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スカートをはかなきゃダメですか?

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 名取 寛人 、 出版  理論社
形は女性だけど、心は男性。元トロカデロのバレエ団ダンサーになった人が女性から男性に変わる人生をたどっています。
小学生のときから女の子であることを断固として拒否して大きくなってきたというのですから、すごいですね。スカートの代わりにジャージ姿で通しています。着物姿なんて、とんでもありません。でも、生理があるようになるのでした・・・。
「世界的に有名な男性だけのバレエ団で活躍した唯一の日本人。名取寛人が語る、女として生まれて、男になるまで、そして夢のかなえかた・・・」
小学生のころ。「男の子らしいね」と言われることがしたかったかというと、そういうわけではない。ぼくは、ただぼくなだけで、「女の子だから」という言葉には違和感しかなかった。
それでも、著者は恵まれていたようです。母親(父親は離婚して、いません)は、いつでも、どんなときでも著者の味方になって、著者を安心させてくれました。偉いですね、この母親は・・・。そして、友人も教師も著者も変な扱いはしなかったようです。
高校では器械体操でがんばります。見かけは女性でも心は男性ですから、当然、女性を好きになります。でも、恋の告白はうまくいきません。
そして、男装した女性が接客するバーで働くようになります。1ヶ月たつと、ナンバーワンになったのでした。そして次はショーパブの世界へ。ここでもすごい人気。プレゼントしようという人が行列をつくって、30分も並んでいたといいます。ところが、4年たって、このままでいいのかと疑問を感じて、29歳のときアメリカはニューヨークへ行くのです。その前に胸を除去する手術を受けています。
ニューヨークではダンスのレッスンを受けていたのですが、ある日、バレエのレッスンを受けるようになります。そして教師に恵まれてトロカデロのオーディションを受けて合格。
著者は高校まで器械体操をしていましたが、その経験はバレエには生かせないといいます。
器械体操はスポーツで、バレエは芸術。筋肉をつかい、力を入れて、手や脚をまっすぐに伸ばすのはバレエではない。ジャンプするとき、器械体操は筋肉で跳ぶが、バレエは身体のバネをつかって跳ぶ。器械体操とちがって、バレエは身体の力を抜くことが重要なのだ。
この違いって、門外漢の私にはまったくピンと来ませんでした。
著者は、31歳のとき、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に入団した。日本人として初めてだった。トロカデロにとって、日本はビッグマーケットになっている。著者は8年間、トロカデロで出演し、38歳で日本に帰国した。
その前に性別適合手術を受け、その結果として戸籍を男性に変更し、パスポートの性別も男性にした。
身と心が異なる人がこんなに多いのかと改めて驚き、かつ心配になりました。現代日本人がますますアメリカのように偏狭となって寛容の精神を失っている状況では、LGBTの存在が広く認められるのは容易なことではないように思われます。その意味で、本書が「フツー」の日本人の意識を根本的に変えることにつながることを心願います。ご一読ください。
(2017年8月刊。1300円+税)

反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版  日本評論社
昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)

亡国の武器輸出

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 池内 了・青井 未帆・杉原 浩司 、 出版  合同出版
アベ政治は、いろんな点でひどい、ひど過ぎますが、日本が「死の商人」となって海外へ武器を大々的に輸出するようになったことも、安保法制と同じ動きですが、私には絶対に許せません。
「死の商人」は、世界が平和であっては商品が売れないので困ります。世界中で紛争が起きて、戦争になることを願うのです。そして、彼らは波風を立てることまでするのです。それが一貫したアメリカ政府のやり方です。アメリカでは産軍複合体が権力を握っています。そのことをいち早く警告したのが、なんと軍人出身のアイゼンハワー大統領だったということには驚かされます。
アベ政権はそれまでの武器輸出禁止政策をやめて、2014年4月に「防衛装備移転三原則」を定めて武器輸出を全面解禁した。
ただ、日本人にとって少しだけ胸をなでおろすのは、事情を知った国民が武器を輸出する企業を「死の商人」として指弾するだろうことを恐れて、輸出にためらっていることです。しかし、それも時間の問題でしょうね・・・。
日本は2006年にインドネシアに海賊対策の名目で巡視船艇(鋼板が厚い)をODAで支援・送り込んだ。また、オーストラリアへ潜水艦に売り込む寸前までいった。
日本で軍需産業が栄えると、その利権にむらがる連中がはびこります。かの天皇とまで呼ばれた守屋武昌防衛事務次官の汚職・腐敗がその典型です。そして、防衛省の幹部職員が大量に軍需産業へ天下りしています。三菱重工業26人、三菱電機23人、日本電気21人、東芝19人、富士通15人。IHI16人などです。みんなで、甘い汁を分けあっているのです。
大学の研究まで軍需産業が入っています。それは研究予算が年々削減されるなかで進行していますので、「研究者版経済的徴兵制」と名づけられているほどです。
軍事的紛争の解決に軍事的対応しても本当の解決にならないことは世界の現実が教えています。目先のお金に踊らされることなく、世界の平和を守るために声を上げたいものです。
(2017年9月刊。1650円+税)

チャヴ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 オーウェン・ジョーンズ 、 出版  海と月社
チャヴとは、イギリスの労働者階級を侮辱することば。この差別用語は、ロマ族のことばで「子ども」を指す「チャヴィ」から来ている。いまや、インターネットでは、チャヴを笑い物にする悪意が満ちている。ロンドンの中流階級は下の階級に不安や嫌悪感をもっていて、それがうまく利用されている。なぜ、労働者階級への嫌悪感がこれほど社会に広がってしまったのか・・・。
チャヴということばには、労働者階級に関連した暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存など、あらゆるネガティブな特徴が含まれている。
「プロール」とは、プロレタリアートを短縮した軽蔑語で、貧しいから無価値という意味を伝えている。
これには驚きました。マルクス『資本論』発祥の地でプロレタリアートが馬鹿にされているなんて、信じられません・・・。
最下層の人々を劣等視するのは、いつの時代でも、不平等社会を正当化する便利な手段だった。
労働党の議員には、かつては工場や鉱山の現場からスタートした人が多かった。今では、肉体労働していた議員は下院に20人に1人もいない。国会議員のうち、私立校出身者は国民平均の4倍以上。保守党議員は5人のうち3人が私立校の出身者だ。
イギリスのエリートには、中から上にかけての中流階級出身者があふれている。貧困者が犯罪を起こせば、似たような出身の全員が非難はされる。これに対して、中流階級の人間の犯罪はそうはならない。
公営住宅に住んでいるのは貧困層だけ。公営住宅の半数近くは、下から5分の1までの貧しい地区に存在する。30年前は、上から10分の1にあたる富裕層の20%が公営住宅に住んでいた。そのときと現在はまったく様変わりしている。
公営住宅にはイギリスの最貧層が住んでいるので、その地域はチャヴに結びつけられる。公営住宅は、社会の掃きだめのようになってきている。
イギリスの保守党は、裕福な権力者たちの政治執行部門だ。保守党の存在意義は、トップに君臨する人たちのために闘うこと、ここにある。それは、まさに階級闘争だ。ところが保守党は、多くの巧妙な手段で労働者階級の「個人」の機嫌をとって選挙に勝っている。
炭鉱労働者のストライキが敗北したとき、炭鉱労働者はイギリス国内でもっとも強力な労働組合をもっていたのに大敗してしまった。それでは、ほかの者にどんな希望があるというのか・・・。炭鉱労働者を叩きのめせるなら、ほかの誰でも叩きのめせるということ。残ったのは、長年の失望と敗北主義だった。この現実はイギリス映画『ブラス』とか『パレードにようこそ』によく反映されていると思います。
サッチャーたちの攻撃が始まったとき、イギリスの労働者の半数は組合員だった。それが1995年には、3分の1まで後退していた。
イギリスの貧困者は、1979年に500万人だったのに、1992年には1400万人になった。しかし、サッチャー哲学は、「貧困」は現実には存在しないとする。貧しい人々は、自分で失敗しただけのこと。貧困らしきものはあるかもしれない。しかし、それは個人のごく基本的な性格の欠陥だけのこと、こう考える。
いやはや、「自己責任」の論理で「貧困」をないものとするのですね。今の日本とまったく同じですよね、これって・・・。
サッチャーの得票率は最高でも44%。有権者全体の3分の1以上の支持は得ていなかった。それでも、サッチャーが勝ち続けたのは、サッチャーを支持しない熟練と半熟練労働者の60%がどうしようもなく分裂したからだ。
サッカーは、長く労働者階級のアイデンティティの中心にあったスポーツだ。ところが今では、億万長者のよそ者が支配する中流階級の消耗品になってしまった。労働階級のファンは、愚かな暴力に熱中する攻撃的なフーリガンと見なされ、排除されている。
イギリスは、今では階級のない社会という幻想がすっかり定着してしまっている。しかし現実には、これまで以上に階級化されている。
貧困層をマスコミが攻撃し、民間労働者に公務員への敵意をあおる。これって、まるで、現代日本でやられていることですよね。日本の近未来が、こうあってはならないと思わせるに十分なイギリス社会の矛盾を鋭く分析した本です。
(2017年9月刊。2400円+税)

中国はなぜ軍拡を続けるのか

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 阿南 友亮 、 出版  新潮選書
中国の軍事的脅威を真顔で語る人がいるのに、私は驚きます。中国へ実際に行ってみると、とても「共産主義の国・中国」とは思えません。日本以上に資本主義国として発展しているとしか思えないのです。
なるほど、中国の「国防費」は90年代以降ほぼ毎年10%以上増え続けていて、その総額はアメリカに次いで世界第二位の規模に達している。しかし、中国の軍事力は、その内実が問題です。この本は、中国の軍事力の実体を描き、議論しています。
中国をよくみると、国家、とりわけ主権を独占していると共産党と主権へのアクセスを事実上もっていない民間社会とのあいだに根深い相互不信と緊張状態があることが分かる。
習近平政権は「7つの禁句」(七不講)を示してる。普遍的価値、報道の自由、市民社会、市民の権利、党の歴史的な誤り、特権資産階級、司法の独立。うひゃあ、司法の独立もタブーなんですね。そう言えば、中国司法官のトップがナンバー2とともに最近、逮捕・失脚しましたよね・・・。2兆円の不正蓄財というのですから、本当だとしたら、恐るべき構造的汚職構造があることになります。そんなシステムが出来ていたということでしょうから、決して一人ではやれるはずがありません。
中国の人口の6割以上を占める農村戸籍保持者は、社会保障面で制度的にないがしろにされていて、不当に厳しい生活を強いられてきた。
中華民族が太古の昔から存在したというのはフィクションにすぎず、実は100年前から提唱されているものにすぎない。
中国は、一見すると強大な国に見えるが、実はまとまりに乏しい。中国社会の内部で富の偏在が深刻化し、これが中国社会を引き裂きつつある。
中国の特権サークルにいる人々は、中国国内よりも海外にお金を落とすことを好んでいる。中国の富裕層の6割が移民の準備をすすめている。党幹部の多くは、相も変わらず権力と国有資産を駆使して大金を蓄え続けている。習政権の唱える「反腐敗」闘争も、党幹部の広範な利権を守るための巧妙な「人治」の一手段である。
中国解放軍は、実質的に共産党内の武装部門の担い手。軍隊の最重要任務は、共産党の独裁体制を防衛することにある。
解放軍の将兵は230万人。中国人民武装警察は66万人。そして人民警察が200万人。民兵部隊は400万人。合計1000万人ものボディガードによって中国共産党は守られている。
中国解放軍は戦争経験の豊富な部隊である。大躍進と文化大革命は、中国社会にあった共産党に対する高い期待と信頼を著しく傷つけた。
中国における究極の権力の源泉は、国家主席でも共産党の総書記でもなく、共産党中央軍事委員会主席である。
毛沢東は、40年間、軍隊の最高指揮権を握っていたからこそ、文化大革命という暴力の祭典を開催しえた。
中国解放軍はベトナムの民兵に対しても大苦戦を強いられた。中越戦争によって解放軍はショック状態に陥った。
鄧小平は、解放軍が部門・部隊ごとに自前で企業を設立し、ビジネスを展開することを期待した。軍ビジネスの発展は、当然ながら、解放軍の腐敗を進行させた。
解放軍の兵力は90年代以降、増えていないどころか、減り続けている。ところが人件費は増えている。そこには解放軍将兵の待遇改善をはかる意図が見えてくる。
解放軍の空軍のもつ航空機は4000機をこえている。しかし、そのうち3000機は、1950年代のソ連が開発した代物である。解放軍のもつ唯一の空母は、ソ連の空母をスクラップ状態になっていたのを解放軍が格好の値で購入して、改修したもの。
解放軍の海軍・空軍の戦力は、ようやく1980年代のソ連軍の水準にまで来たばかりということ。
共産党は、中国国内からの一党支配体制に対する異議申立を暴力で封じ込め、アメリカを中心とする同盟のネットワークに力で対抗する意図をすてない限り、党の軍隊の待遇改善と装備充実について手を抜くことができない。
最後のところに、この本のタイトルにある疑問が解明されます。中国の現在(とくに政治・社会)をふまえた的確な現状分析本だと感嘆しました。一読をおすすめします。
(2017年8月刊。1500円+税)

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