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公卿会議

カテゴリー:日本史(平安)

(霧山昴)
著者 美川 圭 、 出版  中公新書
貴族政治って、意外にも会議体をもって議論して決めていたのですね。驚きでした。
公卿(くぎょう)とは、貴族の上層の人たちのこと。
律令制のもとには、太政官(だじょうかん)の議政官会議というものが存在した。議政官とは、左右内大臣、大納言(だいなごん)、中納言、参議らのこと。
太政官がいかなる提案をしたとしても、天皇はそれに制約されずに決定できるというのが律令制の原則。天皇と太政官は対立的に存在しているのではなく、天皇を輔弼(ほひつ)する太政官議政官の会議は、天皇の君主権の一部を構成していた。
藤原道長は摂政にはなったが、関白にはなってはいない。一条天皇は外戚(母の父)である道長の言いなりの人物ではなかったので、道長の立場は盤石ではなかった。
一条天皇が亡くなり、皇位を継承した三条天皇は、道長に関白就任を要請するが、それを道長は受けなかった。道長は関白ではなく、内覧左大臣の地位を自ら選択した。
三条天皇は眼病のため失明に近い状態となった。その三条天皇に道長はたびたび譲位を迫った。そして、後一条天皇が即位すると、外祖父の道長は摂政となった。
幼帝のもとで、奏上なしに決裁できるのが摂政。天皇が成人となったとき、奏上や招勅発給などに拒否権を行使できるのが関白。
摂政にも、関白にも、内覧の職務が包含されるから、制度上は摂関になったほうがよい。
天皇の外戚という非制度的な関係をもたないときには、権力が弱体化する恐れが常にあった。摂関政治といいながら、外戚、つまり天皇のミウチであることが、とても重要だった。
このころ、実務能力をもった貴族たちが、蔵人頭(くろうどのとう)を終えたあと、公卿として陣定に出席するようになった。
道長は関白として公卿会議に超然として臨むよりも、会議の中に身を置いて、彼らの信頼を得ることが重要だと考えた。そのため、あえて一上(いちのかみ)、つまり筆頭大臣として会議の中にとどまり、現場で発言しながら会議の進行をリードしようとした。
三条天皇のころは、もはや道長に対立する貴族はほとんどいなかった。それでも道長は関白にならなかった。道長は、内覧で一上左大臣という立場の有効性を確信していた。
そして、外孫である後一条天皇になると、初めて一上左大臣の地位を離れて、摂政に就任する。以後、道長は陣定に出席していない。
170年間、藤原氏は天皇の外戚を独占した。
御前での公卿会議が、天皇と関白の対決の場になった。
13世紀の日本では、神社の荘園が押収されたため訴訟が次々に起こされ、朝廷にもち込まれた。院政期には、所領相論(そうろん)、つまり不動産紛争の問題が、陣定(じんのさだめ)の議題として多くあがった。
日本人は昔から紛争が起きるとすぐに「裁判」に訴えていたのです。日本人が昔から裁判が嫌いだなんて、とんでもない嘘っぱち、私は、そう確信しています。
13世紀、雑訴評定においては、訴人(原告)と論人(ろんじん。被告)の双方を院文殿(いんのふみどの)に召し出して、その意見を聴取することになった。これが文殿庭中(ふどのていちゅう)である。
鎌倉時代の後期には訴訟が増大した。鎌倉後期には、幕府が訴訟の増大に対処することに追われた。貴族の分家が対立し、貴族内部の争いが家産、官位の争奪というかたちをとって深刻化したため、朝廷での裁判の重要性はいっそう高まった。
圧倒的な軍事力をもつ鎌倉幕府が成立してから200年、承久の乱で敗北してから150年、ほとんど幕府に対抗できる武力をもたない朝廷が、合意形成をしながら政治権力として一定の統治能力を維持したことは再評価してよい。宮廷貴族たちは、院や天皇のもとに結集して、公卿会議で論戦しつつ、朝廷を自立的に運営していった。
朝廷と貴族(公卿)の関係について、難しいながらも面白い本でした。宮廷貴族たちは、意外なほど会議での合意を目ざし、それなりの努力を続けていたのでした。
(2018年10月刊。840円+税)

原発ゼロ、やればできる

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小泉 純一郎 、 出版  太田出版
あの3.11から8年たちました。原子力発電所が事故を起こしたときの怖さを多くの日本人がすっかり忘れたかのように、原発再稼働がすすんでいて、私は不思議さと恐ろしさの双方を実感しています。
小泉元首相は、自分は騙されていた。原発は安全だと思い込んでいた。でも、それは嘘だった、嘘だと分かったからには原発に反対せざるをえないと主張しています。まったく同感です。
3.11事故のとき、日本は下手すると5000万人もの人々が非難しなければいけないところだった。幸い、そうはならなかったけれど、あのとき、アメリカは、米軍人の家族にアメリカ本国への帰還命令が出ていた。それほど深刻な事態に直面していた。
5000万人というと、日本の全人口の半分に近いものですし、首都東京に人が住めないということです。こんな狭い島国ニッポンのどこに逃げる場所がありますか・・・。
この本には書いてありませんが、「北朝鮮の脅威」を声高に言う人が、原発へのテロ攻撃の危険性に言及しないのが、私には不思議でなりません。
著者の主張はきわめて単純明快です。
総理大臣という責任ある立場でありながら、どうしてあんなウソを信じてしまったのか、じつに悔しいし、腹立たしい。
世界全体で原発の占める割合がどんどん下がっているというのに、日本政府は、世界の動きと反対の方向に進もうとしている。
騙されたことが分かったら、そのまま騙され続けるわけにはいかない。知らないフリをして間違いをそのままにしておくのは、よほど無責任なこと。
3.11は、自然災害ではなく、人災だ。
原発に関する基準が、日本は世界一厳しいということはない。たとえば、日本ではまともな避難計画を用意していない原発がたくさんある。
日本は原発ゼロをすでに経験したが、何も不都合は起きなかった。原発ゼロでも、自然エネルギーで日本は十分やっていける。
私が不思議なのは、自民党・公明党を支持する人たちが原発再稼働を本気で容認しているのだろうか、ということです。いやいや、原発問題とは別のことで自・公を支持しているというのかもしれません。でも、原発って、たくさんある問題点の一つというレベルではなくて、私たちと子々孫々が今後も生存していけるかどうか、という極めて重大なことなのではありませんか。
本分136頁で1500円の本です。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
著者がすすめた郵政民営化によってひどい目にあっていますが、原発問題では著者の提唱に異存はありません。原発は私たちの生存そのものがかかっている、きわめて重大な問題だと思います。
(2019年1月刊。1500円+税)
 フランス語検定試験(準一級)の合格証書が届きました。やれやれです。これで2009年以来、8枚目になります。口述試験の成績は23点で、合格基準点23点と同じですので、ギリギリでパスしたわけです。ヒヤヒヤものです。ちなみに合格率は17.4%とのこと。フランス語の力が低下しているのを心配していますが、毎日の勉強のなかで、1分間暗誦できるよう心がけています。もちろん、口に出して言うようにしています。黙読だけではダメなんですよね、語学は・・・。これからもフランス語、がんばります。

一路

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 環 直彌 、 出版  日本評論社
裁判官懇話会の呼びかけ人の一人として私も名前だけは知っていましたが、なんと特捜部検事だったこともあるのですね。驚きました。検事、判事、そして弁護士と渡り歩いていますが、そこには一本の太い筋が通っています。
戦前の思想検事がエリートだったこと、裁判官は検事に逆らえず、検事の言いなりだったことを改めて認識しました。
一高を出て、優秀な人間を選んで思想検事にしていた。裁判官は、検事さんがおっしゃるんだから間違いないと、確かめもしなかった。
敗戦で思想検事がやめた(パージになった)だけで、他は何も変わらなかった。裁判官も検事も、公職追放以外は、まったく手がつかず、そのままだった。
戦後、弁護士になってチャタレイ事件の弁護人になります。百里基地訴訟で地主側の代理人にもなりました。そして、そのあと再び裁判官になったのです。それにしても11年間の弁護士生活のなかで12件もの無罪判決をとったというのですから、えらいものです。
東京地裁の裁判官のとき、戸別訪問禁止違反で起訴された被告人について無罪判決を出しています。公選法は違憲だから無罪だというのではありません。本件では有罪するまでの必要性もなく無罪、という判決でした。
宮本康昭裁判官の再任拒否があったとき、それを公然と批判し、裁判官懇話会の呼びかけ人になりました。懇話会の第1回は昭和46年(1971年)10月です。ちょうど私が司法試験の口述試験を受け終わった直後です。
定年退官したあと、再び弁護士になり、横浜事件の再審事件に関わります。
権威に弱い、批判精神に乏しく、安直に能率的な裁判官が増える傾向にあるとすれば、由々しい問題だ。
裁判官は、学者ほど頭が良い必要はない。良心こそ大切なのだ。頭の良い人は、相反するどちらの見解を正当らしくみせかける能力がある。もし、その人に裁判官の良心に欠けるものがあると、もっとも危険な存在になる。
まさしくそのとおりだと思います。
福岡で長く裁判官をしていて、現在は弁護士である西理氏が弟子の一人であることを初めて知りました。今、裁判所の内部にいる人にぜひ読んで欲しいと思った本でした。
(2019年1月刊。1400円+税)

学校の「当たり前」をやめた

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 工藤 勇一 、 出版  時事通信社
東京のド真ん中にある、あまりにも有名な名門中学校、麹町(こうじまち)中学校では、宿題をやめ、中間・期末テストを廃止し、クラス担任も置いていないというのです。驚きます。
それを率先してすすめている異色の校長による教育実践の記録です。
この本を読むと、画一的教育は子どもにとってよくないと、しみじみ私は思いました。
学校は、いったい何のためにあるのか・・・。
いま、日本の学校は、本来、学校がになうべき目的を見失っているのではないか・・・。
学校は、子どもたちが社会のなかでよりよく生きていけるようにするためにある。
そのためには、子どもたちには、自ら考え、自ら判断し、自ら決定し、自ら行動する資質、つまり自律する力を身につけさせる必要がある。
まず、夏休みの宿題をゼロにした。宿題をなしにしたことで、自分に重要でない非効率な作業から生徒たちが解放されて喜んだ。
次に、中間・期末テストなどの定期考査を全廃した。その代わり、単元テストをし、学習のまとまりごとに小テストを実施している。そのうえ、年に3回だった実力テストを年に5回に増やした。実力テストは出題範囲が事前に示されないため、生徒の本当の学力を測ることができる。
クラス担任は固定せず、学年の全教員で学年の全生徒をみる「全員担任制」をとっている。学級崩壊は、まとまりのあるクラスとないクラスとの格差が大きいときに起きやすい。これによって、「勝ち組」「負け組」の意識が薄まった。
運動会のクラス対抗も廃止した。1日限りのチームの対抗試合にした。運動会は、運動が苦手の生徒も楽しめるものにし、生徒会主催行事とした。
不登校の子がいたら、学校に来たくなかったら、「別に無理して来なくていいんだよ」と言う。もう自分を責めないでね。何も変わらなくていいんだよ、そう話しかける。
いやあ、まいりましたね。校長先生からこんなふうに、言われたら、心が安まりますよね・・・。
授業中、見返すことがないのならノートは取らなくていい。
模擬裁判も毎年やっているそうです。すごいです。台本がないものです。信じられません。すごすぎます。
公立中学校でも、こんな意欲的な取り組みをしているところがあるのを知り、心が驚きと喜びでうち震えてしまいました。ちなみに、私も公立中学校で学びましたし、県立高校に進学しました。いろんな生活・家族背景の生徒がいて、それなりにもまれましたが、本当に良かったと思います。
(2019年1月刊。1800円+税)

脳からみた自閉症

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 大隅 典子 、 出版  講談社ブルーバックス新書
自閉症は、正式には自閉症スペクトラム障害という。スペクトラムとは、連続体のことで、症状が重いものから軽いものまで幅が広いことを意味している。
自閉症は、いわゆる発達障害の一つで、世界のどこの国でも80人から140人に1人は自閉症とされていて、珍しい障害ではない。
自閉症の三大特徴は、社会性の異常、コミュニケーションの障害、常同行動だ。
社会性の異常とは、親とも目をあわさない、人が指をさした方向を見ようとしない、まるで耳が聞こえないかのように名前を読んでも反応がないというもの。そして、自分が知っていること、他人が知っていることの区別ができない。
常同行動とは、同じ行動を繰り返すということ。同じコトバを何度も反復する、同じ動きをやり続ける、一定の場所にとどまって動かないなど、そのあらわれ方はさまざま。ただし、自閉症の常同行動は、極端な集中力のあらわれでもあり、あながち否定されるべきものではない。
ある種の音、光、匂い、触感などに過敏な自閉症児は少なくない。
アスペルガー症候群とは、知的障害をともなわないタイプの自閉症。
ニュートン、アインシュタイン、モーツァルト、ベートーベン、ビル・ゲイツも、みな高機能自閉症だ。
発達障害は、親の「育て方」によって生じるものではない。
自閉症とは、脳の器質的な障害である。すばやい神経伝達ができていないと思われる自閉症の症状には、シナプスの刈り込み不足や、刈り込みムラなどが関与している可能性がある。
自閉症といっても、それぞれの病態は、みな少しずつ違う。
自閉症の人は、脳の左右差が健常者よりも大きい。
親も子も自閉症になるケースは少ない。3%でしかない。
自閉症は、この40年間に、なんと70倍以上に患者数が増加した。その急増の原因は何か・・・。
「パルプロ酸」という抗てんかん薬は、自閉症につながる可能性がある。
父の加齢と子の自閉症のあいだには相関性が認められる。
自閉症をはじめとする発達障害において「親の育て方」が原因であることはない。基本は、脳の発生や発達に関するトラブルから起こる生物学的な障害。ただし、育つ環境が、症状のあらわれ方にまったく無関係だとは言い切れない。
人間と脳について、基礎的なところから深く追求している様(さま)がよく分かりました。
(2016年4月刊。900円+税)

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