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人質司法

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 高野 隆 、 出版 角川新書
 カルロス・ゴーンの弁護人として、その保釈をかちとりました。保釈中に被告人が逃亡して裁判が中断してしまったのはご承知のとおりです。
 著者は2人目の弁護人になったとき、必ず保釈をかちとると決意していました。
 保釈をかちとるための秘策を本書で改めて知りました。私の想像を絶します。
 著者はアメリカ留学の経験もあり、英語は堪能です。
 拘置所での初回面会のとき、「あなたを保釈で釈放させることを約束します」と断言しました。すごい自信です。著者には、前に、こんな条件で保釈を裁判所に認めさせた経験があるとのこと。
 2週間で13人の証人尋問を行うという連日公判のとき、被告人と同じホテルの隣室に宿泊することを条件として、公判前に保釈を認めてもらった(百日裁判が適用される公職選挙法違反事件)。
 被告人を法律事務所の事務職員として雇い入れ、弁護人の貸与するパソコンとケータイ以外は使用しないこと。
 いやあ、すごいです。もちろん、どちらも否認事件でした。著者も、これらは「最後の切り札」であり「禁じ手」であるとしています。危険と隣あわせの手法です。カルロス・ゴーンについても、これを使って成功し、107日ぶりに釈放をかちとりました。
 そのときの保釈請求書は、添付資料をあわせて180頁という大部なものです。
 裁判官と何度も交渉し、説明し、ついに保釈保証金10億円で保釈が認められた。いやあ、すごいですね。初回面接のときの約束を果たしたのですから…。
 日本で、こんな厳しい条件を課さなければ保釈が認められないという司法の現状について、著者は鋭く批判しています。しごく当然です。まさしく、これは人質司法のカリカチュア(戯画)でしかありません。
 アメリカの司法だったら、工学の保証金を積んでさっさと身柄は外に出て自由の身となり、弁護人と思うように折合せができているはずなのです。
 著者は、「禁じ手」であることを認めたうえ、「非常手段」として選択したと強調しています。よく分かります。
 カルロス・ゴーンは、その後、再び逮捕されましたが、著者ら弁護人のすすめでほとんど完全黙秘を貫いたようです。
 著者は、黙秘権について「沈黙する権利」ではないと強調しています。ええっ、ど、どういうこと…。黙秘権は、単に「沈黙する権利」ではなく、強制的な専制手続、取調べ受忍義務を課したうえでの尋問を根絶するための制度だというのです。なーるほど、ですね。さすが、です。
 「ミランダの会」以来の実践活動に裏打ちされている指摘ですので、重みが違います。
 著者は人質司法を改善するためには、取調べ受忍義務を即刻廃止すべきだとしています。
 日本では、罪を争う被告人が第1回公判前に釈放(保釈)させる可能性は1割しかない。これに対してアメリカでは、重罪で逮捕された容疑者の62%は公判開始前に釈放される。保釈が拒否されるのは6%にすぎない。
 欧米でされている取調べは、ほとんど1時間以内で、通常は20~30分ほど。これくらいの時間なら、弁護人は取調べに立会して、捜査官が無理な自白を強要することを防止できる。つまり、取調べの弁護人立会を「権利」として確立するためには、取調べ受忍義務を否定する必要がある。
 著者は、むしろ自白した被告人の保釈を認めないようにしたらどうかと提起しています。自白しているから証拠隠滅の動機や危険性がない、という。その論理は、自白していない被告人には罪証隠蔽の動機や危険性があるという発想につながるので、よろしくないと言うのです。また、逃亡した被告人に対する欠席裁判は可能にすべきだと主張しています。
 カルロス・ゴーンの逃亡によって、日本の人質司法の問題は鮮明になったというのです。さすが、さすがです。大変勉強になりました。
(2021年6月刊。税込990円)

アフガニスタン・ペーパーズ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クレイグ・ウィッロック 、 出版 岩波書店
 アフガニスタンを軍事的に支配しようとして、アメリカは完全に失敗してしまいました。ソ連(ロシア)の手痛い失敗をアメリカもそのまま繰り返したのです。
 アメリカはオサマ・ビン・ラディンの無法な暗殺には成功しましたが、アフガニスタンという国との関わりにおいて失敗の連続でした。要は、軍事力とそれをバックとしたお金の力では国民を長く治めることはできないということです。ソ連の失敗がそれを証明していたのに、自分ならもっと軍事的にうまくやれるとアメリカは考えていたようです。でも、まったくそのアテは外れてしまいました。
 そこで、アメリカはどうしたか。徹底的に真相を隠し、国民に嘘をつき続け、多くのマスコミもそれに加担したのです。本当に残念な状況がアフガニスタンでは続いています。
 アメリカは20年以上のあいだに77万5千人以上のアメリカ軍兵士をアフガニスタンに配置した。そのうち2300人以上が現地で死亡し、2万1千人が負傷して帰還した。この戦争費用は公表されていないが、1兆ドルを超えているとみられている。
 著者はアフガニスタンに派遣された退役兵士600人以上にインタビューして、その成果をこの本にまとめました。
 当初のアメリカ軍は予測以上に勝利した。ところが、やがて、「終わりの見えない展開」に陥った。2001年12月の時点では、アフガニスタンにいるアメリカ軍兵士は、わずか2500人だけだった。アメリカは、誰と戦っているのかはっきししない(させない)まま、戦争に飛びこんだ。
 アメリカ軍はアフガニスタン現地で、一般のアフガニスタン人と悪者を区別するのに苦労した。だから、住民に向かって無差別銃撃も出来た(した)のですね。恐ろしいです。
 タリバーンの関心は完全に地元にあった。タリバーンの支持者のほとんどは、アフガニスタン南部と東部に住むパシュトゥン人に属している。
 アメリカがタリバーンの活動と呼んでいるものは、実際には部族的なもの、抗争、古くからの確執だった。
 アフガニスタンでの戦争がこんなに長引いた理由の一つは、何が敵に戦う動機を与えているのかを、アメリカは本当の意味でまったく理解していなかった。
 アメリカは、アフガニスタンにおいても、7万人から成る軍隊を創設しようと試みた。ところが、このプロジェクトは、その見かけとは真逆に、最初から失敗していた。
 アフガニスタン人の新兵は、数十年にわたる混乱のなかで基礎教育が受けられなかった。8割近くが読み書きできず、数を数えられなかったり、色が分からなかったりする。単純なコミュニケーションですら、支障をきたした。アフガニスタン人兵士には、基本的な戦闘スキルがなく、絶えず再訓練が必要だった。
 アメリカは、35万2千人のアフガニスタン治安部隊を訓練・維持し、22万7千人を軍隊に入れ、12万5千人を国家警察に所属させた。そのための資金を提供した。
 アフガニスタン軍を訓練するのは難しかったが、国家警察を創設する試みは、さらに大きく失敗した。その給料が少なかったこともあり、多くの警察官は、保護するはずの人々から賄賂を強要する、ゆすり屋になった。
 タリバーンには3種類ある。その一は、過激なテロリスト。その二は、自分たちだけのために参加している。その三は、他の二つのグループの影響を受けた貧しい無知な人々。
 かなりの数のアフガニスタン人は、タリバーンを軍閥と比較してよりましなほうだと認めた。
 ケシの根絶作戦は、政治的つながりや賄賂を支払うお金をもたない貧しい農民に打撃を与えた。疎外された極貧の人々はタリバーンの新兵になっていた。
 タリバーンの弟がアメリカのプロジェクトを爆破し、それから、何も知らないアメリカ人は兄にお金を支払って再建させる。
 アフガニスタンにおける腐敗の唯一最大の発生源は、アメリカ軍の広大な供給網。資金の18%がタリバーンと他の反乱勢力に渡っている。
 2009年から2011年のあいだに、アメリカ軍がアフガニスタンに増派されると、民間人の年間死亡者数は2412人から3133人に増加した。殺害された民間人は5年間で53%も急増している。アメリカと同盟国は、ひどく負けたのだ。
 アメリカ軍は、実のところ、敵を訓練しているようなものだった。ブッシュ・オバマと同じく、トランプはアフガニスタンで勝つという約束を果たすことができなかった。
それにつけても思い出されるのは中村哲医師とペシャワール会の偉業です。鉄砲や戦車ではなく、スコップとシャベル、そしてユンボなどの平和産業こそが国を再建する手助けになるということだと思います。
(2022年6月刊。税込3960円)

統一教会とは何か

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 有田 芳生 、 出版 大月書店
 2022年7月8日、奈良市の大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が銃撃を受け暗殺された。その映像は生々しく、警察の警備があまりにスカスカだったことにも驚かされました。容疑者は特定の宗教に恨みがあったからと供述していると報道されましたが、参院選の投票日(7月10日)のあとになって、ようやく、統一協会がらみだと報道されはじめました。
 この本では「統一教会」となっていて、一般の報道もそうなっていますが、正式名称は統一協会ですから、「教会」ではないのです。あたかもキリスト教の教会の一種かのような誤解を与えようとしているのに乗せられてはいけません。なので、私は「協会」とします。
 日本の警察も、オウム真理教の次は統一協会だとして情報収取を始めていたそうです。それがいつのまにか、「天の声」によって雲散霧消してしまったのでした。要するに、「政治の力」がかかったのです。文科省が下村博文大臣のとき、名称変更を急に認めたのと同じです。安倍―下村ラインは、それまで拒否され続けていたのに名称変更を受理しました。
 統一協会の信者に若い女性が多いのは、「堕落論」に惹(ひ)かれるほど、日本社会に歪みが多いということの反映だ。
 統一協会に入る若者には、何でも受け入れてしまう性格で、それが本当かどうかを他の方法で確認せず、論理よりも感覚的という共通点がある。
 統一協会への入信テクニックは強烈で、個人のニーズに合わせて多様だ。
 統一協会の信者をやめるときのポイントは、本人が自分の頭で考える姿勢になること。
 ノルマは1日に3万円。人を騙しているという罪悪感は一切ない。すべてはお父様のため、地上天国実現のため。早朝から深夜まで、押しつけ的なモノ売りに走らされます。
 統一協会を離れたりしたら、家族や先祖が霊界でどんなひどい目にあうか分からない。だから、どんなに辛くても、逃げ出すわけにはいかない。こんなひどい心境に置かれています。
 お父様(文鮮明)は、不本意ながら、ぜいたくな生活をしていらっしゃる。信者(食口。くっく)は、北朝鮮の人々より高い生活水準をもつと、霊界からのしっぺ返しをくうことになる。
 いやはや、文一族のぜいたくざんまいは「不本意」だと思わされているのですね、アベコベです。
 合同結婚式のあと、4割くらいのカップルが実際には破綻していると言われている。家庭を大切にと言いながら、自分たちは実践してもいないのです。
 統一協会は国会議員の選挙を応援するに際して、議員(候補者)本人に確認書にサインさせています。
 ①統一協会の教養を学ぶためセミナーに出席する。②国際勝共連合系であることを認める。③統一協会を応援するというもの。
 そして、統一協会は議員秘書養成所で教育した若者たちを自民党の議員秘書として送り込んでいるのです。統一協会秘書軍団が議員を動かし、自民党を動かしています。
 韓国人が人間であるのに対して、日本人は、パンくずを拾う犬の立場、乞食に等しい存在だ。文鮮明の前に、日本の天皇はひざまずく存在だ。日本は韓国に仕える国であり、いずれ世界の言語は韓国語に統一される。
 こんな極端な韓国中心主義、いわば「反日」の典型の教団と安倍派を筆頭に自民党の国会議員たちが文鮮明と韓鶴子夫婦を最大限もち上げてきた(いる)のです。信じがたい、また日本人として許せないことではないでしょうか…。
 統一協会のいわば僕(しもべ)として活動してきた萩生田議員(自民党の政調会長)、細田衆議院議長が議員辞職することもなく、ひたすら、ほとぼりのさめるのを待っているなんて、日本の政治の醜悪の極致です。いま広く読まれるべき本です。
(2022年10月刊。税込1650円)

ウトロ、強制立ち退きとの闘い

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 斉藤 正樹 、 出版 東信堂
 京都府宇治市にあった在日朝鮮人集落ウトロ地区に建てられたウトロ平和祈念館を10月24日に見学しました。秋晴れの日の午後のことです。
 ウトロ地区は、今では地区改造がすすみ、市営住宅が2棟建築中(1棟は完成して入居ずみ)で、昔の「不良住宅」の面影はわずかに残っているだけです。
 その一角に、ヘイト思想にこり固まった若者が放火した建物の残骸がまだ残っています。
 なぜ、ここが在日朝鮮人集落になったのかというと、戦前、日本軍が近くに飛行場をつくろうとして、朝鮮人労働者を朝鮮半島からひっぱってきたからです。戦後も、彼らはそのまま住みつきました。
 戦前、1300人もの朝鮮人労働者が集められました。慶尚南道の農民が多かったとのこと。
 飯場は連棟式長屋で、単身者だけでなく、家族もちも多かったそうです。
 戦後は、国有地ではなく、民間企業の所有地でしたが、低湿地のため、大雨が降るたびに水びたしになり、水道もない、まさしくスラム街。そこに在日朝鮮人が固まって生活していました。住民の3分の1は戦前の飛行場建設に関わって働いていた人たち、残り3分の2は、他地域からの転入者。
 ウトロは土地全体が、ここに住む在日朝鮮人の共有財産のような感覚だった。
 1970年2月、ウトロの住民代表は、土地の売却を要望する文書を土地所有者に送った。これが、あとで時効取得の成立を妨げることになった。
 そして、1988年に、土地所有者はウトロの住民を被告として、建物収去土地明渡訴訟を提起した。これに対して、住民側は、土地(地上権)の取得時効を主張した。
 裁判所の和解案は、住民側が土地を14億円で買いとること。とても、そんなお金はない。そして、敗訴判決が1998年1月に出た。先の要望書がウトロの住民に所有の意思がなかったことの証明にされたのです。
判決にもとづき強制執行がされるのを防ぐため、住民は結束して立ち上がった。道路を占拠して座り込んでいる住民の写真があります。実に壮観です。
 それだけではありません。住民は学者の応援を得て、国連に訴え出たのです。国際人権規約にもとづいて、日本政府は、もっとも効果的な救済措置を即時にとるべきであって、これは人権条約上の国の義務だという申立をし、これに対して、国連は政府に同趣旨の勧告をしたのでした。いやあ、こんなときに国連と国際人権規約が使えるのですね。
 そして、これが日本政府だけでなく、韓国の政府と世論を大きく揺り動かしたのでした。その結果、2つの財団ができて、ウトロ地区の土地は財団の所有となり、住民は市営住宅に入ることができたのです。そして、立派なセンターとつくりあげました。すごーい。
 知恵と工夫が、住民の団結を後押しし、世論を大きく動かしたことはよく分かりました。何事も、あきらめたらいけないんですよね…。
 この付近で育ったという福山和人弁護士(京都弁護士会)が案内してくれました。ありがとうございました。
(2022年4月刊。税込1320円)

ゴキブリ研究はじめました

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 柳澤 静磨 、 出版 イースト・プレス
 著者は昆虫館の職員であり、ゴキブリを研究しています。そのため120種、数万匹のゴキブリを飼育しているのです。ところが、昔からゴキブリ愛好家だったのではありません。数年前まで、私と同じように、ゴキブリが大の苦手だったというのです。それが今では、ゴキブリストに変身。いったい何が起きたのか、なぜ…?
 ゴキブリ展を2ヶ月間やったら大盛況だったとのこと。すると、ゴキブリを家で見つけて殺すと、子どもが泣くようになった。なぜか…。かわいそう。そして、ぼくもゴキブリを飼ってみたかった…。いやはや、子どもの心は、かくも純真なのです。
 ゴキブリをペットとして飼育している人が日本にもいる。1匹数万円のゴキブリもいる。
 うぬぬ、なんと、なんと…。まあ、ヘビ(大蛇)をアパートの一室で飼っているうちに逃げられたというニュースが先日もありましたから、それに比べたら、可愛いし、まあ無害でしょうね。
 ゴキブリとカマキリは共通の祖先から分岐した、近い存在。そして、シロアリもゴキブリとは非常に近い生き物。シロアリはアリとはまったく別の生き物で、ゴキブリ目に属している。
 ゴキブリは匂いを出すものが多い。食べられないよう、匂いで防御している。鼻が曲がるほどの臭い、薬品の臭い、強烈な臭い。でも、干しシイタケの香りや、青リンゴのようなさわやかな匂いのするものもいる。
 ゴキブリのなかにも鳴き声を出すのもいる。危険を感じたとき、「食べないで」、「触らないで」とアピールしている。
 エサをやると、寄ってきて一生懸命に食べる姿はかわいい。触覚もきれいに手入れしているところも、見ていると癒される。脱皮した直後の白い姿は美しい。
 ダンゴムシのように、手のひらに乗せると、くるんと丸まってしまうゴキブリ(ヒメマルゴキブリ)もいる。
 ゴキブリの目は、大きく、愛敬のある複眼。
 ゴキブリは、世界に4600種、日本に64種いる。家の中に入ってくるゴキブリは、ごくわずかで、圧倒的多数は野外に生息している。
 「キモイキモイも、好きのうち。ゴキブリ展」が大盛況だったので、本になったのでした。
 私も「敵」を知りたくて読みました。面白かったです。
(2022年7月刊。税込1650円)

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