癖のように言っていたというのですから。
でも、本当に、そういう親子関係なのかなと、モノカキ志向の私は大いに疑っています。これはサワコー流の父親礼賛(れいさん、ではなく、らいさん)じゃないのかな・・・。
というのは、表紙の写真です。
3歳くらいのサワコが、にこやかにほほえんでいる「怖い父親」に抱っこされて幸せそうな様子と、今のサワコの笑顔は、まるで同じなのです。
いじめ、いじめで、こんな素敵な笑顔の美人になれるはずがないと私は思うのです。
そして、遠藤周作、壇一雄、北杜夫の家庭が、それぞれ
「嘘つけ、冗談じゃない。娘までおかしくなってきたぞ。もう疲れた。オレは帰る」
「あいつらより、俺はずっとマシ」
と言っていた。
そうなんですよね。世の中には、うちよりもっとひどい暴君の父親がいる。それで、親も子どもも、じっとガマンしているということがあるのです。
まあ、笑いながら気楽に読める、ちょっと変わった父親論として、おすすめします。
(2016年7月刊。1300円+税)

イスラム過激派 二重スパイ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  モーテン・ストーム 、 出版  亜紀書房
 デンマーク生まれの白人青年が若いころ非行に走ったあげく、ある日突然回心してアッラーの教えに救いを見出し、イスラム教徒になります。そしてアフリカにまで渡ってイスラム過激派の一員として活動していくのですが、その活動にも疑問を感じて再び回心し、今度は捜査機関に協力するようになるのでした。
初めはデンマークの警察、そしてイギリス、最後はアメリカのCIAまで登場してきます。
一匹狼のような危険人物を逮捕するのには役に立つことでしょうね。でも、ウサマ・ビン・ラディンの暗殺が平和をもたらすはずもなく、もたらさなかったのと同じで、たとえアウラキー人を暗殺したところで、イスラム過激派が消えてなくなるわけではありません。
 アメリカもイギリスもお金のつかい方をまったく間違っている、私はそう思います。何人かのスパイを操作するために何千万も何億円も支出するくらいなら、砂漠の緑化作業をすすめたほうが、よほど効果的なお金のつかい方です。
 ところが、そんな大金は実はCIAをはじめとするスパイの秘密捜査に従事する人々の高額の飲み食いにまで使われているようです。なあんだ、「生命をかけて」過激派とたたかっている振りをして、自分たちも甘い汁を吸っていたのか、、、。だから、びっくりするほど高いお金をかけて要人の暗殺ごっこが止められないのですね。
CIAなどの高官も、 たまに自爆犯人に殺られてしまうことがあるわけですが、これも自分たちが無人機をつかって平気で違法な要人暗殺を次々にやっていることへの仕返しなのです。こんな暴力の連鎖こそ一刻も早く打ち切りたいものです。スパイに頼らない、平和維持活動をみんなで模索したいものですよ。
 500貢もの大作です。二重、三重スパイとして活動していた若者の無事を願わずにはいられません。
(2016年7月刊。2700円+税)

「もう一つの大学紛争」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  鈴木 元 、 出版  かもがわ出版
 もう50年近くも前の大学紛争を当事者の一人として振り返った本です。全共闘の暴力についての鋭い指摘は、私もまったく同感です。
1967年、68年に大学に入学した学生は、まともに勉強できないまま、大学紛争に巻き込まれた。毎晩のように全共闘の暴力にあって、投石したり、角材で反撃し、殴られてケガをした。少なくない学生にとって、いい思い出は皆無に近い。マスコミに登場して、全共闘的思考をよしとしている人間の大半は、大学生時代に心情的には全共闘であっても、ゲバルト活動を1年も続けていた人間はいないだろう。そんな行動をしていたら、学力を確保できなかったし、卒業すら出来なかったはずだ。何より、自らの暴力活動によって立ち直れないほどの精神的ダメージを受けたはずで、いま全共闘運動を誇りをもって語れるとは思えない。
マスコミに登場して、いまだに全共闘の思考や行動に意味があったかのように発言する人物の大半は、あのころ全共闘の周辺をうろうろしていて、心情的な共感をひけらかしていただけの者が多いとしか思えない。それほど、全共闘の暴力は残虐なものだったし、物理的にも心情的にも破壊的だった。
それは、全共闘の内部で内ゲバという悲惨な殺人事件が横行したことからも言えることです。
暴力的闘争は内戦状態をつくり、多大な犠牲者を生み出す。たとえ、権力掌握に成功しても、それは、支配者を変えた新しい暴力的独裁国家になる。その指導権をめぐっても暴力がつかわれ、残忍な内部闘争が展開されていくだろう。国民の幸せを願うものは、「暴力的闘争の終焉」を肝に銘じるべきである。
この点についても私はまったく同感です。内ゲバ殺人事件は、まさしく恐怖政治です。
この本は、京都の立命館大学における全共闘の暴力とたたかい学園を正常化していった体験を振り返っています。暴力支配とたたかうことの大変さがひしひしと伝わってくる本でもありました。
「全共闘世代」というのは、全共闘の思想的影響を受けた人たちがマスコミに就職して、いまもって共感をこめて述べている言葉であるが、全共闘を支持していたのは、せいぜい大学生全体の2%くらいだった。私の知る限りでも、全共闘シンパを自称している人が何人もテレビや新聞社に入っていきました。
そして、大学紛争が終わったとき、大半の学生は就職したら、紛争のことを素早く悪夢だったかのように忘れてしまったのでした。
ところが、東大・京大などと違って、私学卒の学生は下手に大学紛争にかかわっていたことが世間に知られたら、ますます就職できないというハンディを負っていた。うむむ、なるほど、そうだろうなと私は思いました。
東大闘争の全過程については、小熊英二の『1968年』(上・下)にも引用されていますが、『清冽の炎、1968年、東大駒場』(全7巻、花伝社)をぜひ読んでほしいです。大変な労作に深い感銘を受けました。今後とも、元気にご活躍ください。
(2016年8月刊。2200円+税)

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