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カテゴリー:人間

才能の正体
(霧山昴)
著者 坪田 信貴 、 出版  幻冬舎
私は、つくづく語学の才能がないと痛感します。毎日毎朝、フランス語の書き取りをして、毎週土曜日にフランス人と話して、年に2回は仏検(テスト)を受けて、いまもってペラペラ話せるにはほど遠いありさまです。我ながら、嫌になってしまいます。
この本は、才能の正体を探っています。
才能がある人とは、結果を出せる人。結果は、どういう人が出せるのか・・・。それは洞察力がある人だ。洞察力とは、物事を深く鋭く観察し、その本質や奥底にあるものを見抜くことであり、観察しただけでは見えないものを直感的に見抜いて判断する能力のこと。
子どもが夢を語って努力をはじめようとしたとき、親は、「そんなの無理だ」、「できるわけがない」と否定せず、信念をもって守る。愛情を与える。そして、子どもの言葉を信じて、温かく見守る。
自分を出せなくなると、能力は伸びない。
ほめられると、子どもはもっとがんばろうと思うものだ。
万人にとって効率のいい勉強法なんて存在しない。
能力を高めるには、とにかくその子にあったやり方で、コツコツと続けていくしかない。
大学受験に才能なんか関係ない。大学受験までの学問は、しょせん答えがある問題集にすぎない。その解き方のパターンを覚えさえすれば、必ずできるようになる。
人の脳は、接触回数を増やせば、記憶に定着しやすくなり、仲間だと思いやすくなる。
才能は気分が9割。才能はあると信じること。才能は素晴らしいものだと信じること。そうすれば、世界の見え方が変わってくる。
私たちの世界を、この先もっとすばらしいものにしてくれるのが、才能だ。
坪田塾の塾長として、1300人以上の子どもを「個別指導」してきた実績のある人ですから、説得力があります。私にも語学の才能はある、そう信じて、明日からもがんばって続けることにしましょう。
(2018年10月刊。1500円+税)

土、地球最後のナゾ

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 藤井 一至 、 出版  光文社新書
土って、生物と切っても切り離せない存在なのだということを、この本を読んで初めて認識しました。
土は地球にしか存在せず、月や火星にはない。
土壌とは、岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったものを指す。したがって、動植物の存在を確認できない月や火星に土壌はない。あるのは、岩や砂だけ。
地球の岩石は、水と酸素、そして生物の働きによって分解する。風化という。
粘土は、水の惑星が流した”血と汗”の結晶だ。
月でも岩は風化する。しかし、水や酸素や生物の働きがないと、岩石は粘土にはなれない。月には粘土はない。粘土の有無が地球の土壌と砂を分かつ。
火星には粘土がある。しかし、腐植はない。火星には粘土が存在する点では、月の砂よりも地球の土に近い。しかし、火星には腐植がない。
腐葉土には、高度に発達した現代の科学技術を結集してもなお、複雑すぎて化学構造も部分的にしか分かっていない驚異の物質である。土の機能を工場で再現できない理由もここにある。
500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは次のように言った。
「我々は天体の動きについてのほうが分かっている。足元にある土よりも・・・」
ええっ、本当にそんなことを言ったのでしょうか・・・。
ミミズの粘液のネバネバがバラバラだった土壌粒子を団結させる。これによって、土壌は単なる粉末の堆積物ではなく、無数の生物のすむ、通気性、排水性のよい土となる。これが地球の土だ。
世界の土は、実はたったの12種類しかない。ええっ、ウソでしょ、そんなに少ないはずないでしょ、そう叫びたくなりますよね。
日本中どこを掘っても、土は酸性だ。
泥炭土は、地中深く数千万年も眠れば石炭に化ける。それはジーンズを染めるインディゴの原料にもなっている。
日本では、山の土を通過した水はケイ素を多く含み、稲を病気に強くする。稲だけでなく、ケイ素の有無でニワトリの成長が大きく変わることも報告されている。
ケイ素は必須養分ではないが、骨をつくる活動を促進する働きがある。
インドネシアのボルネオ島ではケイ素がないため稲が実らない。
足元の土というもののありがたさを初めて認識することができました。
(2018年12月刊。920円+税)

除染と国家

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日野 行介 、 出版  集英社新書
除染作業はだいたい終了したそうです。ええっ、本当ですか、それで安全になったと言えるんですか・・・。思わず問い返したくなります。
除染とは、放射性物質が付着した庭や田畑の表土をはぎ取って集め、フレコンバッグと呼ばれる大きな袋に詰めこむ作業のこと。
除染作業は、巨額の費用と膨大な人手をかけた壮大な国家プロジェクトだ。2016年度末までに、のべ3000万人の作業員が従事し、2兆6250億円もの国費が投じられている。
フクイチ(原発)から飛んできた放射能のほとんどが山林に降り注いだ。樹木を切り取り、表土をことごとくはぎとるなんて、とうてい不可能だと、除染を始める前から、誰もが分かっていた。結局、山林では放射能が滅衰するのを待つしか手はない。その期間は数百年に及ぶ。
除染で集めた汚染土の保管は短期間で終わる前提で制度はつくられている。しかし、現実には事故から5年たっているのに現場保管が続いていて、搬出のめどはたっていない。
だいたい、日本全国のどこにフレコンバックを積み上げて、保管できる場所があるというのでしょうか。こんな狭い国に地震があり、火山があるところで原発をつくったこと自体がまちがいなのです。
莫大な除染費用は本来、東京電力が負担するはずなのですが、本当に東電が負担するのか不透明だといいます。とんでもないことです。きわめてタイムリーな新書です。
(2018年11月刊。860円+税)

中国と日本、二つの祖国を生きて

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 小泉 秋江 、 出版  集広舎
日本人の母と中国人の父とのあいだに1953年に生まれた著者の壮絶な生涯を克明に書いた本です。
日本人の母親は日本で教員をしていて、家庭の都合もあって中国に渡り、教員をします。そして、戦後、国民党軍の軍医をしていた父親と出会ったのです。
ところが、戦後に生まれた新生中国で医師の子として伸び伸び育った日々はわずか。「大躍進」運動の下での飢餓、そして文化大革命の嵐のなかで一家は離散させられ、幼い著者も日本人スパイの汚名を着せられ、打倒の対象となるのです。
著者を糾弾する紅衛兵は、ほとんど顔見知り子で、いじめる理由はない。ただ面白がってやっているだけ。大っぴらに批判できる対象がいるのがうれしくてしかたない。
著者は厳しく追及されたものの、まだ助かった。ところが、教師たちには命を落とした人も続出した。日本人の母は、かばう人がいて糾弾の対象とならなかった。しかし、中国の国籍をとった日本人は厳しく糾弾された。母親は糾弾されないのに、その娘は糾弾される矛盾に著者も気がつき、おかしいと感じていた。
著者は、父も母も何も悪いことはしていないと確信していたので、迫害される理由は理解できなかった。表面的には自己批判するものの、絶対に生きのびてやる、ここから抜け出してやると、ひたすら考えていた。
それにしても、わずか10歳あまりの少女を糾弾し、吊し上げる社会風潮はあまりに異様です。「文化」大革命といいますが、ちっとも「文化」的なことではありませんでした。日本でも一部の文化人が「文化大革命」を大いにもち上げていましたが、恥ずかしい限りです。まあ、実態(実情)は知らなかったでしょうから、しかたのない面もあるとは思いますが・・・。
そして、文化大革命が終わって学生は貧しい農村地帯へ追放(下放)されます。体重40キロもない少女(著者)がレンガ造りの現場で、60キロものレンガを背負って運ぶ仕事に就いたのでした。そして、食事は満足にとれなかったのです。よくぞ、こんな苛酷な状況で生きのびたものです。生きようという意思がすべてを克服したようです。
 なんとかして日本にやって来ます。表向きは半年で中国に戻ることになっていましたが、著者は戻る気はありませんでした。それでも、日本で暮らすのも大変なことです。著者は夜間中学に通って日本語を学び、なんとか会社に雇ってもらって仕事をするようになりました。そこでも苦難の日々が続くのです。
 いやはや著者の不屈の精神力には圧倒されます。半日かけて一気に読み上げましたが、なんだか元気をもらった気がします。 病気ともたたかっている著者の今後のご健勝を心より祈念します。いい本でした。ありがとうございます。
(2018年9月刊。1500円+税)

骨が語る兵士の最期

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 橧崎 修一郎 、 出版  筑摩書房
第二次大戦(太平洋戦争)による日本人戦没者は310万人。このうち海外での戦没者は240万人。収骨開始以来、127万人分の兵士の遺骨が収骨された。したがって、まだ海外には113万人分の遺骨が未収骨のまま眠っている。このうち、飛行機や船で海没したため収骨が困難な数は30万人。中国など相手国の事情から収骨が困難な数が23万人。結局、現在の遺骨収集の対象は60万人。
アメリカは、国家の責任で、国防総省が最後の一兵まで発見することに全力を注いでいる。日本では遺骨収集の主体は防衛省ではなく、厚労省となっている。
日本人と鑑定された遺骨は、検疫法により、基本的に現地で火葬して焼骨(しょうこつ)として持ち帰る。ただし、DNA鑑定にかける歯や完全な四肢骨については、検体として焼かずに持ち帰る。そうしないと、歯や骨にふくまれるDNAが破壊されてしまうから。
著者は太平洋の島々で、旧日本軍兵と民間人のあわせて500体を鑑定してきました。
人骨は、生まれたばかりの新生児では350個ある。ところが、成人は206個に減る。このほか、歯は乳歯が20本、永久歯が32本。
遺骨の状況をふまえて、著者は次のような状況を想定した。並んで立たされた日本人兵士3人は、うしろから銃殺された。このとき、「天皇陛下万歳!」と叫び、両手をあげた。うちの一人は、まだ虫の息があり、伸ばした両手を前の方に引き寄せているところを、うしろから拳銃で後頭部にとどめの一発を撃たれて絶命した。
いやはや、遺体の状況を見て、そこまで推測できるのですね、さすがはプロです。まいりました。
民間人が多く出土するのは、サイパン島とテニアン島のみ。
遺骨収集に関わっていると、現地で不思議なことを経験する。チョウチョがたくさん飛んでいる。袖をひっぱられる感触がした。焼骨のとき、ピーッとなる。
遺骨は決して土に還ってはいない。遺骨が70年で土に還るということはない。
本当にご苦労さまとしか言いようのない地道な作業です。頭が下がります。
2015年4月9日に、天皇夫妻がペリュリュー島を訪問しました。それまで私をふくめて一般の日本人にはなじみのなかった太平洋の孤島に大勢の日本人が兵士として送られ、そこで戦病死・餓死していったのでした。まったく知りませんでした。
日本国の象徴の訪問は、戦前の日本が何をしていたのか、その結果がどうだったのかを問い返すきっかけをつくったのです。私は、そのことを高く評価したいと思います。
ところで遺骨収集に熱心なのはアメリカと日本だけで、ドイツはやっていないとのこと、これまた驚きました。世の中、まさしく知らないことだらけです。
(2018年7月刊。1500円+税)

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