法律相談センター検索 弁護士検索

司法書士始末記

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 江藤 价泰 、 出版  日本評論社
弁護士と司法書士の協働は必要不可欠です。手続的にこまかいところは司法書士のほうが優れていますし、大局的観点での手続・解決だと紛争処理に慣れた弁護士のほうが一日の長がある気がします(もちろん、これはあくまで一般論でしかありません)。
この本はベテラン司法書士による事件処理にあたっての失敗談やら教訓が語られていて、大変参考になります。
司法書士制度は、1872年(明治5年)に司法職務定制が定められて以来、150年近い歴史を有している。1919年(大正8年)に司法代書人法が成立し、1935年(昭和10年)に司法書士法が制定され、戦後、何度も改正されて確立した。
司法書士会と弁護士会の違いは、なんといっても自治権が認められているかどうかです。弁護士会には監督官庁がありません。いえ、戦前は裁判所検事局の監督を受けていました。弁護士会の総会は検事正のご臨席の下で開かれていたのです。信じられませんよね・・・。
ところが、司法書士会は今も法務局の監督下にあります。ですから、司法書士会の総会では、法務局長が訓辞を述べ、局長表彰というものがあります。司法書士は日々の活動についても、さらには売上についても法務局に報告することになっていました(今も、でしょうか・・・)。
権力とたたかってでも社会正義と基本的人権を擁護するのが弁護士の責務です。弁護士がお金もうけだけしか考えないようになると、弁護士会の存在はうっとうしいだけです。会費はバカ高いし、何やかやとうるさいことを言って個々の弁護士をしばろうとする、そんな存在の弁護士会なんて必要ないという声が出てくるのは、ある意味で当然です。でも、ひとたび権力からにらまれたとき、それを支えてくれるのが弁護士会です。そのことにぜひ文句を言っている弁護士にも気がついてほしいと私は心から願っています。
この本では、本人確認が十分でなかったことから、危くニセ所有者に騙されそうになった体験談(失敗談)も紹介されています。これは本当に怖いことです。東京都心の一等地がサギ師集団によって売却され、超大手企業が何億円も損をしてしまった事件がありました。
このとき、新米の司法書士を狙い、ともかく事を急がせ、余裕をなくさせようとします。犯人は真の所有者の元同級生で、実印や印鑑証明書までもらっていたのでした。
運転免許証のコピーではなく、ホンモノを自分の目で見て確認するくらいの気構えがプロには求められる。まことに、もっともです。
「縄のび」という言葉があることを、弁護士になってまもなく知りました。法務局に備付けてある図面(本来は公図なのですが、実は不正確な字図=あざずであることがほとんど)と現地で実測した測量図が大きく違うというのは、決して珍しいことではありません。土地の実測面積が法務局の登記簿面積よりも大きいときは「縄延(の)び」と呼ぶ。ある程度の違いは許された誤差であり、「縄延び」は認められることになっています。しかし、逆のケースも、もちろんあるわけで、字図には大きな面積があるけれど、実は現地には何もないということもありうるのです。
ある司法書士は、先輩から「離婚と境界には手を出すな」と言われたそうです。どちらも金銭をめぐる紛争というより、感情的対立という側面が強いので大変なのです。
境界確認(確定)裁判は何年もかかることがしばしばです。それで、はじめにいただく着手金は、弁護士への慰謝料みたいなものですと私は高言し、決して安請負はしないようにしています。
今から20年も前に出た本で、長いあいだ積ん読状態になっていたので、人間ドッグ(一泊)のときに持ち込んで読了しました。改めて大変勉強になりました。
(1998年3月刊。2400円+税)

倒産手続の課題と期待

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 伊藤 眞、園尾 隆司、加々美 博久 、 出版  商事法務
企業倒産の第一人者である多比羅誠弁護士の喜寿を記念した論文集です。
私は最後の第13章にある「多比羅誠弁護士の事件処理」から読みはじめました。
東京の酒類販売業者が倒産したとき、5億円をこえる売掛金債権をなんとか営業を続けながら回収していった例が紹介されています。破産して営業終了となったあとで破産管財人が債権を回収しようとしても、その回収率はとても低くなるのが必至です。そこで、破産宣告を受けても営業継続の許可を裁判所からもらっておき、破産者代表者の長男などに受け皿会社を設立させ、そこへ営業譲渡したのです。受け皿会社に、経営破綻の責任をとらせるべく、「簿価100%」で売掛金と在庫を引きとらせました。結局、最後配当の配当率は6%以上だったというから、たいしたものです。
太陽電池パネルにつくる会社の倒産では、新しいスポンサーをどうやって見つけ、確保するかについて工夫がなされました。新しくスポンサー会社として名乗りをあげた会社に秘密保持契約書をもらって資料を開示します。そして多比羅弁護士は、その会社にまっとうな数字を出すよう強く迫るのです。1億円以上、それを書面にして社長自ら持参することを求めます。そうでなければ保全管理人には取り次げないと断乎たる対応をします。8000万円の回答が出たら、ダメと断り、1億円でもダメ、1億5000万円を求め、ついに1億1500万円で話がまとまります。この譲渡価額は当初申出額の20倍まで引き上げられたのでした。
中小企業の倒産において特定調停を申立したケースもあります。そして、この特定調停が不成立となって、すぐに破産申立しますが、その手続のなかで事業譲渡を成功させました。これって、大変な裏技ですよね・・・。民事再生法の下での事業譲渡より、破産手続のなかでの事業譲渡のほうが、裁判所の許可だけで可能になるというメリットがあることを私は初めて知りました。
医療法人が倒産したときには、スポンサーとなった医療法人の代表者が新しい社員として入社し、再生計画が認可されたら、旧社員は全員退社して経営権を譲渡したというケースの紹介もあります。そして、このときスポンサー契約書は、新しいスポンサーが作成して提出した最終提案書を別紙として添付する形にして、わずか1頁ですませたというのです。これは、契約書の調査・確認の手間を省けて、短期間ですばらしい成果をあげることができたのでした。
多比羅弁護士は、「事業を再生できないか、その可能性が1%でもあれば、途中であきらめずに真剣につきつめよ。破産は、いつでも、誰でも出来る」というのをモットーにしているそうです。なるほど、ですね。すごいですよね、実際にたくさんの成果をあげているのです。
多比羅弁護士は22期ですから、私より4期先輩になります。私は日弁連倒産法制改正問題検討委員会でご一緒しました。多比羅弁護士が委員長で、私は単なるヒラ委員の一人です。ただ、私のほうは個人破産について豊富な実践例をもとにして、発言していました。
多比羅弁護士は企業倒産分野の第一人者として、数多くの立法提言をしてきました。
多比羅弁護士が関与した主な倒産事件の一覧表が末尾にありますが、会社更生事件10件、民事再生事件43件、和議事件11件、強制和議事件2件、会社整理事件5件、破産管財人33件、特別清算事件18件などなど、その量と質に圧倒されてしまいます。
園尾隆司弁護士(元・東京地裁破産部)は、倒産法における即時抗告と執行停止効を論じています。要するに、韓国を除いて、即時抗告があれば一律に執行停止を認めるのを原則としているのは、世界中で日本だけということを明らかにしています。このとき、台湾の倒産法やドイツ倒産法の改正についても、きちんとフォローしているところは、さすがです。
福岡の黒木和彰弁護士(日弁連消費者問題委員長)は、特定適格消費者団体による破産手続申立の可能性を探る論稿をよせています。
さすがに幅が広いと驚嘆したのは、伊藤眞・東大名誉教授がビットコインと倒産法制の関連で論じていたり、宇宙ビジネス事業者が倒産したときにどうなるのか、という論稿まであるのです。
さらに、アメリカで大規模法律事務所の破綻が相次いでいるとのこと、そのとき弁護士が移籍することになるわけですが、さて報酬請求権はどうなるのか、という問題です。
堂々720頁をこす大作です(定価も1万円)。クレサラ問題の冊子(1000円)を送ったら、そのお返しのようにして贈呈していただきました。どうぞ、これからもお元気に大活躍していただきますよう祈念します。ありがとうございました。
(2020年1月刊。1万円+税)

天皇と軍隊の近代史

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 加藤 陽子 、 出版  勁草書房
鋭い指摘があちこちにあって、はっとする思いにかられながら読みすすめていきました。
過去を忘れないことや、前兆に気づくことによってだけでは、戦争の本質をつかまえるのは難しいのはないか・・・。
うーん、そうなのでしょうか。だったら何が必要なのでしょうか。
痛苦や惨禍を十分に予想したとしても、「割にあわない賭け事」に自ら国民が飛び込んでいくこともある。
ふむふむ、なるほど、戦前の日本はそうだったのでは・・・。いや、今も世界各国で、同じことが起きているのではないでしょうか・・・。
1873年(明治6年)10月の征韓論争の肝は、朝鮮側の非を問う動きとは別に、その裏面で鹿児島の西郷隆盛、高知の板垣退助、これに佐賀が加わって、士族中心の兵制樹立構想が進められていた点にある。つまり、徴兵制に依拠する陸軍省にではなく、正院に兵力集中を図ろうとする構想があった。鹿児島、佐賀、高知の三県の士族が同時挙兵すれば、天下土崩の危機となる。そこで、鹿児島士族の不満を外征に向けるべく、台湾出兵が閣議決定された(結局、政府は中止を命じたものの、西郷従道が出兵を強行した)。
政治と軍事、二つの領域をカバーしたカリスマ的な指導者だった西郷隆盛に対抗しうる明治天皇像を山縣有朋は確立しようとした。軍事指導者としての資質が明治初年にはゼロだった明治天皇の権威を人為的、促成的に創出し、徴兵制軍隊を天皇に直隷させて特別な親密さでつなぐことを狙った。
五・一五事件(1932年)の前年、元老・西園寺公望は、共産党と軍隊の関係姓を疑っていた。
「陸軍のなかにアカが入ってはいないか・・・」
まさか、そんなこと考えられないのでは、と思っていますと、五・一五事件の弁護人が、全農県連委員長が作成した農村の哀れ過ぎる悲惨な実情を報告した書面を引用して弁論した事実があるのでした。
1932年というと、2月9日に前蔵相の井上準之助が暗殺され、翌3月5日に三井合名の団琢磨理事長が暗殺されている。そして、5月15日に五・一五事件が勃発した。
1932年5月、天皇の弟である秩父宮は、天皇親政を天皇に要求し、天皇を困惑させた。秩父宮は内大臣に就任し、天皇親政の名のもとで昭和天皇を無力化してしまうのではないか・・・。昭和天皇はそれを恐れた。
安倍首相が戦死者をとりあげるとき、特攻隊をイメージさせるようなことを言っていますが、実は特攻による死者は4000人であるのに対して、戦死した日本兵が230万人いるうちの6割の140万人が戦病死者であり、そのほとんどは餓死による死だった。したがって、もし「英霊たちの最期」という2時間もののドキュメンタリー映画をとるとしたら、73分までは餓死に至るシーンであり、特攻隊のシーンはわずか12.5秒でしかない。ええっ、それが戦争の真実なのですか、ほんとうに哀れですよね・・・。
日清戦争とは何だったのか・・・。
朝鮮の改革は朝鮮にまかせよ、日中は撤兵すべきだとした清国の理性ある回答を拒絶し、撤兵に応ぜず、単独で朝鮮の内政改革に着手し、ロシアやイギリスの調停も断り、戦争に突きすすんだのが日本だった。したがって、朝鮮の進歩を邪魔する清国を倒し、日本が朝鮮を独立に導いたという神話は、まったく事実に反している。
日露戦争の直前まで、日本国民のかなりの部分と支配層の一部は、むしろ厭戦的だった。ロシアのニコライ皇帝は、日本の韓国占領を容認するという最終回答をしたが、それが日本側に届く前に、日本の先制攻撃によって戦争が始まった。
朝鮮半島を自らの安全保障上の懸念から排他的に支配しようとした日本と、それを認めようとしなかったロシアとの間で戦われたのが日露戦争である。ロシアにおいて、日本と本当に戦争すべきだと考えていた政治勢力は存在しなかった。ただ、ロシアは日本の財政力を過小評価し、日本は開戦に踏み切れないと楽観していた。だから、交渉において強硬姿勢を崩すことがなかった。
日本海海戦にしても、主力艦がバルチック艦隊を攻撃したあと、水雷艇隊と駆遂隊の電撃によって、ようやく勝敗が決せられた。ところが、大艦巨砲主義の「物語」を広め、誤まったイメージを定着させた。
いやあ、知らないこと、また考えさせられる指摘に出会って、ドキドキさせられました。
(2019年10月刊。2200円+税)

猫脳がわかる!

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 今泉 忠明 、 出版  文春新書
日本では、2017年に猫のほうが犬を上回った。単身世帯の増加にともない、犬ほど飼育に手がかからないとの理由から猫を飼う人が増えている。
猫の方が犬よりも野生に近く、それだけ自立性が高い。猫は原始脳が発達しているので警戒心の強さ、反応の敏感さがある。危険を察知する本能がしっかり機能しないと、猫は生き抜けなかった。
猫の記憶持続能力を実験すると、16時間も覚えていることが判明した。
猫は縄張りをパトロールしたがる。単独で生きてきた猫は縄張りに何か異変があると命にかかわるので、少しでも自身が関わった場所はパトロールせずにはいられない。
猫は、人と違って季節繁殖を行う動物。猫の発情は春だけではない。発情するのはメス猫だけ。オス猫は、メスの発情期の鳴き声やその時期に発するフェロモンに影響されて発情が誘発される。
猫は交尾のあとに排卵が起こるため、ほぼ100%、確実に妊娠できる。しかも、交尾が終わったメスは、別のオスと交尾することがあり、交尾後、排卵するまで数時間あるため、続けざまに交尾したメスは、一度の出産で父親ちがいの子猫を生むことがある。これも猫の強い生命力を物語っている。
猫の睡眠時間は長い。1日16時間も眠る。「寝子(ねこ)」なのだ。猫は眠りの浅いレム睡眠の時間が長い。人は20%なのに、ネコは75%。猫が丸まったポーズで寝ているときはノンレム睡眠で、熟睡している。
猫はパニックに陥りやすい動物。
猫の視力は0.3以下で、強度の近視。静止しているモノはあまり見えていない。しかし動体視力は人間の10倍ある。色の識別は苦手。
猫は、人の3倍の音域の音を聞きとることができる。
猫同士がお互いのニオイをかぐときは、猫社会のルールにのっとって、優位な猫が先に相手のお尻のニオイをかぐ。逆にする猫は礼儀知らずだとして嫌われる。ニオイのなかのフェロモンの存在を確認する行為でもある。
猫の味覚の大半を占めているのは、猫脳が子猫時代に記憶した、食べても安心な味。
猫には、同じものを食べ続けて飽きるという感覚はない。猫用に調整されたミルクにする。
猫のヒゲや肉球は大切なセンサー。
肉球と鼻にだけ、汗をかく。
猫は深夜にスイッチが入ったように目をランランとさせながら走り回る。獲物は暗いと動きが鈍くなるので、捕まえやすい。過去の習性が今のイエネコにもしっかり受け継がれている。
猫の集会では、情報交換していると考えられる。
猫はヒトの2~3歳児より知能が高く、単語も200語くらい覚えられる。
さすがは動物学者です。猫のことがいろいろ学べました。
(2019年9月刊。800円+税)

歴史と戦争

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 半藤 一利 、 出版  幻冬舎新書
朝日新聞社の70年史に、戦前、「新聞社はすべて沈黙を余儀なくされた」と書かれているとのこと。しかし、著者は、それは違うと断言します。
沈黙を余儀なくされたのではなく、商売のために軍部と一緒になって走った。そうなんです。戦争をあおりたてて読者の歓心を買い、部数を伸ばしてもうけ優先に走ったのでした。
今のマスコミだって、売れるから叩く、売れるから持ち上げる。戦前と同じことをしている。まったく、そのとおりです。安倍首相の夕食懇親会にマスコミのトップだけでなく、現場の主任などの記者まで嬉々として参加しているというのです。呆れてしまいます。
「桜」について、まともな説明もせず、必要な資料も隠してしまうような無責任体制を支えているのがマスコミだと言わざるをえません。残念ですし、悲しいです。
著者の父は、開戦の日に、「この戦争は負けるぞ、おまえの人生も短かったなあ」と言ったそうです。驚くほど先見の明がある父親でしたね・・・。
日本現代史の第一人者が歴史を振りかえった新書です。さっと読めます。
(2018年9月刊。780円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.