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嘘はつかない、約束は守る

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 萬年 浩雄 、 出版 LABO
銀行員と弁護士は経営能力はない。これが著者の考え。どちらも、ちょっぴりだけ頭が良い。なので、にわか勉強をすれば、いっぱしの経営理論をぶつことができる。しかし、それが本当に実際の企業経営に役立つものなのか、疑問がある。私も大いに同感です。といっても、経営能力のある弁護士もいれば、銀行員もいるとは思うのです。一般論として、多くの弁護士は経営者に向かないのではないかと私も自分をかえりみて、そう思っているということです。たとえば、私は、岡目八目(おかめはちもく)というコトバのとおり、はたから見て経営状況に論評することはできます。でも、自分で実際に企業を経営してみろと言われたら、まったく自信がありません。無理だろうと思いますし、する気もありません。
同じことが、経営コンサルタントにも言える気がします。コンサルタントは自分でリスクを取らず、コンサルタント料さえもらえたらいいので、それなりのことを言えるし、言うでしょう。
でも、そのとおりやったら必ずうまくいかといったら、まったくその保障はないのです。それにしてもコンサルタント料のバカ高いことには、目をむいてしまいます。コンサルタントって、弁護士以上に「口八丁、手八丁」どころか、「噓八反」がまかり通っている気がしてなりません(すみません、間違った思い込みかもしれませんが、これが私のホンネなんです…)。
著者は福岡でも有数の法律事務所を率いていますから、私なんかと扱う案件とケタが2つも3つも違います。パチンコ店の企業再建で出てくる金額は、年商500億円に再び回復したというものです。口をポカンと空けてしまいます。
著者は、弁護士に経営能力がないと考えるのは、弁護士は「守りには強いが、攻めには弱い」からだとします。これには、いくらか違和感があります。私をふくめて、攻めには強いが、守りには弱い弁護士も少なくない気がするからです。
著者は、弁護士プロデューサー論を提唱していますが、これには異論ありません。
弁護士が何でも知っていると思うのはまちがい。まったく同感です。弁護士生活48年になる私ですが、世の中、いかに知らないことだらけなのか、いつも実感させられています。そこで、大切なのは、弁護士がいろんな分野の専門家を知っていて、それを依頼者に紹介して、ネットワークを広げてもらうことです。これなら、たいていの弁護士が私もふくめて出来ます。人脈があれば、いいのですから。
依頼者がなぜ法律事務所に足を運び、お金を出してまで弁護士に依頼するのか…。
それは、インターネットでは得ることのできない安心感と納得感を求めているからだ。
これにも同感です。インターネットによる相談に欠けているのは、これですよね。
実は、私はいつまでたってもガラケー人間なのですが、著者はケータイも使っていないようです。それには、ガラケー派の私でさえ、いくらなんでも…、と思いました。
著者は、弁護士になって10年までは、弁護士を天職と思っていたが、10年を過ぎると、しょせん弁護士は人間の欲望を処理しているだけではないかと、暗澹たる気分に陥ったといいます。いやいや、私は今でも弁護士は天職だと考えていますし、苦労してこの職業に就けて良かったと思います。
人間の欲望といっても、いろいろあるわけです。欲望を全否定することはできませんし、できるはずもありません。この欲望を適当に折りあいをつけていくことで人間社会はなんとか成り立っているわけです。そのとき、むき出しの暴力は論外ですし、口ゲンカで終始していても終わりが見えません。紛争解決のルールをつくって、それに従ってトラブルをおさめていくこと、そして、それによって事後(将来)のトラブルもそれなりにおさまっていくという見通しが得られるというのは、毎日を安心・安全に暮らすうえで不可欠です。このときに、弁護士は裁判所と同じく欠かせない存在だと思うのです。
福岡の名物弁護士と他称される著者の面目躍如のエッセイ集の第1巻です。いくつかの点で著者とは意見が異なりますが、企業法務を担う福岡最大手の法律事務所のボス弁としての活躍には大いに敬意を表しています。
LABOから贈呈していただきました。いつもありがとうございます。
(2022年2月刊。税込1980円)
 
 日曜日は、春うららかな陽差しをあびながら、庭仕事に精出しました。チューリップの芽がぐんぐん伸びています。覆っていた雑草を取ってやりました(まだ、全部ではありません)。
 紅梅に続いて、ようやく白梅が咲きそろいました。例年以上の時間差があります。
 まだ、明るいうちに(といっても夕方6時)、庭からあがって風呂に入り、いい気持になりました。ところが、風呂から出ると、猛烈なくしゃみの連発です。今年は花粉症がすごく軽いなと思っていたのですが、たちまちティッシュペーパーを払底させてしまいました。目もかゆくなっています。
 それにしても、ロシアの戦争は許せませんよね。軍事力ですべてを押し切ろうとする発想は許せません。ロシア軍は直ちにウクライナから撤退すべきです。ウクライナの人々の気持ち思い、また、連鎖反応を恐れて、暗い気持ちになりました。

クマさんの野鳥日誌

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 熊谷 勝 、 出版 青菁社
すばらしい小鳥たちの写真のオンパレードです。しかも、小鳥たちの知られざる生態も紹介されている、楽しい写真集になっています。
野鳥の写真というと、鳥そのものをできるだけ大きくうつすものという先入観があります。それに対して、著者はそうではないと主張します。作品性という観点からは、鳥を大きくうつすより、小さくうつして絵にする。このほうが何倍も難しい。鳥の的確な配置としぐさ、光線状態、季節感、そして空間構成も画面に表現する。
著者は逆光で小鳥をうつしとることにすごくこだわっています。
アオバトが鮮やかな黄色と濃い緑色をした美しい鳥。このアオバトは、ときどき集団で山をおりて海辺の岩場にやってきて、海水を飲むとい変わった習性がある。NHKの「ダーウィンが来た」で、その映像を見ました。
アオバトはハヤブサが狙う。それは、アオバトの肉がとても美味しいから。ハト類は子育て中も穀物か植物の種子しか食べない。そのためアオバトの身は臭みがなく、美味しい。
そして、ハヤブサから襲われたときのアオバトの対抗策は、なんと、羽毛がいとも簡単に抜けてしまうこと。ハヤブサは、だからつかみ損ない、そのチャンスにアオバトは逃げてしまう。
オオジシギは、越冬地のオーストラリアから北海道へ子育てのため渡ってくる。このオオジシギの脚に水かきがないため、渡りの途中で海面に浮かんで、翼を休めることができない。そのため、一度広い海原へ飛び立てば、次の陸地まで一気に飛び続けなければならない。その根性と飛翔力に驚かされる。
カッコウは抱卵中のオオヨシキリに狙いを定めると、何日も監視を続け、オオヨシキリがわずかな間、巣を離れた瞬間に自分の卵を巣のなかに産みつけるという早技をこなす。カッコウは、いつ何時、どんな状態でも自由に体内の卵を外に出すという特殊な能力をもっている。したがって、カッコウは、実の親の愛情を受けることのない、悲しい鳥でもある。
ハヤブサとタカの違い。ハヤブサは猛スピードで直線的に飛翔して獲物を空中で捕える。なので、視界の良い草原や海辺で狩りをして、民家のこみ入った庭先で小鳥を襲うことはない。
タカは、村の中を縦横無尽に飛翔し、障害物を避けながら、逃げ惑う小鳥たちを追撃できる。
ハヤブサの尾羽は短めだが、スピードを出すための翼は長く、先のとがった流線型。
タカは、短めの翼と長めの尾羽で、短めの翼は瞬発力を生み、長めの尾羽は方向転換に役に立つ。
きりりと引き締まったハイタカの眼つきには圧倒されます。
良い野鳥の写真をとるのも十分な根気が必要のようです。とても私には無理です。
(2021年10月刊。税込1980円)

世界を唸らせる切削、研削

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 浅井 要一 、 出版 幻冬舎
滋賀県長浜市にある精密加工の会社(トップ精工)の社長による本です。
タングステンやモリブデン、セラミックス、ガラスなどの難削材の精密機械加工の分野に特化し、特殊素材の加工技術を磨き上げている。2001年の設立当時は売上数千万円を突破した。リーマンショックで落ち込んだが、一般的な素材の加工から撤退し、特殊な素材の精密加工の分野だけに焦点をしぼり、2018年の売上高は20億円をこえた。また、特定の顧客に依存するのは危険なので、1社は20%までと、販路の分散を図った。
コールドスプレー装置とは、コーティング材料を固体状態のまま気体に乗せ、超音速で基材に衝突させて被膜をつくる装置。これは、熱による材料の特性変化を抑え、被膜中の酸化を最小限にとどめる効果がある。
トップ精工の強みに、タングステンやモリブデン、セラミックスやガラスといった硬脆(こうぜい)材料(硬くて、もろい素材)の精密加工に特化している点にある。
日本の部品産業が世界的にみて強いのは、加工技術が優れているから。とくに高精度が求められる精密加工の分野において日本は世界一。
特殊な技術を必要としない仕事は標準化され、経済合理性の観点から、生産コストの低い国にシフトしていく。
電子部品には、受動部品と納同部品の二つがある。受動部品とは、エネルギーを蓄積・消費・放出する機能がある部品のこと。抵抗やコンデンサ・コイルなど。
能動部品とは、エネルギーを出力する特徴がある部品のことで、トランジスタやIC、ダイオート、そして半導体など。わずか4年で受動部品のサイズが半分になってしまうといったように、電子部品産業では数年単位で小型化が進んでいる。すると、極小部品を正確につくるための製造装置が不可欠となる。次に、電子の部品を量産するための製造装置や検査装置が求められる。
日本のメーカーは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を開発した。アルミよりも軽く、鉄よりも強い画期的な新素材。航空機関構造材の世界シェアの7割を日本の炭素繊維メーカーが占めている。
タングステンは融点が金属のなかでもっとも高い(3400度)素材。
日本が世界に誇る精密加工は、ミクロン単位の誤差が命とりになる。
過去の経験則や標準化された方法のみに固執するだけでは、解決策は見つけられない。機械加工の常識を取り払い、柔らかい頭で発想することで、解決に至るアイデアを想いつく。なーるほど、そうなんですよね…。
機械で指令できる最小単位の0.1ミクロンとした。0.1ミクロンの切り込みは、10往復してようやく1ミクロンになる。1ミクロンは1000分の1ミリなので、1センチだけ進むのに1万回も往復しなければいけないだろう…。
大丈夫、必ずできる。自信をもって取り組みをすすめる。途中で、「この方法ではダメだと分かると、そのやり方に執着することなく、さっと切り替えて、別の可能性を探る。柔軟な発想で臨機応変に対応できるかも、精密機械加工の成否を左右する。
わずか80人ほどの中小企業がこんなにも考えながら、精密加工の技術を特化させているのですね。驚きました。日本のモノづくり分野はコロナ禍でどこも大変な苦境にあると聞いています。そのなかでこれほどがんばっている会社があり、そこで多くの若者たちががんばっていることを知り、うれしくなりました。
(2019年11月刊。税込1540円)

海坂藩に吹く風

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 湯川 豊 、 出版 文芸春秋
海坂(うなさか)藩というのは江戸時代に実在した藩ではありません。藤沢周平がつくり出した、東北にある架空の小藩。といっても、山形県荘内地方にあった、江戸時代の酒井家荘内藩、表高16万7千石(実は20万石)がモデルと考えられています。
私も、石油パニックのときに起こされた消費者訴訟である灯油裁判で、山形県鶴岡市に通ったことがあります。冬の雪深さをほんのちょっぴりだけ体験しました。
江戸の人情小説としては弁護士になる前(司法修習生のころ)は、山本周五郎を同期生にすすめられて、はまり込みました。弁護士になってからは藤沢周平です。
この本によると、鶴岡市は江戸時代の食べ物と食べ方が多く、そのままに残っている。日本でも珍しい美味の町だとのこと。それはまったく知りませんでした。鶴岡に何回か行ったのですが、弁護士1年目から3年目で、そんな心にも財布にもゆとりはなかったのですから、仕方ありません。
山田洋次監督の映画になった『たそがれ清兵衛』などは、江戸時代の武士の生きざまをいかにも美しく描いていると感嘆しました。
剣は、我が身を守るときのほかは使うな。他の目的で使えば災厄を招く。これは剣の本質を深く身につけている者の教えだ。『隠し剣』シリーズに出てくる剣技は奇想天外。『たそがれ清兵衛』 のほうには剣技にユーモアがある。
藤沢周平の剣客小説には剣客たちの流派が書かれているが、その流派は実在したもの。ただし、道場名のほうは架空になっている。雲引流は、引流と無住心剣流を合わせたもの。無外流は、現在も、財団法人無外流として多くの人を集めて現存している。
藤沢周平は江戸時代を舞台とした小説を書くとき、むかしの随筆から材料を得るのはまれで、たいてい現代日常で見聞し、また自分が考え感じたことをヒントにして書き出すことが多いとしています。ただし、ヒントを現代にとるといっても、それは小説の入口の話で、そこから入っていって、江戸の市井(しせい)の人々と一体化する。
うむむ、なるほど、そうなんでしょうね。だからこそ、現代に生きる私たちの心を打つストーリーになるのだと思います。
作家は、涙や笑いのなかに安直に逃げこんで結末をつけることを絶対にしてはいけない。悲痛なことは悲痛なこととして描く。ただし、そこにはすべての登場人物をいつくしむように見るという精神の働きが必要なのだ。なーるほど、ですね。
藤沢周平って、中学校の教師をつとめ、肺結核で入院・療養し、東京で業界紙の記者として働きはじめて作家になったのですよね。そして、山本周五郎賞の選考委員にもなっています。
藤沢周平の小説として見落とせないのは『義民が駆ける』という政治小説です。「三方国替え」を百姓一揆で止めさせたという画期的な出来事に現代の私たちも学ぶところは大きいと思います。藤沢周平が69歳という若さで亡くなったのは、本当に残念でした。いろいろ小説や映画を思い浮かべながら、なつかしい思いで読みすすめました。
(2021年12月刊。税込1980円)

チェチェン化するロシア

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 真野 森作 、 出版 東洋書店新社
ポスト・プーチン論序説というサブタイトルのついた本です。
チェチェン共和国は、人口百数十万人、岩手県と同程度の面積。首長ラムザン・カディロフの独裁政治が長く続いている。
小さなチェチェンは、ロシアの命運を左右してきた歴史がある。プーチン、ロシア大統領が2000年に最高権力を握るときの鍵となったのがチェチェンだった。身近な場所でのテロに脅えていたロシア市民にとって、プーチンは「仲間のように気さく強い指導者」の登場だった。
チェチェンの首長カディロフはプーチンに個人的忠誠を誓い、見返りに首長の地位と地域統治のフリーハンド、連邦予算の投入を得ている。通算4度目のロシア大統領当選を果たしたプーチンにとって、大事なのは忠誠と安定であり、チェチェン内部がどうであろうと関係がない。
チェチェンでは、プーチンへの忠誠やロシアに対する愛国心が強調される反面、イスラム教とかカディロフへの個人崇拝が合わさった黒色の文化が形成されつつある。
チェチェン人は、コーカサス最古の民族の一つ。イスラム教を受容したのは17世紀以降で、比較的最近のこと。「スーフィー」と呼ばれるスンニー派のイスラム教新主義の進行が主流。歴史的にチェチェン社会は150ほどのテイブと呼ばれる民族、父系の血縁集団を基盤としている。
2002年10月のモスクワ劇場占拠事件(人質100人以上が死亡)、2004年2月のモスクワ地下鉄爆破テロ(40人以上死亡)、同年8月の旅客機2機の爆破テロ(90人死亡)、同年9月の北方オセアチア・ベスラン学校占拠事件(400人死亡)と、相次ぐテロ事件が起きた。また、現首長の父親のアフマト・カデイロフも2004年5月の爆弾テロで死亡している。
カデイロフ首長は、嘘や心にもないことを平気で語る。大言壮語や過激な脅し文句をよく口にする。存在感を誇示し、注目を集めることを好む。プーチンとの関係が生命線だと自覚しているため、忠誠心を露骨にアピールする。これって、関西で注目を集めている地域政党のリーダーたちによく似ていますよね…。
カデイロフは反対派を許容できない。狡猾(こうかつ)で、自分との競争相手は全部排除した。犯罪に対しては、犯人本人だけでなく、家族全員が罰せられる。
カデイロフは、自分の私的な親衛隊、カデイロフツィをもっている。武装した彼らは4万5千人もいて、治安当局とともに強権的な統治を支えている。
チェチェンには人権が存在していない。唯一の法律が首長カディロフの命令。
チェチェンは、全ロシアでもっとも失業者が多く、もっとも平均時給が低い地域だ。
チェチェン共和国の予算はロシア連邦中央の支援に依存している。共和国予算の8割がロシア連邦からの補助金で占められている。
チェチェンがらみでプーチン政権やカデイロフ体制を批判する政治家やジャーナリスト、活動家が暗殺されてきた。
チェチェンの民主化は、はるか彼方にあるようだというのが、本書を読んだ率直な感想です。
(2021年9月刊。税込2530円)

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