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誰のために法は生まれた

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 木庭 顕 、 出版  朝日出版社
ローマ法を専門とする東大名誉教授が桐蔭学園の中学・高校生30人と語りあったゼミ形式の授業の記録です。
午前中に映画をみて、午後から教授の問いかけに生徒たちが答えていくようにして進んでいくのですが、その問答の奥深さには思わずのけぞりそうになります。
まず映画がすごいです。溝口健二監督の『近松物語』は1954年制作です。役者は長谷川一夫と香川京子ですから、まさしく美男美女。この二人は最後のシーンでは市中引き回しのうえ処刑されるわけですが、それに至る過程を丹念に拾って議論していく様子は、心が震えます。私が高校生だったら、とてもついていけなかったでしょう。
最後の市中引きまわしのときの晴れ晴れとした香川京子の笑顔は衝撃的ですが、その解釈が見事なのです。
江戸時代、姦通したら死刑にするというルールがあった。ましてや主人の妻と奉公人の男性の姦通なら、即死罪だったでしょう。そこで、法とはいったい何なのかが問われるのです。
名誉教授は、法は追い詰められた人のためにあると言います。
グルになった集団に抵抗するために法はある。こういう集団を完璧に解体するためにある。こう言われても、私には、よく分かりませんでした。ぴんと来ないのです。
法学部にいくと、第一にものすごい眠気が起きる。次に言いようのない虚(むな)しさが漂う。この点は、私も司法試験の受験勉強をはじめる前は、たしかにそうでした。しかし、目的のための手段だと割り切れば、それなりのものではありました。論理的思考力が身につきましたからね。
次の映画は1948年のイタリア映画『自転車泥棒』です。昔、私も一度だけは観たような気がします。この映画を素材として議論が展開します。それが、すごいんです。
そこでは、泥棒の何がいけないのかも問われます。だって、メシが食えない状況に置かれているのです。そして、男の子と父親の関係も微妙です。自転車を盗まれて仕事ができなくなり、切羽詰まった父親が息子に知られないようにして他人の自転車を泥棒して、見つかってしまう。あやうく群衆にリンチにされそうになったときに息子が出てきて助かるのですが、その意義はどこにあるのか・・・。
さらにギリシア悲劇を素材にしたあと、最高裁の昭和40年判決まで議論の対象となります。名誉教授の博識とすご腕には圧倒されました。といっても、私より年下だというのが、悔しい事実でもあります。
いやはや、とんでもない授業でした。もちろん、そんなハイレベルの授業に脱帽という意味です。もっとも、この授業に参加した生徒たちが法学を勉強してみようと思うようになったのか、私にはやや疑問なしとしませんでしたが・・・。
(2018年8月刊。1850円+税)

憲法が生きる市民社会へ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 内田 樹 ・ 石川 康宏 ・ 冨田 宏治 、 出版  日本機関紙出版センター
いまの日本社会をどう考えたらよいのか、アベ流改憲の恐ろしさの本質はどこにあるのか、深く思い至ることのできるブックレットでした。80頁あまりの薄さで、値段も800円です。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
カナダはGDPが日本の3分の1、兵力で日本の4分の1だけど、国際社会から敬意と共感を得ている点は、日本を圧倒している。
まことに、そのとおりです。日本なんて、アメリカの属国だと国際社会ではみられていると思います。日本国内のいたるところにアメリカ軍の基地があり、治外法権みたいな状況で、莫大なお金を貢いでいる残念な現実がそれを裏付けています。
自民党には、今では1800万票しか票が入らない。投票所に足を運ばない人が2000万人もいる。
どうせ選挙に行ってもムダだ、変わらないと考えている人が自民党政権を支えているわけです。
いまの日本の政治が劣化した最大の原因は「語るべきビジョンがない」ことにある。アベ首相たちが語る「戦前回帰」、軍事力信仰、そして「日本はすごい」キャンペーンは、日本の未来に見るべき希望がなくなった人たちが過去の栄光を妄想的につくり出して、それを崇拝するという、苦しまぎれのソリューションだ。つまり、未来に何も期待できないので、妄想的に「美しい過去」を脳のなかで構成して、そこに回帰しようとしている。彼らは、20年後、30年後の日本について語ることが出来ない。
そうなんですよね、戦前の日本は良かっただなんて、とんでもないことです。
いまの天皇が護憲派であることはアベ首相もよく分かっている。なので、天皇の退位宣言以降、天皇に対する激しい嫌がらせをしている。アベ首相が集めた「有識者」会議には、天皇を平然と罵倒する人物もいた。「天皇は黙って祈っていればいいんだ」と彼らは言う。天皇崇敬の念は彼らに感じられない。現実の天皇が何を考え、何を願っているか、なんて彼らは何の興味もない。
でも、私たちは希望を捨てることなく、新しい日本の姿を展望しつつ、一歩一歩たしかに前進していきたいものです。沖縄の県知事選挙、那覇市長選挙の勝利は、それが可能だということを証明しているのですから・・・。
(2018年5月刊。800円+税)

蜂と蟻に刺されてみた

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ジャスティン・O・シュミット 、 出版  白揚社
ハチとアリに刺されると、どれくらい痛いのか、その痛さに等級をつけてみた。自分の身体を提供してのこと。いやはや、とんだ商売ですね、学者って・・・。
等級はレベル1からレベル4までの4段階。セイヨウミツバチに1回刺されたときの痛みの強さをレベル2とし、これを評価の基準とする。ミツバチは世界中にいて、ミツバチに刺された人は多いので、評価の基準にしやすい。
ミツバチに鼻や唇を刺されると、本当に痛い。しかも、唇を刺されると、必ず腫れあがる。
ミツバチの毒液は、昆虫の毒液のなかで最高レベルの殺傷力をもっているうえ、分泌される量も多い。コロニーとしての殺傷能力は非常に高く、全体を集めたら、10人あまりの人間の生命を脅かすのに十分だ。
ゾウを追い払うため、アフリカでは畑の周囲にミツバチの巣をかけておく。ミツバチは、ゾウの弱点である眼と胴の腹側を狙って刺針攻撃をしかける。ゾウはたまらず逃げ出し、もう近づいてはこない。
ミツバチはNASAの実験で1982年と1984年の2回、宇宙を旅行している。無重力の環境下でもミツバチは六角柱の並んだ正常な巣をつくった。無重力空間でも、方向や位置をミツバチが間違えることはなかった。
アマゾン川の流域では、アリに刺されて、その痛みを我慢できるのか成人になる通過儀式となっているところがあるそうです。男の子のほうが強い痛みに耐えなければいけませんが、女の子には少しレベルを落として痛みをガマンすることが求められるといいます。いやはや・・・。
日本にもヒアリが侵入しようとしていますが、北米ではヒアリが相当侵食しているようです。
ヒアリ退治のつもりで空から有毒な殺虫剤を大量にまいたところ、逆効果だったそうです。ヒアリ以外のアリが殺虫剤でやられてしまい、肝心なヒアリは生きのび、かえって競争相手のいなくなった草原に展開していった。
ヒアリを殺すには、10リットルの湯を沸かして、蟻塚の真ん中に熱湯をゆっくり流し込む。これで、幼虫だけでなく、女王までも殺すことができる。
庭仕事をしていると、ときに痛い目にあいます。ダニかなと思っていましたが、この本を読んで、ひょっとしてアリだったかもしれないと思い、はっとしました。
ハチとアリと人間の生活との関わりを考えた、とてもユニークな生物の本です。でも、まねして刺されてみようなんては、ちっとも思いませんでした。
(2018年7月刊。2500円+税)

「資本論」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 マルクス 、 出版  講談社
講談社が、まんが学術文庫なるものを創刊したのですね、知りませんでした。
マルクス『資本論』には、少なくとも3度は挑戦しています。学生時代に1度、弁護士になってから1度。それぞれ分からないながらも、なんとか読み通したつもりです。そして、もう1回、時期は忘れましたが、挑戦したように思います。
『資本論』は、部分的には分かるところもありましたが、全体としての経済理論は、ついによく理解できないままでした。大学1年のときには、有名なサムエルソンの『経済学』も読みましたが、こちらも、さっぱり訳が分かりませんでした。要するに、この人は何が言いたいんだろうか・・・、そんな疑問が私をとらえて離しませんでした。経済学って難しいというか、まるでピンと来ませんでした。それより、法理論のほうが、よほど私の性分にもあい、理解できました。
そこでマンガで『資本論』を語ると、どんな展開になるのか・・・。ストーリーがあります。『資本論』の記述の説明マンガではありません。
19世紀イギリスの現実社会のなかでもがく若者たちが、パン屋から起業してスーパーを展開し、土地を所有して地代を稼ぐ地主階級を没落させていくというストーリーです。なかでは労働者階級の悲惨な状況も描かれていて、なかなか読ませ、考えさせる展開になっています。
ははーん、こうやって労働者を搾取する支配階級がつくられていくんだな・・・。マンガですから、当然、視覚的な分かりやすい展開です。
しっかり『資本論』を勉強した気分になるのは、さすがです。
(2018年4月刊。680円+税)

ソウルフード探訪

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  中川明紀 、 出版  平凡社
 東京では、諸外国のソウルフード(魂食)が食べられるんですね。
現在、日本には255万人もの在留外国人がいる。これからもっともっと増えることでしょう。安倍首相のように「美しい国・日本」とか「日本古来の伝統を守れ」なんて言っていると、それはヘイト・スピーチにつながり、嫌韓・嫌中そして排外主義に結びつきます。テニスの大坂なおみさんの活躍は目を見張るものがありましたが、それまで少なくない日本人がハーフだとか言って、日本人だとは認めてこなかったようにも思いますが、いかがでしょうか・・・。でも、日本に住む人は昔から決して単一民族ではなかったのですから、認識を改めるべきなのです。
最新の新聞(2018年9月25日の日経)によると、東京に住む外国人は54万人近くで、この5年間に4割も増えた。一番多い新宿区には4万2千人もの外国人がいる。大久保1丁目の住民の半分は外国人。東京都下で外国人の住民がいないのは、八丈島の隣の青ヶ島村だけ。江戸川区の西葛西あたりにはインド人が4千人近く居住しているし、新宿区の高田馬場あたりにはミャンマー人が2千人をこえる。北区の東十条にはバングラデシュ人が1千人をこえ、横田基地のある福生市にはベトナム人が9百人近く住んでいる。葛飾区にはエチオピア人が70人以上いる。
となると、東京都内にそれぞれのお国自慢の料理があって、何も不思議ではありません。著者は、その一つ一つを食べ歩きます。楽しいソウルフード探訪記です。
それにしても、南米原産の唐辛子が、はるか遠いブータンの人々の料理に欠かせないものだなんて、驚かされます。唐辛子は韓国料理とばかり思っていました。ピラフはフランス語だそうです。そして、そのルーツはトルコ料理のピラウにあるとか。
今、日本には2300人ものヴズベキスタン人がいるそうです。ロシア料理の定番のボルシチは、実はウクライナ料理。ウクライナ語でボルシチは草を意味し、転じて薬草の煮汁を表しているとのこと。
著者が東京で食べた異国のソウルフードは60ヶ国にのぼるそうです。胃腸が相当丈夫でないとやっていけませんね、きっと・・・。
(2018年5月刊。1600円+税)

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