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ブラック企業とのたたかい方

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 佐々木 亮、大久保 修一、重松 延寿 、 出版  旬報社
まんがでゼロからわかる。オビにこのように書かれている本です。マンガでストーリーが展開していき、気鋭の若手弁護士が丁寧に解説します。ぜひぜひ、一人でも多くの若い人たちに手にとって読んでほしいと思いました。
ブラック企業を許しているのはアベ政権と日本の財界です。労働組合をほとんど有名無実化してしまい、ストライキを死語にしてしまった現代の日本社会には、過労死や過労自殺が残念なことに、あたりまえの現象になってしまいました。そして、それに異議申立しようものなら、戦前の「非国民」と同じような、「アカ」のレッテルを貼りつけ、「村八分」状態に追いやられます。
ここに登場する労働組合は、聞いたこともない「プレガリアートユニオン」と言います。
私が大学生のころにも個人加盟の労働組合があり、それなりの存在感がありました。「一人争議」を労働組合が支え、東京中の争議団が集まり、交流会を開き、対企業交渉にのぞんでいました。
マンガのストーリ-は良く出来ていますし、マンガの登場人物たちの姿・形も好感が持てます。楳図(うめず)かずお風だとか劇画調だと息苦しくなってしまいますが、さっぱりさわやか系なのが救いです。やはり扱うテーマが重苦しいと、せめて絵のタッチは軽く、救いのあるものにしてほしいのです。
会社のコマーシャルの惹かれて引っ越し専門の会社に就職したものの、大変な長時間・残業労働でした。ハローワークで示されていた給料は、そのあげくのものだったのです。
そして、仕事中に事故を起こしたら、従業員の全額負担。とんでもないブラック企業です。
文句を言うと、オレンジ色のシャツを着せられシュレッダー係をやらされる。見せしめ、いやがらせです。それでもなお会社をやめずにタテつくと、なんと懲戒解雇。ひどいと怒りに震えて労働組合に駆け込み、ついには弁護士と出会って裁判へ・・・。
そんな展開が、マンガと解説で、本当に要領よく紹介され、元気が出てきます。
実話をもとにしたストーリーなので、迫力があります。どうして、主人公は泣き寝入りしなかったのかな・・・。
懲戒解雇を言い渡されたあと、主人公は泣きながら思いのたけを吐き出します。
「会社に変わってほしい」
「自分と同じような目にあう人が出ないようにしたい」
すごいですね。えらいです。こんな人がいるおかげで、日本はまだ救われているのですよね。みんながみんな、長いものには巻かれろ式でいたら、日本なんて国はもう脱げ出すしかない、哀れな国になってしまいます。
読む人に勇気と元気を与えてくれ、ちょっぴり賢くもなれる、役に立つマンガ本です。ぜひ、手にとってご一読ください。
(2018年7月刊。1500円+税)

サリン事件死刑囚

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  アンソニー・トゥー 、 出版  角川書店
 私は上川陽子という法務大臣の人間性を疑っています。この人には、人間らしさというものがまったく欠けているのではないでしょうか・・・。
オウムの死刑囚13人が一挙に処刑されました。それ自体が私には許せませんし、残念でなりません。でも、それ以上に、死刑執行を命じた法務大臣が処刑前夜に安倍首相の前で万歳三唱の音頭をとったというのを知り、心が真っ暗になりました。
その場は、「自民亭」と名づけられた飲み会です。FBで写真が公表されていますが、要するに安倍首相の自民党総裁選挙で勝利するための若手議員かかえ込みの場でした。しかし、ちょうど、広島などで集中豪雨の大災害が報じられているなかでの大宴会です。この宴会のためということでもないのかもしれませんが、大災害指定がなされず、ずるずると延ばされているなかでの宴会でした。それはともかく、その宴会のトリに、死刑執行が翌朝にあることを知っている法務大臣が最後に万歳三唱の音頭をとったというのです。これって、おかしくありませんか、いえ狂ってませんか、その感覚が・・・。
死刑執行してしまえば何も残りません。この本の主人公の中川智正は、京都府立医科大学で大学祭の実行委員長もつとめるなど、在学中の評判は良かったのです。ヨガからオウム真理教に入ったようです。麻原の主治医として大変信頼されていたようです。なんで、こんな真面目な若者が「殺人教団」に入るようになったのか、もっと私たちは中川に語らせ、そこから学ぶべき教訓を引き出すべきではなかったのでしょうか・・・。殺してしまえば、もう中川から何も聞き出すことは出来ません。
この本を読んで、法務省が実は、2012年に死刑囚を一挙に処刑しようとしていたことを知りました。どうしてそんなに早く早くと処刑を急ぐ必要があるのでしょうか。世界の大勢が死刑廃止に動いていることを法務省だってよく知っているはずなのに・・・。
これは、菊池ほか3人の長期逃亡者が自首したり発見されて裁判になったことから延期されたのです。この3人の刑事裁判が終わって、処刑のために全国の拘置所に分散されて、死刑執行は秒読みに入っていたとのこと。恐ろしいことです。
では、この死刑囚、中川智正はいったい何をしたのか・・・。坂本弁護士一家の殺害に加わり、松本サリン事件、東京地下鉄サリン事件に関わっています。なるほど、それでは今の量刑基準表では「死刑相当」になるでしょう。でも、本当に執行してよいのか、それが疑問です。
坂本弁護士一家の殺人事件で、オウムの関与が強く疑われていたにもかかわらず、当時の神奈川県警は、まともにとりあわず坂本弁護士の事件関係者による犯行とか、過激派との関係とか、とんでもないデマを流して、マスコミ・世論をごまかし続けました。このとき、警察がきちんと捜査していたら、地下鉄サリン事件をはじめとする一連の殺害事件は起きていなかったはずなのです。
坂本弁護士一家3人がオウム真理教によって殺害されたのは、今から30年前の1989年11月4日のことです。私も坂本弁護士一家が住んでいたアパートを見学に行きました。まだ犯人がオウムだと確定されていない時期に、弁護士会の現地調査に参加したのです。
オウムは、このほか、小林よしのり(漫画家)、大川隆法(幸福の科学)、小沢一郎(自由党)、江川紹子(ジャーナリスト)も殺害しようとしていたとのこと。まさしく恐るべき殺人教団です。ところが、その後継団体に今なお入信する信者がいるというのです。信じられません。
死刑囚である中川智正と拘置所で15回も面会した台湾出身のアメリカ人学者の本です。大変勉強になりました。
(2018年7月刊。1400円+税)

動物たちのすごいワザを物理で解く

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 マティン・ドラーニ、リズ・カローガー 、 出版  インターシフト
一般に外温性動物は内温性動物ほど食べる必要がない。
外温性動物たちは、遠くまで行きたいときには、まず日光に当たりながらごろごろしなければいけないし、速く動けるのは、ほんのしばらくでしかない。そもそも寒すぎるところでは暮らせない。外温性動物は、夜に活動するのも難しい。
イヌは内温性動物なので、体温は38~39度の範囲でなければいけない。体温が37度を下回ったり、40度を上回ったら、獣医に診てもらったほうがいい。
メスの蚊は尿と血の混ざった球を排出する。これは、体温を下げて熱による負荷がかからないようにするため。
ミツバチは、暑い日には、飛びながら口から花蜜を吐き出し、脳が過熱するのを防ぐ。おかげでミツバチは、最高46度の暑さでも飛ぶことができる。
ガラガラヘビは、マムシ属のヘビ。マムシ属のヘビは、可視光が見える目以外にも目を持っている。人間をはじめ、たいていの動物には見えない赤外線を感知できる、感熱ピットを一対もっている。これは、普通の目のほかに、赤外線カメラを内蔵しているようなものだ。
ガラガラヘビと対決したリスは、敵を混乱させようと、わざとしっぽから強力な赤外線信号を出す。
蚊は雨のなかを果たして飛べるのか。こんな疑問をもって(それ自体がすごいことです・・・)、それを実験によって解明した学者がいました。このとき、雨粒なんて軽いものだと考えてはいけません。
雨粒の落下速度は秒速10メートル近い。これは、時速35キロ。もっとも重い雨粒は100ミリグラムもあるので、蚊の体重の50倍。なので、静止している蚊に雨粒1個がぶつかるのは、体重100キロの人間に5トントラックが激突するようなもの。土砂降りのなかでは、蚊は25秒に1度は雨粒にぶつかる計算だ。
蚊はとても軽いので、蚊の運動量の変化はかなり小さい。蚊はヨロイのような外皮、つまり外骨格のおかげで、雨粒の10倍以上の力がかかっても、それを耐え抜くことができる。
蚊は雨粒に抱きつき、すぐに離れる。
飛んでいつ蚊が雨粒との衝突に耐えるための鍵は、体重が軽いことと、「パンチに乗る」こと。
1匹のトッケイヤモリは、総計650万本もの剛毛をもっている。剛毛1本につき、2~20ミクロン平方のスパチュラ面をもっている。ヤモリが体重を支えるには、0・04%も必要ない。
デンキウナギは、頭が正(プラス)極で、しっぽが負(マイナス)極という、巨大な900ボルトの電池のようなものだ。
アリが持っているのは、体内時計ではなく、体内歩数計。これを偏光感知能力と結びつけて、エサを見つけるためには、自分がどれだけの距離、どの方向に歩き回ったかを知る。そして、それに続き、何らかの方法で、酢に戻る最短ルートを計算する。
動物をめぐる難しい内容をやさしい文章で明らかにしている本です。
(2018年6月刊。2300円+税)

連邦陸軍電信隊の南北戦争

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 松田 裕之 、 出版  島影社
アメリカの南北戦争は1861年から65年まで続き、戦死者が実に62万人という、とんでもない近代的消耗戦でした。大砲や新式連発銃が戦場で威力を発揮したわけですが、南北戦争の勝敗を決めたのは、モールス信号をはじめとする情報戦における北軍の優位だったことを知りました。
そして、リンカーン大統領を暗殺した犯人を逮捕するにも、この電信連絡がフルに生かされたといいます。
太平洋戦争で日本軍はレーダーその他の情報網を軽視していたため、後半戦では圧倒的敗北を重ねていきましたが、南北戦争のときの南軍が同じでした。
南北戦争は、情報の収集・共有・分析にかかわる戦力が勝敗の帰趨に決定的な影響を及ぼした最初の戦争だった。最新鋭の情報通信技術であるモールス電信を軍事領域において、どれほど広範囲かつ効果的に駆使できるのか、USA(北軍)とCSA(南軍)の力量差は、文字どおり、この点に凝縮された。
CSA(南軍)政府は電信によって最前線からもたらされる情報を自国民に公表せず、徹底した秘密主義をとり、情報操作もおこなった。ゲチスバーグとヴィックスバーグの両会戦で大敗したのに、CSA領内の新聞は「CSA軍の大勝利」と報道した。
これって、戦前の日本軍の大本営発表と同じですね。
これに対してUSA(北軍)政府は、軍用電信網が刻々ともたらす戦況報告を包み隠さず国民に周知させることで、国民に戦争の当事者たる意識をもたせ、挙国一致の気運を高めていった。まさしく両者は対照的だった。
リンカーンは、南北戦争のとき絶えず電信室に顔を出し、最新の軍需情勢を絶えず頭に叩き込んだ。
大変な知的刺激を受けた本です。アメリカの南北戦争についての知見が増えました。
(2018年4月:東京・蒲田宅)

陸軍中野学校

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 山本 武利 、 出版  筑摩選書
陸軍中野学校が発足したのは1940年。その前身は1938年に開校した防諜研究所であり、その後、後方勤務要員養成所と改称し、さらに陸軍中野学校となった。だから、1945年の終戦まで、わずか7年ないし5年という短命だった。
開所のときは19人しか入学しなかったが、最大7年間で2300人余の学生を世に送り出した。
独立勤務者としての秘密工作員、特務機関員そしてゲリラ工作員へと中野学校での教育内容は激変した。
終戦から29年もたってフィリピンのルパング島から帰還した小野田寛郎は、1944年春に静岡県二俣に設立された二俣分校の第1期生である。
小野田寛郎によれば、「どんな生き恥をさらしてもいいから、できる限り生きのびて、ゲリラ戦を続けろ。・・・・。捕虜になってもかまわないと教えられた」という。
中野学校は語学を重視した。英語250時間、ロシア語220時間、中国語190時間となっている。
授業を受けるとき、ノートをとるのは、いささか軽蔑されていた。話を聞く、質問をする。その一刻一刻が勝負なのだ。
一般人の取り調べには、常套手段として暴力・脅迫が横行していたが、中野学校では、その使用は仲間うちなので、ご法度(はっと)、禁止されていて、この規則はよく守られていた。
中野学校の卒業生はハルピンの情報部に多くつとめた。
中野学校の実体、とくにその教育システムについて、深く知ることができました。
(2017年11月刊。1700円+税)

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