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日本で初めて労働組合をつくった男

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者  牧 民雄 、 出版  同時代社
 今の日本ではストライキという言葉は、まるで死語同然です。ところが、江戸時代が終わって10数年たったばかりの明治の日本で、ストライキが起こり始めました。これも、江戸時代の「オカミ」に盾つく百姓一揆の伝統を受け継いでいたからなのでしょうか・・・。
 日本人が、昔から皆、従順で、モノ言わぬヒツジだったというのは、真っ赤な嘘です。それは江戸時代の一揆の規模・回数をまったく知らない人の言う妄言にすぎません。
 明治19年10月に靴職工のストライキは、日本初だった。この靴職工たちは、士族上りが多く、他の職工とは品性を異にし、気質温和、恥を知る美風があった。
 城(じょう)常太郎は、明治21年9月、25歳のとき、アメリカへ向けて旅だった。常太郎はアメリカはサンフランシスコに定着し、ホテルの客引きをしていた高野房太郎と出会った。
 アメリカで日本人のできる仕事で最も有望なのは、靴工業だった。靴が生活必需品であるアメリカでは、手先の器用な日本人靴工による靴の修理は大好評だった。
 明治22年11月、日本人靴職人14人がアメリカに集団移民した。日本人靴職人は修理費が格安で、納期をきちんと守ったことから顧客が増えた。
 1886年1月、サンフランシスコ市内の靴工は7000人いた。その多くを中国人靴工が占め、白人靴工は2割、1000人ほどだった。しかし、白人靴工の日給手当は2ドル、中国人靴工は1ドルだった。
 明治19年以降、東京や関西の靴工場で、工員たちによる労働争議が頻繁に起こり始めていた。
 明治25年12月、300人もの靴工たちが日比谷公園に集まり、衆議院に向かって堂々のデモ行進を遂行した。日比谷公園は、日本におけるデモ行進の発祥の地なのである。
 弁護士会も安保法制法案の成立反対を叫んで、日比谷公園から国会に向けて何回となくデモ行進をしました。もっとも、今は、パレードと呼ぶことが多いのですが・・・。
 明治20年1月、カリフォルニア市内で、城常太郎の音頭のもと、「加州日本人靴工同盟会」が発足した。白人靴工に対抗するとき、非暴力で相手の怒りを鎮めようとする平和的な道を選んだ。このころサンフランシスコ市内の日本人靴店は20店、靴工は60名いた。
 明治42年になると、会員数327人にまで膨れあがった。日本人靴店も76店あった。当時、ゲルマン人の食料品、フランス人の洗濯屋、イタリア人の魚商、中国人の薬舗、日本人の靴工と言われていた。
 明治29年の末、城常太郎は、ストライキに反対する者たちから袋叩きにあい、重傷を負った。
 明治30年6月、東京・神田の青年会館において職工義友会の主催する演説会が開催された。1200名の聴衆を前に、学歴のない城常太郎が一番に演説した。
労働組合期成会は、明治30年にわずか71名でスタートしたが、翌31年7月には2500人の会員を擁するまでに発展していた。初期の労働運動のピークは明治32年夏だった。
 城常太郎は、その後、中国大陸に渡ったが、明治38年7月に、42歳で肺結核のために死亡した。
明治29年に高野房太郎よりも早く日本に帰国し、日本の労働運動を大きく盛り上げたのが城常太郎だったことを初めて知りました。
 それにしても明治20年代ころのカリフォルニアに日本人靴店がたくさんあったことを知り、目を開かされました。今では、町に靴を修理してくれる店なんて、とんと見かけませんね・・・。
 歴史の掘り起こしは大切だと痛感した本でもありました。
(2015年6月刊。3200円+税)

漫画は戦争を忘れない

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  石子 順、 出版  新日本出版社
 大学生のころまではマンガ週刊誌をふくめてマンガをよく読んでいましたが、大学を卒業すると同時に、基本的にマンガからも卒業しました。
 でも、弁護士の仕事に役立つマンガも実際にありますので、今でも単行本は買って読むことがあります。生活保護や介護の現状など、マンガで視覚的に問題状況をつかむことが出来ます。
 大学受験のためには、日本史や世界史もマンガで全巻通読しておいたほうがいいという、奈良の佐藤真理弁護士夫人の指摘には、恐らくそうなんだろうな・・・と思います。
 この本は、漫画で戦争の悲惨さが語りつがれてきたことを振り返っています。
 水木しげるをはじめ、戦争体験者や中国からの引き揚げを体験したマンガ家って、想像以上に多いのですね・・・。
 戦争漫画は、陸、海、空で展開された戦争の激しさ、むなしさを描く。
 過去を知らないと未来はないことを、戦争を見つめ反省しないと平和はないことを、つかみとることが出来ないことを漫画は描いている。
 戦争は、戦場で敵を倒す。人間を殺すことを合法化した争いで、多く倒せば英雄となる。このさまざまな武器をつかって戦うさまをカッコよく描くのが、かつての戦争漫画だった。
 手塚治虫は、8月15日に終戦になったあと、焼跡に電灯がついているのを見て、本当に戦争が終わったことを知り、大喜びした。
 「こんなに感動したことはない。それは、もう40数年たって、まだその感動を覚えている」
 日本に帰ることができて漫画家になったものたちが、その記憶を漫画にしたそこには、二度と戦争を繰り返してはならないという思いがこめられていると同時に、亡くなった多くの子どもや大人への鎮魂の紙碑となっている。
 マンガは大きな力をもっていると思います。反戦・平和の願いをマンガに託して、さらに飛躍させてほしいものです。
 いい本でした。漫画拝論を書いて50年になる著者の最後の本になるかもしれないとありますが、まだまだ元気にがんばってほしいものです。
(2016年6月刊。1000円+税)

財界支配

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 佐々木 憲昭、 出版  新日本出版社
 今の日本の財界は、目先の、自分たちさえもうかれば良しとする傾向がいちだんとひどいように思います。
 自分も良いけど、客も喜んでいる、そして地域がニコニコ笑顔で暮らしていける、そんな社会を日本の財界人が目ざしているとはとても考えられません。残念です。
 日本の支配層団体である日本経団連とは、一体どんな組織なのか。それを資料にもとづいて明らかにしている貴重な労作です。
 日本では巨大企業が株主配当を最優先させる株主至上主義の傾向を強め、投機的資金を動かし、金融資産を肥大化させ、経済の金融課に拍車をかけている。大企業のもつ内部留保は空前の規模に達している。そのベースは、生産拠点をアジアなど海外に写し、国際的な生産ネットワークによって最大限の利潤を確保する多国籍企業へ変貌しつつある。そして、政府の軍事予算増大に寄生し、経済が軍事化しつつある。
日本の経団連の役員総数が増えているのは、日本の産業構成が複雑化していることの反映だ。1970年に役員は13人だったのが、45年後の2015年には36人と3倍に増えている。
日本経団連は製造業中心の財界団体であるが、2005年の64%をピークとして、2015年には39%まで減っている。総合商社の比重が高まり、金融保険業も急増している。世界的に投機資金が膨張するなかで、保険業界の機関投資家としての役割が飛躍的に増大している。
経団連役員企業の総資産は、1970年の1兆92億円から2015年には24兆5368億となって、24倍にも巨大化している。
経団連のトップ企業は、アジアをはじめとする海外市場に活路を求め、海外売り上げへの依存度をますます高めている。
 そして正規労働者が減り続けている。2000年と比べて、2015年には9240人も減っている。ところが、非正規労働者は急増している。2000年に比べて、2015年には、1万2839人も増加した。三菱重工における非正規労働者は、2005年の9.4%が2015年には17%まで倍増している。
外資の影響力が格段に高まっている、1970年に3%なかったのが、2015年には35%に近い。外資比率30%以上の企業が23社となり、経団連役員企業33社の7割を占めている。
 カストディアンという用語を初めて知りました。投資家に代わって有価証券を管理・保管する業務に特化した信託銀行、資産管理信託会社のことである。日本経団連の役員企業は、日米カストディアンの圧倒的な保有下に置かれている。カストディアンは、株主への利益還元を増進させている。
経団連企業の役員報酬額が増大している。一人で1億円をこえる報酬を受けとっている役員は、2010年の56人から2015年の89人へと増えた。全部では、211社の411人となっている。ところが、正規労働者の賃金は2000年の734万円が2015年の953万円へ1.3倍にしかなっていない。
日本の軍事予算は、2012年度に4兆7138億円だったのが、2016年度には5兆円を突破した。
 日本の「防衛装備品」の7割を20社で受注している。三菱重工業をはじめとする日本経団連役員企業が軍需産業と深くかかわり、国の軍事予算への依存を強めている。
 北朝鮮や中国の脅威をことさらにあおって、日本の軍備増強を叫んでいる政治家は、実はうしろで軍需産業と腹黒い交際をしているのがしばしばです。
それにしても、先日、稲田防衛大臣が軍需企業の株を夫婦で大量にもって増やしていると報道されました。「危機」を金儲けの口実にしているとしか思えません。プンプン・・・。
(2016年3月刊。2500円+税)

銀行員30年、弁護士20年

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  浜中 善彦 、 出版  商事法務
 著者が大学を卒業して銀行に入ったのは昭和39年。東京オリンピックのあった年です。私が高校に入学した年でもあります。
 そのころ、銀行の総務部には総会屋が「毎月の給料」をもらいに来ていたというのです。銀行のトップは昔から黒い世界と交際していたのです。そして、インサイダー取引も半ば公然と行われていたとのこと。今ではまったくない、と果たして言い切れるのでしょうか・・・。
 著者は融資課長のとき、毎日、夕方6時前には退社していたとのこと。これって、すごいことですよね。でも、これでは、恐らく出世はしなかったでしょうね。
 管理者として、もっとも力を入れたのは、部下の教育。接客の際、相手に失礼がないよう言葉づかいに注意する。部屋の出入りの順序や席順等にも目を配らせた。
 銀行の有担保貸出は、長期貸付金の場合であり、短期貸付金は無担保が原則。銀行は担保にお金を貸すのではない。
銀行員としての経験から、大企業とは、無駄が多いほど大企業であると思う。大企業の特徴として、コピーや紙の消費量が多い。いまでは、ネット活用によって、ペーパレス化は進んでいるのでしょうか・・・。
 著者は43歳のとき、経営相談所へ配属された。窓際の仕事である。ところが、著者はこれをチャンスだと考えたのでした。
銀行員になって20年仕事をしてきて、はじめて定時出勤、定時退社の部署に来ることができた。さあ、与えられて時間を、どうするか。よくよく著者は考えたのです。水泳を始め、座禅をし、司法試験に挑戦することにしました。
 資格を取ることに限らず、何かを達成しようとするとき、もっとも重要なのはモチベーション。動機と目的と工夫がなければ勉強時間をつくり出すこともできない。日本一難しい試験に挑戦してみよう、定年後は、銀行が決めた人生ではなく、自分でも選択肢をもちたいというのが動機だった。
 いかに勉強時間を確保するか。そのためには極力、無駄な時間を省くことが必要になる。スケジュール管理の方法として、目的別に3冊の手帳を使うことにした。
 スケジュール管理で大切なことは、単に予定を立てるだけでなく、記録すること。そして、記録した結果をチェックし、今後の計画の参考にする必要がある。次に、確保した時間を、いかに有効活用するか。
学者の解説は、予備校の講師とは全然比べ物にならない。予備校の講師の解説は、一旦極めて明快なようだが、これは問題を単純化して説明しているからなので、まるきり深みに欠ける。
かばんには、まとまった時間が出来たときに読む本と、細切れの時間に読む本の2種類を入れている。
私の場合には、カバンの外側には、ホームの待ちあいでも読めるように絶えず新書を入れています。電車のなかでは部厚い単行本を読みます
 著者は54歳で30年勤めた銀行を定年退職しました。定年が54歳だなんて、早すぎますよね・・・。
平成7年に和光の司法研修所に入った。730人の合格者があり、12クラスで、1クラス60人ほど。
サラリーマンになれないような弁護士は、弁護士としても無能だと思う。
私にとっては耳の痛い言葉です。私は、とてもサラリーマンには向いていないと思うからです。
 プロフェッションといわれる医師、聖職者および法律家の共通点は、いずれも何らかの形で人間のもつ悩みの解決に奉仕する職業であるということ。医師は肉体的悩みの解決、聖職者は精神的な悩みの解決が本来の任務である。法律家は、人間関係から生ずる紛争の解決をその任務とする。
職業としての弁護士は、決して気楽ではない。むしろ、精神的には、かなりストレスのかかる職業である。受任事件から来るプレッシャーは大きい。
弁護士にとって大事なことは信頼関係である。しかし、そのことは依頼者の言いなりになればいいということを意味しない。依頼者を説得するのも弁護士の役割。しかし、他人を論理で説得することはできない。人が他人の意見に納得するのは、論理ではなく感情による。 
弁護士の仕事のいいところは、仕事を通じて、常に社会との接点があること。
さすがは人生の大先輩です。いかにも含蓄深い言葉ばかりでした。
著者の、今後ますますのご健勝を祈念します。
(2016年7月刊。2700円+税)

なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  大村 大次郎 、 出版  ビジネス社
 読んでいると、本当に腹の立つ本です。いえ、著者に対する怒りではありません。
 トヨタのひどさに呆れ、かつ驚きと怒りを禁じえません。亡国企業トヨタの正体!とありますが、まさしくそのとおりです。
 トヨタの車に毎日のっているのが私は恥ずかしくなってしまいました。これまでニッサン社長のカルロス・ゴーンの年収10億円に腹を立てていましたが、トヨタのひどさは日本という国を狂わしている点で、ニッサンをはるかに上回ります。
 まず、なんといっても、トヨタはもうかっているのに法人税を5年間支払っていませんでした。そして、消費税のおかげで戻し税と称して、支払うどころかガッポリ3300億円もらっていました。プリウスなどを開発するために国から4000億円という莫大は援助金をもらっていました。 
税金は支払わないのに、もうかったお金を株主には高配当を続けていました。ところが労働者の賃上げはせず、非正規の社員は国の援助金がもらえなくなると一斉に首切りました。
 まさしく、自分さえ良ければ、日本という国がどうなろうとかまわないという大企業エゴむき出し。そして、そんなトヨタが日本経団連を牛耳り、政治を動かしているのです。
 こんな世の中、間違ってますよね。
 地震多発国の日本で原発推進を今なおやめない電力会社もひどいと私は思いますが、トヨタも日本の将来を暗いものとしている点では同罪です。
 この本は、データを示して明快に論じています。トヨタの反論を知りたいものです。
 トヨタは、税制の優遇制度をうまく利用したのではない。自社の利益になるように税制そのものを変えた。
 トヨタは、それほどの力をもっているのですね・・・。
 トヨタの最大の罪の一つは、日本の賃金水準を低いままに抑え込んでいる張本人だということ。トヨタは史上最高の利益をあげ、株主に対して毎年1000億円から6000億円も配当している。
 ところが、どんなにもうかっていても従業員の賃金(ベア)は1円も上げなかった。それが8年間も続いた。7万人の従業員に1000円のベースアップしても8億円ほど。1万円でも80億円。株主への配当金とはケタ違いに低い。
 トヨタは、日本の雇用や経済活動への貢献度をどんどん減らしているのに、税制面での優遇だけは増やしている。
 こんなおかしいことって、ないですよね。トヨタの車なんか、もう乗りたくない気分です。ぷんぷんぷん・・・。
(2016年6月刊。1000円+税)

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