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承久の乱

カテゴリー:日本史(鎌倉)

(霧山昴)
著者 坂井 孝一 、 出版  中公新書
承久の乱は、一般には後鳥羽上皇が鎌倉幕府を倒す目的で起こした兵乱とされています。しかし、この本によると、最近では、後鳥羽上皇は執権北条義時の追討を目指しただけで、倒幕ではなかったとされているとのこと。知りませんでした。
そして、後鳥羽上皇についての、時代の流れが読めない傲慢で情けない人物という人物は誤解であって、今では「新古今和歌集」を主導して編纂した優れた歌人であり、諸芸能や学問にも秀でた有能な帝王だったとされています。
同じことは、暗殺された三代将軍の源実朝(さねとも)にもあてはまる。実朝は「政治的には無力な将軍」のイメージが強いが、実は将軍として十分な権威と権力を保ち、幕政にも積極的に関与していた将軍だった。さらに、後鳥羽上皇の朝廷と源実朝の幕府は、対立どころか親密な協調関係を築いていた。実朝が暗殺されたことは、鎌倉幕府だけでなく、朝廷に衝撃を与え、乱の勃発に重大な影響を及ぼした。
このような序文を読んだら、いやおうにも本文を読みたくなるではありませんか・・・。
承元3年(1209年)、鎌倉幕府では18歳になった三代将軍実朝が将軍親裁を開始した。実朝は、主君としての穀然たる姿勢と気概をもち、統治者として次々に政策を打ち出して成果をあげていった。
実朝は、地道な努力を積み重ねて擁立された将軍から、御家人たちの上に君臨する将軍へと自立し、その権威と権力で御家人たちを従えていた。
将軍実朝のもとで、和田合戦が始まり、北条義時が和田義盛の一族を滅ぼした。この和田合戦のあと、将軍と執権とが直接対峙することになった。
北条政子、義時そして大江広元らの幕府首脳部にとっても、実朝暗殺による突然の将軍空位は想定外の危機だった。
実朝は、後鳥羽上皇の朝廷から支援を受け、頼朝をはるかに超える右大臣・左近衛大将という、武家ではとうてい考えられない高い地位に昇った大きな存在だった。
後鳥羽上皇の院宣は、問題が幕府の存続ではなく、北条義時の排除一点にしぼられているうえ、最大の関心事である恩賞に言及していて、御家人に受け入れやすい内容になっていた。後鳥羽上皇が目指したのは、北条義時を排除して鎌倉幕府をコントロール下に置くことであって、倒幕でも武士の否定でもなかった。
北条政子は、金倉幕府創設者の未亡人にして、二代、三代将軍の生母、従二位という高い位階をもち、幼き将軍予定者を後見する尼将軍として、聞く者の魂を揺さぶる名演説を行った。そして、そこには北条義時ひとりに対する追討を、三代にわたる将軍の遺産である「鎌倉」すなわち幕府そのものに対する攻撃にすり替える巧妙さがあった。幕府存亡の危機感を煽られ、御家人たちは異様な興奮の中で、「鎌倉方」について「京方」を攻めるという選択をした。
このとき「京方」を迎撃する戦術をとっていたら、幕府の基盤である東国武士が離反する恐れがあっただけでなく、長期戦となれば、畿内の近国や西国の武士たちが大量に朝廷側の追討軍として組織される可能性もあった。
「鎌倉方」は8年前の和田合戦で激闘を経験ずみであったから、戦況に応じた適格な指示を出すことができた。
「承久の乱」の敗北によって、「京方」は三人の院が流罪になる「三上皇配流」という前代未聞の結末を迎えた。後鳥羽上皇の流人生活は19年に及び、60歳で隠岐島で没した。あとの2人の上皇もそれぞれの配流地で死を迎えた。
歴史を学ぶことは、人間と社会を知ることだと、つくづく思わせる新書でした。
(2019年1月刊。900円+税)

神主と村の民俗誌

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 神崎 宣武 、 出版  講談社学術文庫
村のなかで神主が村人とどんな関わりをもっている(いた)のか、とても興味深く読んでいきました。途中で、これって、最近のことではないよね、いつのことだろうと疑問に思いました。
すると、この文庫本はごく最近(19年7月)に出たばかりなのですが、実は30年近くも前の1991年(平成3年)に出た復刻版でした。なるほど、30年前なら少しは分かる気がしました。
今では村の絶対人数が減って、神輿(みこし)かきをするだけの人数を確保できない。イノシシが出没して、農作物やタケノコ・クリなどの被害が増えている。
それでも、村祭りを復活させるところもあって、一路、消滅をたどっているわけではない。
平成の大合併は中央集権化をもたらし、葬祭場が出来て、葬儀や法要そして家祈祷までが個人の家から離れてしまった。
では、30年前はどうだったのか・・・。それが、ことこまかに嫌になるほど詳しく再現されているのが本書です。
著者は終戦直前の1944年生まれで、実家は代々、神主業を世襲してきて、著者も父親にたのまれて承継しました。東京から、新幹線で郷里・岡山の美星町まで通ったのです。
そこは、古くから自給自足の生活が営まれていて、集落の自治も古くから安定していた。
神主が太鼓を叩く技術は、一朝一夕に習得できるものではない。30歳になって習いはじめても難しい。幼いときから聞き慣れていて、若いときに叩きはじめないと、音に説得力が出てこない。
なーるほど、そういうものでしょうねえ・・・。分かる気がします。
世の中が好景気のときには、お神楽(祈祷料)が増大傾向にあり、また不景気のときには、神だのみから信心が盛んになる傾向がある。
仏教と神道は、日本では昔から両立してきた。神道と仏教は、その基本的な思想が似ている。基本的な思想としては、祖霊信仰である。
神道でも仏教でも、そのときどきに崇める神仏はその基本的な思想が似ている。
一神教ではなく、多神教であり、その中心に祖霊がある。
祭りとは、祖霊と現世とが交流する場でもある。
「神様、仏様、ご先祖様」とは、まさにいいえて妙である。現代日本人の信仰の形態は、果たして信仰といって良いのかどうなのか・・・。そもそも、日本人の信仰の形態は、はたして宗教といってよいのかどうか。
面白い本です。ほんの少し前までの村の生活がイメージできます。図書館で注文して読んでみてください。
(2019年7月刊。1070円+税)

三つ編み

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 レティシア・コロンバニ 、 出版  早川書房
すごい本です。圧倒されました。電車のなかで頁をめくっていきながら、この本に登場してくる女性たちは、いったい、このあとどうなるんだろう・・・と、もどかしい思いでした。
 フランス人の女性作家の本ですが、舞台は、なんと、インド、イタリアそしてカナダなのです。そして、主人公の女性は、いずれも深刻な悩み・問題を抱えて苦悩しています。でも、少しずつ行動に移していきます。それが、三つの大陸の全然別の世界で生きているにもかかわらず、たった一つだけ結びつくものがあるのです。それが何なのかは、この本を読んでのお楽しみにします。
インドの女性スミタはダリット、不可触民です。仕事は他人の便所の汲みとり。裸足で歩き、素手で便を扱う。ダリット以外の人とは話もしないし、触っても、見てもいけない。ところが、触っていけないはずなのに、強姦はされるのです。まったくいい加減な差別です。でも笑えません。強姦されたあと、殺されてしまう可能性も強いのです。被害者が被害を申告するなど考えられもしません。
ただ、この本にも触れられていますが、そんなダリットのなかから突出した経営者や政治家がたまに出てきます。これまた不思議です。
イタリアの女性ジュリアの一家は毛髪を生業(家業)としている。でも、ジュリアは図書館で本を静かに読むのが好き。そして、シク教徒の男性に心が惹かれるようになった。
サラは、カナダのローファームで働く女性弁護士。アソシエイトにのぼりつめた初めての女性だ。裁判所は闘争の場、縄張り、闘技場だ。そこにいるとサラは、女戦士、情け容赦のない女闘士となる。口頭弁論のときには、ふだんの声と微妙に異なる、低い厳かな声をつかう。表現は簡潔で鋭く、切れ味抜群のアッパーカットのよう。敵の論点のわずかな隙や弱みをすかさず、突いて、ノックアウトする。担当案件はすべて頭に入っていて、嘘をつかれたり、恥をかかされることはない。
ええっ、ウ、ウソでしょ・・・。つい、そう私は叫びたくなりました。
そんなサラが乳ガンだと宣告されるのです。それで抗ガン剤なんか投与されたら、せっかくのアソシエイトの地位が一瞬のうちにフイになってしまう・・・。
ダリットのスミタは、村を出る、娘を連れて村を出て都会に行くことにした。夫は懸命にとめようとするが、スミタの決意は揺るがない。娘にまで、こんな生活をさせたくない。学校に行かせて、ちゃんと勉強して、この境遇から抜け出せるようにするのが親のつとめだ。スミタは、来世まで待つ気なんかない。大事なのは、今のこの人生。自分と娘ラリータの人生なのだ。
サラは抗ガン剤をつかいはじめた。しかし、弁護士は、いつだって颯爽とし、有能で積極的でなければならない。弁護士は頼もしく、説得力があり、好意を味方につけなければならない。
難しいけれど、これは本当のこと、大切なことです。
3人とも不運や試練に見舞われながら、それを乗りこえようと奮闘します。本書は、たたかう女性を描くフェミニズム小説だと訳者は解説しています。
いやあ、すごい本でした。ぜひ、あなたも読んでみてください。
(2019年4月刊。1600円+税)

ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ブレディみかこ 、 出版  新潮社
面白い本です。イギリスに住む日本人女性の息子(11歳、中学生)をめぐる話です。
イギリスでは階級差が固定しているし、はっきり目に見えるようです。さすがに日本でも、「一億、総中流」なんてという幻想は聞こえなくなりましたが、階級差は見えにくいままです。
イギリスの中学校にはフリー・ミール制度があって、生活保護や失業保険など政府からの補助を受けているような低所得家庭は給食費が無料になる。小学校は給食制なので、同じ食事を食べるが、中学校は学食制なので、生徒が好きな食事やスナック、飲みものを選ぶ。現金は使わず、プリペイド方式で、フリー・ミール制度対象の子どもには使用限度額がある。
中学校の正門には校長が立っていて、登校している生徒一人ひとりと毎朝、握手する。
労働党政権は、イギリスから子どもの貧困をなくすと宣言し、実際、1998年度に340万人だった貧困層の子どもが2010年には230万人と、順調に減少していった。ところが、2010年に保守党政権になって緊縮財政を進めると、平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもが410万人に増えた。これはイギリスの子どもの総人口の3分の1にあたる。
制服が買えない子どもがいる。生理用品を大量に買って女生徒に配る女性教員がいる。私服を持っていないので、私服参加の学校行事のときには必ず休む生徒がいる。
イギリスでは、子どもが学校を欠席すると、親が地方自治体に罰金を払わされる制度がある。父母それぞれに60ポンドずつ請求される。21日以内に払わないと120ポンドに上がり、それでも払わないと最高2500ポンドの罰金、そして最長3ヶ月の禁固刑に処せられることがある。ひえーっ、これには驚きました。
イギリスの公立中学校には、さまざまな国から来た子どもたちがいて、子どもたちは、お互いに差別や貧困と格闘しなければいけないようです。日本より人種や貧困がはっきり見えるのです。
アイルランド人男性と日本人女性のあいだに生まれた著者の一人息子は、いかにもたくましく育っているようです。ヘイトスピーチを受けても母親がまったく動じないのが、思春期に差しかかった11歳の息子に何よりの精神安定剤になっているという印象を受けました。
イギリスの現実、そして厳しい社会環境のなかでのたくましい子育てを学ぶことができました。あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1350円+税)

へぼ侍

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)
著者 坂上 泉 、 出版  文芸春秋
西南戦争に参加した大坂商人出身の兵士の物語です。なかなか面白く、読ませました。
主人公の志方錬一郎の志方家は、三河以来の徳川家臣。大坂東町奉行所与力として数代前から大坂に土着していた。御役目をこなすかたわら、剣術の志がある武士や町人に指南する道場を営み、祖父の代には大塩平八郎の乱の鎮圧で武功をあげるなど、商都大坂にあって珍しく尚武の家柄だった。
当代不在で御一所の混乱を迎えた志方家は、かつての与力や同心が市中の行政や治安維持の任務を遂行するなか、当面は得られたはずの役目も秩禄も失った。
それで、錬一郎は、部屋住み丁稚として商家に入った。そして、寺子屋に通って読み書き算盤を教わり、商人として身を立てる最底限の知恵を仕込まれ、ついには手代にまで引き立てられた。
大坂が大阪になったのは、徳川の世で「天下の台所」として繁栄したのが明治に入って大きく陰ってきたことから、せめて縁起だけは担ごうと、「土に返る」という文字を避けてのこと。ええっ、これって本当のことですか・・・。
大坂鎮台は、紀州徳川家がかつて編成した銃兵を主力とする壮兵600人をもって遊撃兵第一大隊を編成。その旗下に、府下徴幕の壮兵のみの小隊が編成された。
錬一郎たちは、プロミア陸軍で制式採用された最新式のツンナール銃をあてがわれた。スナイドル銃と同じく元込め式だ。
田原坂の激戦が終わろうとしているころ、錬一郎たちの第一大隊は熊本の南に位置する宇土半島に上陸した。このころから、犬養記者が同行取材する。
薩摩軍は、危ういと思うとすぐに逃げる。決して猪突猛進して全滅するような愚は犯さない。
そして、戦場となった村で錬一郎は、かの有名な「西郷札」に出会います。
「日本通用 金壱圓 承恵社」
一応は紙幣の体裁をとっているが、用いられているのは布で裏打ちしたらしき和紙。インクも粗末で、既に薄れはじめている。正貨との当換など実際になされる可能性は薄く、まるで玩具。
ところが、錬一郎は大坂商人らしく、この西郷札を大量に入手し、それを大坂に持ち込んで、お金に換えようという。縁起物として、物好きな金持ちに買いとってもらうというもの。
まあた負けたか 八連隊(やれんたい)
それでは勲章 九連隊(くれんたい)
敵の陣営も 十連隊(とれんたい)
大阪鎮台  へぼ鎮台
西南戦争をめぐる状況についてよく調べてあり、それを一つのストーリーにまとめあげた筆力に感嘆しました。
(2019年7月刊。1400円+税)

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