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農学と戦争

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 藤原 辰史・小塩 海平・足達 太郎 、 出版  岩波書店
戦争末期、満州へ東京農業大学の学生たちが派遣され、悲惨な状況をたどったことを明らかにした貴重な本です。
満州への移民は、日本政府(農村省)にとって、日本の農村の「過剰人口」を整理する絶好のチャンスだった。日本から100万戸の農家を送り出し、日本国内の農家の経営面積を広げて生活を安定させ、人口密度の少ない満州国に日本人の人口を増やし、あわせてソ連との国境を防衛する任務を有する、それが満州移民だった。
実際に満州に行ってみると、日本人だけで経営するにはあまりにも土地が広かったし、日本の農法はしっくりこなかった。日本で学者が語っていた「指導」なるものは、事実上不可能だった。
このころ東京農大にとって、借りものではない自前の農場を満州にもつのは悲願だった。
1944年5月、東京農大農業拓殖科の2,3年生を主体とする30人の学生が満州東部に到着した。「先遣隊」だった。
1945年6月、第三次隊が東京を出発して満州に向かった。このころ、日本内地は空襲にあっていたので、満州のほうがかなり安全だと考えられていた。
それにしても、1945年6月に日本から満州に行くというのは、無謀だとしか言いようがありませんよね。
満蒙開拓移民政策は、無人地帯に日本人を入植させたのではない。湿地だった湖北農場は例外的で、多くは、関東軍の武力にものをいわせてもともと現地にすんでいた農民から土地をとりあげた。
ソ連軍部が進攻してきたあと、満州各地でおこった日本人に対する襲撃や虐殺事件の背景には、こうした現地の人々への差別的待遇や感情的対立があった。
ソ連軍の進攻からのがれてきた日本人避難民のほとんどは、日本軍のもとへ行けば助かると考えていた。しかし、それは大きな間違いだった。当時の日本軍には、自国民を保護するという発想(考え)はなかった。むしろ、作戦の都合によって一般人を殺傷することさえいとわなかった。
 敗戦後、東京農大三次隊の学生・教職員100人のうち、半数以上が死亡した。死因は主として栄養失調による衰弱死と発疹チフスだった。すなわち、1945年度に満州へ渡航した学生87人のうち、53人が死亡または行方不明となった。実習参加学生の死亡率は61%に達した。
東京農大のトップは、この責任をまったくとらなかったし、自覚すらしなかった。彼らは戦時中の自らの責任を自覚することなく、戦前の認識を戦後にもちこしたまま、その後も要職をつとめていった。
東京農大の現役の教授たちが過去の悲惨な事実を掘りおこし、先輩たちを厳しく批判しています。これは、すごいことだと思います。ぜひ、今の在学生にしっかり受けとめられてほしいものです。
(2019年4月刊。2500円+税)

ケーキの切れない非行少年たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 宮口 幸治 、 出版 新潮新書
非行少年のなかには、小学2年生くらいから勉強についていけなくなったという子どもが少なくない。彼らは簡単な足し算や引き算ができず、漢字が読めない。自己洞察が必要だといっても、そもそも、その力がない。反省以前の問題がある。非行化を防ぐためには、勉強への支援がとても大切だ。「ほめる」だけでは問題は解決しない。
朝の会で1日5分をつかってさまざまなトレーニングをすれば、子どもたちは十分に変わっていく可能性がある。非行少年たちは学ぶことに飢えている。認められることに飢えている。
今の社会では、対人スキルがトレーニングできる機会が確実に減っている。SNSの普及によって、直接、会話や電話をしなくても、指の動きだけで、瞬時に相手とコンタクトがとれる。
知的障害はIQが70未満とされているが、これは1970年代以降のもの。IQ70~84の、境界知能の子どもたちも少なくない。つまり、クラスで下から5人ほどは、かつての定義では知的障害に相当していた可能性がある。
知的障害をもつ人は、後先(あとさき)のことを考えて行動するのが苦手。これをやったらどうなるのか、あれをやったらどうなるのか、と想像するのが苦手なのだ。
ところが、知的ハンディをもった人たちは、ふだん生活している限りでは、ほとんど健常者と見分けがつかない。違いが出るのは、何か困ったことが生じた場合。
刑務所の新しい受刑者1万9363人のうち、3879人は知能指数に相当する能力検査(CAPAS)が69以下だった。つまり20%の受刑者は知的障害者の受け入れなくなり、故郷でホームレスの生活をしている。
著者は、児童精神神経科の医師。画用紙に丸いケーキを描いて3等分するよう非行少年たちに頼むと、公平な3等分とはかけはなれたものを描いた。その絵をうつした写真が紹介されていますが、本当に驚くべき事実です。
口先だけで非行少年に反省の言葉を言わせたり、反省文を書かせても意味はないのです。
(2019年9月刊・6刷。720円+税)

恐竜の世界史

カテゴリー:恐竜

(霧山昴)
著者 スティーブ・ブルサッテ 、 出版  みすず書房
福井県にある恐竜博物館は、遠くからはるばる行くだけの価値があります。
残念なことに、私はまだ天草の恐竜博物館には行っていません。ぜひ一度行ってみたいと思います。そして、北海道のムカワリュウの全身骨格復元の実物も拝みたいものです。
恐竜の本が出たとなれば、見逃すわけにはいきません。かの小林快次センセイ(北大教授)のおすみつきとあれば、これは読まなくてはいけません。
1億年以上も続いた恐竜の時代、地球上には一つの大陸、パンゲア大陸しかなかったというのを初めて認識しました。アフリカも南北アメリカ大陸も、みんなひとかたまりだった時期から恐竜はいたのです。もちろん、それらの大陸は、やがて離れていき、今のようになりました。
そして、気候と気温についても、今のような温暖な気候の下で恐竜がずっといたわけではないようなんです。ええっ、そ、そうだったの・・・、と驚いてしまいました。
さらに、今や新種の恐竜が週に1度のペースで発見されていて、毎年50種ずつ新しい恐竜が見つかっている。うっそー、うそでしょ。そう叫びたくなります。
エオラプトルなど初期の恐竜が活動していた2億4000万年前から2億3000万年前のころ、現在の諸大陸はなかった。あったのは、「超大陸」(パンゲア)と呼びひとつながりの広大な陸地。
そして、最初期の恐竜はサウナにすんでいたようなもの。三畳紀の地球は、現在よりはるかに暑かった。大気中の二酸化炭素濃度は今より高かった。
最初期の恐竜は、湿潤地帯に目立たないように引っ込んだ存在だった。負け犬と言ってよいほど。ところが、ジュラ紀になると恐竜は多様化し、多種多様な新種が次々に生まれていった。
肉食恐竜T・レックスは、速く走ることだけは出来なかった。なぜか・・・。そして、このT・レックスは世界的な恐竜ではなく、北アメリカ、その西部に限られていた。
鳥は、1億6000万年以上に及んだ恐竜の治世のなごりである。鳥は恐竜なのである。
恐竜の絶滅が唐突におきたことは、疑いようがない。1億年以上も繁栄を謳歌していた恐竜が、数千年間の、あっというまに絶滅してしまった。
小惑星は飛来しなければ、恐竜も絶滅しなかった。恐竜の帝国は滅びてしまったが、恐竜は鳥として今に生きながらえている。
いやあ、恐竜について知ると、胸がワクワクしてきます。
(2019年8月刊。3500円+税)

ある一生

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ローベルト・ゼーターラー 、 出版  新潮社
オーストリア、アルプスの山中に生きた、名もなき男の一生が淡々と描かれています。
第二次世界大戦が始まる前のアルプスの山中にロープウェーが建設され、著者もその作業員の一人になります。
やがて戦争が始まり、軍隊に志願して一度は不具の身体と年齢からはねられたのに、あとでは徴兵され、ロシア戦線に追いやられてソ連軍の捕虜生活も経験します。復員して故郷に帰ってくると仕事はなく、やむなく勝手知ったる山岳ガイドの仕事をしますが、寄る年波には勝てず、一人で山小屋で生活しているうちに「氷の女」に出会い、ついに天に召されるという一生です。
食堂の給仕係の女性にプロポーズして幸せな結婚生活も送るのですが、それもつかの間のこと。大雪崩に襲われ、妻は亡くなり、その後はずっと孤独に暮らすのでした。
一見すると救いようのない寂しい人生なのですが、いやいや人生は誰だって同じようなものではないのか、そう思わせるほどの筆力で、ぐいぐいと引きずりこまれてしまう、不思議な小説でした。
人生とは瞬間の積み重ねだ。本書を読み終えたとき、ひとりの男の一生をともに生きたという、ずっしりした手ごたえが残るという訳者(浅井晶子)のコメントは、まさしく同感でした。
(2019年6月刊。1700円+税)

パリ警視庁迷宮捜査班

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ソフィー・エナフ 、 出版  早川書房
いかにもフランスらしいエスプリのきいた警察小説です。フランスで15万部も売れた人気ミステリというのですが、なるほど、と思いました。
もう50年以上もフランス語を勉強している割には、ちっともうまく話せませんが、ともかく毎日、フランス語の勉強だけは続けています。毎朝のNHKラジオ講座と週1回の日仏学館通い、そして年に2回の仏検受験です。このところフランスに行っていませんが、フランスに行っていませんが、フランスには何回も行きました。駅やホテルそしてレストランで通用するくらいのフランス語は心配ありません。先日、東京でフランスの弁護士会との交流会があったようですが、そこで会話できる自信はまったくないのが残念です。
カぺスタン警視正は過剰発砲で停職6ヶ月となり、復職したばかりの女性。その下にとんでもない札付きの警察官が集められた。大酒飲み、ギャンブル狂、スピード狂、そして脚本家など・・・。その任務は長く迷宮入りとなっていた事件の再捜査。
部下たちは警察官といっても警部や警部補が多い。癖あるベテラン刑事たち。一見すると、無能であり、やる気のなさそうな、そして人づきあいの悪そうな警察官たちが、なんと、すこしずつ重要な手がかりを得て、一歩一歩、疑惑を解明して、真相へ迫っていきます。
フランスの警察署の雰囲気って、こんなものなのかな、きっと日本とは違うんだろうな・・・、そう思いながら、フランス式捜査の歩みを堪能できる警察小説でした。
(2019年5月刊。1800円+税)

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