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中東テロリズムは終わらない

カテゴリー:アラブ

(霧山昴)
著者 村瀬 健介 、 出版 角川書店
「イスラム国」(ISI)が2人の日本人を殺害したのは2015年1月末のことでした。まだ5年しかたっていませんが、なんだか昔のことのように感じられます。それほど、日本では中東のことはニュースにならないし、何が原因で、どんなことが起きているのか、十分に知らされていないと思います。この本には足をつかって中東の実情をつかみ、私たちに知らせようとするものです。
シリアやイラクなどの中東で、今やアメリカのコントラクターが「活躍」している。
コントラクターとは、アメリカ政府が発注する軍事関連の仕事を請け負う退役軍人のこと。その多くが元特殊部隊といった、高度の軍事スキルを身につけていて、アメリカの民間軍事会社に所属している。
アメリカ軍の展開する兵力規模には含まれないので、アメリカ国民向けには都合がいい。しかし、現実には、作戦現場では、アメリカ軍兵士よりもコントラクターのほうが多かったりする。今や、コントラクターがアメリカの安全保障政策を与える不可欠の存在となっている。というか、今ではアメリカは、コントラクターなしには軍事作戦を遂行できなくなっている。
いったい、これで現場の作戦指揮命令系統に矛盾は起きないのでしょうか…。
そして、シリア内戦の影響から、兵器産業は好景気に沸いていた。シリアの反体制派に兵器を供与していたサウジアラビアやトルコ、アメリカなどが兵器を調達していたのはブルガリアなどのバルカン諸国だった。バルカン諸国で大量に買い付けられた兵器は、いったんトルコやヨルダンに運ばれ、そこからシリア国内の反体制派武装組織に渡った。
著者はTBSの中東支局長として、ギリシャにたどり着いた難民ボートも取材しています。大変な苦労があったようです。
難民は1人あたり12万円から24万円を密航業者に支払っていた。そこには難民でもうける難民ビジネスが存在していた。
アメリカは2003年のイラク侵攻によって、フセイン政権というスンニー派の政権を打倒して、シーア派の政権を誕生させた。隣国のシーア派大国イランは、その長年の悲願を敵国アメリカがやってくれたことを信じられない思いで見ていた…。
イランのスレイマニ司令官(アメリカがドローン攻撃で殺害した)が殺されたときにイラクにいたのは、イラン革命防衛隊の息のかかったイラクのシーア派民兵組織を指導するためだった。今では、イラク政治においてイランは大きな影響力をもつに至っている。このことに貢献したのは、実は、他ならぬアメリカだった。
2003年のアメリカによるイラク侵攻は、イラクに大量破壊兵器ないし生物兵器があるというイラク人化学者の「告白」を根拠としていた。しかし、この「告白」をした人物は、とんでもない嘘つきで、もともと信用できない人物だった。このスキャンダルによって、大統領候補とまで言われていたパウエルは急に失速した。
カーブボールと名づけられたイラクの「化学者」は、ドイツでより良い待遇を受けるために作り話をし続けたのだった。相手の興味をひく物語を語り続けている限り、クスリと酒を飲んで快適な生活が得られたのだ。
著者たちは、生物兵器の製造工場だったというところまで現地を見に行ったのです。なんという取材でしょう。ある意味で生命がけの取材だったようですが、見事、「告白」がウソだったことを裏付けたのでした。
大量破壊兵器疑惑は世論に戦争を売りつける手段だった。こんなウソをまともに押しつけられ、貴重な税金がアメリカの軍需産業をうるおしているかと思うと、被害にあった人々の怒りを全身に受けとめ、戦争反対の声をもっと大きくしなくてはいけないと痛感するのでした…。
(2020年3月刊。1500円+税)

ベルリン1933(下)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 クラウス・コルドン 、 出版 岩波少年文庫
ヒトラーが首相に指名される前のベルリン、ヒトラーが政権をとったあと、一気に暴力支配がすすんでいく様子が少年とその家族の生活を通して生々しく語られます。暴力が横行する日々の生活光景に胸が痛みます。
ヒトラーが政権を握る直前の選挙で、実はナチ党は一気に票を減らしたのでした。
ナチ党は200万票を失い、共産党は100万の票を伸ばした。ベルリンのなかのヴェディング地区では10万人が共産党に投票した。2人に1人が共産党を選んだことになる。
チューリンゲン州ではナチ党は40%も票を落とし、逆に共産党が伸びた。ザクセン州、ブレーメン市でもナチ党は大敗を喫した。しかし、選挙で票を失ったとはいえ、33%を獲得したナチ党はいぜんとして第一党だ。
ナチの党撃隊が共産党本部の前を行進して挑発すると、数日後、共産党は10万人をこえる人数でデモ行進した。
ところが、ヒンデンブルグ大統領がそれまでの言葉に反して、ヒトラーを首相に指名した。ナチ党が権力を握ったのだ。
ヒトラーが政権を握ったら、共産党はゼネストで対抗すると言ってきた。しかし、600万人もの失業者がいるのに、どうやってゼネストができるだろう。飢えと寒さに苦しむ人々が、スト破りをしないでいられるわけがない。勝算のないストのために、人は自分の仕事を失う危険をおかすだろうか…。
ヒトラーが首相になっても、共産党と社会民主党は互いに相手を非難し、攻撃しあっていた。どちらも、相手の党が政権を握るくらいなら、ナチ党のほうがまだましだと考えていた。
社会民主党は共産主義を敵視していた。共産党はスターリン絶対の下で、自分の頭で物事を考えることができなくなっていた。
やがて国会議事堂が炎上し、それは共産党が放火したとして共産党員が大量に検挙され、虐殺された。それは、社会民主党の活動家も同じだった。
ヒトラーが「くたばれ、ユダヤ人」と叫んだとき、それがまさか本当にユダヤ人の大量殺戮を意味していると思った人はほとんどいなかった。
1933年3月5日は、戦前最後の国会選挙。投票率88%のなかでナチ党は44%の得票率だった。絶対多数はとれなかった。いろんな妨害をされながらも社会民主党は18.2%、共産党は12,2%を得た。
ベルリンのヴェディング地区では共産党が9万3千人、社会民主党が5万4千人としてナチ党は6万2千人の支持を集めた。
むき出しの暴力が横行するようになると、それを喰いとめるのは大変なことだと、この本を読みながらつくづく思いました。ファシズムは芽のうちに摘むしかないのです。
少年文庫の本とは、とても思えない、ずっしり重たい本です。正直言って、読み通すのが辛い本でした。
(2020年4月刊。1200円+税)

パンツははいておけ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 早乙女 かな子 、 出版 幻冬舎
タイトルを見て、パンツ・ルックつまり女性にとってのズボン姿のことかな、それでも、なんだか変なタイトルだな…、そう思っていると、本文を読んで、パンツとは昔で言う女性用パンティのことでした。ええっ、じゃあ、これってどういう意味なの…。
著者は超教育ママの下で小学生のときまでは超優良生徒でした。そして中高一貫の名門中学に入ったころから自我に目ざめ、モーレツ・ママと激しいバトルを展開するようになります。その前に酒乱の父による家庭内暴力があり、被害者である母親の部屋に逃げ込むと、そこで母娘のバトルが展開するのです。
まったく読むだけで息が詰まって窒息しそうになります。父と息子も難しい関係にありますが、母と娘のバトルの深刻さは想像以上のものがあるようです。
やがて著者は中卒フリーターとして働きはじめますが、簡単に生活できるはずもありません。人間関係そして人生に見切りをつけて6階から飛び降り自殺を試みます。すると、奇跡的にたいしたケガもなく助かるのです。同じ病院に、同じように自殺を企図して車椅子生活になった少女がいました。「あなたみたいになりたい」とつぶやいたら、その娘(こ)に思い切り顔を叩かれてしまいます。そのときは、その娘がなぜ怒ったのか分かりませんでした。
幼いながら母を喜ばせるのが自分の使命だと察知し、母の期待する「いい子」に育とうとした。母の絶対王制と父の暴力の狭間で育った三人の子ども(2人の兄と著者)は、とても仲が良かった。というか仲良くせざるをえなかった。
小学校で不登校となり、秋葉原にコスプレに出かけた。
中学2年生になると、父の暴力がひどくなった。父の母のケンカを止めず、兄と弟は静観に徹する。
中三の秋、首をくくって自殺企図。そのとき、兄からは「オレたちだって、こんな状況で、がんばっているんだ、甘えるな」と叱られ、弟からは、腹を思い切りけられた。そして小児病院精神科へ入れられる。
著者も母も、それぞれ、ままならない生きづらさを抱えて、かろうじて二本足で立っていた。そんな女同士、互いのフラストレーションを吐き出す口実を見つけるために、いつも互いがボロを出す瞬間を毎日、監視しあっていた。
完璧主義の母親は、物事に対して少しでも欠落している点を見出すと、ひどくヒステリックになる節があった。娘の「中卒」という欠落点にアレルギーのように過敏に反応して、人格レベルでダメ出しをする。
人間はケンカしているときほど、互いの物理的距離が近くなってしまう。相手の粗(あら)を探してやろうと息巻いて、相手の行動をいちいち見てしまい、また争ってイライラする悪循環に陥る。だから、ムカつくときほど、ぐっとこらえて離れたほうがいい。
なーるほど、そういうことなんですね…。
もう人生がどうでもよくなっていた。こんなに価値のない人間、ぐちゃぐちゃに原型をとどめることなく、犯しつくされて、粗末にされて、死にたい。でも、私とのセックスに対価としてお金を払ってくれる人がいたら、うれしい。そんなチリみたいにはかない希望ももっていた。そんな思いで、援助交際を成し遂げるべく、パンツを脱いで、宇宙空間どころか、ラブホテルのなか、得体のしれないオッサンの前で素っ裸になってベッドに身を放っていた。感情のスイッチをオフにして、目を閉じる。そこには一片の悔いもためらいもなかった。自暴自棄になっていた一方、自分に価値があるのか確かめるため、ベッドで裸になっていた。
あるとき、知人の男性が著者に言った。
「自分だけが不幸しているような、その悲劇のヒロインヅラが気に入らん」
たしかに、「凄惨な家庭に生まれた自分」というのに酔って、いざというときの言い訳にしていた。私はこんなに大変なんだから、みんな私に配慮して、助けてよ。こんな主張がいつも心の奥底にへばりついていたから、中学のときクラスからも孤立したし、兄弟からも見放された。
「メンヘラ」という言葉で形容されるそれは、自分の弱い部分をずるく利用して、周囲から大事に甘やかしてもらおうという、おのれの傲慢さのあかしだった。
「もうハタチこえた大人なら、人のせいにしないて、自分の人生を生きてみい」
結局、著者は大学受験のための勉強を再開し、現在は国立の奈良女子大学の学生として在学中とのこと。
著者の最後の呼びかけは、「あなたの大切な人のため、そしてあなた自身のために、人間どんな状況に置かれても、心は錦で、腰にパンツは、はいておけ」というものです。心に迫ります。
電車の中で一心不乱に読んでいたら、いつのまにか目的地の駅に到着していて、慌てて降りました。月並みな表現ですが、ハラハラドキドキのいい本です。あなたもどうぞ読んでみてください。
(2020年2月刊。1300円+税)

法の雨

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 下村 敦史 、 出版 徳間書店
司法、つまり裁判官と検察官、そして弁護士の三者が登場する推理小説です。ネタバレはしたくありませんが、弁護士一筋の私からすると、高検の検察官がマル暴対策の警察官と組んで暴力団事務所に乗り込むというストーリー展開は、いくらなんでも…、という違和感がありました。
それでも、法曹三者のかかえている問題が市民向けに語られているところは、なるほど、そうも言えますかね…、と思わざるをえませんでした。
まずは裁判官です。たいていの裁判官は検察官の主張に首の下までどっぷり浸っていて有罪判決を連発するばかり。ところが、たまに無罪判決を次々に書く裁判官がいます。この本では、「無罪病判事」として揶揄の対象になっています。1人で15件も無罪判決を書いたから、検察官は「病気」(偏見をもっている)だと決めつけているのです。
有名な木谷元判事は何件の無罪判決を書いたのでしたっけ…。
検察が起訴した事件の有罪率は99.7%。検察庁内では、3回も無罪判決を受けた検察官はクビになると、まことしやかにささやかれている。恐らくそんなことはないと思いますが、無罪判決が検察庁に打撃を与えることは間違いありません。
それにしても、「無罪病判事」は、疑わしきは罰せず、というキレイゴトを馬鹿正直に守ったことの結果だという表現があるのは弁護士の一人として悲しくなります。それは、何も検察側に「完璧で無欠な立証を要求」しているのではありません。有罪立証すべきは検察であり、それに合理的な疑いが存在したら無罪とすべきなのです。
検察官のバッジは秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)と呼ばれている。秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのごとき厳しさが職務に求められているということを意味する。
検察官バッジがくすむにつれ、青臭い正義感は経験と引き換えに失ってしまった。
そして、弁護士。成年後見人に弁護士が職業後見人として選任されている。しかし、この成年後見人制度は、高齢者や障害者を苦しめる制度だ。それを知らず、大勢がすがって、被害にあっている。現状は、まともに機能していない。
これは、なんと手厳しい。しかし、この評価は、被後見人の財産を利用したいという立場の親族によるものだと思います。そんなにひどい制度だとは私は考えていません。
国も自治体も銀行も不動産屋も、こぞって成年後見人制度を推進している。しかし、それは現実を何ひとつ知らない人々が安易に申立して、被害にあっているのだ。
さすがに、それは言い過ぎだと、今も成年後見人を何件かつとめている身として、思います。
ストーリー展開には違和感をもちつつ、いったいこの先どうなるのか興味深々で、最後の頁まで一気に読了してしまいました。
(2020年4月刊。1600円+税)

萩尾望都・作画のひみつ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 萩尾 望都 、 出版 新潮社
萩尾望都が絵を描いている様子が写真で紹介されています。
そして、アイデアがかたちになる前のクロッキー帳も公開されています。
著者はクロッキーブックに思いつくままにプロットやセリフを書いていく。このクロッキーブックは、月に1冊は使う。
著者は福岡のデザイナー学院で2年間、ファッションデザインの勉強をしていたので、衣裳にも詳しい。
著者がマンガ家になるのを決意したのは、大阪での高校2年生(16歳)のとき。19歳でマーガレットに金賞で入賞し、20歳で上京した。23歳のとき、「ポーの一族」シリーズ第1作を発表。
すごい早熟なんですね。なにしろ2歳で絵を描きはじめ、4歳のときには四コママンガも描いていたというのですから…。
私は、SF長編「11人いる!」にショックを受けました。絵といい、ストーリーといい、まったく想像を絶しています。これは著者がまだ26歳のとき。
「残酷な神が支配する」にも圧倒されました。まったく考えも及ばない世界とストーリー展開だったからです。
この本には、たくさんの原画が紹介されています。もちろん、ストーリーのあるマンガですから、1枚の絵を描けば足りるというものではありません。ストーリー展開にそって人物が動いていきます。
そのとき肝心なのは、やはり、なんといっても目のようです。ほんのちょっとした目つきの違いがストーリー展開を支えるわけです。そこをうまく描きわけていくわけです。まさしく天才的としか言いようがありません。
手塚治虫を尊敬しているとのこと。やっぱり、ですね。
あまり社会的発言はしていないようですが、3.11についてはマンガにしているようです(すみません。読んでいません)。
「永久保存版」と銘うってあるだけのことがある、豪華カラー図版満載の本です。萩尾望都ファンでなくても、少しでも関心があれば、ぜひ手にとって眺めてみてください。
著者は私と同じ団塊世代。著者の母親は私の母と同じ福岡女専の同級生でしたので、著者の顔写真をみるたびに著者の母親そっくりだと思ってしまいます。
(2020年4月刊。2000円+税)

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