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新時代「戦争論」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マーチン・ファン・クレフェルト 、 出版  原書房
戦争をする者は、あくまで勝利を得るために戦うのであって、ありとあらゆる理論を試すために戦うのではない。なーるほど、それはそうでしょうね・・・。
二つとして同じ戦争はない。人間の歴史と切り離せない戦争そのものが絶えず変化しており、今後も変化し続けるだろう。うむむ、なるほど、そういうことですか・・・。
時代を問わず、多くの兵士が、敵を殺すのはセックスするようなものだと語っている。人間のどんな行動も、それを愛好する人こそが、それをもっともうまくやる。
経済問題のみが原因で起きた戦争は、ほとんどない。とはいえ、経済的な原因が、おそらく大半の戦争に関わっていることも真実である。
戦闘部隊が全兵力に占める割合は、1860年は90%だった。その100年後の1960年には25%にまで減少した。そして、1990年ころから、民間への業務委託が始まり、割合が増加しつつある。
第一次世界大戦までは、軍事物資の大部分は何より食料と飼料だった。現代では、弾薬や燃料、潤滑剤、戦場で運用される装備品の予備の量が大幅に増えている。戦場で兵士1人の1日の活動を支えるのに必要な物資の量は、以前の30倍に増えている。
アメリカ軍に、ドローン運用者にストレス症候群を訴える人が多い。これは、戦争がビデオゲームになっていないことの証明だ。戦争は今もって人間的なこと(古代ギリシアのツキディデスの言葉)なのだ。
サイバー戦争から身を守る最善の方法は、コンピューターに頼らないこと、少なくともコンピューター同士をつなぐネットワークを使わないこと。しかし、これってかなり無理ですよね。
核兵器の偶発的な爆発が起きなかったのは奇跡と言ってよいくらいだ。核兵器の抑止と強要のゲームは、じつに愚かしく、非道なものである。核兵器の使用は瞬時に、ほぼ完全に人類が滅亡してしまうレベルのものだ。
朝鮮半島で戦争が終結することの意義は限りなく大きいものがあります。日本政府は「圧力」ではなく「対話」に路線を転換すべきです。それが出来ないアベ首相は辞めてもらうしかありません。
(2018年5月刊。2600円+税)

「マーチ」 2・3

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン 、 出版  岩波書店
アメリカという国が、いかに暴力と偏見に満ちた国であるか、心が震えてくるマンガ本です。でも、それに非暴力でたたかった黒人集団がいて、ともに歩んだ白人たちがいたことも知り、アメリカはまだ捨てたもんじゃないな・・・、とも思わせます。
それにしても、アメリカでの黒人差別はすさまじいものがあります。白人と対等な口をきこうものなら、ボコボコ乱暴されるのはまだいいほうで、殺されても殺した白人は逮捕もされないというのです。今でも、200万人いるというアメリカの刑務所人口の半分以上は黒人が占めているのでしょう。
黒人は「白人専用」と書いたトイレを利用することは許されない。
白人と同じようにカウンターに座って商品を注文しても無視されるだけ。
投票するために有権者として登録しようとすると、黒人だけは読み書きテストを受けさせられて、不合格とされる。いえ、その前にテスト自体も受けることができない。
差別主義者の白人が黒人の教会を爆破して黒人の少女たちが亡くなります。黒人が平和に行進していると、白人の警官隊が警棒をもって非武装・無抵抗の黒人の男女を殴る蹴る。そして抵抗したといって拘置所に収容する。
法治国家どころではありません。野蛮な国です。
黙っていると殺される。現に何人も、何住人も野蛮な白人たちに仲間が殺されるのを前にして、このまま非武装・無抵抗の行進(マーチ)を続けていいのか。それにどれほどの意義があるのか・・・。それでも、生命の危険を賭して、平和行進を続けるのですから、本当に勇気があります。心が震えます。
映画『ミシシッピー・バーミング』の話も出てきます。黒人の権利を擁護するためにミシシッピ州に入った白人青年たち3人が警察の検問を受けたあと行方不明になった事件です。FBIなどの捜査によって3人の遺体が発見されました。犯人は州の権力者仲間だったのです。
ケネディ大統領が暗殺され、マルコムXも暗殺される大変な状況のなかで、ジョンソン大統領は公民権法の制定についに踏み切った。
バラク・オバマがアメリカの大統領として、いったい、どれだけの実績を上げたというのか、振り返ってみると、いささか疑問がないわけではありません。ノーベル平和賞に本当に値したのか、いささか疑問はあります。でも、それでも今のトランプ大統領の知性のなさには呆れ、かつ恐れます。ちょうどアベ首相の無知蒙昧と同じレベルです。そんなアベ首相が三選されそうだというのですから政権党の知的劣化はとどまるところを知りません。
マンガ本で知る、アメリカの黒人運動、公民権運動といったおもむきがありました。
マンガ本にしても少々値がはりますので、ぜひ図書館で借りてお読みください。
(2018年5月刊。2400円+2700円+税)

明治の技術官僚

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 柏原 宏紀 、 出版  中公新書
申し訳ないことに「長洲ファイヴ」も長州五傑(ごけつ)も私は知りませんでした。映画化もされているようです。
明治になる前の幕末、長州藩からイギリスに密航した5人の藩士がいた。伊藤博文、井上馨、井上勝、遠藤謹助、山尾庸三。もちろん、伊藤博文と井上馨は知っています。私が知らなかったのは残る3人です。井上勝は、日本における鉄道の導入そして拡大を主導した人物として、東京駅前広場に銅像が立っている。うひゃあ、そ、そうなんですか・・・。遠藤は、近代的な造幣事業(要するに紙幣、お金です)のスタート段階で大きな役割を果たした。山尾は、工部省の創設に関わり、鉄道、電信、造船などに尽力した。
このように、3人とも明治政府における官庁に属して活躍するという官僚人生を歩んだ。いずれも技術官僚だった。そして、老年に近くなるまで、長く政府内にとどまった。
長州藩は攘夷というだけでなく、西洋に藩士を派遣して新知識を習得させて導入しようという度量の広さも持ちあわせていたのですね。すごいことです。
1人あたり1000両かかるということで、藩は1人200両を出し、商人から5000両借金(押借、おしがり)して工面した。長州藩は、極秘に硬軟両様で時局にのぞんでいたのだ。
この5人がロンドンに到着したのは183年(文久3年)のこと。伊藤と井上馨はわずか7ヶ月で日本に帰国したが、残った3人は、専門性を身につけていった。イギリスでは、薩摩藩からの留学生とも交流していたようです。
明治5年に京浜間で鉄道が開通した。山尾・工部省の所管だった。それまでは、多くの人が道路建設を優先させよと言っていたが、今では、早く東京から青森や京都まで鉄道を敷設せよと希望していると山尾は報告した。
井上勝は、鉱山頭兼鉄道頭となり、次第に鉄道専任の官僚となっていった。
明治初めごろのお雇い外国人の給与は高額だった。太政大臣の月給が800円だったのに、鉄道差配役カーギルは2000円、建設部長ギイルは1250円。そして、400円クラスの外国人が複数いた。
長州五傑は、密航留学経験に由来する専門性を基盤として明治政府で活躍した五人組だった。
著者は五人組の陰の部分も指摘しています。
要するに、過激なテロ行為に加担し、政治外交を大きく混乱させた。伊藤博文も若いころはテロリストだったのですよね。そして、明治政府で自己主張が強くて組織の秩序を乱したこともあった。さらには公私の区別があいまいだった。そして、藩閥の論理を露界にすすめる片棒も担いでいた。
このように、功罪、それぞれをきちんと踏まえるのは、とても難しいと私も思います。
それにしても、このような力をもった技術官僚はたしかに必要ですよね。と言いつつも、アベ政権に骨抜きされて、唯々諾々つかえるだけの官僚であっては困ります。
(2018年4月刊。880円+税)

玉砕の島・ペリリュー

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 平塚 柾緒 、 出版  PHP
天皇夫妻が2015年のペリリュー島まで戦没者の慰霊のために出かけなければ、日本人のほとんどが、その存在すら知らなかったと思われるのが、このペリリュー島です。もちろん、私も聞いたことはありませんでした。
今では、ペリリュー島の戦闘を描いたマンガ本もあり、かなり想像することが出来ます。
著者はペリリュー島からの生還兵の取材を1970年(昭和45年)から始めていて、すでに8回、ペリリュー島にわたっています。
ペリリュー島にいた日本軍1万人のうち、部隊が全滅したあと2年半ものあいだ洞窟に潜んでゲリラ戦を続けていた34人の日本兵がいた。このほか生還できた日本軍将兵は302人のみ。
昭和19年、パラオ諸島には軍人以外の日本人が2万5千人、朝鮮人250人、現地住民も3万2千人が住んでいた。
ペリリュー島は、パラオ諸島の中心地コロール島から南に50キロの地点のある、リーフ(珊瑚礁)に囲まれた孤島。南北9キロ、東西3キロ。島には、昭和14年に完成した飛行場があり、1200メートルの滑走路が2本あって、東洋一の飛行場とも言われていた。
ペリリュー島の日本軍は、水際の防禦陣地と山岳部の自然壕を拡大した地下要塞を構築した。ただ、珊瑚礁とリン鉱石で固まった島の土壌は、鉄筋コンクリートよりも固く、シャベルやつるはしでは歯が立たない。1日にわずか20センチとか30センチを掘るのが、やっと。
日本軍守備隊は、アメリカ軍の砲爆撃がつづく日中は、堅固な陣地や珊瑚の洞窟陣地内にじっと身を潜め、砲爆撃の止む夜間に準備を続けた。日本軍守備隊の中心は、満州で徹底的に訓練された若い20代の現役兵で構成されていた。その頑強な抵抗ぶりは、アメリカ軍がそれまでに味わったことない粘り強さがあった。
アメリカ軍が行った艦砲射撃は、上陸開始前に3490トン、上陸後に3359トン、合計6849トンも打ち込んだ。そのうえでアメリカ軍は、上陸迂回作戦を実施した。そのおかげで本来もっとも死亡率の高くなるはずのアメリカ軍上陸地点の日本軍守備兵が生き残った。
昭和22年4月22日、最後の日本兵34人全員が投降した。27歳から32歳の若者たちだった。よくぞ34人もの日本兵集団が投降したものです。その過程自体もスリルに満ちていて、興味深いものがあります。
(2018年7月刊。1900円+税)

ゴリラからの警告

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版  毎日新聞出版
ゴリラと比較して、「人間社会、ここがおかしい」というサブタイトルのついた興味深い問題提起が満載の本です。
ゴリラ学者の著者がゴリラ集団に受け入れてもらうためには相当な苦労があったようです。
近づくときには、グックフームという挨拶音を出す。「だれだい」とゴリラ特有の音声で問いかけられたら、必ずこたえる。顔をのぞきこまれたら、視線をそらさず正面から見つめ返す。これがゴリラ社会に受け入れられるときのマナー。
ゴリラは食べるときには、個々ばらばらに分散する。人間は、集まって一緒に食べようとする。
ゴリラは顔と顔を近距離で向かいあわせて挨拶するが、人間は少し距離を置いて、じっと向かいあう。
ゴリラの赤ちゃんは2キロ以下で生まれ、3年から4年は母乳を吸って育つ。人間の赤ちゃんは3キロくらいと重く、2年以内に離乳する。
人間の目には、サルや類人猿の目とちがって白目がある。この白目のおかげで、1~2メートル離れて対面すると、相手の心の動きから心の状態を読みとることが出来る。
ゴリラは3~4年、チンパンジーは5年、オランウータンは7年も母乳を吸って育つ。だから、出産間隔が長く、生涯に数頭しか子どもを産めないし、大人になる子どもも2頭前後。そのため数が増えず、絶滅の危機に瀕している。
人間の赤ちゃんは2年足らずで離乳し、母親は年子を産むことも可能。私も年子です。生涯に10人以上の子どもを育てることが出来る。
人間の祖先は、捕食によって高まる子どもの死亡率を補うために多産になった。
人間の赤ちゃんとちがって類人猿の赤ちゃんは、とても静かだ。ゴリラのお母さんは、生後1年間、片時も赤ちゃんを腕から離さない。赤ちゃんは、ずっと母親にしがみついているから、泣いて自己主張する必要がない。人間の赤ちゃんがけたたましい声で泣くのは、産まれ落ちてすぐに母親以外の手に渡されて育てられるから。
人間がゴリラと違うのは、自分が属する集団に強いアイデンティティーをもち続け、その集団のために尽くしたいと思う心があること。これは、子ども時代に、すべてを投げうって育ててくれた親や隣人たちの温かい記憶によって支えられている。そして、人間が他者に示す高い共感能力も、家族をこえた子どもとのふれあいによって鍛えられる。
相手に何かしてもらえばお返しをしなければという思いや、何かすればお返しがあるはずだという思いは人間独特のものだ。
人間の笑いの多くは、サルたちの遊びの笑いに由来する表情だ。そこには相手と楽しさを共有しようとする気持ちがふくまれている。
アフリカで野生のゴリラとつきあっていると、だんだん自分の顔の表情が乏しくなっていくことに気がつく。人間が類人猿と共通なのは、胃腸が弱く、子どもの成長が遅いこと。
人間が類人猿と違うのは、離乳が早く、思春期に成長が加速して心身のバランスが崩れる時期があること。
生れてはじめて出会う人間に身の回りの世話をしてもらい、何もかも頼って暮らした経験が、人間を信頼して生きる心をつくる。逆に、幼いころに虐待を受けたり、裏切られたりした経験は、子どもの心に大きな傷を残す。
サル真似というコトバがあるが、実はサルは真似ができない。
中身は紹介しませんが、京大理学部のチームが中高生中心の女子タレントのチームと競って京大チームが2度も惨敗したというのが紹介されています。思わぬ発想が世の中では高く評価されることがあるのですね・・・。
京大総長の著者の指摘には、常にうむむと頭をひねって考え込まざるをえません。
軽く一読できる、大変コクのある話が満載の、ゴリラと人間を比較した本です。
(2018年8月刊。1400円+税)

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