法律相談センター検索 弁護士検索

植物のいのち

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田中 修 、 出版 中公新書
100歳をこえた日本人は1963年に153人だったのが、2020年には8万450人。すごい増えかたです。そして、世界には45万人もいるのです。いやはや、地球環境の悪化による食糧危機というのは、どうなっているでしょうか…。
世界中に存在する木は3兆4000億本なのだそうです。地球上の人口は75億人だから、1人あたり400本になります。
そして、木の長寿番付は…。屋久島の縄文杉は3000年でしょうか。アメリカには、樹齢4700年のブリッスルコーン・パイン(イガブヨウマツ)があるとのこと、すごーいですね。
食虫植物も光合成はしている。ただ、虫からタンパク質などの窒素をふくんだ物質を手に入れている。ふつうの植物は、窒素をふくんだ栄養分を土の中から吸収している。
レンゲソウは、根の粒々の中に住まわせている根粒菌が空気中の窒素を窒素肥料に変えることができる。
大賀ハスは、2000年も前のタネが発芽したもの。一般的にタネは、悪条件に耐え、発芽せずに発芽のチャンスを待ち続けることができる。
紫外線は、人間にも植物にも同じように有害。植物は、からだの中で発生する「活性酸素」を消去する術を身につけている。その抗酸化物質がビタミンCとビタミンE。
ジャガイモのイモは茎(くき)なので、光があたると緑色になる。これに対して、サツマイモのイモは根なので、光があたっても緑色にはならない。
サツマイモが花をさかせるためには、「暖かい長い夜」が必要。本州では、夜が長い秋は暖かくないので、花は咲かない。なので、夜が長い秋にも暖かい沖縄では花が咲く。だから、サツマイモの品種改良は、サツマイモの花が咲く沖縄で行われた。
チューリップは、タネをまいて花が咲くまで、5年か6年はかかる。なので、球根を植えて、翌年、花を咲かせる。
アメリカのユタ州のフィッシュレイク国立森林公園には、樹齢8万年というカロリナポプラの木がある。その根は8万年も生き続けていて、地上面に4万本も木を茂らせている。その面積は、東京ドーム9個分の43ヘクタール。いやあ、すごい木ですね…。
キンモクセイもジンチョウゲも、どちらも日本には雄株だけ。なので、挿し木で増やしている。タネができないからだ。
植物の不思議を少しだけ知ることができました。
(2021年5月刊。税込946円)

沈没船博士

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 山舩 晃太郎 、 出版 新潮社
高校・大学では野球に没頭していた青年が、挫折したあと英語も話せないのに一念発起してアメリカにわたって水中考古学を学び、ついに博士となって世界各地で沈没船探究の第一人者として活躍しているという、血沸き肉踊るストーリー展開なので、最後まで一気読みしました。
水中考古学とは、水に沈んだ遺跡の調査発掘を行う学術研究。60年ほど前に誕生し、今ではヨーロッパや北米をはじめ、世界中で数多くの水中調査と水中発掘がすすめられている。
著者は2009年からアメリカの大学院で船舶考古学を学び、現在は世界中で水中調査・研究に従事している。
沈没船は世界中に300万隻はあるだろうとユネスコはみている。ギリシャのエーゲ海では、4年間の調査で58隻もの沈没船が見つかった。沈没船が見つかるのは、実は港町の近くのことが多い。港を出てすぐか、港に帰ってくるとき、船は沈む。海のど真ん中というよりも、港のちかくで暗礁や浅瀬に乗り上げたりして海難事故が起きる。
水中での作業は、たとえば水深27メートルだと1日に作業できるのはわずか1時間でしかない。潜水中に身体にたまる窒素の量を考慮して、そんな制限がある。
著者がアメリカに渡ったのは2006年8月のこと。22歳だ。大学までのタクシー代として300ドルもふんだくられ、マックでもスーパーでも英語が分からず、食べ物も買えない。1週間、自販機でスナック菓子とジュースだけで泣く泣くすごした。そして、TOEICを受けると、読解はなんと1点しかとれない。そして2008年に始まった授業になんとか出てみると、教授の話がまるで理解できない…。
いやはや、そんな状態でよくも続けたものです。そこは根性でしょうね。
授業を録音し、ネットで関連事項を探し出して、電子辞書をつかって少しずつ読みすすめる。毎週3日は徹夜したというのです。若さもありましょうが、そのタフさには驚嘆してしまいます。
そして、あこがれのカストロ教授のもとに駆け込み、助手に採用してもらったのです。直談判に行くなんて、たいした日本男子です。
こんな苦労をしながらも、水中考古学に著者は全力で楽しむように心がけ、周囲からそのことが高く評価されて、世界中の調査に誘われるようになったのでした。
もちろん、ニコニコ笑っているだけというのではなく、最新の科学的手法を導入したのです。それが、フォトグラメトリ。広角レンズをつけたデジカメを4つの水中ライトで対象を照らし出しながら、写真をとっていく。30分の作業時間で2000枚も撮影するというのです。すべて手押し。おかげで指が水中でつりそうになります。職業病ですね、これって…。
水中には重めのプラスチック板をもち込み、フツーのエンピツで書き込む。文字やスケッチは書けないので、暗号や数字を書きつける。
英語が初めできなくても、初志貫徹すると、大きなことができるようになるというスケールの大きな話で、ワクワク感がとまりませんでした。これからも事故と体調に気をつけて、引き続き活躍されますよう、心から応援します。
(2021年9月刊。税込1595円)

少数株主

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 牛島 信 、 出版 幻冬舎文庫
東京で企業法務の弁護士として活躍している著者は、司法にからめた企業小説の書き手でもあります。先日、顔写真つきで大きなインタビュー記事がのっていましたが、なんと私と同じ団塊世代(私のほうが1歳だけ年長)です。
今回の本も、企業法務は扱っていない私にとっても大変勉強になりました。
資産のある会社、老齢になり始めたオーナー夫妻、その離婚、夫の側の不貞行為、夫の隠し子、密かにしかし公式につくられた信託財産、会社の未来、会社のステークホルダー…。こんなケースこそ弁護士としての腕の振るい甲斐がある。なるほど、うん、そうですね…。
今回の舞台は非上場会社の少数株主の扱い。少数派のもっている株は、配当還元といって、配当金が年にいくらかで値段が決まるのがふつう。ところで、非上場会社の株は、会社の承認がないと買うことができない。
それで、最近、法改正によって、少数株主は、自分の株式を会社に買取請求できることになったようです。買ってもらえるとして、問題は、その値段。
非上場会社の少数株主に矛盾とそのしわ寄せが集中している。フェアな扱いを受けていない。もっと払える配当、高値で買い戻せる株、もっと投資にまわせる内部留保、放置されたまま眠り続けている土地の含み益…。
勝率を誇る弁護士を軽蔑する。むずかしい事件をやらず、勝てそうな事件だけをやれば勝率は上がる。でも、それは、18歳になって、中学校の入試問題だけを解いているようなものだ。
対象となった非上場会社については、将来の収益力(DCF)と純資産評価を50対50の割合で足しあわせるべきだ。すると帳簿価格として算定した金額の3倍以上になった。それを前提として少数株主権を会社に買い取ってもらう。裁判所を介入させたら、それが可能になる。
弁護士は不思議な職業だ。超高級ナイフのような切れ味でしゃべりまくったところで、滝の水が勢いよく流れ落ちるように、とうとうと論理を展開してみせたところで、話している中身が信用できると相手が受けとってくれるとは限らない。弁護士にとって相手を煙に巻くのは仕事の一部にすぎない。かえって反発を買うことも多い。才気走ったところを見せるのは不興を買うだけになりかねない。
著者は、代理人業が気に入って、何十年も弁護士をしているとのこと。依頼者へは真っ当な法的サービスを提供する。もし依頼者自身が弁護士だったら実現したいだろうことすべてを代って行う。なーるほど、ですね。でも、なかなか出来ません。
社外取締役によるチェックは限界がある。企業のトップと会計責任者とが組んで経理処理をしたら、社外取締役なんて知るよしもない。そして、それを防ぐ手立てはない。そのとおりです。
いやあ、難しい内容をよくぞここまで分かりやすく解説したものだと思いました。
(2021年5月刊。税込963円)

屠畜のお仕事

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 栃木 裕 、 出版 解放出版社
世の中には採食主義者の人も少なくありませんが、私はほとんど毎日、牛肉か豚肉、あるいは鶏肉を食べています。もちろん、年齢(とし)とともに、野菜を食べる量をふやしています。昨晩だって、大好きなギョーザを山盛り食べてしまいました。
その牛肉や豚肉をつくり出しているのが食肉市場に併設されている「屠場(とじょう)」です。著者は、この屠場で長く働いていました。この本は、屠場の仕事の実際を紹介しつつ、肉食の歴史も解説していて、大変勉強になりました。
著者は、食肉動物を「殺す」という言葉から逃げてはいけないと強調しています。「命をいただく」という言葉にいいかえるのは、差別に負けているようで、大嫌いだというのです。「生命をいただく」というとき、素材への感謝もさることながら、それをつくった人たちへの感謝を忘れてはいけないはずだと主張します。その理由は、屠場で働く作業員の実情、その苦労と工夫を具体的に知ると、なるほどと思わされます。
豚も牛も屠場へ運ばれてすぐに屠畜するのではない。前日に到着して、一日は水を与えてゆっくり休ませてからでないと、肉質が落ちるのです。
豚は殺す前に炭酸ガスの充満した麻酔室で昏睡(こんすい)状態にする。ただし、日本の多くの屠場では電気ショックによる麻酔が多い。
牛の場合には、眉間に屠畜銃をあてて撃って気絶させる。
豚の放血から胸割りまでは、清掃をふくめて1頭20秒というスピードで処理する。
食べる豚足は、ほとんどが前足。うしろ足より肉づきが良いから。うしろ足はスープのダシに使う。
豚のお腹を切り開いて、内臓を取り出すまで5~8秒で終わらせる。
いやはや、あっという間の作業なんですね。そのため、心と気力を集力させる必要があります。
一頭の豚をガス麻酔のゴンドラに入れてから、枝肉を洗浄するまで30分間しかかからない。
とてつもない早技です。このとき集中力に欠けると、ケガもします。
豚も牛も、一刻も早く血抜きする必要がある。そのためには心臓のポンプ力を活かす。
「肉まん」と「豚まん」の違いを知りました。関西で「肉」といえば牛肉のことなので、豚肉をつかうときには、「豚」とわざわざ言う必要がある。
ホルモンとは、内臓肉のこと。ホルモンは「放るもん」から来ているという人がいるが、著者は、スタミナのつく料理という意味で、ホルモンと言ったと主張しています。なーるほど、と思いました。
豚は、沖縄のアグー豚や、鹿児島のバークシャー豚を除いて、ほとんど「三元豚」。これは3種の豚のかけあわせでつくられた雑種のこと。
オスの子豚は去勢する。そうしないとオス豚特有の臭いがして、豚肉としての価値が下がってしまう。
牛はメスのほうが肉質がきめ細かくやわらかいので、値段が高い。
牛のエサは、穀物と牧草。牧草だけ与えていると、日本人の好む霜降り肉はできない。そして、アメリカ産のトウモロコシをたくさん与えて脂肪分をつくり出す。
著者は、日本人は昔から肉食していたと主張しています。これまた、なるほど、そうだろうなと私も思います。
牛肉や豚肉を毎日のようにおいしくいただいている身としては、その製造現場の様子知るのは、とても興味と関心がありました。そこでプロとして従事していた著者による解説なので、よくよく理解することができました。肉食派のあなたに一読をおすすめします。
(2021年4月刊。税込1760円)

米軍からみた沖縄特攻作戦

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 ロビン・リエリー 、 出版 並木書房
1945年4月、アメリカ軍は大々的な沖縄侵攻を開始した。これに対して、日本軍はカミカゼ特攻隊で対抗。その無謀な特攻作戦を主としてアメリカ軍側の記録によって再現した本です。
日本軍の特攻機によるカミカゼ体当たりに効果がまったくなかったわけではありません。
でも、アメリカ軍は日本軍の暗号を全部解読していましたので、日本軍の奇襲作戦が成功するはずもありません。
そして、日本軍の飛行機は「ゼロ機」(零戦)もふくめて防御板は薄く、パイロットは未熟者ばかり(ベテランはすでに墜落されていて、熟練パイロットを養成する時間もなかった)。
アメリカ軍は沖縄侵攻にあたって、レーダー・ピケット艦艇(RP艦艇)を配置した。日本軍は、結局、このRP艦艇に特攻機を差し向けて、体当たりさせることになった。
その結果、アメリカのRP艦艇のうち沈没、損害を受けたのは29%に達した。
そしてアメリカ軍の戦闘機パイロットは、日本軍機との戦闘で勝っても、RP艦艇から誤射される危険があった。ベトナム戦争でも、アメリカ軍は友軍誤射で、相当の被害者を出していましたよね…。
アメリカ軍の誤射による被害というのは、アメリカの艦艇の兵士たちの過労と神経衰弱によるものが大きかった。なにしろ休養がとれず、眠れないので疲労困憊になっていたから。ストレスで、神経がすりきれてしまっていた。
日本の特攻機は、レーダー探知を避けるため、しばしば海面上を低高度で飛来した。
日本の特攻機のパイロットたちは、練度が低かった。最小限の飛行訓練しか受けていなかった。
アメリカ軍のグラマンF6Fヘルキャットは、ゼロ戦より速く、運動性が良かったので、「手強い相手」だった。ヘルキャットのパイロットは、ゼロ戦と遭遇したら、格闘戦を避けて、速度と火力を最大限に活用するように指示されていた。
アメリカ軍のパイロットたちは、日本軍パイロットの練度の低さもあって、次々に「面白い」ように撃墜していった。これを「七面鳥狩り」と称していた。
いやはや、特攻攻撃を命じられていった前途有為の日本の若者たちがあっけなく戦死させられていったのです。本当に残念ですし、本人たちも悔しかっただろうと思います。
レーダーのない日本軍機は、悪天候によって作戦開始ができなかった。なので、アメリカ軍兵士のほうは、悪天候になると喜んだ。
無謀な特攻・体当たり作戦を若いパイロットたちにおしつけた参謀以上の軍トップの責任は、とてつもなく大きく重いはずですが…。単純に特攻作戦を美化するなんて、許せません。
(2021年9月刊。税込2970円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.