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汚れた桜

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 毎日新聞・桜を見る会・取材班 、 出版 毎日新聞出版
いつまで「桜」やってるんだよという声を聞かないわけではありません。でも、「桜」は簡単に見過せるようなシロモノではありません。いま深刻な問題となっているコロナ・ウィルス感染にしても、政府がどこまで真相を国民に公表しているのか、その施策はどうやって決まったのか、隠されたらいけないことは明らかです。いや、そんなの必要ないといったら、それは民主主義ではありません。独裁政治でしかなく、それでは日本は滅びてしまいます。
「桜を見る会」で問題となっているのは、安倍首相が公費を使って選挙民を買収していたのではないかという公職選挙法違反に該当するか否かの問題です。イエスなら、安倍首相は、かつての田中角栄首相のように逮捕され、直ちに失職することになり、またそうしなければなりません。
この本は毎日新聞の取材チームの一連の行動をまとめたもの。取材班は、まるで「脱法内閣」ではないかと思ったという。それも、うべなるかな…。そう思わせるに十分な内容になっています。
不思議なことに、安倍首相について公選法違反の疑いが濃厚なのに、捜査当局が動き出している気配はありません。それどころか、安倍内閣は検察庁のトップに自分の息のかかった人物をすえるべく、従来の法律と法解釈を無理矢理にねじ曲げようとしているのです。
「桜を見る会」の前夜祭のホテル・ニューオータニの1人会費5000円というのは、明らかにうさんくさい。超一流のホテルでのパーティーが1人5000円で出来るはずもないし、安倍首相の後援会主催なのに、安倍首相が政治資金規正法にもとづく届出(報告)をしていないというのも
違法行為であることは間違いない。こんなことはホテルの経理内容を司法当局が強制捜査すれば、すぐに判明することだと思いますが、司法当局は安倍首相の前に立ちすくんでしまっています。
そして、共産党の国会議員が資料要求したら、なんと1時間後に、招待者名簿はシュレッダーにかけてしまったので存在しないと内閣府は答弁した。高性能の大型シュレッダーにかけたというが、電子データは残っているはずなのに、それも同時に消去してしまったという。ありえないことを平気で答弁する高級官僚たちの顔を見ていると、怒りよりも哀れみを感じてしまう。
また、招待者枠のなかに、「私人」であるはずの「昭恵夫人枠」があることを内閣官房は国会答弁で認めた。「私人」である首相夫人が公費(税金)をつかって開催される「桜を見る会」に自分の好みの人たちを招待できるなんて、政治の私物化という以外に言いようがない。
悪質マルチ商法のジャパンライフの山口会長を安倍首相が「桜を見る会」に招待し、山口会長は安倍首相と一緒の写真を会員に示していたことも明らかになった。すると、安倍首相は山口会長について「個人的関係は一切ない」と答弁したが、実は安倍首相の父、安倍晋太郎外務大臣と山口会長はニューヨーク訪問をしていて、このとき安倍首相も秘書官として同行していた。
ジャパン・ライフに投資した人、つまり大金をだましとられた人たちは山口会長が安倍首相とも親密な関係にあることを示されて安心していたのだから、安倍首相の責任が重大であることは明らかだ。
この本は、昨年11月8日の田村智子議員(日本共産党)の質問を発端とする「桜を見る会」にまつわる安倍首相の公選法違反事件の真相を手際よくまとめたものとして、いま全国民必読のものだと思います。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2020年2月刊。1200円+税)

反対尋問

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 フランシス・ウェルマン 、 出版  ちくま学芸文庫
120年も前にアメリカの弁護士が書いた本とは思えない指摘のオンパレードです。
当初の解説は平野竜一が書いていました。そこでは、ロッキード事件やグラマン事件での国会での証人尋問の拙劣さが指摘されています。尋問する国会議員は威丈高に直接法的な尋問するが、真実は少しも明らかにならないとの批判です。しかし、昨今の国会議員のうまさは目を見張るものがあります。とりわけ共産党の田村智子議員の安倍首相の質問には心底から感服しました。
今回のちくま学芸文庫版では現代日本の刑事弁護の第一人者というべき高野隆弁護士が次のように解説しています。
1世紀以上も前の先人たちの話に接するのはとても貴重であり、勇気づけられる。
経験にしか頼るものがない時代に、彼らが試行錯誤の末にたどり着いた結論は、現代の法廷弁護士に対しても気付きを与え、一般市民に人の営みの奥深さを教えてくれる。
さらに、高野弁護士は、法廷技術には科学や理論で説明しきれない部分があると強調します。公判廷にいて偶然のたまものとしか言えないような瞬間がある。検察側の証人の表情を見ていて、反対尋問のアイデアが閃光のように閃く(ひらめく)ときがある。
メモなんか取るひまがあったら、証人を観察せよという言葉の真実を実感するときがある。この本は、そうした閃きを私たちに与えてくれる源泉となる。そうなんですよね…。
反対尋問が弁護士に必要なあらゆる技術のなかでも、もっとも難しいものの一つであることは、疑問の余地がないし、またもっとも大切なものの一つでもある。
弁護の技術には、熟練への早道も王道もない。経験である。成功をもたらすものは、ただ経験だけと言えるだろう。
弁護士には、尋問中の証人の弱点を見抜く直観が要求される。
訴訟代理人の弁護士は証人と精神的決闘をしているのである。
良き弁護士は良き俳優でなければならない。
質問は論理的な順序で行なってはいけない。ここかと思えば、またあちらという具合にやる。一般法則として、元の証言を最初と同じ順序でくりかえさせてみても、時間のムダになるだけのこと。
つまらない質問をどんどんぶつけながら、なかに大事な質問をまぜ、しかもまったく同じ声の調子でやる。
反対尋問の唯一の目的は、対立証言の力を打破することにある以上、無益な試みはただ証人の陪審への心証を利するだけのこと。だから、沈黙は、しばしば長時間の尋問にまさる。つまり、席を立たず、全然質問をしないでいるにしくはない。まあ、そうは言っても、反対尋問しないということを私はやったことがありません。
反対尋問の目的は、真実をつかまえることにあるが、この真実というものは、実につかまえにくい逃亡者なのだ。
延々と執拗に質問しつづけて、証人の頭をへとへとにさせたあげく、真実を引き出してやるという方法でしか成功できない場合もまたある。
頭の良さが良心の欠如を隠しているような証人の偽証を暴くほど、難しいことはない。
うむむ、大変大変勉強になりました。文庫本で700頁の大著なのに、1900円という安さです。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年7月刊。1900円+税)

中国人が上司になる日

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 青樹 明子 、 出版  日経プレミアシリーズ
日本と中国とでは、仕事や会社に対する考え方が大きく違っているのですね。みんな違って、みんないいという精神は大切ですが、違いがあるということをきちんと認識しておかないと、とんでもない誤解が生じますね・・・。
常に上に行くことを考えている中国人にとって、転職するのはあたり前のこと。少しでもいい条件の仕事があれば、ためらうことなくそちらに移る。
日本人の常識で、中国人との人間関係を判断すべきではない。中国人からすると、日本の企業文化は、常に上から目線、社畜であることを要求しているだけ。中国人は何も間違った行動はしていない。日本人と比べて率直なだけだ。自分の気持ちにしたがって正直に行動して何が悪いのか・・・。
中国人が収入以上にお金持ちである理由の一つには、アルバイト問題がある。中国人は、アルバイト(副業)しやすいように会社は配慮すべきだと考えている。アルバイトが本業を侵食することがあっても、それは問題とならない。
中国では、親の職業を聞けば、すべて分かる、その人個人よりも、その人の背景が大半だというのは、中国社会の基本。
宮二代、富二代そして窮二代というコトバがある。
中国では、コネの有無ですべてが決まる。
中国人にとって仕事より家族が優先するのはあたりまえのこと。
中国では、何をするにも、まず「お友達」を探す。お友達がいないと、自分の順番は常にあとまわしになり、ひどいときには無視される。そして、このお友達には、それぞれ段階がある。
中国では、お友達のためなら、自分の身を犠牲にするのが美徳である。お友達のキーワードは、同郷、校友、幼なじみだ。
中国では靴よりケータイを見て、人を判断する。中国では、ケータイはステイタス・シンボルなのである。
爆買いの主役は、中国人の中間層である。すでに4億人に達している。
土豪とは、品徳のない成金を意味する。
大学生にとって、人生を左右する二つの重要な試験がある。大学院入試と公務員試験。公務員試験の志願者は毎年150万人をこえていて、最も競争の激しい試験になっている。
いやいや、ホント、こんなにも違うものなんですね・・・。読んでびっくりの本でした。
(2019年11月刊。850円+税)

寅さんの人生語録(改)

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山田 洋次、朝間 義隆 、 出版  PHP文庫
映画『男はつらいよ50、お帰り寅さん』をみました。元気一杯の寅さんに再び映画館の大スクリーンで会うことが出来て、思わず涙があふれてきました。
初めて寅さんに会ったのは1969年夏、大学3年のときのことです。その後、司法試験の勉強の合い間にも頭を休めに新宿までみに行きました。そして、結婚して、子どもたちが一緒に行けるようになると、正月休みの恒例でした。
寅さんが映画のなかで語ったセリフを紹介した本です。人生って、いったい何なのか、よくよく考え抜かれた珠玉の言葉が並んでいます。さすが山田洋次監督です。単なる喜劇映画ではないことを改めて実感させてくれます。
といっても、残念ながら私の周囲の20代くらいの若い人には映画館はもちろんのこと、テレビでも寅さんの映画を一度もみたことがないという人ばかりなので、とても残念です。
寅さんが隣のタコ社長の営む印刷工場に働く若者たちに「労働者諸君」と呼びかけ、笑いが起きます。このセリフは山田洋次監督の脚本にはなかった。撮影現場で、渥美清がふと口にしたアドリブである。
森川さん(おいちゃん)が「馬鹿だね」も同じくアドリブが脚本にとり入れられた。
御前様(笠智衆)が、寅さんの後姿を眺めながら「困った」と熊本なまりでつぶやくのもアドリブ。名優は、脚本家が及びもつかないような素敵なセリフを現場で吐くものだ・・・。
寅さんのタンカバイの文句も、渥美清が少年時代に実際に大道で商売をしている香具師(やし)から聞いていたのを思い出してもらってセリフにしたもの。
「ほら、いい女がいたとするだろう。なあ?男がそれを見て、ああ、いい女だなあ、この女を俺は、大事にしてえーそう思うだろう、それが愛っていうもんじゃねえか」(『柴又より愛をこめて』)
「秀才よ、法律の勉強してるの」
「へーえ、悪いことしよってのか?」(『寅次郎恋愛塾』)
「大学へ行くのは何のためかな。何のために勉強すんかな」
「ほら、人間、長いあいだ生きてりゃ色んなことにぶつかるだろう、な。そんなときに、俺みたいに勉強してない奴は、この振ったサイコロで出た目で決めるとか、そのときの気分で決めるよりしょうがないんだ、な。ところが、勉強した奴は、自分の頭でキチンと筋道を立てて、はて、こういう時はどうしたらいいかなと考えることができるんだ。だから、みんな大学へ行くんじゃないか、だろう?」(『寅次郎サラダ記念日』)
「人間は、何のために生きてんのかな」
「うーん、何て言うかな、ほら、ああ、生まれて来てよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、ねえ。そのために人間、生きてんじゃないのか」(『寅次郎物語』)
50話もある、本当にいい映画シリーズをありがとうございます。
(2019年12月刊。740円+税)

星宙(ほしぞら)の飛行士

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 油井 亀美也 、 出版  実務教育出版
宇宙飛行士が語る宇宙の絶景と夢。これがサブタイトルです。宇宙飛行士として飛行中に撮った地球と星を見事なカラー写真で紹介してくれる楽しい本です。
親から、家にお金がないので防衛大学校に行ってくれと頼まれて入学。自分に向かないと思ったところで、ひょんなことから戦闘機パイロットとなり、教官もつとめているうちに宇宙飛行士に応募して採用されたという経歴です。
自衛隊時代はソ連を「敵」だとしっかり思い込んでいたのが、ロシアで宇宙飛行士として訓練を受けているうちに誤解は解けていったといいます。
宇宙飛行士に選ばれたときは既に39歳になっていました。それから厳しい訓練を経て、実際に宇宙を飛んだときには40歳でした。そして、今もまた宇宙に飛び出そうとしているそうです。すごいですね・・・。
宇宙は常に快晴。
流れ星は、天から降ってくるのではなく、眼下に広がる大気圏の中を地上に向かって流れていく。
オーロラは、寄せては返す波のようなもの。
オーロラの緑は大気中にある酸素原子、ピンクや紫は窒素原子の色。
オーロラが美しく光るほど、危険のサインとも言える。
エネルギーの塊である太陽を一瞬でも直に見ると失明してしまう。なので、ISS(国際宇宙ステーション)の窓には、太陽からの紫外線をカットするフィルターが貼られている。
快適な船内から防寒対策することなく、大好きな冬の星座を見続けられるというのは、ISSの特典だ。
地上では、惑星は瞬かず、恒星は瞬く。しかし、宇宙では、どちらも瞬かず、鋭い輝きを放つ。なので、両者は見分けにくい。
ISSは、全体としてサッカー場ほどの大きさのある巨大な構造物だ。空気の満たされた10ほどの部屋がある。この部屋を全部あわせると、ジャンボジェット機1.5倍くらいの容積がある。そこに宇宙飛行士6人が生活している。
日本は、ISSで一番大きく静かで機能美にあふれた「きぼう」という部屋をもっている。
宇宙飛行士には、筋力を保つために、1日2時間半の運動が義務づけられている。
夜景の撮影が難しいのは、ISSが秒速8キロで移動しているから。この秒速8キロというのは、拳銃の弾の20倍もの速さ。これは、東京と大阪間を1分で飛ぶという猛スピードだ。
ISSにいるあいだは、どんなに疲れていても、緊急事態に対処できるだけの余力は残しておかなければならない。うむむ、なるほど、そこまで徹底しているのですね・・・。
子どものころの夢を見事にかなえたという話でもあります。すごいですね
(2019年11月刊。1600円+税)

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