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家は生態系

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 ロブ・ダン 、 出版 白揚社
人間のすむ家から、20万種の生物が見つかっている。いやはや、すごい数です。その4分の3は、ホコリ、人体、水、食品、および腸内で見つかった細菌。4分の1は真菌。残りは節足動物、植物、その他。
人間が家の中を歩きまわると、どんな人でも1日に5000万個の皮膚断片(鱗屑、りんせつ)が身体からはがれ落ちている。そして、空中を漂う鱗屑一つひとつに数千個の細菌がすんでいて、それを食べている。
どんな人の手も、実は手だけでなく、鼻、へそ、肺、腸および体表面のすべてが、微生物叢(そう)で覆われている。
手を洗って除去されるのは、手にくっついたばかりでまだ定着していない微生物だけ。
チャバネゴキブリは、屋内の人間が暮らしている場所に限って、頑強で多産。そして、人間が好むような食物を好む。人間と同じく、一匹で孤立して暮らすのは苦手だ。
病原体の媒介という点では、イエバエはチャバネゴキブリをはるかに上回っている。下痢を起こす病原体を運んだりして、年間50万人をこえる死亡に関与している。
この本は、ゴキブリ駆除剤がきかなくなった理由を突きとめるべく、ゴキブリの口器にある味覚感覚毛の一本一本に電極を接続して感覚ニューロンの応答を調べるという実験を3年以上にわたって2000匹のゴキブリについて繰り返した日本人研究者も紹介しています。勝又(和田)綾子という女性です。すごい、ですね…。こんな地道な実験をする学者のおかげで毎日の安全・快適な生活が保持されているのですよね。感謝、感謝です。
(2021年6月刊。税込2970円)

富岳、世界4冠、スパコンが日本を救う

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日経クロステック 、 出版 日経BP
日本の誇るスーパーコンピューター富岳が2020年に世界一になった。しかも、4つのランキングすべてで世界一。しかも、圧倒的な一位。
スパコンの核となるプロセッサを開発する技術をもっている国は、アメリカと日本そして中国の3ヶ国のみ。ところが、このスパコン富岳で数億年かかる計算をわずか数分で解いてしまうのが量子コンピューター。
ここまでくると、何のこっちゃら、とんと理解不能な、雲の彼方の話になってしまいます。
コンピューターには、まるで縁のない生活をしている私ですが、なんか分かるところはないかと思って読みすすめました。
富岳というのは富士山の異名。高性能であって省電力。そして高い信頼性と使いやすさ。スパコン開発では常にトップグループにいなければダメ。2番手グループは、トップグループの誰かの背中を見てまねる。比較的簡単なこと。だけど、まねなので、技術はすべてトップグループのもの。それでは、波及効果は期待できない。自分たちの技術ではないから。これには、なるほど、なーるほど、と思いました。
以前のスパコン京は、売れなかった。これは失敗だった。うむうむ、そうですよね…。
世界最速(2019年)のスパコンの米IBMのスミットを使って1万年かかる計算をわずか200秒で解いたのが量子コンピューター。
量子は波のような存在で、0か1か、単純には決められない。それどころか、同時に両方でありうる。これを「量子重ね合わせ」という。量子コンピューターで計算が劇的に速くなるのは、この「量子重ね合わせ」の原理による。
まったくの門外漢である私がスパコン紹介の本を紹介してみました。
(2021年3月刊。税込1980円)

弁護士CASE FILE Ⅰ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 早稲田リーガルコモンズ法律事務所 、 出版 朝陽会(グリームブックス)
私は若いころ『弁護始末記』を夢中になって読みました。もちろん全巻よんで、今も持っています。若い弁護士に読むようにすすめているのですが、なにしろ30巻もあって大変です。もともとは大蔵省印刷局が発行していた『時の法令』に22年間にわたって連載されていたものが順次、本になっていたのです。大変面白くまた勉強になりました。
そして、この本は、この『時の法令』で始まったものを1冊にまとめたもので、14の論稿(ケース紹介)からなっています。かつての『弁護始末記』を思い出しながら読みすすめました。
ちなみに、私が『弁護士のしごと』シリーズ(6冊)最近、刊行したのは、この『弁護始末記』にならったものです。
私がまったくやっていないし、これからもやれないだろうけれど、弁護士の仕事の一つとして大切だと考えているのは、「子どもをサポートする仕事」(西野優香弁護士が執筆)です。
東京は「コタン」(子ども担当弁護士)という制度があるとのこと。児童養護施設、自立援助ホーム施設に入った子どもについて、コタンは親や学校との調整をしたり、子どもから日々の相談を受けたり、子どもたちが安心して生活し、社会に巣立っていけるようにサポートする。とくに親の虐待事案では、親のほうはあらゆる手段を使って子どもの居場所を突きとめようとするし、子どもを返してくれないのなら、学費は出さないと親が言ったりするので、慎重な対応が必要。いやあ大変な仕事ですね。でも、児童相談所とは別にコタンがいるっているのは、子どもにとって、きっと心強い味方になりますよね…。コタンは、月に1回のペースで様子を見に行ったり、一緒に食事に出かけたりするとのことです。これも弁護士としての立派な仕事です。本当に頭が下がります。
そして、未成年後見というのもあります。私はまだ担当していませんが、こちらは福岡でも聞きます。この本では5歳の女の子のケースが紹介されています。父親不明のままシングルマザーが亡くなり、その母の良心まで相次いで亡くなってしまったため、児童養護施設に入っている子の後見人に就任したのでした。
面会に行くと、自分にお客が来てくれたことを喜んでくれているようで、いろいろ明るく話してくれた。何か困ったことがないかと尋ねると、「みんながいなくなっちゃうと、さみしい」との答えが返ってきた。不覚にも涙が出そうになった…。読んだ私も6歳と3歳の孫をもつ身として、思わず涙ぐんでしまいました。母親が亡くなり、祖父母も死んでしまったら、誰かが愛情をもって支えてやる必要があります。それは施設だけにまかせていいということではないでしょう。本当に大切な仕事をしていると実感しました。とてもお金にはなりそうもなく、金もうけの世界とは無縁でしょうが、お互い人間らしく生きていくうえで必要不可欠な仕事です。これから弁護士になろうとする人にはぜひ読んでほしい一文です。
もう一つだけ紹介します。「ホームレスは社長だった事件」(川崎建一郎弁護士の執筆)です。ホームレス支援をボランティアでやっている弁護士は、福岡でもときどき聞きますが、東京では継続的な取り組みになっているようです。2008年12月の「年越し派遣村」に協力したことがきっかけで、生活保護申請の同行・支援をするようになった。そのなかで出会ったホームレスの話。生活保護の申請をすすめると、絶対に家族に自分の状況を知られたくないから嫌だという。
そして、ついに身の上話を聞き出すと、なんと50人もいる工場を有する社長だったのに、なにもかも嫌になって、ある日突然、家を出てホームレスになったという。もともと親の稼業を継ぎたくなかったようで、ともかく事業をやめたいという相談になった。まあ、本人が、それほど意思が固いのなら、弁護士としては、会社を清算するしかありませんよね。すべてが終わったあと、その元社長は、今はコンビニでレジ打ちの仕事をしている。時給1000円ほど。億単位の売上のある社長をしていた人がコンビニの店員になって、しかも、本人は、それでいい、今が幸せだ、これは自分で選んだ仕事なんだから…。いやあ、一回限りでしかない人生っているのは不思議ですよね。やっぱり自分の選択って大切なんですね…。
弁護士の仕事を社会と人生との関わりで深く考える材料を提供するシリーズの始まりです。次巻を楽しみにしています。
(2021年11月刊。税込1100円)

アンゲラ・メルケル

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 マリオン・ヴァン・ランテルゲム 、 出版 東京書籍
2021年9月まで、16年間もドイツの首相だったメルケルのフランス人ジャーナリストによる評伝です。フランスの『ル・モンド』に連載したものが基になっているようです。いかにもフランス人らしい叙述で、小池百合子の評伝とは、まったく違った雰囲気の評伝でした。
メルケルは、2人の女性に支えられていることを初めて知りました。ベアト・バウマンとエーファ・クリスチャンセン。バウマンは「事務局長」であり、クリスチャンセンは、メディア対応、企画と戦略を取り仕切っている。
バウマンの執務室とメリケルのそれとを隔てるのは秘書控室だけ。報道機関と対応するクリスチャンセンは、下の7階に控えている。バウマンはメルケルの演説を起案し、すべてを把握している。
メルケルは、首相官邸に寝泊まりしない。自分の簡素なアパートに毎晩帰る。5階建ての小さな建物の4階に住んでいる。下には2人の警官が見張っているだけ。自宅近くの小さなスーパーにひとりで買い物に出かける。ボディガードは、近くはいない。週末には、赤い屋根の小さな別荘にこもって庭の手入れや料理をしたり、湖で泳いだり、古ぼけたゴルフ(愛車)を運転したりする。
メルケルはカリスマ性がない。しかし、威厳がある。メルケルは声高に訴えなくても、ドイツの重みを感じさせることができる。メリケルは歴代首相になかった落ち着きを身につけている。
メルケルは、コミュニケーション・アドバイザーに頼ろうとはしなかった。メルケルは大見得や気の利いた言い回しは使わない。
メルケルは、36歳のとき、ドイツの連邦議会議員に当選した。
ムッティ(お母ちゃん)と呼ばれるメルケルは、世話になった人を巧みに政治的に葬り去った。素知らぬふりをしながらのシリアルキラーだ。
メルケルはコール首相に徹底して尽くし、そして葬った。まだコールに誰も逆らえなかったのに、メルケルは、ドイツの象徴ともいえる巨人コールに引導を渡した。
「コールのとった手法は党に害を与えた。こんな古老に頼らずに政敵に立ち向かうようにならなければならない」と語った。
そして、2000年4月のCDV党首にメルケルが選ばれるとき、対立候補はもはや誰もおらず、圧倒的得票率で党首に就任した。
メルケルは、ぽっと出のように素知らぬ風情で周囲をあざむき続けるのだ。策略家メルケルの得意技は、何食わぬ顔をすることだ。
メルケルは会議を好まず、電話や一対一の打ち合わせを活用する。
自分を批判していると感じた人とメリケルは向きあった。
メルケルは、自分は虚栄心の強い方ではなく、男性の虚栄心を利用するのがうまいと語った。
メルケルは、ドイツの右派と左派の絶妙なバランスで大連立政権を率いた。ドイツの難民受け入れ、ギリシャの負債問題、アメリカやイギリスとの対応そして、ロシアのプーチン大統領。メルケルは、なんとか難局を乗り切っていった。
メルケルが首相として16年間も続いた秘密が理解できる本でした。
(2021年9月刊。税込1980円)

人生、挑戦

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 伊佐山 芳郎 、 出版 花伝社
サブタイトルの嫌煙権弁護士というのを見て、ああ、かの有名な著者の本だと分かります。
タバコをそばで吸われて嫌な思いをしたことが私もあります。昔、飛行機には喫煙席がありました。禁煙席が満席のため仕方なく喫煙席にすわると、離陸後まもなくから隣のサラリーマン男性がタバコを吸いはじめました。私は、その煙が嫌で、しきりに扇子を小刻みに動かして、煙を追い返していました。すると、隣の男性が無言で私をにらみつけるのです。ここは喫煙席なんだ、文句あるのか…というにらみです。私は言い返すこともなく、黙って1時間半を耐え忍びました。
実は、私の両親は酒の小売業とともにタバコも売っていました。なので、小学1年生のときからタバコは身近にありましたが、私はタバコの吸い殻がどうにも汚くて、それこそ1回も、1本もタバコを口にしたことがありません。今でもタバコを吸う習慣がなくて本当に良かったと考えています。
ところで、嫌煙権という言葉を初めて聞いたときは、タバコを吸わない私も、なんて大ゲサな…と、軽い反発すら覚えました。しかし、実はタバコの害は深刻なのです。
夫の喫煙本数が多いほど、タバコを吸わない妻の肺ガンのリスクは高まることが疫学調査で明らかになっている。夫が1日20本以上タバコを吸うとき、妻がタバコを吸わないのに肺ガンにかかって死亡する危険性は、夫がタバコを吸わないときに比べて2倍近く(1.91倍)も高い。したがって、受動喫煙(パッシブ・スモーキング)の被害は、非喫煙者の健康と生命に関わる人権問題なのだ。
著者たちが画期的なのは、単に「嫌煙」ではなく、「嫌煙権」という権利主張を展開した点にある。嫌煙権運動は、個人的な局面ではなく、公共の場所などの喫煙規制の制度化を目指した。すごいことですね。今では、公共の場所での喫煙禁止は当然のこととされています。
家庭内でタバコを吸うことは、児童虐待や家庭内暴力と同じ不法行為なのだ。
ベランダに出てタバコを吸う(ホタル族)は、必要最低限のことなのです。
今から20年以上も前、1998(平成10)年5月、著者たちは、反喫煙運動の第2弾として、タバコ病訴訟を提起した。肺ガン、喉頭ガンなどのタバコ病被害者7人が原告となって、日本タバコ産業(JT)と歴代社長3人、そして国を被告とする損害賠償請求、タバコ自動販売機での販売禁止等を求めて本訴を提起した。ところが、裁判所はタバコのニコチンの依存性を否定した。さらに、タバコの有害性についても、現在のところ、十分に解明されているとは言い難いとした。しかし、タバコを吸うことと肺ガンとの因果関係について「証明されていない」としているのは、世界広しといえども日本タバコ産業と日本の司法くらいなものだ…。驚いてしまう。
著者は中学1年生のときからピアノをひくようになり、70歳になって再開したあげく、ピアノコンクールに出場することにしたのです。そして、結果は、なんと、奨励賞を受賞。すっばらしい…。大変勉強になりました。ますますのご活躍を祈念します。
(2021年9月刊。税込1650円)

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