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裏切りの大統領マクロンへ

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 フランソワ・リュファン 、 出版 新潮社
毎日毎朝、フランス語をこりもせず書き取りしながら学んでいる身として、フランスはとても気になる国です。
2017年5月、フランス史上最年少の39歳の若さでエマニュエル・マクロンは大統領に就任した。2018年11月、黄色いベスト(ジレ・ジョンズ)運動が始まった。政党や労働組合などの組織が起こしたのではなく、中産の下から低所得層がネットを通じて声を上げ黄色いベストを着て街頭に出たのだ。彼らはマクロン大統領がすすめている新自由主義による社会保障の切り捨てなどに抗議した。
著者のフランソワ・リュファンはジャーナリストであり、今では国会議員でもある。マクロンの出身地であるアミアンの出身で、同じ中学・高校に通った。
マクロンは生まれてから今日まで、ブルジョワの内輪社会がはぐくんだ果実そのものだ。上層と下層とが交わらない社会的アパルトヘイトの産物であり、民衆から離れて、マクロンははるか遠くで生きてきた。目に見えない仕切りがマクロンたちエリートを囲んでいるが、暗黙の仕切りが存在することを自覚していない。無自覚で暗黙であるからこそ、仕切りは仕切りとしての力を発揮する。
黄色いベスト運動が始まるまで、貧乏な人々は、隠れて、こっそり苦しんできた。貧乏から抜け出せない屈辱、家族を守れない屈辱、家族にしかるべき幸福をもたらせない恥をかかえて…。フランス中が、まるで黄疸(おうだん)にでもかかったかのように黄色まみれになったとき、マクロンはいったいどこにいたのか。モロッコに、ベルリンに、アルゼンチンに、アブダビに、そしてルーマニアの大統領を迎えて一緒に美術館を見学していた。
マクロンは、自分が知らない国の大統領だ。知らないどころか、軽蔑している国の・・・。これが、この本(原著)のタイトルになっています。
著者は、マクロンが左翼を装ったことを厳しく糾弾しています。
マクロンのようなグランゼコル(エリート養成機関)出身者は、高級官僚になり、そのあと民間大企業に天下りし、そのあと再び官邸や省庁の高いポストに返り咲き、国家に仕える立場にありながら、内部から国家を解体する人たちだ。
マクロンは、ロチルド(ロスチャイルド)銀行に勤めた。マクロンの顔は自信と確信に満ちあふれている。そこには、挫折の痕跡とか苦悩、つまり何か人間らしいものが、まったく認められない。
フランスの製薬大企業サノフィに対してマクロンは経済大臣として1億2500万ユーロの助成金を交付した。このサノフィがつくったクスリの副作用として自閉症の子どもが生まれた。何十年にもわたって、サノフィは何万人もの子どもたちに自閉症を引き起こした薬を売っていた。なのに、サノフィは賠償せず、それどころかマクロン大統領はサノフィの社長を大統領宮殿の晩餐会に招待した。
マクロンは、20年来、超大金持ちの信愛の情に浸かって生きてきた。夕食をともにし、冗談を言いあい、信頼しあってきた。
マクロンは富裕税は効果がなかったと断言した。そして富裕税を廃止すると同時に、年金生活者の課税率を上げ、賃借人への援助金を切り下げ、政府援助の雇用契約を20万も削除した。
マクロンは民衆の誇り、名誉を傷つけている。民衆は馬鹿にされている。マクロンは、絶え間なく、貧乏人に教訓を垂れる。マクロン大統領は、どんなスピーチをするときでも、前もって原稿をチェックする人がいて、照明と撮影技師、舞台装置係、メイクを享受している。
わが日本のアベ首相は、いつだってテレビにはうつらないプロンプターの文字盤の原稿を棒読みしています。なので、いつも心に響かないのですが・・・。
マクロンは、テレビで微笑(ほほえ)む。いつでも微笑んでいる。そして、その微笑は凍りついた。それは死の微笑だ。サルコジやオランドには、まだ人間的な面があった。しかし、マクロンはプログラミングされたロボットのような技術的官僚なので、民衆は統計上の数字、収益を上げる変数の一つにすぎないから、暮らしが立ちゆかない庶民の苦しみや羞恥心、尊厳を傷つけられた痛みなんて、想像すらできない。
マクロンの若くて、のっぺらぼーな顔立ちを見るたびに、この本に書かれていることを思い出すことにします。
(2020年2月刊。2000円+税)

響きあう人権

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 大川 真郎 、 出版 日本評論社
私は著者とは弁護士会活動を通じて知己を得たのですが、著者自身は、その前には国際人権活動に活動の軸足を置いていたとのこと。この本を読んで、著者の国際人権分野での交友の広さを知り、とてもうらやましく思いました。
私自身は、アメリカに弁護士有志の視察で行ったとき、ろくに英語を話せず赤恥をかいたこと、弁護士会の役職に就いてベルリンの国際会議に参加したとき、壁の花でしかなく、東澤靖弁護士などの活躍をじっとみているだけだったことを、今さらながら冷や汗とともに思い出します。毎日毎朝フランス語を勉強していますが、これもボケ防止の側面が強くて、とても、まともなフランス語会話ができるわけではありません。今さら謙遜なんてする柄ではありませんので、これは残念ながら本当のことです。
それはともかくとして、本書で登場してくる国際舞台の広さには目をむいてしまいます。
ギリシャのペリアリ村、地中海のマルタ、フランスのノルドマン弁護士と裁判官たち。アメリカの弁護士・裁判官たち。そして、ソビエト(ソ連)の法律家たち。まだまだ、あります。スペインのマドリードのメーデー、キューバのカストロ大統領の大演説をじかに聞いたこと、インドでの国際会議、そしてフィリピン人の人権派弁護士が次々に殺される話、韓国・中国の人権派弁護士の苦難、その延長線上のオウムによる坂本堤弁護士殺害事件…。
国際会議では、カンボジアの大虐殺を免れた唯一の弁護士会と出会います。また、チリのアジェンデ大統領の下で司法大臣だった人たち。彼らは記念の写真をとることも拒絶したのでした。エジプトにも人権派弁護士がいました。モンゴルからも韓国からも、そして遠くトルコからも駆けつけた弁護士がいたのでした。
インドの国際会議の話では、熊本の竹中敏彦弁護士の話も登場します。目に見える形での貧富の差の激しさがありました。日本も、次第にそうなりつつある気がします。
国際会議に参加すると、通訳の日本語がとんでもないレベルのときがあり、まるで意味が分からなくなり、すごくフラストレーションがたまります。かといって自分では話せないのですから、レセプション(懇親会)に出るのは苦痛でしかありませんでした。一緒にアメリカに行ったことのある加島宏弁護士(大阪)の通訳は見事でした。
日弁連で一緒になることの多い上柳敏郎弁護士を尊敬する所以です。
フィリピンの人権派弁護士は今も殺害されているようです。本当にひどい国だと思います。その話を聞くたびに心を痛めます。
韓国の「民弁」の活躍は目を見張るものがあります。長く続いた軍事政権があまりにひどかったことの反動からでもあるのでしょうね。韓国映画『弁護人』は、私もみましたが、あとで大統領になった廬武鉉(ノムヒョン)弁護士がモデルです。そして、今の文在寅(ムンジュイン)大統領も「民弁」出身です。先日セクハラ疑惑の渦中で自殺したソウル市長も「民弁」でしたよね。「民弁」出身の弁護士が2人も大統領になったり、ソウル市長になったり、いったい日本とどこが違うのでしょうか。
枝野幸男・立憲代表や福島みずほ・社民代表も人権派弁護士と言っていいのだと思います(どれほど実績があるのか、残念ながら知りませんが…)。が、国民の人気という点では、韓国に比べて今ひとつですよね。そして、自民党には森まさ子とか稲田朋美という、司法試験の合格レベルを疑われるという、まさかの低レベルのとんでもない弁護士もいますが…。
「シンク・グローバリー、アウト・ローカリー」(世界を視野に、行動は足を地に着けて)をモットーとして生きてきたつもりの私ですが、もっと国際的な交友を深めておくべきだったと反省するばかりでした。そんな反省を迫られる本ではありましたが、読後感はすかっとさわやか、というよりほのぼの感がありました。心優しい著者の人柄のにじみ出た、読みやすく分かりやすい文章にも改めて感銘を受けました。わずか150頁足らずの本でしたので、届いたその日のうちに読了し、その直後に一気に、この書評を書きあげたのでした。ひき続きの健筆を期待します。
(2020年7月刊。1500円+税)

逆転勝利を呼ぶ弁護

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版 学陽書房
勝訴・有利な和解に持ち込む弁護のスキルというのがオビのフレーズですが、まさしくそのとおりの内容が見事に展開されていて、私は大変勉強になりました。
序文に、「まだまだ未熟な弁護士」だと著者は謙遜していますが、どうしてどうして弁護士生活25年というまさに油の乗り切った大ベテランですし、味わい深い文章のオンパレードのため、私などはいたるところに赤エンピツでアンダーラインを引いてしまいました。それほど含蓄深くて、何度も読み返したくなる本です。
負け筋の事件は、どう負けるかが問題で、上手に負けて依頼者の被害を最小限にとどめる必要がある。そして、負け筋事件は、小さな失敗の中で教訓を学んで成長し、大きな失敗を回避する絶好の機会だ。
勝訴判決を得るためには、法的安定性を重視する裁判官がもっとも抵抗なく受け入れやすい論性を組み立てていく必要があり、そこにプロフェッショナルとしての知恵が求められる。
世の中の紛争は、0か100かでは、いかにも妥当性を欠く事案がほとんどだ。なので、和解をうまく利用し、うまく負けて、実質的に勝つという工夫が求められる。
弁護士は依頼者との関係で、勝つことよりも、結論に至るプロセスが決定的に重要だ。訴訟は、当初の予想どおりに進むとは限らないが、そのときどきで依頼者に適切な情報を提供し、共有していくことが、実は「勝つ」ことよりも大切なことだ。
控訴理由書は長ければいいものではない。基本的な観点や事実を、分かりやすい言葉で、また分かりやすい比喩(たとえ)を使って裁判官の心に伝えることが大切だ。
人権弁護士は常に労働者側でなければならないというのは誤解だと著者は主張します。私もまったく同意見です。横領など、労働者側に非がある事件も多々あり、企業がその秩序を守るために適切な防御措置をとるのは組織として当然のこと。そして、それが他の労働者の権利や利益を守ることにもつながる。私も同感です。
事件を通じて自分の仕事ぶりを評価してくれる依頼者を増やすことは、きわめて大切だ。これまた、まったくそのとおりです。
別荘地の管理費訴訟は現在、冬の時代だと著者は言います。どうやら管理会社の管理費用請求が認められることが多いようです。しかし、マンション問題のエキスパートでもある著者は、別荘地の管理も、昔とちがって今ではマンション管理と同じように考えてよいのではないかと主張してよいと言います。このような著者の意見は合理的だと思うのですが、裁判所は別荘地は金持ちの道楽という意識が強いようで、管理会社が苦労して管理しているのだから、その苦労に「タダ乗り」せず、管理料くらい支払えとすることが多いのだそうです。
九州でも別荘地の分譲にともなうトラブルが多発した時期がありましたが、別荘地の管理会社とのトラブルというのは聞いたことがありませんでした。その点でも本書は大いに参考となります。
ヒマな弁護士には大切な事件は頼むなと私は先輩弁護士から叩きこまれました。忙しいからこそ感覚が鋭敏となり、限られた短時間のうちに要点を把握し、主張・反論の骨子を組み立てることができる。まことに、そのとおりです。まさしく運命のいたずらが時に顔を見せるのです。
著者の扱った7つの実例を紹介しながら、そこから教訓を引き出しています。プロフェッショナルとしての弁護士を目ざす人に強くおすすめの一冊です。
佐賀県出身であり、東京で(ときには海外まで)大活躍している著者から贈呈していただきました。いつも、ありがとうございます。
(2020年7月刊。2600円+税)

科学の最前線を切りひらく!

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 川端 裕人 、 出版 ちくまプリマ―新書
ビルマで琥珀(こはく)なかに恐竜のしっぽが発見されたというのは知りませんでした。
琥珀の中に、羽毛に覆われた恐竜の尾があったのです。恐竜はコエルロサウルス類という小型恐竜。軟部組織や羽毛まで残っていました。写真もあって、その見事さには驚かされます。
恐竜少年・宮下哲人さんは、高校生のとき、恐竜を研究するため単身カナダに渡り、カナダの大学に入って、ずっと恐竜を研究しています。いやあ、たいしたものですね…。それは8歳のとき、映画『ジュラシックパーク』をみたのがきっかけのようです。
雲の研究者として荒木健太郎博士が登場します。FBで、美しい雲の写真を紹介しているとのこと。一度みてみましょう。
夏の入道雲は、雄大積雲のことで、積乱雲の弟分の雲。
サメは、子宮のなかでミルクやスープを提供したり、胎仔(たいし)どうしが共喰いする。成長段階の違う子が胎内に同時にいる。
サメの親は、子宮の中にいる子どもに対して、保育している。
シュモクザメは、20匹くらいが同時に胎内にいて、胎盤で母体とつながっている。
マンタは、胎内で子どもに子宮ミルクを飲ませている。
ホホジロザメは、胎内の仔10匹に卵を食べさせ、ミルクを与える。生まれてくるときには、130センチくらいになっている。
人間は、空間的な情報は視覚に重みづけがあり、時間的な情報は聴覚のほうを信じる傾向がある。
時間の知恵は、脳をあげて行うもので、「時間帯」によって処理する部位が違いつつ、それらが時々、バッティングしつつも、結局はシームレスにつながって、「時間」として感じられる。
現在の知見では、少なくとも、形態上、男女の脳に違いはない。
東京湾でとれたカタクチイワシの8割の消化管の中から、さまざまなプラスチック片が出てきた。東京湾では、泥10グラムにつき40個ほどのプラスチック片が入っている。
70年代初頭に使用禁止となったPCBが40年たっても放出されたものが微量ながら残っていて、マイクロプラスチックが吸着する。
世の中には、知らないことがいかに多いか、知るべきことが多いことを知らされる新書でした。
(2020年3月刊。940円+税)
 4連休のうちに、博多駅の映画館でフランス映画をみてきました。
 アメリカの渡り鳥を追いかけた映画『ギース』のフランス版です。
それにしてもよく撮れています。ノルウェーからフランスまでをガンたちとともに飛行するという話なのですが、こんなチャチな飛行機で本当にガンたちと一緒に空を飛べるの…と、心配になります。
ところが、ガソリン欠乏の心配があるだけで、小さな人力飛行機みたいなものが最後まで故障することもなく飛び続けるのです。しかも、映画の話は、14歳の少年がGPSだよりで飛び続けるというのです。どうやら、カメラは、その「人力飛行機」のすぐ横を飛んでいた飛行機にとりつけてあったようなのですが、CGではなくて実写フィルムだというのですから驚きます。
 それにしてもガンを一緒に飛ばすのには苦労したことでしょうね。ちょっぴりフランス語の勉強にもなりました。

日本中世への招待

カテゴリー:日本史(中世)

(霧山昴)
著者 呉座 勇一 、 出版 朝日新書
日本史、とりわけ日本中世の人々の暮らしの様子がよく分かる新書です。大変勉強になりました。
戦後日本は女性天皇を認めていませんが、かつて日本にも、女性天皇が何人もいました。すると、女性天皇は「中継ぎ」にすぎないという見方が生まれたのでした。これが通説になっていましたが、今では、それは否定されています。
現実の日本の歴史において、女性天皇は自分の政治的意思を発揮し、大きな権力を行使した。遣隋使を派遣した推古天皇もそうだし、律令国家の基礎を築いた持統天皇もそうだ。女性天皇は決して中継ぎなどではなく、男性天皇と対等の存在だった。
女性天皇を認めないというのは、明治以来のことですから、たかだか160年ほどの歴史しかないのです。ですから、それは、むしろ「日本古来の伝統」に反したものなのです。
古代の日本では、夫婦は必ずしも同居しない。夫の側に複数の相手と肉体関係が認められているのと同じように、女性の側も複数の男性との肉体関係をもつことができた。いわば、多夫多妻的な性格があった。
前近代を通じて、貴族や武士であっても、夫婦は別の氏を名乗っていた。
キリスト教宣教師であるルイス・フロイスは、『日欧文化比較』のなかで、日本では離婚が自由なのに驚いている。これは、日本では堕胎が簡単にできることと関連している。女性は、これによって容易に性交渉ができた。つまり、性愛の自由をもっていた。
中世の絵巻物には、女性に一人旅がしばしば描かれている。これは、女性の性愛の自由を意味している。
ところで、フロイスが語っているように、妻の側から離婚を切り出すことが本当にできたのか、著者は首をかしげています。
鎌倉時代の武士は漢字をよく書けなかったようです。遺言書も、平仮名だらけで書いています。なぜ自筆で書くのかというと、それは偽造されるのを恐れてのこと。鎌倉幕府の法廷では、筆跡鑑定もやられていました。武士の識字能力が高まるのは、恐らく室町時代以降のこと。
日本中世の実際をさらによく知る格好の入門書です。大ベストセラー『応仁の乱』の著者による本でもあります。
(2020年2月刊。850円+税)

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