法律相談センター検索 弁護士検索

司法試験に受かったら

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 伊藤 建 ・ 國富 さとみ 、 出版 現代人文社
 11月6日、司法試験の合格発表がありました。合格者は1592人で、政府目標の1500人に合致した人数です。私が驚いたのは、最年少は17歳というのです。高校を卒業していなくても高校在学中に合格するような人がいるのですね。信じられません。
順位1番の慶応大ロースクールの合格率は6割です。わが九大は3人に1人の合格率でしかありません。聞くところでは、六本松を維持できずに伊都に移るそうです。ますます志願者が減るとみられています。合格者の東京集中を加速させることでしょう。心配です。
 ロースクールの在学生に対して五大事務所の勧誘は激しいとも聞きました。五大事務所は、まだまだ規模を拡大しようとしているのですね。それほど日本企業は弁護士を必要としているわけです。この本は、司法試験に合格した人が、その後どんな復習生活を過すのかというオリエンテーションが内容になっています。
 弁護士、裁判官、検察官、そして企業内弁護士や裁判所内部の動きも紹介されています。弁護士の平均所得は減っているとよく言われますが、この本では、2020年の弁護士の所得の平均値と中央値は2018年に比べて上昇したとしています。五大事務所の高給優遇が押し上げているのかもしれません。
 いま司法修習生がもらう給料(収集給付金)は13万5000円です。これは明らかに低すぎます。もっと引き上げるべきだと思います。
弁護士が司法修習生を評価するときの2つ。その一は、法曹になる動機や目標が明確かどうか。その二は、問題の解決に向けてズルしたり、手を抜いたりはしないか。そして、周囲にいる弁護士や事務局と適切なコミュニケーションが出来ることです。
 刑事弁護人として、あまりにも有名な神山啓史弁護士が司法研修所の刑事弁護教官になったのは画期的とのこと。きっと、そうなのでしょう。
 この本に登場する先輩弁護士のなかに川辺賢一郎という現役のプロレスラーがいます。信じられません。福岡にも現役の弁護士でありながら、吉本興業に登録している、お笑い芸人がいます。すごいことですよね…。
 このプロレスラーの弁護士は独立開業して以来の8年間、朝、目覚めたとき、「今日は仕事に行きたくない」と思ったことがないのを自慢に思っているとのこと。それは弁護士生活50年になる私も同じです。
 企業内弁護士(インハウスロイヤー)として大切なことは、主担当として自分で判断できること、判断できないことを見極めること。適切な権限者に判断を任せる必要がある。
インハウスロイヤーの重要性を私も否定しませんが、自由業にあこがれた私は組織のなかでの生活なんかしたくはありません。なので、私は大企業相手の企業法務だけが弁護士の仕事・活躍分野ではない、このように声を大にして強調せざるをえません。
(2024年7月刊。2900円+税)

裏山の奇人

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 小松 貴 、 出版 幻冬舎新書
 新書版としては新刊なのですが、実は10年前に東海大学出版会から同じタイトルで出版されていて、その復刊本(新書)なのです。カラー印刷なので、見てるだけでも楽しい新書になっています。
10年前は九大につとめていた著者は、関東に移り、また、結婚して、2人の息子がいるとのこと。奥様のコトバがすばらしいです。
 「コマツは組織に飼われたら絶対ダメ。自由におやり、私が養ってあげる」
 そのコトバのおかげで、著者は相変わらず、裏山で自由に生き物(昆虫)たちとの悦楽の時間を過ごしているようです。すごいですね。幼いころから昆虫好きだったとのこと。私もアリの行列に見とれ、その行き先をたどった記憶はありますが、石をひっくり返し、巣穴をのぞいたことはありません。そして、著者はなんと、アリに寄生する虫を発見したらしいのです。好蟻性昆虫と呼びます。このアリヅカコオロギの研究で20数年後に、飯を食うなど想像もしていなかったとのこと。そりゃあ、そうでしょう…。
 昆虫観察を成功させるコツは地元の人を決して敵にまわさないこと。いかに地元の人たちに赦(ゆる)されるかが肝心。要するに、変な奴と警戒されないようにすることなんですね。
 わが家の庭にはモグラが棲みついています。先日もチューリップの球根を植えたところが大きく盛り上がっていて、球根が地上に放り出されていました。トンネル内にあった泥を地上に押し出した後です。モグラはミミズを食べて生きていますので、決して球根なんか食べませんが、球根を邪魔者扱いにして地上に放り出すので困ります。
 このモグラの小型をヒミズと呼び、著者はずっと観察しました。
 ヒミズは、ある面ではとても賢いけれど、別の面ではとてもバカな生き物らしい。
 著者は森の中で、野ネズミを観察しようと夜に待ち伏せした。たった1人、暗い夜の森にじっと座って待つ。足を動かすと地面を振動が伝わるので、足は動かせない。鼻水が流れてもすすると、その音で警戒されるので垂れ流しのまま…。いやあ、寒い中、大変な作業ですね。おかげで動かず、音を出さないと、人慣れしていない野生動物でも至近で観察できることを学んだそうです。
いま、西日本新聞に連載中の昆虫博士・九山宗利先生に手ほどきしてもらい、今は尊敬しているとのことですが、初対象の印象は次のとおり。
 その見た目の胡散(うさん)臭さ、まがまがしさ…。いやはや、なんということでしょう。でも、恐ろしく博識で頭が切れるというホメコトバが続くのです。
 好蟻性昆虫の研究なんかして何の役に立つのか、そんなもの研究する価値があるのか…。よくある疑問です。でもでも、すぐに役に立たなくても、ひょっとして何かの役に立つかもしれないし…。学問って、すぐ目の前の役に立つ者ばかりではありませんよね。
 好蟻性生物は、いずれもアリに寄り添い、利用するために特殊な進化を遂げた、選りすぐりの精鋭ぞろい。アルゼンチンアリのようなアリの放浪種には、1コロニー内に女王が何十匹もいるので、たった1匹でも女王を駆除しそうになったら、すぐに増えてしまう。
天敵というのは、害虫の密度を抑えるのには役立つけれど、滅ぼすことはできない。
ツノゼミは、アリに守られた状態でよく見つかる。ツノガミが排泄する甘露をなめるため、アリがたかるのだ。
 奇人・変人がいるからこそ世の中の進化はあるのです。常識人ばかりでは困るのですよね。そのことがよく分かる本でもありました。
(2024年7月刊。1400円+税)

古代ローマ解剖図鑑

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 本村 凌二(監修) 、 出版 エクスナレッジ
 古代ローマは、紀元前753年の建国から476年の西ローマ帝国の滅亡まで、1200年の歴史がある。
前753年に建国宣言でもされたのかなと不思議に思っていると、なんのことはない、神話なんですね。ラテン人のロムロスが前753年に建国したという神話があるというだけなのです。まあ、それはともかくとして、ローマの政治には私たちもよく知っている人物が次々に登場します。塩野七生の「ローマ人の物語」(新潮社)はかなり前のことですが、最後の15巻まで読み通しました。たいした筆力だと圧倒されてしまったことでした。
ローマがカルタゴと争ったポエニ戦争では、カルタゴ軍の象兵がローマ軍のスキピオ将軍の策略が成功して打ち破られましたが、このときトランペットと投げ矢で象たちを撹乱したとのこと。
 映画にもなった「スパルタクスの乱」は最盛期は7万人もの大反乱軍でした。
 古代ローマ軍の軍団は「レギオ」と呼ばれ、「百人隊」(ケントゥリア)を基本単位とし、ファランクス(密集陣形)を三重戦列に編成するのが特徴。この三重戦列は、最前列が後ろに下がり、第2列が前に出ることを繰り返し、兵を休ませんことが出来たので、持久戦になれば負けなかった。第1隊列には機動性にすぐれた若い新兵が配置され、第2隊列には、体力の充実した中堅の兵、第3隊列には長槍を武器とする古参兵で編成。
 ローマの歩兵の装備は自前で調達するのが当然だったので、装備が用意できないから参加できないという市民もいた。つまり、戦争は、貴族や富裕層の「特権」だった。
 帝政期の首都ローマの人口は100万人。
 円形闘技場ではライオンなどの猛獣と槍一本で剣闘士は戦った。殺された猛獣は3500頭にのぼる。
 映画「ベン・ハー」は忘れられません。大競走場で戦車を競争するのですが、その圧倒的迫力に思わず息を呑んで画面をくい入るように見つめました。
 ローマの偉大さは水道橋をみると実感します。私も、はるばるポン・デュ・ガールを現地まで見学してきました。橋の全長は269メートル、水道全体の長さは52キロメートル。高さ49メートルある水道橋をポンプを使わず、傾斜だけで1日2万リットルの水を流したのです。傾斜は、1キロメートルにつき34センチという傾斜です。その測量技術そして、土木建築技術のレベルの高さには驚嘆するほかありません。機会があったら(ぜひとも機会をつくって)ぜひ現地にまで足を運んでみてください。感激すること間違いありません。
ローマ市民、庶民の家には風呂もトイレもなく、台所もなかったというのに驚かされます。外食店を利用していたようです。そして、トイレは公衆トイレ。
イラストつきの解説本なので。ローマ人の生活について、イメージがよくつかめました。
(2024年4月刊。1800円+税)

涅槃(ねはん)の雪

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 西條 奈加 、 出版 光文社時代小説文庫
 さすが直木賞作家だけあります。読ませます。しびれてしまいます。
ときは、老中・水野忠邦が推進する天保の改革のころ。北町奉行の遠山景元の下で町与力として働く高安門佑(もんすけ)が主人公。
 水野忠邦の改革を推進する側の鳥居耀蔵も登場してきます。数々の弾圧をすすめた張本人です。この鳥居耀蔵が門佑を誘ったりして、事態は複雑に進行します。
遠山景元は、南町奉行の矢部定謙と一緒に水野忠邦の改革案に抵抗します。たとえば、芝居小屋の閉鎖・縮小、そして株仲間の解散です。
水野忠邦は、貨幣を改鋳(かいちゅう)した。貨幣に混ぜる金銀を減らし、浮いた金銀を幕府の収入とするもの。ところが、1両を4千文と定めた公定相場が崩れ、今や6500文として取引されている。そして、貨幣価値が下がると、物価は上がる。
東町奉行所の与力をつとめていた大塩平八郎の乱が大坂で起きたのは、矢部が西町奉行を辞めたあとのことなのに、鳥居は矢部が大塩の乱に関わったかのように申し立てた。矢部を追い落とすため。そして、それは成功した。
奇席の花として、女浄瑠璃(じょうるり)が庶民のあいだで人気を博していた。この奇席を縮小・閉鎖しろというのが水野忠邦の改革。遠山も矢部も、そろって反対したが、水野は押し切った。
 遠山は西丸小納戸頭取として将軍家慶の側仕えをしていたので、家慶の覚えがめでたかった。そのためさすがの老中・水野忠邦といえども、遠山をやすやすと追い落とすことはできなかった。
矢部を南町奉行から追い落とし、鳥居が南町奉行になってから、遠山の人気は鰻(うなぎ)上りとなった。表立っては口にしないものの、人々の鳥居への反発はすさまじく、その反動で、遠山が名奉行と祭り上げられた。
 この本のすごさは、そんな政治背景をしっかり書きこみながら、男女間のこまやかな機微を読み手に、あの手この手で感じ取らせていくところです。その手腕たるや、最後のところに来て、頂点に達します。うむむ、なるほど、その手があったのか…。ついつい唸ってしまいました。
江戸時代の雰囲気をちょっぴり味わってみたいかなと思う人にはぴったりの人情時代小説です。
(2023年12月刊。660円+税)

従属の代償

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 布施 祐仁 、 出版 講談社現代新書
 先の衆議院選挙では大軍拡の是非が争点となりませんでした。残念です。5年間で43兆円もの大軍拡予算が着々と現在進行形です。石破首相は日本の防衛力を強化する必要があるといって、これまでの安倍-岸田路線をそのまま踏襲しています。公明党はもちろん与党として、それを推進し、維新も国民民主党(玉木)も同じく、軍事予算は聖域扱いで、縮小なんて一言もいいません。本当にそれでいいのでしょうか?
 安保三文書を批判的に検討する討議資料を日弁連は作成中ですが、安保三文書には実は国民を守るための施策は何ひとつありません。たとえば、私たちの毎日の生活は水と電気が不可欠ですし、ガソリンと食料品がなければ行動できませんし、生きていけません。ところが、このようなインフラ・システムを守る手だては何も講じられていません。上下水道施設、火力発電所そして港湾がミサイルで攻撃されたら、多くの日本人は、その時点から生活できなくなります。船舶が動かなくなったら、食料自給率が4割もない日本ではたちまち食べ物がなくなります。車だってガス欠になります。
 そして、主として日本海沿いに50基以上も原子力発電所(原発)があります。地上から「デモ隊」が押し寄せてきたら対抗・排除できる体制はあるようですが、問題はミサイル攻撃です。これには対策の打ちようがありません。放射能がダダ洩れはじめたら、「決死隊」を送り込んでも、止めようがないのです。日本列島のどこにも逃げ場はなく、住むところがありません。
いま、自衛隊はミサイルの放射距離を200キロから1000キロにのばしました。中国内陸部へミサイルを撃ち込もうというわけです。そんなミサイル収納庫(大型弾薬庫)が大分に新増設されようとしています。防衛省は、2032年までに全国で130棟もの弾薬庫を増設するというのです。日本列島はミサイル列島になりつつあります。
 こんなミサイル基地が身近にあったら、あなたは安心ですか…。いえいえ、ミサイル基地は、「敵」から真っ先に狙われるのですよ。周辺の民家は爆発の巻き添えを喰うことでしょう。   
南西諸島にミサイル部隊を配置して「南西の壁」がつくられようとしています。台湾有事に備えてのことです。では、「敵」の反撃を受けたら、この南西諸島の住民はどうしますか…。船や飛行機で戦火の島から脱出できると思いますか…。出来るはずがありません。戦前の「対馬丸」の悲劇を繰り返すことになるでしょう。
中距離ミサイルを中国本土に届かせるためには、日本かフィリピンのミサイル基地を九州に置くしかない。これがアメリカの考えです。日本を捨て石にしようというのです。
 いざというときに、アメリカから見捨てられたら、どうしようと悩む若者が少なくないとのこと。そんな奴隷のような心情は一刻も早く、きっぱり脱ぎ捨てましょう。
 巡航ミサイルや極超音速滑空兵器はステルス性があり、発見されにくい。
本当に「台湾有事」が現実化したとき、先島(さきしま)諸島や南西地域だけの「局地戦」にとどまる保証はどこにもない。そうなんです。
 ミサイルが、核弾頭でないというだけで安心してはいけません。核弾頭が使われたら終りという前に、日本は破滅してしまうのです。
 安保三文書にもとづく大軍拡は、実のところ日本国民を死に追いやってしまう、危険きわまりないシロモノなのです。国を本当に守るのなら、軍備増強ではなく、話し合いしかありません。
(2024年10月刊。980円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.