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地面師たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 新庄 耕 、 出版  集英社
東京・五反田の一等地600坪を舞台として積水ハウスという超大企業が詐欺集団にうまうまと63億円という大金を欺しとられた事件が起きて、世間を驚かしました。
この本は、その実際の事件をなぞるようにして、地面師たちの生態を読み物にしています。
なるほど、地面師グループというのは、こんな役割分担をしながら綿密にことをすすめているものなのか・・・。かなり具体的なイメージをつかむことができ、大変勉強になりました。
なりすましについては、本人確認に不備(過失)があったとして、弁護士そして司法書士に高額の損害賠償を命じた判決もありますので、私にとっても決して他人事(ひとごと)ではありません。
指の腹や掌(てのひら)に、アメリカの専門業者から取り寄せた超極薄の人工フィルムを貼っている。これは最新のフィルムで、表面には架空の指紋や掌紋の凸凹がほどこされていて、人間と同じ皮脂成分の油膜が塗られている。
印鑑登録証明書、登記事項証明書、固定資産評価証明書、固定資産税明細書、運転免許証、実印、物件の鍵・・・。いずれも道具屋によって精巧につくられた偽造品だ。
実印は、最新の3Dプリンターで寸分たがわずに偽造し、運転免許証に至っては、本物と同じICチップが組み込まれている。これらは、素人目で本物とは見分けがつかない。
本人確認は、免許証の顔写真と見比べる。干支(えと)を言わせる。2枚の写真を見せて、どちらが自宅かを答えさせる。それでも騙しに成功することがある。
成功率を高め、突発的なトラブルに対応できるよう、毎回緻密に計画を立て、入念に準備する。無用な心配をいだかずに仕事に没頭でき、慣れあいになることもなく、ある種の緊張感が常にあふれている。役割分担し、それぞれ決めたことだけを着実にこなしていく。必要以上に干渉しあわない。
この本のストーリーでは、騙しとった7億円の分配は、首謀者が3億円、交渉役の二人がそれぞれ1億円ずつ、裏方の手配などをした人間が1億5千万円、「売主」を確保して演技指導する役割をした人間が5千万円。資金洗浄を経て、それぞれの架空口座に振り込まれる。首謀者以外は、しばし国外に脱出して、ほとぼりのさめるのを待つ。
こういう連中をのさばらせておいたらいけないよね・・・と思いつつ、腹立たしい思いに駆られながらも、最後まで一気に飛ばし読みしました。
(2019年12月刊。1600円+税)

無敗の男・中村喜四郎

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 常井 健一 、 出版  文芸春秋
いやあ、すごい政治家がいたものです。中村喜四郎という政治家を見直してしまいました。
中村喜四郎は、ゼネコン汚職で逮捕され、完全黙秘をつらぬいたものの、有罪となり刑務所へ下獄した。
中村喜四郎の原点は、田中角栄の秘書。鳩山邦夫と同じ時期。
中村喜四郎は自民党に20年ほど籍を置いていた。その間、田中角栄、竹下登、中曽根康弘、福田赳夫の政治を身近に見た。このころの自民党政治は権力を濫用せず、権力を動かすことに抑制的で、常に自己批判をし、何か問題が起きたら、それを解決していくだけの自浄能力があった。そして、自民党には保守派からリベラル派まで幅広くいて、反対する者がいても、排除せずに、みんなの意を丁寧に聞いていくだけの責任をもとうという姿勢があった。
これって、ちょっと、あまりにもかつての自民党を美化しすぎではないでしょうか・・・。それでも、中選挙区制のもとで、そんな幅の余裕がかつての自民党にあったことはおそらく間違いないことでしょう。
中村喜四郎は、ともに自民党の参議院議員をつとめた父と母をもち、27歳で衆議院議員に初当選した。田中派から竹下派に移り、40歳で大臣となり、自民党の総務局長、そして建設大臣になった。ところが、1994年、44歳のときゼネコン汚職事件で刑事被告人となり、刑務所に入った。
それでも、中村喜四郎は初当選以来、刑務所から出てきた直後をふくめて14連勝。一度も選挙で落選したことがない。戦後、刑務所でのお勤めから戻って議場に返り咲いた衆議院議員は、中村喜四郎、ただ一人。
無所属で立候補すると、比例復活なし、政見放送なし、選挙カーは1台限り。選挙区内の全集落を毎月2周も街宣車で巡回し、選挙本番では12日間で150ヶ所も辻立ちする。
中村喜四郎は議員勤続40年をこえた今日に至るまで、「歩く」ということにこだわる初当選以来の基本スタイルを崩していない。地域を訪ね歩くことを選挙対策の基軸にすえる。
人の気持を大切にするという考えは、テクニックというより、生き方がその基本にある。
中村喜四郎の後援会には偉い人がいない。応援してくれる人たちは、中村喜四郎がカネなしでやっていることを初めから理解したうえで支えてくれる。それが、お互いの誇りになっている。
中村喜四郎の後援会である「喜友会(キユウカイ)」は町内会単位で存在している。しかし、企業や業界団体には組織をつくらない(つくらせない)。支部ではなく、地域の名前を冠した喜友会として一本化している。
後援会の役員は、声の大きな有力者というより、正直者を選ぶよう心がける。カネや名誉では動かない人物を目利きして選ぶ。喜友会には業者も何にもいない。業者に頼まず、むしろ排除する。
喜友会の名簿は、あるようでない。一括管理する仕組みはない。秘書は地区を担当するだけで、全体を把握している秘書はいない。すべては中村喜四郎だけが把握している。
中村喜四郎は議員宿舎に住む。
中村喜四郎は、地域回りと活動報告の二つをやる。中村喜四郎は、誰もいないところで、一人で立って演説する。これは人の心に印象を残せる。すると、人は見ていないようで、やがて家の中で聞いてくれるようになる。
そして、国会見学と旅行会を兼ねて、国政報告会をする。ランチ付き国会見学は参加費3000円。秘書は、全員が大型二種免許をもっている。
 夜の懇親会の司会は中村喜四郎がする。中村喜四郎は決してホテルに泊まらず、終電で東京の議員宿舎に帰る。
選挙本番になると、中村喜四郎は、オートバイに乗って街頭演説を繰り返す。一種のオートバイサーカスだ。本当はヨレヨレだけど、元気を装う。どんなに寒かろうと右手には手袋をしない。外に出てきた有権者と握手とするためだ。
中村喜四郎は、東京にいる平日は、ほぼ毎日、スポーツジムに通っている。人間ドッグにも年に2回のペースで受けている。暴飲暴食せず、昼飯を抜くことも少なくない。
中村喜四郎は、2019年11月、共産党の「しんぶん赤旗」日曜版一面に顔写真入りで登場し、永田町をざわつかせた。
いま、オール野党の統一を訴えて全国を歩きはじめている注目すべき政治家の実像をちょっぴり知った気がしました。貴重な本だと思います。
(2020年1月刊。1900円+税)

マンガでわかるドローン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 名倉 真悟 、 出版  オーム社
ドローンを使って要人を暗殺する事件が相次いでいます。ドローンが軍事的に使われると本当に恐ろしいと思います。
そして、ドローンを使って荷物を配達するといいます。えっ、空から故障したドローンが落ちてこないか心配です。さらに、ドローンが私たちの頭上、上空を行きかうようになったら、ドローン同士が衝突しないか、それで落下することはないのか・・・。
この本を読むと、いやいや、そうならないような対策がきちんと講じられているようです。でもでも、私は、それでも本当に心配なんです。
空を飛ぶドローンは風に弱いのです。
一般的に時速29~38キロの風速が飛行可能な限界。航空法によって時速18キロ(分速5メートル)以下の風速でないと飛行できないこともある。
また、水にも弱く、カメラのレンズに水滴がつけば、鮮明な飛行画像の確認や撮影は不可能なので、雨の中でのドローンの飛行は危険だし、ナンセンスなこと。
ドローンで事故の起きる5つの場合。①通信障害。遠距離だと切断されるし、近距離でも干渉電波があれば操縦不可能となる。②バッテリー切れ。バッテリーが切れるとモーターが止まって墜落する。③強風や風向きの急な変化。機体が高く上がれば上がるほど、風による影響を受けやすい。④操縦ミスによる接触事故。電線や木の枝や他のドローンに操作ミスで接触して墜落する可能性がある。⑤人による妨害や故障による墜落、接触事故。世の中、何が起きるか分からないものだ。
ドローン規制では、小型無人機等飛行禁止法というものがある。
ドローンを操縦して飛行させるためには、あらかじめ地方航空局長の承認・許可を必要とする。
ドローンの急降下はなるべく避ける。無風のときは、ダウンウォッシュに機体が入り込まないよう、垂直でなく斜め下に降下させる。逆に有風時は風がダウンウォッシュを横方向に押し流そうとするので、垂直にゆっくりと降下させる。
ドローン・ビジネスというと、3.11の現場をドローンでうつした映像が印象的だった。ただし、ドローンによる空撮(売上額)は91億円で最下位だった。1位は点検、2位は農業、3位は物流だった。
ドローンを操縦する人がきちんとした仕事をするのが現実的だ。しかし、自動車運転にしても事故は絶えないし、事故原因については大きな争いはない。
ドローンの危険性は本当に払拭されているのか・・・。この本を読んだ結論からいうと、やっぱり私たちの頭上を飛ぶドローンは危険きわまりない存在だということです。いくら操縦士の資格を日常的に厳しくしたところで、危険性が払拭できるはずのないほど、限定的だと思いました。
なんでもマンガでの解説本(絵本)が出ている時代ですが、マンガだからといってバカにしてはいけません。大変役に立つ「マンガ」本でした。
(2019年12月刊。2200円+税)

明智光秀伝

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者 藤田 達生 、 出版  小学館
それほどの抵抗も受けずに甲斐の武田信玄を滅亡させた織田信長は、返す刀で一挙に中国・四国を攻撃し、天正10年中に天下統一を実現するつもりだった。
光秀は、戦後おこなわれるだろう大規模国替によって、自らの派閥が解体されることに耐えられず、加えて重臣の斎藤利三にほだされ、旧主の足利義昭を推戴してクーデターを強行した。
光秀は秀吉との派閥抗争に完敗して将来に希望がもてなくなったのに加えて、斎藤利三を頂点とする家中の長宗我部氏と親しく、幕府や朝廷にも親和性のある派閥からの突き上げを受けて、最終判断したと考えられる。
信長と秀吉とは、必ずしも一枚岩ではなかった。織田政権の西国政策を体現するとみられてきた秀吉の地位は意外に脆弱(ぜいじゃく)だった。四国そして毛利方との和平工作の裏面で光秀が動いていた。
信長は、朝廷の仲介によって足利義昭の「鞆(とも)幕府」と和解し、西国平定を早期に実現する意向だった。うまくいけば、天正8年中にも光秀主導で信長による天下統一が実現した可能性があった。
これによって絶体絶命のピンチに直面したのが秀吉だった。そこで秀吉は毛利氏との講和をつぶすため、なりふりかまわず戦争を仕かけ、毛利方の主戦派である吉川元春の参戦をけしかけた。これが功を奏して、秀吉は人生最大の危機を脱した。
天正8年の時点で、中国では毛利氏との講和による宇喜多氏の没落と秀吉の失脚、四国では長宗我部氏による統一が実現した可能性があった。そうすると、西国方面の司令官として光秀が君臨することになる。
これに対して、信長の一門と一体化をすすめ、自派の勝利を確信した秀吉は、信長の西国動座をできるだけ早めようとした。そのために敢行したのが、備中高松城の水攻めだった。水攻めは敵対勢力の後詰め勢力を誘き出すことに眼目があったが、秀吉は毛利氏本隊を戦場に引きずり出して、信長の親征の舞台を着々と用意した。こうして信長は四国政策を変更した。秀吉の要求を一方的に受けいれ、それまでの光秀の外交努力を全面否定することになった。
畿内支配に関与した光秀は、秀吉の派閥はもとより、信長の一門・近習たちともライバル関係にあった。光秀は一度ならず、二度も信長に裏切られた。信長は、秀吉の献策を受けて毛利氏と対決する道を選択した。四国においても長宗我部氏との戦闘へと外交方針を転換した。これは、光秀にとってすれば、理不尽以外のなにものでもなかった。
本能寺の変に至る光秀の行動の根拠が明らかにされていて、なるほどと私は思いました。
光秀を神社でまつっているところもあるのですね。これには驚きます。光秀を悪人に描くようになったのは最近のことのようです。知りませんでした。
(2019年11月刊。1300円+税)

ジャンヌ・ダルク

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 竹下 節子 、 出版  講談社学術文庫
神の声を聞いてオルレアンの少女として立ち上がり、フランスを救ったジャンヌ・ダルクの話です。聖女になったのも当然だと考えていましたが、実は火あぶりの刑になったということは、キリスト教の信者にとって火葬されて灰になるということは、魂も閉じ込められたまま燃やされてしまうから魂までなくしてしまうということ。つまり、地獄よりもおそろしい虚無になる。火葬は、魂を悪魔に売り渡してしまったことが確かな異端にのみ許される見せしめでなければならない。
このように火刑になったジャンヌ・ダルクは、天国へ行く魂がない。聖造物となる肉体もないから、本来なら聖女になるチャンスはないはず。では、なぜ聖女になれたのか・・・。
キリスト教以前のヨーロッパには火葬があったし、民衆のなかには火葬の禁忌が必ずしも絶対ではなかったことが背景にある。
そのうえ、ジャンヌは、火刑にされる前に最後の聖体拝領が許され、フランシスコ会の聴罪僧がジャンヌの告解を聞いて罪の赦免を施している。司教がジャンヌにキリスト者として死ぬために必要な手続きを認めた。これがジャンヌの復権裁判、聖女とされる審議のときに有利に働いた。
では、なぜジャンヌは火刑に処せられたのか・・・。
ジャンヌは、いったん許された。ところが、再び男装した。問題とされた男装は、もともと馬に乗るために貸与されたものだった。また、戦場生活や牢獄生活では必需品だった。ジャンヌにとって、女の服を着て、一生、男の看守に乱暴に扱われたりするくらいなら、死んだほうがましだった。
ジャンヌは、牢獄に詰問にやって来た司教に、もう男装を手放すつもりはないと断言した。司教は「戻り異端」のジャンヌに、ためらうことなく死刑判決を下した。
オルレアンの勝利は、戦術よりも心理的要因に負うところが大きかった。神の言葉を掲げた軍を率いたジャンヌの存在は、それだけでひとつの奇跡のように受けとめられた。ジャンヌが擁している神よりも強い味方はいない。勝利と正義の二つを同時に保証してくれるからだ。
ジャンヌが魔女として火刑にされてからも、オルレアン市民のジャンヌへの評価は変わらなかった。一緒に戦ったジャンヌの男兄弟二人は、貴族になって大きな発言力をもち続けた。母親は、オルレアンから終身年金を受けた。トゥーレルが解放された5月8日は今も毎年、町の最大の祭りが続いている。
ジャンヌ・ダルクの活躍したオルレアンの町には、まだ言ったことがありません。ぜひ行ってみたいと思いました。
(2019年6月刊。960円+税)

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