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地域に生きる人びと、甲斐国と古代国家

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 平川 南 、 出版  吉川弘文館
山梨県立博物館の館長もつとめた著者によって古代史探究の成果が紹介されています。たくさんの写真で、よくイメージがつかめます。
日本は古来からハンコの国と言われますが、この本によると、8世紀、律令制にもとづく本格的な文書行政の整備にともなった、公文書には押印するシステムが確立されました。
公印の規格も決められていて、私印は4.5センチ以下で、公印をこえないこととされていた。この公印は青銅製で、銅、鍚、鉛のほか、ヒ素も含まれていた。
古代印には、わざと空洞が含まれていた。均質な空洞とつくることによって柔軟かつ軽量に仕上げた。これは、現代技術でも出来ない高度な技術だった。
甲斐国の北部に、高句麗からの渡来人を核とした巨摩(こま)郡が設置された。等力(とどろき)郷は、馬の飼育に関わる地名で、これにも渡来人がかかわっている。
買地券(ばいちけん。墓地を買った証文)は、古代中国や朝鮮には、それぞれ神が宿っているという思想にもとづいて、墓地に対し、神の保護を祈る葬祭儀礼として、石、鉛板などに書きつけて墓に納めた。墓の造営に際して、その神より土地を買うという意味で、代価などが記され、墓地を買ったこととともに、墓に対する保護や子孫の繁栄祈願が記されている。
戸籍は、古代国家が民衆支配を行うためのもっとも基本となる公文書。戸籍には一人一人が登録され、人美との氏姓(うじかばね)や身分を確定して、各種の税や兵役を課したり、班田収授を実行するための基本台帳となった。
戸籍は3セットつくられ、国府に1セット、残る2セットは、中央の民部(みんぶ)省と中務(なかつかさ)省に各1セットずつ保存していた。
豊富なカラー写真によって、古代史がぐーんと身近に感じられました。
(2019年5月刊。2500円+税)

陸軍参謀、川上操六

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 大澤 博明 、 出版  吉川弘文館
日清戦争において日本軍の作戦を指導した川上操六について書かれた本です。
日清戦争について、この本を読んでいくつも新しい事実認識をすることができました。
中国(清)は日本に負けたわけですが、中国の当局(権力者たち)は、相変わらず日本を小国と馬鹿にしていた。そして、日本が李鴻章と示しあわせて戦争を始めたのであり、中国が連戦連敗だったのも、李がわざと日本軍に負けるように言いふくめていたからで、下関で李が襲撃されたのは、日本とひそかに通じていることを覆い隠すための芝居であり、日本に中国が支払う償金のうち4千万両は李が手にすることになっている。そんな李は「売国の臣」だ・・・。いやはや、世の中を見る目がない人は、どこにでもいるものですね。
日本軍が清軍に勝ったのは清軍が予想以上に弱かったからで、日本軍の強さを証明したものではないという評価が日本軍の内部にあり、ヨーロッパでも同じように考えられていた。
ロシア陸軍は、このころ日本上陸作戦を検討中で、大阪占領を対日作戦の要(かなめ)としていた。
ロシア軍が日本上陸作戦を考えていて、その目標が大阪だったというのに驚きました。1904年の日露戦争は間近だったのですね・・・。
日清戦争において日本軍は旅順で捕虜となった清軍兵士や一般市民まで虐殺しています。これは日本側でとった写真でも明らかな事実です。のちの南京大虐殺事件のミニ版が日清戦争のときに始まっていたのです。ところが、日本軍の蛮行は、清軍が捕虜となった日本軍兵士をなぶり殺したことへの復讐でもあったのです。こうなると、戦争は人間を鬼に変えるという格言のとおりで、残念な歴史の真実です。
日清戦争の末期、日本軍は限界につきあたりはじめていた。武器も幹部も兵士も不足していた。そして兵站(へいたん)線も困難な状況に直面した。そして、日清戦争の末期には、新しく戦場に送り出せる師団も装備もなかった。そのうえ、朝鮮民衆のテロ行為によって軍用電信はしばしば不通となった。
歴史は知らないことだらけです。それが面白いのですが・・・。
(2019年2月刊。1900円+税)

古代日中関係史

カテゴリー:日本史(古代史)

(霧山昴)
著者 河上 麻由子 、 出版  中公新書
熊本県の江田船山(えだふなやま)古墳から出土した太刀(たち)の銘文には、「ワカタケル大王」の名前が刻まれていて、これは5世紀後半の雄略天皇をあらわしている。この銘文に登場するムリテ、イタワ(伊太和)は、大王の側に仕えていた人間であるが、中国の皇帝への上表文を彼らのような倭国人が作成できたはずはなく、それは渡来人が作成していた。儒教的観念をふまえた上表文は、まだ倭国人には無理だった。
仏教は、「公伝」したのではなかった。倭国が百済に求めて導入していた。「公伝」というと、百済が仏教を「伝えてきた」ニュアンスだが、実際は違っている。
仏教に関する理解が東アジアでは知識人・文化人が当然身につけるべき教養となり、しかも中国(梁)との交渉に不可欠な要素となっていたからこそ、倭国は仏教の公的な導入に踏み切った。
かつて「日出処」は、朝日の昇る国、日の出の勢いの国、「日没処」は夕日の沈む国、斜陽の国と理解されていた。しかし、今では、「日出処」、「日没処」は、単に東西を意味する表現にすぎないことが証明されている。
「日本」という語は、7世紀の東アジアでは中国からみた極東を指す一般的な表現にすぎなかった。この「日本」を国号に用いることは、中国を中心とした世界観を受け入れることになる。つまり、「日本」とは、唐(周)を中心とする国際秩序に、極東から参加する国という立場を明示する国号だった。
「日本」は国号の変更を申し出て、それを則天武后が承認した。朝貢国であるからには、国号を勝手に変更することはできない。そのため、中国の皇帝の裁可を仰いだのである。ここに、中華たる唐(周)に朝貢する「日本」という国式が定まる。決して唐への対等とか優越と主張するためではなかった。
日本古代史についても、まだまだ解明されるべきことがたくさんあると実感しました。
(2019年3月刊。880円+税)

文化大革命五十年

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 楊 継縄 、 出版  岩波書店
私にとって中国の文化大革命とは高校生のころに隣の中国で始まったなんだか変な運動であり、いかにも行き過ぎた出来事でした。ですから、直接体験は何もしていませんが、見逃せない重大事態が隣の中国で起きていると思ってウォッチングを続けてきたのでした。
この本の著者は、私より8歳も年長で、1966年(昭和41年)から67年末まで、清華大学において学生として文革に参加していて、1968年1月からは、新華社の記者として文革を取材しています。ですから、自分の体験と取材を通じて文化大革命とは何だったのかを語る内容には説得力があります。
現代中国当局による官製の文革史は、文革の悪しき結末は、「反革命集団によって利用された」結果だとしている。これは毛沢東に責任を負わせないためのものであって、歴史を歪曲している。
毛沢東が残した二大問題は、経済面での極度の貧困、政治面での極端な専制だった。この二つの問題を解決する方法は経済改革と政治改革である。
今日の中国では、学士、修士、博士の学位を手にしても、自分の社会的地位を高めるのは非常に難しい。
2009年に「蟻族」という言葉があらわれた。「蟻族」とは、大学を卒業したが、低収入のため、雑居生活をしている人々のこと。北京だけでも、少なくとも10万人以上の「蟻族」がいるとみられている。高知能でありながら、自信は弱小で、群れで生活している。「蟻族」の多くは農村出身で、両親と本人が大変な苦労と努力して大学を卒業したのに、依然として社会の下層にいる。
毛沢東は、はじめ半年あるいは1年から3年で文革を終えようと考えていた。
文革は疾風怒涛のごとき、大がかりな大衆運動だった。官製イデオロギーは、中国人の魂のなかにまで浸透し、多くの者がきわめて大きな政治的情熱を抱いて運動に参加した。
文化大革命以前の制度が文化大革命を生み出す根本的な原因だった。
中華人民共和国は、中国の皇帝専制の土壌の上に構築されたソビエト式の権力構造だった。
毛沢東は、中国に特権階級が出来た現実を認めつつも、文化大革命を通じて、この「新しい階級」を転覆させることができると信じていた。しかし、毛沢東としても、文化大革命を発動させることによって生まれた無政府状態を長引かせることはできず、秩序を回して「天下大治」を実現するためには官僚を必要とした。
造反派は毛沢東の左手であり、官僚体制をたたくには彼らが必要だった。官僚集団は毛沢東の右手であり、秩序回復には彼らを必要としていた。
文革は、毛沢東、造反派、官僚集団が織りなしたトライアングルのゲームであり、このゲームの最期の結末では、官僚集団こそが勝者となった。敗者は毛沢東であり、敗者のツケを払わされたのが造反派だった。
文革は、ひとたびは旧制度を破壊したが、その後期に旧制度は完全に復活した。中国人は、文革のために重大な代価を支払った。
文革の失敗は、イデオロギーという大きなビルを崩落させ、中国人は、数十年来の精神的枷(かせ)から抜け出し、荒唐無稽なイデオロギー神話から覚醒した。多くの民衆が共産主義を信じなくなった。
「階級闘争をカナメとする」という残酷な虐殺用の刀は一般庶民を傷つけただけでなく、全官僚集団、とくに鄧小平ら高級幹部を傷つけた。そこで、「経済建設を中心とする」を実行することが、すでに全社会の共通の認識となっている。
文革で打倒された官僚は、造反派への怨みを心に刻み、報復するだけでなく、文革以前にもまさる特権と腐敗をやり始めた。
文革以後の中国は、まぎれもなく権力を得たものが富裕になる世界である。
毛沢東が死んだのは1976年9月9日。もう43年もたちます。今でも、毛沢東の信奉者がいるようです。もっとも同じような現象は、スターリンにも、ヒトラーにすらありますので、世の中は複雑怪奇としか言いようがありません。
本文では文化大革命の日々を具体的に振り返っていますので、なるほど、そうだったのか・・・と思うところが多々ありました。50年前の大学生時代、アメリカのベトナム反戦運動(これは少しずつ広がっている印象でした)、中国の文化大革命の推移(その情報がほとんど入ってきていませんでした)、そしてベトナムでのアメリカへの抵抗戦争(ベトナム人民の不屈の戦いに感動して身が震えていました)に、絶えず目を配っていたものです。
(2019年1月刊。2900円+税)

刑事弁護人

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 亀石 倫子・新田 匡央 、 出版  講談社現代新書
GPSは憲法の保障する重要な法益を侵害するものであるから強制捜査である。
任意捜査ではないので、裁判所の令状がなければ許されない。そのため、GPS捜査をしたいのなら、憲法や刑事訴訟法に適合する立法措置が講じられることが望ましい。
画期的な最高裁判決でした。2017年3月15日のことです。その主任弁護人だった亀石倫子(みちこ)弁護士とライターの共作の本です。私は亀石弁護士の講演も聞いたことがありますし、そのレポートも読んでいましたので、この本に書かれていることの多くは知っていましたが、何度よんでも、すばらしい取り組みです。心から拍手を送ります。
著者以外の弁護団のメンバーのキャラクターと能力描写もまた、見事なものです。若手弁護士の英知を結集すると、こんなにも素晴らしいことができるのかと驚嘆します。
この本を読んで初めて知ったのは、先輩弁護士にアドバイスを求め、それを生かしていることです。その一人が刑事弁護であまりにも有名な後藤貞人弁護士です。後藤弁護士も、最高裁で5回ほど弁論したことがあるとはいうものの、大法廷で弁論したことはないといいます。
私も、もちろんありません。一般民事裁判に関して、小法廷で2回だけ口頭弁論しました。それなのに、著者たちは、大法廷で弁論したのですから、それだけでも大変な偉業です。後藤弁護士は「一生に一度の大舞台なんだから、楽しんで」と励ましました。しかし、それだけではありません。
後藤弁護士は「ピチョッとつけたらアカンやろ」と一言いったのでした。この言葉を受けて、弁護団は考えました。GPSを車につけるというのは、警察官が車に張りついているのと同じではないか。GPS捜査とは、警察官による私生活への監視を意味する・・・。
すごいですね。先輩弁護士の一言を見事に理論化したのです。
もう一人は、私もよく知っている園尾隆司弁護士(最高裁元総務局長)です。園尾弁護士のほうが興味をもって大阪の著者たちと面談することになったそうです。
園尾弁護士は、次のようにアドバイスしました。これまた大切なことです。
「結論はもう決まっている。弁論はセレモニーでしかない。だから、開き直って、楽しく、自由にやること」
「言いたいことは三つにしぼる」
「大阪の若手弁護士たちが、何を言うのか、最高裁の裁判官たちはワクワクして待っているので、ぜひ楽しませてやってほしい。そのためには、自分たちの言葉で語ること」
「大切なのは、どう感情を共有するか、だ。ワクワクしながら、楽しんでやれば、裁判官も何かが伝わるはず・・・」
さすがのアドバイスですね。
弁護団は発言の原稿をつくり、猛練習したのですが、これまた、すごいのです。
15人の最高裁の裁判官の顔写真を拡大して部屋の壁に貼り、写真に向かって話す練習を繰り返しました。そして、晴れ舞台のためにスーツを新調し、着慣れするように1週間前から着ました。鏡の前に立って、話すときの姿勢まで入念にチェック。当日弁論しない残る弁護団のメンバーが弁論の口調が速すぎる、声が低い、など、批判して是正していきます。
園尾弁護士は、裁判官の表情について、「スフィンクスのように無表情である訓練をしているので、どんなことにも動揺しないように」とアドバイスしました。まさしく的確なアドバイスです。
弁護団の組み方、弁護団内部の仕事の分担、議論のすすめ方、相互点検など、本当に工夫されています。見習いたいものです。
そして、GPS捜査の実際を実地に体験しているのもすごいです。
刑事弁護のすすめ方について大いに学べる教科書だと思いました。
ご一読を強くおすすめします。
(2019年6月刊。920円+税)

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