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土砂留め奉行

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 水本 邦彦 、 出版 吉川弘文館
奉行と下役(したやく)、中間(ちゅうげん)、荷物運びの人足(にんそく)などからなる10人前後の武士たちの一行(集団)があった。「土砂留め(どしゃどめ)奉行」とか「土砂留め役人」と呼んでいる。この奉行が巡回するのは、その藩の領地だけでなく、他の藩内にも足を運んでいた。
奉行による村々巡見の本務は、普請(ふしん)場所や新たな崩れ所の見分・点検だった。
奉行を受け入れた側の床屋の日記が丹念に掘り起こされています。スミの毛筆で書かれた「日記」を丁寧に読みといていく作業は本当に骨の折れるものだと思います。慣れたら、草書・くずし字ばかりの「日記」であっても、さっと読めるようになるものなのでしょうか…。アラビア文字をタテにしたような、モンゴルのパスパ文字のような、草書体の文章をすらすらと読めたら、どんなにいいことでしょうか…。
高槻藩の土砂留め奉行だった人の日記も解読されています。奉行の巡回は、3ヶ国7郡と広範囲に及んでいて、しかも、京都、大坂の町奉行所に出向くことも重要な業務の一つだった。この制度は、大名(領主)の家臣を幕府主導の土砂留め行政の奉行(役人)と位置付けて事業を担わせた。
土砂留めの管理が土砂留め奉行の支配下に入ったことにより、工事現場はもちろん、周辺エリアの現状変更についても、その村の領主の専権ではなくなった。
工事に必要な諸経費は村々や当該村の領主に依頼していた。つまり、地元では、工事に力を入れれば入れるほど、負担が増えることになった。
17世紀に急速に進行した新田開発は、自然的環境に加重して災害を激増させる人為的要因だった。魚肥(金肥)以前の農業における草や柴の役割は大きく、その確保のためには、田畑面積の数倍から十倍にも及ぶ草山が必要だった。
江戸時代においても土砂災害対策や禿げ山対策が行われていたこと、そのため江戸幕府が土砂留め奉行をおくなどして、それなりに機能していたことを知ることができました。
江戸時代を日本史のなかの暗黒史とみるのは、まったくの誤解だと、つくづく今、考えています。
(2022年6月刊。税込1700円)

グーグル秘録

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ケン・オーレッタ 、 出版 文春文庫
 世界はグーグル化された。私たちは情報を検索するのではなく、「ググる」。
 アメリカで電話の普及率が50%をこえるのに71年かかった。電気は52年、テレビは30年かかった。ところが、インターネットはわずか10年で普及率が50%をこえた。DVDは7年、FBは5年で2億人のユーザーを擁した。
 グーグルは絶対権力になった。アメリカのネット検索の3分の2、世界全体の70%を占める。グーグルは、230億ドルの規模をもつアメリカのネット広告市場と540億ドルの規模をもつ世界のネット広告市場で各40%のシェアを占める。
 社員には食事またはスナックが無料で提供されている。5か月間の育児休暇中の給料は全額支給される。社員は、勤務時間の20%を好きなことにあててよいという「20%ルール」がある。
 グーグルは、平等主義であると同時に、エリート主義を貫く。創業者2人とCEOのシュミットは、既に10億ドルの資産をもつビリオネア。ほかの役員は45万ドルのほか、その150%のボーナスを受けとった。
 ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンの父親は、ともに大学教授で母親も科学関係の仕事をしていた。ともに1973年の生まれで何事にかけても、とことん議論を尽くすような家庭で育った。子どもの自発性を重んじ、画一的な授業をしないモンテッソーリ式の小学校に通い、好きなことを自由に学ぶことを許された。
ブリンは、友骨精神が強く、ユダヤ人としての教育を受けたものの、礼拝には顔を出さなかった。ブリンは、高校でも大学でも、ほとんど勉強せずに、すべての試験に合格した。
 ペイジの父親はコンピュータサイエンスの教授で無宗教、母親はユダヤ教信者だった。
 ブリンとペイジが出会う2年前の1993年の時点では世界50ヶ国でインターネットを使っていたのは1500万人でしかなかった。
 スタートした時点のグーグルは徹底して検索にこだわった。2000年、グーグルの1日あたりの検索処理件数が平均700万件に達した。すぐに1日の検索処理件数は1億件になった。
グーグルは世界中に数十か所のデータセンターを置いている。物理的にデータセンターを世界中に分散すれば、データ処理の効率は大幅に高まる。
グーグルは広告がクリックされた回数しか広告料を受けとらない。ユーザーが広告のその他の情報をどれだけ眺めているか、何をクリックするか、何を検索するか、何が好きで何は嫌いかといった情報は、広告主にとって測りしれない価値がある。
 グーグルはそうした情報を、直接、広告主に渡すことはしない。だが、それを使って、特定の顧客にターゲットを絞って広告を表示するのを手助けしているのは確かだ。グーグルの顧客は広告主なのか、それともユーザーなのか・・・。
 今日のグーグルは難攻不落に思える。しかし、本当に盤石とみてよい根拠は何もない。かつてのトップ企業IBMもマイクロソフトも凋落してしまった。
いやぁ考えさせられる文庫本でした。私たちの個人情報がどこかで集積され、売られ。利用され、狙われているのですよね・・・。本当に怖い世の中です。
(2013年9月刊。税込1232円)

高く翔べ

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 吉川 永青 、 出版 中央公論新社
 紀伊國屋門左衛門の一生を描いた痛快小説です。コロナ禍第7波が爆発的に拡大するなか、涼しい車中と喫茶店で読みふけり、つい暑さを忘れてしまいました。
 歴史小説ということですが、史実を知りませんので、どれほど事実を忠実に反映しているのか知りませんが、ときの権力者である柳沢吉保と荻原重秀が登場しますし、次の有力者である新井白石には批判的です。
 柳沢と荻原に紀伊國屋が初めて会うのは吉原。吉原で遊ぶには厳格なルールがあった。まず、仲の町にある引手茶屋に入り、茶屋を通して妓楼(ぎろう)に渡りをつけてもらう。「必ず」ではないが、そのほうが「上客」とされる。引手茶屋には、客の勘定をまとめて立て替える役割がある。妓楼の側は取りはぐれがなく、客にしても、何かしら注文するたびに勘定をすませるというわずらわしさがない。帰りに茶屋に立ち寄って、まとめて支払えばすむ。
 女郎には、上から、大夫(たゆう)、格子(こうし)、散茶(さんちゃ)、局(つぼね)、切見世(きりみせ)という順番の格がある。引手茶屋に手持ちのお金と女郎の好みを言えば、数多ある妓楼の中から何人かの女郎をすすめてくれる。
 女郎とは、自らを贄(にえ)にして家族を助けた孝行娘。男が女郎を買うのは孝行の手助け。世の中はそう受けとっている。ゆえに妻は、夫の遊里通いをとがめない。不平をもらせば、妻の側こそ無粋だ、無情だとそしられるのが常だった。
 ちなみに明治初期に活躍した政府高官の妻には、高名な芸者が何人もいましたよね・・・。
 江戸の町人は、月に2両で暮らすのがフツーだったとき、紀伊國屋は見込まれて200両を元手にとして商売を始めることができた。紀伊國屋は材木問屋だ。しかしある時、ミカンを紀州で仕入れて江戸で売る話が飛び込こんできた。必要なお金は425両。自分は140両しかもたないので、300両は借りた。もうけたときには3千両にして返すという約束で。貸す側は紀伊國屋が死ぬかもしれないというので、「香典代わりだ」として貸した。
10月末の江戸にミカンを乗せた紀伊國屋の船が着いた。江戸中の果物問屋がつめかけていた。ひと籠で8両。運んできた3500籠を全部売り切り、得たのは2万8千両。
紀伊國屋は、このとき1万5千両を得た。
 すごいですね。あとは、材木商としてがんばります。江戸は火事の多いところ。なので、人の不幸がもうけどころなのです。
 紀伊國屋の商売敵は奈良屋茂左衛門。真剣勝負で火花を散らしたようです。
 新井白石の権勢が長くは続かなかったのは、1千石取りの寄合衆、つまり無役の旗本のままだったから、いかに六代将軍徳川家宣の側近とはいえ、ただの旗本にすぎないのなら、除くことができる、高位の幕閣にそう思わせてしまったことが新井白石の失脚した要因。六代将軍家宣は50歳の若さで亡くなり、その子、家継も3年半後、わずか8歳で死亡した。このあとの8代将軍は、かの吉宗。結局、新井白石は政治の世界から身を引いた。
 紀伊國屋門左衛門は、真心こそ商売繁盛の要だとした。腹が立つのをのみこんで、しくじった人を許す。すると、相手も次は必死になる。
一代で門左衛門は紀伊國屋を閉店した。宝永7(1710)年のこと。名前も別所武兵衛と改めた。閉店するとき、番頭には1万両ずつ与え、3人の弟たちには2万両ずつ。これも倒産して閉店したからではないからできたこと。すごいですね、この見極めが。
 門左衛門は、享保19(1734)年4月に66歳で亡くなった。よく出来た経済小説でもありました。
(2022年5月刊。税込2090円)

無人戦の世紀

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 セス・J・フランツマン 、 出版 原書房
今や、世の中、ドローン万歳の時代になっています。たしかに観光地を上空から、居ながらにして眺めることができるなんて、うれしい限りです。マチュピチュ遺跡のような遠いところだけでなく、身近な所員の新居まで上空から眺められるのですね…。
でも、上空にいるドローンが、私たちの毎日の私生活を観察・監視し、さらには上空から小型ミサイルを撃ち込まれてしまったら、もう逃げようがありません。それは、もう、本当に怖いことです。
2020年までに使用された軍用ドローンは2万機をこえた。
ドローンは、ビジネス規模も大きい。2019~2029年の10年間に軍用ドローンに投じられる金額は960億ドルにのぼるとみられている。いやあ、とてつもない金額です。想像を絶します。
2020年に、アメリカは前から暗殺しようと狙っていたイランのカセム・ソレイマン司令官をドローン攻撃で暗殺することに成功した。
アメリカ政府が気にくわないと思ったら、外国で、空港から出てきたばかりの人物をドローンからミサイル攻撃して暗殺できるって、ホント、恐ろしいことですよね。
ソレイマン司令官の命を奪ったミサイルを発射したのは、重さ2200キロ、翼幅20メートルのドローンだった。つまり、小型のドローンではなかったのです。
この本によると、ドローンのパイロット(操縦者)のなかには、任務と日常生活との不協和音に苦しんでPTSDを発症したものが少なくないとのこと。ドローン・パイロットは、夜になれば帰宅してフツーの市民生活を送る。そのギャップのせいで、神経に混乱をきたす。しかも、それを避けるすべはない。カメラの性能が向上していけば、攻撃のボタンを押したあとで見る悲惨な映像は、いっそう生々しいものとなる。そうなんですよね。彼らが見ている映像は、市民向けにもつながっていると言えますね…。
ドローンそれ自体が責任を問われることはない。ドローンは、世界中で、大規模な秘密作戦のもとで、ときに標的殺害を目的として使用されている。そこに戦略はなく、ただ殺すのみ。今や、ドローンはテロリスト集団も手にしていて、改良を続けている。まずは既製のドローンを購入するところから始める。超小型ドローンでも25分間は飛行可能だ。中国は、ドローンの発展とともに勢いを増した。いやあ、ドローンって、ほんと怖いですよね。改めて実感しました。ドローンが戦場で活用されている状況を知ることのできる本です。
(2022年3月刊。2800円+税)

朝日新聞政治部

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鮫島 浩 、 出版 講談社
 朝日新聞の実権を握ってきたのは政治部だ。この本に、こう書かれています。なので、著者は39歳で政治部デスクになったときには「異例の抜擢(ばってき)」だと社内で受けとめられたとのこと。
 私の東大駒場時代のクラスメイトの2人が朝日新聞に入りました。どちらも全共闘シンパでした(私は当時も、今も、暴力賛差の全共闘を支持しません)。そして、卒業して30年以上たって開催されたクラス同窓会に参加したら、その一人が朝日新聞の政治部長を務めていたというのを知って驚きました。この本を読むと、政治部長というポストは社長への最短距離にあるようですが、彼は社長にはなりませんでした。
 著者は、3.11の福島第一原発の吉田昌郎調書をスクープ報道したときの責任者です。スクープ当初は称賛の声だったのが、その表現であげ足がとられ、ネットで叩かれ、ついには朝日新聞の社長が手の平を返して記事を取り消して謝罪表明した。
 いま、冷静に考えても、東電の現場とトップの対応がすべて適切だったとはとても思えません。現に、つい先日の東京高裁はトップに13兆円の賠償に命じたことが何よりの証明です。そして、吉田所長以下、現場の東電社員が決死の覚悟で対処していた事実はあるとしても、東電の社員がトップから末端に至るまで何らの非がなかったとは、とても言えないことは明らかなのではないでしょうか・・・。
 それにもかかわらず、朝日新聞のトップはネット右翼に支えられた政府の攻撃に早々に白旗を掲げてしまったのです。これは、やはりひどい、ひどすぎると思います。
 この本には、政治家・古賀誠への手厳しいコメントが載っています。古賀誠ほど、権力闘争に執着し、人間の心理を細かく洞察して情報戦を駆使し、本音を明かさない政治家はいない。古賀誠は、大牟田市内のスナックに夕刻から番記者を集め、記事への引用を一切禁じる「完オフ懇談」する。そして、カラオケを3巡させたあと、夜8時から裏話を語りはじめる。
そこには、偽情報がまじっていて、それは政界を動かすためのもの。そのやり口が、古賀誠は人一倍、巧妙だった。
 遺族会の元会長として、古賀誠は平和憲法9条を守れという点では、全くぶれることがありませんが、いまなお政界ににらみをきかす現役の政治家なんですよね。
 著者は、朝日新聞が東京オリンピックのスポンサーに加わったのは、経営悪化が原因だと指摘しています。なーるほどですね。
 2009年まで、800万部の発行部数が、2014年に700万部、3年間で100万部のペースで激減。2016年には500万部を割り込み、2021年には442億円の赤字に転落した。
 私は紙媒体の新聞を熱烈に愛読していますが、いまどきの若い人は新聞を読まなくて平気というか、読まないのがフツーになっています。そんななかで新聞が、ヨミウリ・サンケイのような政府広報紙に転落しないよう、マスコミを監視し、また励まし、支えたいものです。いや、もうダメなんだと、早々に決めつけないで・・・。
(2022年7月刊。税込1980円)

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