法律相談センター検索 弁護士検索

土の声を

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 信濃毎日新聞編集局 、 出版 岩波書店
 リニア新幹線って、税金の莫大なムダづかいの典型です。そんなお金は教育分野にまわすべきですよ。大学の学費を公立も私立も無償にする。学生食堂で学生はタダでランチが食べられるようにする。すでにヨーロッパで実現していることです。日本でもやれないはずがありません。日本政府、自民・公明の両党の税金のつかい方は間違っています。
 国はリニア新幹線をすすめるJR東海に3兆円を融資している。つまり、リニア新幹線はJRの事業というより国策事業なのです。だから、私たちも文句を言えるし、言うべきです。
東京・品川と名古屋を結ぶリニア新幹線の総工事費は7兆400億円。
 長野県内のトンネルや橋、駅などの工事の大半は県外の大手ゼネコンの共同企業体(JV)が受注し、県内の企業は2社だけが、その下請に入ったのみ。
 東京・品川と名古屋間の86%がトンネル区間。掘削工事によって出た残土には、自然由来のヒ素やホウ素などを基準値以上に含む、汚染対策が必要な「要対策土」が含まれている。これは、どこにでも捨てていいというものではない。
トンネル掘削作業に従事する作業員の月収は100~150万円。長野県内だけで330人あまりの作業員が掘削に従事している。
 そして、トンネル工事現場で労災事故が相次いで発生し、作業員1人が死亡し、7人が重軽傷を負った(2022年6月現在)。JR東海は、労災事故は原則として公開していない。それどころか、作業員宿舎の出入口には、こんな大看板が立っている。
 「秘密情報に関して、人に話さない、写真を渡さない、資料を持ち帰らない」
いったい、この「秘密情報」とは何をさしているのか…。いやはや、JR東海とは、どんなブラック企業なのでしょうか…。
いま、九州新幹線にはプラットホームに駅員がいません。まさかの事故に対応することはできません。そして、JR九州では駅員の常駐しない無人駅がどんどん増えています。災害にあった辺地の路線は廃止するばかり…。そして、在来の特急列車を極端に減らしました。いまJR九州が金もうけのためすすめているのは、在東線を減らす一方で、ホテル事業への投資拡大です。公共交通機関という使命はとっくに忘れ去られています。JR東海も同じ穴のムジナです。
 それもこれも、かの国鉄分割・民営化のなれの果てです。「国鉄の分割・民営化」を強引にすすめ、国労を徹底的に弾圧したあげくが、利用者不在の「ゼネコンのためのJR」になってしまったというわけです。ひどい話です。
 リニアの工事をめぐる各地の説明会は非公開ばかり。本当にひどいものです。よほどリニアには隠さなければいけないものばかりのようです。今からでも遅くありません。リニア新幹線工事は直ちにストップすべきです。ゼネコンと一部の政治家だけがもうかる工事なんて許せません。
(2023年4月刊。2400円+税)

毒の水

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ロバート・ビロット 、 出版 花伝社
 この本を原作とするアメリカ映画「ダーク・ウォーターズ」をみていましたから、アメリカの企業弁護士がデュポンという世界的大企業の公害かくしと長いあいだ戦った苦闘の経過があわせてよく分かりました。
 テフロン加工するときに使われていたPFASの強烈な毒性は牧場の牛たちを全滅させ、そしてもちろん人間にまで悪影響を及ぼす。デュポンの工場で働く女性労働者が出産したとき7人のうち2人も、目に異常が認められた。PFASは水道水にも入っていて、大勢の市民が健康被害にあった。
 このPFASは、いま、日本でも東京の横田基地周辺そして沖縄の米軍基地周辺で大問題となっています。泡消火剤に含まれているのです。日本政府は例によってアメリカ軍に文句のひとつも言えません。独立国家の政府としてやるべきこと、言うべきことをアメリカには言えず、ただひたすら実態隠しをして、必要な抜本的な対策をとろうともしません。
 アメリカでも出発時は今の日本と同じでした。環境庁も及び腰だったし、マスコミもデュポン社の主張するとおり、健康被害は出ていないというキャンペーンに乗っかっていました。
 アメリカの企業弁護士として、働いていた著者(このとき32歳)は身内の縁で依頼を受けるに至りました。でも、通常のような時間制で請求なんかできません。依頼者は大企業ではありませんから、成功報酬制でいくしかないのです。この場合は、着手金がない代わりに獲得額の20%から40%のあいだで弁護士報酬がもらえます。
 大きな企業法務を扱う法律事務所にいて、デュポンのような大企業を相手とする裁判なので、パートナーの了解が得られるか著者は心配しましたが、そこはなんとかクリアーしました。
 アメリカの裁判では、日本と決定的に異なるものとして、証拠開示手続があります。裁判の前に、相手方企業の持っている証拠を全部閲覧できるのです。デュポン社からは、ダンボール19箱の資料が送られてきました。これを著者は他人(ひと)まかせにせず、全部読みすすめていったのです。箱に入っていた書類をオフィスの床に全部広げる。次に一つひとつを年代順に整理する。そして、トピックやテーマ別に色つきの付箋を貼りつける。
 テフロンはデュポン社の重要な主力商品であり、APFO(PFOA)は、テフロン加工に欠かせない薬剤だった。テフロンは他のプラスチック樹脂と異なり、製造が厄介だった。テフロンが効率的かつ安定的に製造できるようになったのは、界面活性剤(PFOA)のおかげだった。
 著者の部屋は、ドアからデスクまでの細い通り道のほかは、資料が読み上がり、その下の絨毯は隠れて見えなくなった。著者は箱の壁に囲まれながら、床に座って仕事をした。映画にも、その情景が再現されていました。
 この裁判は集団訴訟(クラス・アクション)と認定されて進行した。日本では集団訴訟の活用が今ひとつですよね。私も残念ながら、やったことがありません。
 デュポン社による健康被害の疫学調査をすすめるため、デュポン社に7000万ドルを出させ、7万人を対象として、アンケートに答えたら150ドルを、採血に応じたら250ドルが支払われる(計400ドル)という方式が提案された。アンケートに答えるのは、79頁もの質問なので、記入するだけで45分はかかってしまう。
著者は企業法務を専門とする法律事務所の弁護士として、請求できない時間報酬と経費が累積していくのを見ながら事件に取り組んだ。その7年間のストレスと不安は相当なものがあった。このストレス過剰のせいで、著者は2回も倒れています。幸い脳卒中ではなく、後遺症もなかったようです。
 いま日本で問題となっている、アメリカ軍基地由来のPFASはヒ素や鉛などの猛毒より、さらに比較できないほどの毒性を有している。がんや不妊、ホルモン異常などの原因になっている疑いがある。アメリカが日本を守ってくれているなんていう真実からほど遠い幻想を一刻も早く脱ぎ捨て、日本人は目を覚まさないと健康も生命も守れないのです。北朝鮮や中国の「脅威」の前に、差し迫った現実の脅威に日本人がさらされている。強くそう思いました。
(2023年5月刊。2500円+税)

まちがえる脳

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 櫻井 芳雄 、 出版 岩波新書
 ヒトの脳には、1000億ものニューロンがあり、そのうち800億以上は小脳にある。脳の大部分を占めている大脳には100~200億のニューロンがあり、そのほとんどは大脳皮質に集まっている。大脳皮質のニューロンの特徴はシナプスの多さであり、一つのニューロンが数千以上のシナプスをもっている。そこでは、多数のニューロンが複雑につながることで、緻密な神経回路を形成している。大脳皮質の1ミリメートル四方には10万個以上のニューロンがあり、ニューロン同士をつないでいる樹状空起と軸索の長さの合計は10キロメートルにも及び、接続部位であるシナプスは10億ヶ所以上になる。
ニューロン間の信号伝達は30回に1回ほどしか成功しない。
 脳の活動がまるでコンピュータの動作のように定常的で安定していると考えるのは誤解。同じ運動が常に同じニューロンの活動から生じるわけではない。同じニューロンが活動しても、常に同じ運動が生じるわけでもない。一つの運動には、毎回、少しずつ異なるニューロンの集団が関わっている。ニューロンの発火は不安定であり、ニューロン間の信号は確率的にしか伝わらない。ニューロンは刺激がないときでも発火を繰り返している。脳全体で、常に自発的でリズミカルな同期発火が生じている。
 脳の信号伝達は確率的であり、しかも、その確率はニューロン集団の同期発火がゆらぐことで刻一刻と変動している。ときに信号の伝達がうまくいかず、まちがいが起きてしまうのは当然のこと。このまちがいの中から、斬新なアイデア、つまり創造が生まれる。
 つまり、進化とは偶然の結果にすぎないが、その偶然が起こるためには、生存できず消えてしまう多くの突然変異が必要なのだ。
 ヒトの脳は、単純な神経回路の単なる集合ではない。言語と左脳の関係も決して固定されておらず、絶対ではない。男女で差があるというより、個人差のほうが圧倒的に大きい。
 脳は5%とか10%しか動いていないというのは根拠のない迷信であって、脳は常に全体が活動している。脳は寝ているときも、起きているときも、常に全体が休みなく活動している。
 脳は、生きて働いている脳については、まだ十分に解明されてはいない。脳は依然として、手強く未知な研究対象である。
 脳の解明は、心の解明でもある。脳はいいかげんな信号伝達をして間違えるからこそ柔軟であり、それが人の高次機能を実現し、一人ひとりの成長を生み、脳損傷からの回復を促し、個性をつくっている。
 なーるほど、そうなのか…と、何度も思い至りました。心とは何か、人間とは何かを改めて考えさせてくれる、大変刺激にみちみちた新書です。ご一読をおすすめします。
(2023年4月刊。940円+税)

尼寺のおてつだいさん

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 まっちゃん 、 出版 アルソス
 私は美味しいものを食べるのが大好きです。でも、若いころと違って、肉料理もいいけれど、素材を大切にした料理にどんどん心が惹かれるようになりました。今では、毎日の料理は野菜中心で何の不満もないどころか、感謝感激です。
 そんなわけですから、精進料理、それも、自然のままの素材を生かし、そのうえ人の手をたっぷりかけた精進料理となると、思わずごっくん、ツバを飲み込んでしまいます。
 NHKの『やまと尼寺精進日記』は私の大好きな番組でした。日曜日の夜、録画しておいた(正しくは録画してもらっていた)番組を90分間だけ、寝る前にみるのです。その常連が『ダーウィンが来た』と、この『精進日記』でした。
 この『精進日記』に、尼寺の「おてつだいさん」として登場してくる「まっちゃん」が絵を描けるというのは、番組のなかで時に紹介されていましたので知っていました。その「まっちゃん」が描いたマンガも載っている本だというので、早速、手にとって読んでみました。
おてつだいの「まっちゃん」はなんとなんと、バックパッカーとして世界40ヶ国を放浪していた行動派だったのです。これには驚きました。
 高校では漫研、そしてデザイン専門学校にも通っています。なので、マンガを描くのは子どものころから大好き。よく分かります。ところが、そんな「まっちゃん」が人間関係に悩んでひきこもりだった時期があるとか、食いしん坊なのに料理は全然できなかったとか、意外づくしです。
 「尼寺のお手伝いさん」として7年間暮らした様子が四コマ漫画と文章で雰囲気がよく伝わってきます。そして、犬のオサムや猫のトラたちまでが…。
 住職の密榮さんは本当に料理が上手のようです。テレビで、その美味しさがひしひしと伝わってきました。1万円出しても決して惜しくないお膳を見て、私は何度もため息をつきました。超高級ホテルの4万円コースの料理(もちろん食べたことありません)に匹敵すると確信します。精進料理は、とても奥深い。野菜や豆腐などの限られた食材で、こんなにも美味しく、美しくなるなんて…。
 まったく同感です。1回でいいから、味わってみたいものです。テレビ番組をみていた人には、おすすめの本です。でも、1年ちょっとで8刷ですから、やはり売れているのですね。これまた、うらやましいです。
(2022年11月刊。1980円)

チョウの翅はなぜ美しいか

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 今福 道夫 、 出版 化学同人
 チョウのはね(翅)は翅(し)と読みます。キラキラと輝いていますよね、美の極致です。
 いま、我が家の庭の一隅にはフジバカマを植えています。日本列島を縦断するというアサギマダラを待ち構えるためです。昨年の秋は来てくれませんでしたから、フジバカマの種類も増やしました。今年は、ぜひ来てほしいです。
 この本を読んで驚嘆するのは、チョウのオスがどんなメスを好むのか、逆もしかりで、メスの好むオスの色を探るため、たとえばチョウに糸を付けてオトリをつくるという実験をしていることです。それだけではなく、チョウがあちこちふらふらするように円盤をモーターで動かす工夫もしています。すごく細かい工夫です。
アサギマダラには、チョウの個体識別のために、チョウの体にカラーマーカーで文字を書き込むとのことです(それでもアサギマダラは十分な飛しょう能力を損ないません)。
緑の翅をもつ種の多くは紫外線も反射する。だから、人間には緑に見えても、チョウには違った色に見えているはず。
チョウの翅の色には2通りある。その一は色素により、その二は構造色。鱗粉の微細構造による。このときは、見る角度によって異なる色が見える。構造色では、外からの光を薄い膜や細かい溝のような構造で位相の異なる光に変え、それらが強めあったり、弱めあったりする干渉作用によって、特定の波長の光を作り出している。
ミツバチには色覚がある。というのも、実験すると96%のミツバチが黄色に集まったから。
昆虫には赤が見えない。赤と黒を同じものと見ている。
昆虫は紫外線にもっとも敏感。なので、「誘蛾灯」は紫外線を強く発散するように出来ている。
チョウにも色覚がある。チョウはオスだけでなく、メスも意外と積極的にオスにアタックする。メスは「誘い飛行」する。メスは、よく動くオスに強く惹かれる。
チョウを対象として、フィールドワークという野外実験するときの苦労が少しばかり伝わってきました。同じところに何時間もとどまってチョウを観察するという苦労も分かりました。学者って、本当に大変な仕事ですね。
(2023年3月刊。1870円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.