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男が痴漢になる理由

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 斉藤 章佳 、 出版  イースト・プレス
日本で初の「痴漢」について専門的に書かれた本。なるほど、初めてというか、改めて痴漢とは何者かを認識することが出来ました。
痴漢とは学習された行動。なので、その行為は、新たな学習や治療教育で止めることができる。
痴漢行為とは、手など身体の一部を用いて、対象者の衣服の上や身体に直接、かつ意図的に接触する、または密着して執拗に押し付ける行為のこと。
平成28年の1年間に、東京で、強姦は140件、強制わいせつは800件、痴漢は1800件が発生した。
世界的にみて、公共交通機関で日常的に、これだけの数の性暴力が頻発している国は珍しい。これは満員電車が多いということと、国としての対策がとられていないことによる。
日本では痴漢による被害が軽視され、痴漢が野放しになっている。
痴漢をしているのは、四大卒で会社勤めをしている、働きざかりの既婚者男性である。つまり、どこにでもいる、普通すぎるほど普通の男性が痴漢をしている。
何らかの劣等感を抱いていたり、自己肯定感が低かったり、人間関係に対して不器用な人が痴漢をしている。
性暴力の加害者には、加害したことを忘れるという特徴がある。
依存症において「治る」とは言いにくい。回復はする。しかし、完治は困難というが現実。痴漢は行為をやめるだけでなく、男尊女卑的な思考パターンを見直し、女性観や性に対するとらえ方が変わらないかぎり、真に回復したとは言えない。
痴漢は、男性優位社会の産物。常に人との関係で優位性を保てていないと不安定になるパーソナリティーの持ち主が痴漢になる。性犯罪をする人は、心のうちに歪みを隠しもっている。この歪みは、自分ではなかなか気づかないし、まして修正するのは、とても困難。
痴漢は、女性を自分と対等な存在とは見ていない。
性風俗店を利用することが痴漢行為の抑止とはならない。
痴漢行為にはスリルとリスクがともなう。捕まるかもしれないというリスクが高いほどスリルを感じ、達成したら測り知れないほどの興奮に包まれる。そして、それはさらなるリスクを背負って痴漢することへの渇望になる。
痴漢は捕まらないための努力をしている。そのために人生のすべてを捧げている。しかし、最大の努力はターゲット選びにある。派手で勝ち気そうで、頭がよくて仕事ができそうな女性は敬遠する。気が弱そう、おとなしそうという女性をターゲットとする。
痴漢同士がネットで競って自慢しあっている。
痴漢と盗撮は、再犯率がきわめて高い。
謝罪の手紙は意味がない。反省を強いて、その責任を追及すると、むしろ再犯率は上がる。痴漢にとって、反省は現実逃避でしかない。生き方を変えることしかない。グループミーティングの場で本人に気づいてもらう。
痴漢からの脱出・人間性回復の方法まで論じていて、とても勉強になりました。
(2017年8月刊。1400円+税)
天神の映画館でイギリス・ポーランド合作映画「ゴッホ最期の手紙」をみました。驚きました。ゴッホの絵が動くのです。実写アニメって、こういうのを言うのでしょうか・・・。
私はアルルの町に行ったことがあります。「星降る夜」の絵が描かれた場所に立ち、そこで泊まって飲食しました。
ともかく、ゴッホの描いた絵が動き出すありさまは圧巻です。ゴッホの絵に関心のある人には必須の映画として、強くおすすめします。私が行ったとき、満席に近い状態でした。
ゴッホの死に謎があるらしいことも分かりましたが、なんといってもゴッホの絵が動くのに圧倒されます。20人からの画家が協力したとのことで、そのなかには日本人女性画家も含まれています。いい映画は人を感動させてくれますね・・・。

知らぬは恥だが役に立つ法律知識

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 萩谷 麻衣子 、 出版  小学館新書
弁護士生活も40年を過ぎてしまうと、自分の法律知識は果たして大丈夫なのかと、つい不安になってしまうことがあります。いえ、認知症の心配をしているのではありません。そうではなくて、新しい法律がどんどん生まれていて、法改正も次々になされているので、ちゃんと追いついているのか不安になるのです。
それで、ときどき、こんな一般向けの法律解説書を読んでみます。すると、やっぱり教えられることが多々あります。
自転車は、車両の一種である軽車両にあたるので、お酒を飲んで運転したら飲酒運転が成立するとのこと。恥ずかしながら、私は知りませんでした。そして、自転車の運転に青切符的な制度が導入されている。自転車についても賠償保険に入っておかないと大変です。
痴漢と間違われたとき、堂々と立ち去れる状況なら立ち去るのがベスト。下手に駅長室に入ってきちんと事情を説明して冤罪だと分かってもらおうとすると、現行犯逮捕されたとして勾留されることがあるのです。怖い世の中です。
過払金の返還について、「消費者問題に取り組む弁護士たちが、苦労の末に勝ち取ったもの」だと著者は正しく評価しています。本当にそのとおりです。過払金の取戻は全国のクレサラ問題対策協議会のメンバーの血と汗の結晶だったのです。
未払残業代の請求について、先日、相談を受けました。2年間の時効の問題もありますが、残業したことをどうやって立証するかがポイントになります。記録、メモ、タコグラフなど、なにか手がかりになるようなものがほしいです・・・。
不倫の慰謝料の相場を、この本は300万円から400万円としています。これは合計金額で、その内訳を夫が200~250万円、愛人が100~150万円とします。福岡でも同じようなものではないでしょうか・・・。
離婚不受理届について、6ヶ月という有効期間がなくなっていることを初めて知りました。取り下げ申請するまで効力があります。
死後離婚というのは姻族関係終了届です。姻族の了解を得る必要はなく、いつでも提出可能。
不倫した社員をそれだけで懲戒処分することは出来ない。何らかのトラブルが起きて業務に支障をきたしていれば別だが・・・。
テレビでコメンテーターしている女性の弁護士のようですが、私も勉強になりました。
(2017年10月刊。780円+税)

アラ還とは面白きことと見つけたり

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 武田 鉄矢 、 出版  小学館文庫
著者は私と同じ団塊世代です(私のほうが1年だけ年長)。
人は折り返さなければならない。人生に「折り返し」の赤標(ロードコーン)を立てるのは、力の限界を決めてしまうことではない。人生に込められたもうひとつの意味を感受するには、赤標を回り、来た道を帰らなければならないのだ。
著者は48歳で赤標を置いたといいます。私は、そのころ、そんなことを考えたこともありません。著者は2011年10月に入信して心臓の手術を受けています。死について学び始めたといいます。
著者が結婚したとき、妻となった女性はまだ21歳。それなのに、いつかこの人のおしめを替える日が来る。それが私の役目だと考えたといいます。信じられません。21歳で、そんな先のことを考えるなんて・・・。私は、20歳のころ60歳になった自分を想像したこともありません。
結婚とは、できそうにないことを無理に約束するところに本質がある。
ええっ、こんな本質的な定義があるって、本当でしょうか・・・。
女は終わりに向かって、男は始まりに向かって、それぞれ歩き出す儀式が結婚なのだ。もし結婚なくば、女は終わりなき少女のまま死なねばならず、男は始まりなき少年のまま死ぬことになる。その死には老いがないので、想像できないほどの苦痛を伴うだろう。
いやはや、私にとって結婚できて良かったとしか言いようがありません。生涯未婚の男女が今の日本では2割前後にまで増えているそうです。では、この人たちはどうなりますか・・・。
著者の家庭内の葛藤が生々しく描かれていて驚きました。酒乱の父と成績の良い兄との激しい対立とケンカが絶えず、仲に立っておろおろする母親・・・。大変だったようです。
著者は「母に捧げるバラード」でミリオンセラーとなって世に出ましたが、それまでは苦節が続いていたようです。映画「幸せの黄色いハンカチ」に出演して、一挙に役者としても注目されました。そして、「金八先生」です。実は、私はテレビを見ませんので、一回も見たことはありません。大学では教員養成課程にいて歌手・役者になったわけですが、教師役を長く演じて、考えるところが大きかったとのことです。
心臓手術を受けた状況が紹介されていますが、見事な文章です。情景描写が細かく、患者心理の変化も手にとるように分かります。たいしたものです。
そして、「母に捧げるバラード」を劇にしたときの台本も著者が考えたというのです。すごいですね。なにしろ、母親役を息子である著者がやるというのですから、発想が奇抜です。私は劇も見ていませんが、爆発的な人気を呼んだようですね。
大学の同窓会の話、そして一緒に勉強していた女性の話は、泣かせます。著者が少しばかりイラッとしたというのも理解できますが、本人は病気で先が長くないと知っていたのでしょうね。許せる話です。
著者の文才に改めて目を見開かされる文庫本でした。
(2017年10月刊。570円+税)

過労死ゼロの社会を

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 高橋 幸美・川人 博 、 出版  連合出版
電通に入社して1年目に過労からうつ病になって自死した女性について、母親と代理人弁護士が電通の異常すぎる労働環境を厳しく弾劾しています。
就職人気ナンバーワン企業の一つに夢をもって入社した有能な女性社員をたちまち死に追いやるなんて、絶対に間違っていると思います。
亡くなった高橋まつりさんのつぶやきが残っています。
「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
「女子力がない」
ひとすぎますよね、この上司のコトバは・・・。いったい、どんなキャパをもった上司なんでしょうか。
まだ24歳の女性が1日に2時間しか眠れない、週に10時間しか眠れない。そんな状況に追いやっていながら、それを知らないわけはない上司が「眠そうな顔をするな」「充血した目で出勤してくるな」なんて、どうして平気で言えるのでしょうか・・・。ここまでくると、社蓄ならぬ鬼畜ですよね。
残業も月に20時間なんてものではありません。週に47時間なのです。それはもう「ムダ」というレベルをとっくに過ぎています。
電通は、表向きはフラッパーゲートを全員に通過させることで出退勤時間を制限しようとしていました。ところが、上司は実際にあわない「残業時間」を押しつけたうえ、それは「社内飲食」のため、勝手に従業員がいていたことにしようとしたのです。ひどすぎます。
さらに、電通は新人社員に深夜に乾杯のしかた、花束贈呈のしかた、さらには二次会を予約するときには偽名をつかい、ウソの電話番号を言うように指導していたのです。まるっきりヤクザの経営するブラック企業のやり方ですね、これって・・・。
電通は国政選挙で自民党を指導し、国民だましの手口をすすめているという指摘がありますが、社内でも社員にだましの手口を教え込んでいたのですね、信じられません。
これが天下の電通の正体かと思うと、他人事(ひとごと)ながら腹が立ちます。
そして、高橋まつりさんのつぶやきを読んで、私はつい不覚の涙をこぼしてしまいました。どんなに辛かったろうか・・・と思いました。前途ある有能な女性をここまで追いやるなんて、あまりに可哀想です。
「もう4時だ、体が震えるよ・・・。しぬ。もう無理そう。疲れた」
「かなり体調がやばすぎて、倒れそう」
「生きるために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなって・・・」
高橋まつりさんの過労死が社会の大きな注目を集めたのは、働く人々が「自分も同じ境遇」と受けとめ、50代や70代は、「自分の息子・娘は大丈夫か」、80代以上は「自分の孫は・・・」と心配しているからだろう。
まさしく、そのとおりですね。現にこのあとNHKの女性記者の過労死も報道されました。
この本を読んで、多少なりとも救いがあるのは、社長が退陣したあと、電通の幹部社員に向かって川人弁護士が労働条件改善について講演し、まつりさんの母親も訴える場が与えられたということです。
人間を金銭に置きかえてしか評価せず、働く人を大切にしない企業は社会に存在価値はないということをみんなでしっかり確認する必要があると痛感した本でした。
川人弁護士から贈呈を受けて紹介します。いい本です。ありがとうございました。
(2017年12月刊。1500円+税)

ヘンな浮世絵

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 日野原 健司 、 出版  平凡社
歌川広重は有名ですが、その弟子に歌川広景(ひろかげ)という浮世絵師がいたって、私は初めて聞きました。
知る人ぞ知る無名の浮世絵師で、その正体は謎。広景の代表作は、「江戸名所道戯尽(どうけづくし)」。老若男女の江戸っ子たちが、江戸の名所を舞台に、笑ったり、騒いだり、転んだりと、見ているほうが思わず脱力してしまうユーモラスな姿で描かれている。さしずめ「お笑い江戸名称」と言ってよい珍品。
ばかばかしさが満載の「ヘンな浮世絵」です。ぜひ一度、手にとって眺めてみて下さい。ニンマリ、ニッコリ、ホッコリしてくること請けあいです。師匠である歌川広重、そして葛飾北斎の描いた絵を平然とパクっているというのも特色です。
この「ヘンな浮世絵」が描かれたのは幕末のころ、安政6年(1859年)から、文久元年(1861年)までの2年8ヶ月あまり。社会が大きく揺れ動いているなかでマンガみたいな浮世絵が刊行され、江戸町民の人気を集めていたのでした。
犬のケンカがあり、馬が暴れて運んでいた料理が空を飛び、トンビが油揚げをさらっていく。ナマズが蒲焼屋から脱走し、子どもが水鉄砲で遊んでいて通りかかった武士に水をかけてしまう。さらに、いろんな人がすってんころりんしている姿がユーモアたっぷりに描かれます。
東大本郷の赤門(加賀藩前田家上屋敷の御守殿門)前を、男たち3人が突然の雨で、1本の傘しかないので2人が下になって1人を肩車で担いで傘をさす姿が描かれています。ナンセンスなマンガそのものです。幕末のせちがらい世の中だったからこそ、人々はこんな笑いを求めていたのでしょうか・・・。
知っていて損はしません。江戸の人々の生きた姿を実感できる楽しい本です。
(2017年8月刊。1700円+税)

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