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江戸暮らしの内側

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 森田 健司 、 出版  中公新書ラクレ
江戸時代の庶民の暮らしぶりがよく分かる本です。
「大坂夏の陣」以降、日本国内で大きな戦争が絶えたのは、支配層たる武士より、多くの庶民による「不断の努力」があってのことと理解すべき。平和が、強大な江戸幕府の恐怖政治によって実現したなどと考えると、江戸時代の真の姿はまるで見えなくなってしまう。
著者のこの指摘は大切だと私は心をこめて共感します。
江戸時代の庶民からもっとも学ばなければならないのは、生活文化、暮らしの文化だ。
江戸時代は楽園ではないし、そこで生きていた庶民は、現代以上に大きな困難に直面していた。しかし、当時の人々の多くが見せた生き様(ざま)は、疑念の余地もないほどに真摯なものだった。それは、当時において、いわゆる道徳教育がきわめて重視されていたためでもある。この道徳教育の究極の目標は、常に平和の維持だった。
長屋の小さな家は、1月あたり500文(もん)で借りられた。500文は現代の1万2500円にあたる。家賃は意外に安価だった。
江戸は上水道だけでなく、下水道も整備されていた。排泄物は一切下水には流れ出なかった。
地主と大家は違う人物で、長屋の住人を管理させるために雇っていたのが大家だった。
江戸はよそ者の集まりであり、長屋を「終(つい)の棲家(すみか)」とするつもりだった者は、ほとんどいなかった。
江戸の食事は朝夕の2回。米を炊くのは朝で、1日1回。夕食の白飯は、茶漬けにして食べるのが普通だった。昼食は元禄年間に定着した。そして、三食すべて白飯(お米)を食べていた。
棒手振り(ぼてふり)とは、行商人のこと。免許制だった。
江戸の庶民は現代日本人と体型がまったく違っている。足が短く、重心が低かった。60キロの米俵1俵を1人で持って歩けるのは普通のこと。
江戸の庶民は、「さっぱり」を何より好んだ。そのため、とにかく入浴が大好きだった。毎日、入浴する。料金は銭6文。
江戸の男性労働者は、数日おきに髪結床の世話になった。髪結床は、江戸に1800軒の内床があり、そのほか出床をあわせると2400軒以上もあった。料金は20文、500円ほど。
就学率は、江戸後期に男子が50%、女子が20%。全国に寺子屋が1万以上、江戸だけで1200以上あった。寺子屋は、まったく自主的な教育施設であり、幕府や藩がつくらせたものは全然ない。ここで朝8時から午後2時まで勉強した。基本は独習で、習字の時間がもっとも多かった。
江戸時代の人々は、人間の幸福を人生の後半に置き、若年の時代は晩年のための準備の時代と考えていた。
まだ若手の学者による江戸時代の暮らしぶりの明快な解説です。一読の価値ある新書だと思います。
(2019年1月刊。820円+税)

ケイレブ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ジェラルディン・ブルックス 、 出版  平凡社
初期ハーバード大学に、ネイティブ・アメリカンの学生がいたのでした。
この本は史実をもとに、白人キリスト教少女の目を通してアメリカ社会を描いた小説です。
ケイレブは、1646年ころに生まれたワンパノアグ族であり、アメリカ先住民として最初にハーバード大学を卒業した。
ケイレブの書いたラテン語の手紙が写真で紹介されています。
ハーバード大学の前身である「ニュータウンの大学」が設立されたのは1636年。マサチューセッツ湾植民地の設立から6年後のこと。17世紀末までの卒業生は総数465人。ケイレブ・チェーシャトゥーモークは、そんなエリートの一人。
先住民のケイレブと白人女性のベサイアは、抑圧された立場にあるという共通点をもつ。この二人が文化の違いを乗り越えて共生を目ざすという展開です。
ケイレブは知識を手に入れることにより、先住民とイギリス人との架け橋になろうとする。誰の奴隷にもならない二人は、知識を活かして他者に仕えようとする。
史実のケイレブは1665年に学友たちと行進してハーバード大学の卒業式に出席する。しかし、残念なことに、1年後に肺結核のため亡くなった。
アメリカ先住民の一人がキリスト教と接触し、異なった世界のなかで学び目覚め、葛藤する状況がよく分かる小説です。
(2018年12月刊。2800円+税)

アンダークラス

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 橋本 健二 、 出版  ちくま新書
現代日本社会の実態を正確に認識する必要があると痛感します。
非正規労働者のうち、家計補助的に働いているパート主婦と、非常勤の役員や管理職、資格や技能をもった専門職を除いた残りの人々を「アンダークラス」と呼ぶ。
その数は930万人、就業人口の15%を占め、急速に拡大しつつある。平均年収は186万円、貧困率は38.7%(女性は5割に達する)。男性の66%が未婚者で、配偶者がいるのは26%に達しない。女性でも未婚者が過半数を占め、44%近くが離死別を経験している。
アンダークラスが増えはじめたのは、1980年代末のバブル経済期から。
日本の貧困率は、1985年(昭和60年)に12.0%だった。それから30年後の2015年には15.6%となった。30年間で3.6%も上昇した。
ちなみに、日本の資本家階級は254万人ほど。これは、就業人口の4.1%を占める。
アンダークラスの若い男性は、絶望と隣りあわせに住んでいる。
アンダークラスの男性は、社会的に孤立していて、協力行動にふみ出しにくい。他者からサポートを受ける機会も少ない。
老後の生活の経済的基盤は、きわめて脆弱だ。金融資産は平均948万円。
「自分は幸せではない」と考える人の比率は、実に55.7%である。
アンダークラスと失業者は格差の解消と所得の再分布を支持する。ところが、自民党支持を拒否するにもかかわらず、その他の政党を支持するわけでもない。どの政党も支持しない。また政党への無関心をきめこむ。したがって、アンダークラスの意思は、政治には反映されない。
投票率の低下がアベ一強政権を黙って支えている現実を深刻に真剣に考えるべきだと私は考えています。
(2018年12月刊。820円+税)

キャッシュレス覇権戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 岩田 昭男 、 出版  NHK出版新書
日本は今も現金が大手を振って通用している。キャッシュレス決済比率は18.4%でしかない(2015年)。韓国は89.1%、中国は60.0%、そしてアメリカは45.0%というのとは大きな開きがある。
日本の銀行券の製造コストは年に517億円。そして全国20万台あるATMから現金を引き出している、このATMの維持管理コストは現金運搬の人件費を加えると年間に2兆円。
キャッシュレス化を進めたい国の立場は、徴税を徹底したいということ。現金は匿名性が高くて、その流れを把握しにくい。
キャッシュレス化は便利だが、資産やお金の使い方が企業そして国に筒抜けになる。そのうえ、蓄積された個人情報を分析して、その人の信用度を数値化してランク付けする「信用スコア」ビジネスが始まっている。
ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であるペイペイが2018年12月から、「100億円あげちゃう」キャンペーンを始めた。そして、実際に、10日間で100億円を使い切った。1日10億円である。
個人商店のキャッシュレス化が進まない理由の一つは、手数料の高さ。3%から7%の手数料をとられてしまうことにある。ラーメン店の多くは、カードお断りだ。
中国では、スマホ決済は日本のGDP546兆円をはるかに上回る660兆円(2016年)に達している。そして、中国では顔写真つきの身分証がなければスマホを買えない。逆にいうと、スマホがID(身分証明)の役割を果たしている。
アリペイのゴマ信用は、返済履歴や買い物履歴だけでなく、個人の生活情報(暮らしぶり)も取り込み、AI(人工知能)によって点数化したもの。このゴマ信用は、一企業の信用情報というより、人々をランク付けする半ば公的な基準となりつつある。中国政府のブラックリストに載った人間は、実際に飛行機や高速鉄道の切符が買えないという制裁を受けている。
いま、中国政府は、無料の健康診断を実施し、指紋、血液、DNAなどの生体情報の収集をすすめている。
アメリカでは、警察署の多くが、犯罪予測システムを運用している。過去に発生した管轄内の犯罪データをAIが分析し、犯罪が起きる「時間帯」と「場所」を予測し、このデータをもとに、重点的にパトロールする。
キャッシュレス社会とは、誰が、いつ、どこで、何を、いくらでどれだけ買ったかという情報が、私たちの知らないところで集められ、分析される社会でもある。個人は「丸裸」にされてしまう。
ポイントカードによって顧客を囲いこみ、年齢・性別・職業などの属性と購買動向をひも付けて記録して、自社のマーケティングに役立てようという狙いがある。
私はなるべくカードを使わないようにしています。自分の足跡を誰がずっと監視しているなんて、恐ろしすぎます。やはり、便利なものには裏があるのですよね・・・。
(2019年2月刊。780円+税)

アナログの逆襲

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ディビッド・サックス 、 出版  インターシフト
レコード店が復活した。大繁盛である。新たにプレスされ販売されるレコードの数は、この10年間で10倍以上にはね上がった。アメリカだけでなく、カナダのトロントだけでなく、世界中でレコードが復活している。
ええっ、それって本当の話ですか・・・。私は、とっくの昔にステレオセットを捨て、レコード盤を一掃しました。カセットテープも全部なくしました。
アナログが逆襲している。これはデジタル・テクノロジーが並はずれて進歩した結果のこと。それは、私たちが何者で、どのように生きるかを知るための試行錯誤の道のりなのだ。
そこでは、デジタル世界を押しやるのではなく、むしろアナログ世界を近づけて、その利点をフルに活用して成功している。 重要なことは、デジタルかアナログか、どちらかを選ぶことではない。
デジタルの使用を通じて、物事を極度に単純化する考え方に慣れてしまった。いちかゼロか、黒か白か、というのは誤った二者択一だ。現実世界は、黒か白かではなく、グレーですらない。色とりどりで、触れたときの感覚に同じものはひとつもない。いま、現実世界がかつてなく重要なものになっている。
レコード。2015年に世界でプレスされたレコードは3000万枚。シングルがもっとも売れたのは、1973年、アメリカでは2億2800万枚が売れた。アルバムは1978年にピークで3億4100万枚を売った。アメリカでは2007年に99万枚だったのが、2015年には1200万枚へ驚異的に伸びた。2014年の新規レコードの売上げは3億4680万ドルに達した。購入者は、お金を払って手に入れるからこそ、所有していると実感できる。それが誇りにつながる。
いまや市場にはノートが氾濫している。
毎日数千通のメールを受けとり、そのほとんどを読まずに消去する。しかし、デスクに届けられる封筒は必ず開封する。
デジタルで撮ると、その後の作業がとてつもなく面倒だ。ところがフィルム写真だとすぐに画像が見られる満足感があり、フィジカルな作品である。
2008年に1億1000万台だった日本のデジカメの出荷数は、2014年には、わずか2900万台に激減した。スマホのカメラが直撃したのだ。
みんなで集まって出来るボードゲームに人気が集まっている。つまり、テーブルゲームは、単にみんなが集まるための口実なのだ。
アナログのゲームには、深くて長続きする友情を生み出す力がある。目的は、勝つことと同じくらい、人間関係を築くことだ。
紙で読むことはとても機能的で、ほとんど習性になっている。紙に触れることは、五感を使う行為だ。印刷版は、ページを指でめくることで、過剰な情報にさらされていという感覚をせき止めることができる。
アメリカの新聞の新規購読者の多くは若い読者である。彼らは印刷版が一度で読めることを気に入っている。
アメリカ国内では、この20年間に数千の書店が廃業した。ところが、いま再び、地域に愛される小規模経営の本屋が増えつつある。ピーク時の1990年代に4000軒だった小売書店が、最悪だった2009年に1650軒にまで減ったものの、新たな出店があり、2014年には2227軒にまで増えた。本屋では予測できない充実感を満たされることがある。人間がもっとも病みつきになるのは、思いがけなく得をしたときのこと。
教育は、デジタルではまかなえない。コンピューターを子どもに配っても、格差が拡大するだけ。コンピューターの導入は子どもの学力向上には、まったく役に立たない。子どもにとって、紙の本のほうが読みやすいし、メモや印をつけて自分だけのものにできて、コンピューターより頼りになる。
アナログ式教育の要は、教師だ。教師は、生徒の集団と人間関係を築くのが仕事だ。学習の基盤は、一人ひとりの生徒との人間関係にある。
実は、デジタル業界ほど、アナログを重んじる場所はない。
健康もアナログを選ぶ理由のひとつだ。
なるほど、なるほど、そうなんだよね・・・、と典型的なアナログ人間の私は大いに共感・共鳴した本です。
(2018年12月刊。2100円+税)

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