法律相談センター検索 弁護士検索

鳴かずのカッコウ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 手嶋 龍一 、 出版 小学館
盲腸のような役所であり、おおっぴらに廃止論が出ていて絶滅寸前だったところをオウム真理教が救ったと言われているのが公安調査庁。その長官は法務省の検察官の指定ポストであり、私の同期も長官になりました。
「オレたちは防衛省の情報部門のように最新鋭の電波傍受装置や大勢の傍受要員は持っとらん。外務省のように何千という海外要員を在外公館に貼り付けることもできん。警察の警備・公安のように全国に厖大な数のアシもない」
「公安調査官には、ヒトもモノもカネも満足にない。いわば三無官庁やな。なによりイギリスのMI6やMI5がイギリス国民からうけているようなリスペクトを受けとらん」
「オレたちは、みな戦後ずっと鳴かずのカッコウとして生きてきた」
これでタイトルの意味がやっと分かりました。公安調査庁の別名なのです。
この本では、「現場での地道な調査を得意とする公安調査庁」として、好意的に紹介されています。本当でしょうか…。
私が司法試験に合格したあと、司法研修所に入所するまでのあいだに、公安調査庁の調査官が私たちの身元調査をしていました。それは家族構成というより、政治的な思想信条の傾向を調べることに主眼があるものです。今は、もうやっていないのでしょうか…。
公安調査官の給与は、一般の行政職より初任給で2万5千円ほど多く、率にして12%も高い。
自分が何者であるが、公にできない職業。その代償として報酬が上乗せされている。
初対面の相手に堂々と身分を名乗れず、所属する組織名を記した名刺も渡せない。
携帯番号からアシがつかないよう、公安調査庁は調査官の身元が割れないよう、安全な携帯電話を確保している。
公安調査官による尾行の様子が次のように紹介されています。
一番手は、マル対(監視対象者)にぴったりと寄り添って尾行する。接近戦を担うものには瞬発力、さらに機敏な判断力が求められる。二番手の尾行者は一番手を常にフォローして、マル対を見逃さないのを主たる役目とする。尾行時間が長くなると、タイミングを計って一番手と交代する。三番手は、現場責任者をつとめる。ゲンセキと呼ばれ、全体の状況を見渡せる場所に身を置いて指揮をとる。プラス・ワンの4番手は、予備要員。前の三人が尾行切りにあったときの切り札だ。
著者は、9.11のとき、NHKワシントン支局長でした。その経験をふまえた、軽くさっと読める小説になっています。でも、公安調査庁って、本当に必要な役所なのでしょうか…。
(2021年3月刊。税込1870円)

花岡の心を受け継ぐ

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 池田 香代子 、 出版 かもがわ出版
戦争中の1944年から翌年45年にかけて、中国から1000人ほどの中国人が強制連行されて花岡鉱山で働かされるようになった。ところが、激しい労働にもかかわらず食糧事情は劣悪、そして、指導の名のもとに激しい暴行が加えられた。ついに中国人たちは1945年6月30日、蜂起を決意。しかし、実際には蜂起どころか、やっとの思いで集団で脱走。土地勘なく、言葉も話せず、体力のない中国人たちは山中で次々に捕まえられていった。捕まった中国人たちは炎天下の広場に座らされ、次々に死んでいった。このとき100人あまりが亡くなった。これを花岡事件という。
この花岡事件のおきた大館市では1950年から現在まで慰霊祭が行政の主宰でとりおこなわれている。実は、中国人犠牲者の供養は戦中から行われていた。これはすばらしい、すごいことです。
集団脱走して中国人たちは武器は何ももたず、とにかく疲労困憊の状態だったから、山中で捕まるとき、何ら抵抗しなかった、いやできなかった。なので、憲兵も警察も一発も発砲することがなかった。
慰霊碑には429人の中国人の氏名が刻まれている。この花岡鉱山に連れてこられた中国人は総勢1284人なので、3分の1が悲惨な状態で亡くなったことになる。
毎年6月30日に盛大に挙行される慰霊式には、市長、市議会議長をはじめとする市議が半数以上は出席するし、中国大使館からも参加している。何年か前までは生存者(幸存者)も列席していた。
花岡裁判で和解した原告は1000人、西松の広島安野は360人、三菱は376人。
和解も立派な解決法です。ただし、この本には、裁判所が判決で企業の法的責任を認めたら、もっと良かったと書かれています。まったく同感です。
原告側弁護団としてがんばった新美隆弁護士(故人)、そして内田雅敏弁護士の話が紹介されています。さらに和解を提案した裁判官は、退官後、慰霊碑に手を合わせに現地まで足を運んでいます。偉いですね。
インタビュアー(ナビゲーター)の著者の聴き取りによって、花岡事件と慰霊式の全体がすっきり分かりやすく紹介されていて、胸を打つ内容になっています。
この弁護団で活躍した内田雅敏弁護士から贈呈をうけました。ありがとうございます。
保守・革新を問わず、歴代の市長が70年以上も慰霊式を存続・実行しているというのは実にすばらしいことです。心より拍手を送ります。
(2021年7月刊。税込1980円)

ある北朝鮮テロリストの生と死

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 羅 鍾一 、 出版 集英社新書
1983年10月9日、ビルマ(ミャンマー)の首都ラングーンにある国立墓地アウンサン廟を韓国の全斗煥大統領が訪問することになっていた。全斗煥大統領がビルマ側の都合から泊まっていた迎賓館を出発するのが4分ほど遅れた。先発の黒塗りのベンツが駐ビルマ韓国大使を乗せてアウンサン廟に到着し、行事の開始を告げるラッパの音が響いたとき、現場一帯に閃光が走り、すさまじい爆発音とともに猛烈な爆風に包まれた。
このラングーン事件によって、韓国政府の副総理、外相、商工相、動力資源相という4人の主要閣僚、大統領秘書室長、また報道関係者17人が亡くなった。ビルマ側も同じく4人の主要閣僚が亡くなった。負傷者は両国あわせて46人。
犯人は北朝鮮の特殊任務を遂行する偵察局に所属する精鋭部隊であるカン・チャンス部隊。3人組のテロリストは、ジン・モ(キム・ジンス)少佐をトップとし、シン・キチョル(キム・チオ)大尉とカン・ミンチョル(カン・ヨンチョル)大尉の3人。
ジン・モは事件後に逃亡するなかで腕を切断し、失明したがビルマで死刑に処せられた。
シン・キチョルは逃亡中に射殺された。残るカン・ミンチョルはビルマの刑務所で獄死した。
使われた爆弾は、対人地雷(クレイモア)2個と焼夷弾の3個。うち対人地雷の1個は不発で残り、ビルマ捜査当局に回収された。焼夷弾は、現場における証拠隠滅のためのもの。
この本を読んで、ひどいと思ったのは、北朝鮮は3人の特殊工作員を工作船でビルマに派遣しながら、この3人を安全に脱出させ保護することをまったく考えていなかったということです。
3人組は、自分たちが北朝鮮から乗ってきた工作船に戻るつもりで、そのために快走艇が川まで迎えに来るはずだった。ところが、工作船はビルマ政府から上陸・接岸を認められず、インドに向かっていたのです。なので、迎えの快走艇なるものも来るはずがありません。それで、3人は、バラバラと見知らぬ土地でビルマ語も話せずに、川の茂みに隠れて快走艇を求めているうちに捜索隊に見つかり銃撃戦を演じ、負傷して捕まったのでした。
北朝鮮の工作というのは、失敗したら自己責任、死ぬしかないのですね。まさしく、かつての日本帝国の軍隊と同じ体質としか言いようがありません。人命尊重なんて、カケラもないのです。ひどすぎますよね…。
そして、カン・ミンチョルは、ビルマの刑務所で25年間、じっとすごして、ついに2008年5月に病死してしまったのです。
この本の著者は学者出身で、国家情報員の要職にもあった人です。本件も朝鮮半島の分断状況がもたした悲劇の一つです。思い出すべき事件、忘れてはいけない事件だと思いました。
(2021年5月刊。税込968円)

連星からみた宇宙

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 鳴沢 真也 、 出版 講談社ブルーバックス新書
事件のことや事務所運営で悩みをかかえているときには、宇宙の話に没入するのが一番です。そこには、何十年とかいう単位はありません。はじめから何万光年の世界です。もちろん個々の私たちがそんなに長く生きられるはずもありません。すべては脳内の、いわば妄想に等しい世界です。
さてさて、連星って何…。宇宙に存在する星々の、およそ半数は連星。連星は、ありふれた存在。星の質量が分かるのは連星のおかげ。連星になっていると、2つの星の質量を知る方法がある。また、ブラックホールの存在も連星によって確認できた。
連星とは、重心のまわりを公転しあう星。連星とは、あくまで2つの恒星が回りあっているもの。
シリウスのような1等星は、全天に21ある。このうち6つが連星。春の1等星である、おとめ座の「スピカ」、夏の夜空の、さそり座の「アンタレス」が連星。北極星は、三重連星。冬の代表的な星座であるオリオン座の1等星「リゲル」は4重連星。現時点で判明している最多の多重連星は7重連星。さそり座とカシオペア座にある。
星は、人間よりも、双子で生まれる確率が圧倒的に高い。連星は分裂してできたわけではない。生まれたときから連星だった。
太陽にしても、かつて兄弟の星がいたかも…。太陽から110光年先にある7等星は、年齢、質量、半径、表面温度、そして科学組成が太陽とほぼ同じ。だったら、地球に似た惑星があって、生命体がいたりして…。
太陽系は銀河の中心を2億年かけて1周する公転をしていて、太陽はすでに20回以上も公転している。
全天の肉眼で見える星の11%が二重星か、3つ以上の星が近寄っている。
太陽の寿命は100億年。現在、46億歳なので、一生の半分を終えたところ…。なんと、なんと、人間の100年の寿命とかいうのは、これに比べると、あっというま…でもありませんよね。
連星は、謎のX線源をつくり、通常ならけっして姿を見せないブラックホールの姿を暴き出す役割を果たした。連星がなかったら、人間は存在していない可能性がある。たとえば、硫黄、カルシウム、鉄などは、超新星爆発のときに合成される。
著者は断言する。もしも宇宙に連星がなかったら…、宇宙はかなりつまらない。
なーるほど、そうかも、いや、そうだろうと私も思いました。
(2020年12月刊。税込1100円)

消えた依頼人

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 田村 和大 、 出版 PHP
NHK報道記者から弁護士になった著者によるミステリー小説。ぐいぐいと引きずり込まれ、最後まで読ませる迫力があります。ミステリー小説なので、読んでいない人には、ネタバレにならず、読んでみようかなと思わせるほどに紹介してみたいと思います。うまくいくかな…。
「俺」は東京の弁護士で、事務所は地下鉄丸の内線の新中野駅の近くのビルの4階にある。大学の先輩にあたる女性弁護士と2人だけの共同事務所。
「俺」は25歳で弁護士になり、「ブティック」に類型化される法律事務所に5年間つとめていた。ボス弁は、株主総会対策で名を上げていて企業法務の世界に橋頭堡を築き、今や数十の上場企業を顧問先にかかえる。ええっ、これって、なんだか有名な久保利弁護士を連想させますよね。ところが、ボス弁は、大変なパワハラ弁護士で、事務所の弁護士30人は、常に変動していた。ええっ、そ、そうなると、違うかな…。それはともかく、この元ボス弁が、この本では悪しきキーパーソンになっています。
私選の刑事弁護費用について、「俺」が被疑者に提示する金額を紹介します。
まず、初めに100万円。死体遺棄や殺人で再逮捕されるごとに30万円を追加。ここまでが着手金で、最大160万円。逮捕された全部の罪について起訴されなかったら、成功報酬として100万円。どれか一つでも起訴されたら、その段階での成功報酬はなく、追加着手金をもらう。殺人が含まれていなければ50万円。含まれていたら100万円。裁判員裁判は手間がかかるから…。そして、裁判で無罪になれば成功報酬として200万円。つまり、殺人で起訴されて無罪になったら、弁護士費用の合計は最大で460万円になる。
「俺」は、国選弁護人に頼んだらどうかと被疑者にすすめています。国選弁護人も裁判員裁判で無罪を主張して争ったら、コピー代請求できるうえ、あまり変わらない金額を弁護士報酬としてもらえることがあります。しかも、この場合、決められた金額をもらえないという心配は無用です。私選弁護人は、報酬のとりっぱぐれのリスクをいつだって覚悟しておく必要があります。そこが決定的に違います。
そして、弁護人は、依頼人との関係で微妙なことがしばしばあります。私は、一般に、すぐに返金できる金額しか着手金をもらわないようにしています。嫌な依頼人だと思ったら、すぐ全額返金して縁を切って、せいせいしたいのです。
この本では、その点がもう少し深刻です。それがタイトルにもなっています。
この本には福岡高裁判事の妻がストーカー行為をしていて、県警が摘発しようとしたら、地検が地裁と一緒になって握りつぶそうとした福岡事件が久しぶりに登場します。
そして、高裁判事のなかには、裁判長は別格だが、左か右陪席には、能力あるいは素行に問題のある中堅の裁判官を氷漬けする部署だということがある。これは、私も福岡で何回か実際に見聞しました。高裁は、いわば教育・反省の場なのです。この機会を逸したら、再任は望めません。
問題裁判官を異動させ、代理人弁護士との取引に応じる役割を最高裁事務総局秘書課がするというストーリーですが、これは本当なんでしょうか…。でも、実際、これくらいのこと、ありそうですよね。というわけで、ええっ、こんなこと本当にありうるのかな…と、首をかしげながらも、結末を知りたくて珍しく自宅に持ち帰って最後まで読了しました。
巻末の著者略歴で、「このミステリーがすごい」大賞、優秀賞を受賞したほか、いくつも小説をかいていることを初めて知りました。失礼しました。今は福岡で活躍中の弁護士です。
(2021年3月刊。税込1870円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.