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統一教会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 桜井 義秀 、 出版 中公新書
 統一協会(本書では教団の自称であり、世界や学術書で定着した名称として「統一教会」としていますが、「統一神霊協会」の名称で宗教法人として認証されているのですから、私はあくまで統一協会と表記します)の組織の実体にも踏み込んでいる新書です。
 統一協会において、日本は単なる「資本提供者」であり、組織の指導部に日本人はほとんどいない。
 「統一教」(韓国での呼称。韓国では、一般に財閥のような事業体と目されている。韓国人から大金を巻き上げるようなことはしていない)を多額の資金で支えてきた日本の統一協会組織は、文鮮明ファミリーや韓国の幹部たちから完全に蚊帳(カヤ)の外に置かれ、資金提供者としてのみ、有効に活用されている。
日本の統一協会は、2016年までは16ブロック制であり、ブロック長16人のうち、韓国人は6人。2017年に11ブロックに減らされ、そのうち韓国人は6人のまま。2018年には5ブロックとなったが韓国人が3人で、韓国人の比重は高まっている。そして、日本総会長は、韓国人。
 韓国本部の最高委員会13人のうち、日本人は1人だけ。このような推移は日本の統一協会の資金収集能力の減衰と韓国人支配の持続・強化を示している。
 文鮮明と韓鶴子とのあいだに子どもが14人いて、長男は薬物中毒・心臓発作で45歳のとき死亡、次男は自動車事故死(17歳)、六男は飛び降り自殺(21歳)。長女と四女は統一協会と距離を置いている。表に出てくるのは、三男・文顕進、四男・文國進、七男・文亨進だけ。
文鮮明が2012年9月3日に92歳で死亡したときの葬儀は七男が主宰し、三男は出席を拒まれた。三男のグループは文鮮明の存命中から両親とは距離を置いていて、統一協会の海外企業をおさえている。
統一協会の教義の根本に、「血分け」がある。文鮮明が女性の信徒と性交し、その女性信徒が男性の信徒と性交することによって教義を広めていくもの。
日本の統一協会の幹部たちは認めないが、韓国では広く知られていることに「六人のマリア」がある。要するに文鮮明と性交した女性信者たちです。血分け(性交)によって女性は神性を得る、そして文鮮明が「再臨のメシア」だと確信するというもの。彼女たちは、資産と自身の半生を文鮮明と教団に捧げた。もちろん、「六マリア」は、6人の婦人信者にとどまらない。
 文鮮明が17歳の看護学生の韓鶴子と結婚したとき、120人以上の女性たちが韓鶴子に嫉妬し、毒でも盛りかねない状況になったので、韓鶴子は別宅に住まわされた。いやはや、とんだ「宗教」であり、「教祖」です。
 文鮮明がメシアであることの証(あか)しは何より血分け(性交)という実践そのものにあった。だから、集団結婚式のあとの初夜では性交の体位まで統一協会は介入し、指定するというこだわりをみせるのです。
統一協会の伝道方法は非常にシステム化されているため、各協会員が自分で伝道した人を最後まで育成することはない。
街頭での物売り、戸別訪問の別売りといういかにも非効率的な勧誘は、いわばショック療法だ。これによって、それまでのプライドや人間関係を切り捨てさせ、ルビコン河を渡ってしまったと覚悟させる。また、苦難を共有することで、協会員を文鮮明に結びつける。そして、この苦難に耐えられないような「お荷物」は早々に切り捨てる。統一協会は、生活保護家庭や100万円未満の預金しかもたない「貧しい」人は相手にしないのです。
 国際合同結婚によって韓国に渡った日本人女性信者は7000人。結婚相手となった韓国人男性は必ずしも統一協会の信者ではない。結婚難の農村男性が多い。日本人女性にとっては下降婚。ひどい仕打ちを受け、奴隷のような待遇。まるで人身売買同然。でも彼女らは、親も何もかも捨てて韓国までやってきたのだから我慢するしかない。
日本人は韓国人に仕えるのが努め…。過去の日本が植民地支配したことの恩讐に報いるため、日本人女性の心も体も韓国人男性に捧げるという論理が堂々と展開されている。
 いやはや、なんということでしょう。これこそまさしく典型的な「反日」の論理です。その「反日」が日本の自民党の中枢とがっちり根深くまじわっているという世の中の皮肉さに、呆れるというより、心の底から怒りを覚えます。
日本の統一協会の専従職員が数千人もいることの異常さが指摘されています。800万人の信者を擁する創価学会の職員が4千人ほどなのに対して、数万人規模の統一協会の職員は異常に多いということです。
 また、統一協会の宗教法人としての認証が解消されても、統一協会はすぐには消滅しないだろうと著者は予測しています。たしかに、オウム真理教も、依然として全国30ヶ所以上の施設を有し、1650人の信者がいるという信じられない状況を踏まえると、そうなんだろうと思います。
 そして、二世信者の問題もあります。統一協会問題について、改めて、その根の深さを思い知らされる本でした。
(2023年3月刊。960円+税)

つげ義春、流れ雲旅

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 つげ義春 ・ 大崎紀夫 ・ 北井一夫 、 出版 朝日新聞出版
 つげ義春といったら、大学生のころ寮で誰かが買った月刊マンガ雑誌『ガロ』で読んでいました。「ねじ式」など、独特の画風ですが、とても味わい深い雰囲気があり、魅きつけるマンガでした。
 団塊の世代の私よりひとまわり上の世代ですが、昨年、漫画家では初めて日本芸術院の会員になったことでも注目されました。日本のマンガを高く評価している私はいいことだと考えています。たかがマンガというべきではありません。もちろん、マンガがすべてだとも思いませんが、マンガもひとつの芸術分野だし、ときには入門の手がかりになると思うのです。たとえば、先日、小学4年生の孫の誕生日記念に「日本の歴史」のマンガ版をプレゼントしましたが、これなんか私だって読みたいものなんです。
 そして旅です。コロナ禍の3年間で、旅行が制限されましたが、今やその反動のように旅行が大人気です。でも、あのゴートゥー・トラベルそして今の「全国旅行支援」はまったく税金の使い方の間違いです。なんと3兆円もの税金を使った(っている)のでしょう。教育や福祉分野にこそ3兆円はまわすべきです。
 それはともかくとして、著者たち3人組は東北、四国そして大分・国東(くにさき)半島を旅してまわります。写真を見ながら、いやあ、今どきこんな状況はないはずだけど、いったいいつの旅なのか不思議だと思っていました。最後の頁で疑問が氷解しました。なんと1970年前後の旅なのです。今からもう50年も前の日本各地を旅したときのものなんです。でも、この本が発行されたのは今年(2023年)1月なんです。1967年に上京して大学生になりましたから、1970年というと、まだ私は大学生です。アルバイトと大学紛争に明け暮れていました。司法試験の論文式試験を終えて、息抜きに出かけた東北の一人旅では、田沢湖のほうから後生掛(ごしょがけ)温泉、そして蒸(ふけ)の湯にも泊まりました。
 東北の温泉場には、農閑期に農家の人たちが自炊しながら長期滞在する習慣があることもそのときに知りました。
 さすがに、いかにもつげ義春らしいタッチのカットと当時の写真に心がなごみます。ところが、巻末の座談会を読むと、衝撃的な事実が判明します。
 なんと、つげ義春は、旅行のマンガを描いていても、ほとんど自分の部屋で寝っころがって、考え出して作るもの。実在の地名を使うから、いかにも旅行しているように見えるけれど、実際は頭の中で作っているだけ。旅をしながら、考えても逆に物語にならないとまで言い切っています。作品を描きたくて、わざわざ地方を訪ねて、生活を観察したいという気持ちには全然ならないとのこと。
松本清張は、詳細な地図をじっと眺めて町並みを想像して、行ったこともない土地の雰囲気を文字で再現するのが常だったという話を読んだことがあります。同じことなのでしょうか…。古い時代の旅行見聞記として、なつかしく面白く読みました。
(2023年4月刊。2600円+税)

エキセントリック・ジャーニー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 やく みつる 、 出版 帝国書院
 週末の博多駅の混雑ぶりはコロナ禍前と同じか、それ以上です。
 外国人旅行客も増えましたが、ともかく多いのは、日本人旅行客です。新聞広告も旅行会社による旅行プランが国内国外、すごいものです。
私もコロナ禍で自粛していましたので、全国へ旅したいと思いますが、なかなかチャンスがありません。残念です。
マンガも文章も書ける著者は海外にも旺盛に出かけています。100ヶ国も行ったとのこと。それも辺境旅行を企画する旅行会社のプランに乗っているようです。さすがに石橋を叩いて渡る私には出来ない旅行です。なので、こんな他人の旅行体験記を読むのが大好きなのです。これだったら、読み手の私はチョー安全で、退屈してしまったら寝てしまえばよいからです。
 著者は、旅行した先々でちょっとした物を買い集めているとのことです。私も似たところがあります。大きなものではなく、ほんのちょっとした小物です。これだと、かさばる荷物にならないし、隅にいくらも押し込んで日本のわが家で心ゆくまで眺めることができます。
 著者が海外旅行に初めて出かけたのは30歳のとき。私も同じころだったでしょう。一度行ったら病みつきになり、年に1度は海外旅行しようと決意しました。フランス語の勉強を真剣に始めたのも、その動機からです。おかげで、フランスだけは、今や列車もレストランも、電話での予約も心配無用です。
アフリカも南アメリカも、よくこんなところへ行ったもんだと思うところにまで著者は足を運んでいて、驚嘆するばかりです。そして、小物を買い写真をとり、またマンガの描ける著者は風景をスケッチしています。たいしたものです。私は国内それも北海道や信州に行きたいです。
(2023年4月刊。1980円)

カワセミの暮らし

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 笠原 里恵 、 出版 緑書房
 わが家から歩いて5分ほどの小川にカワセミを見かけたときには、感激しました。この小川の上流は「ホタルの星」になっていて、6月前後にたくさんのホタルがフワフワと飛びかい、童心に帰らせてくれます。
カワセミは、その青色の美しさが人の目を強く惹きつけます。
カワセミの羽毛の内部には網目状の泡のような部分がある。これは「スポンジ層」と呼ばれる構造体。ランダムな網目状の構造。これが周期的なパターン構造。
 カワセミの形をしているのは、新幹線の500系新幹線。
カワセミの巣は、川の水辺近くの露出した土の崖に奥行のある横穴を掘って巣をつくる。カワセミの巣は崖の途中にあいた穴から、地上に向かって上向きに傾斜している。
巣を堀りすすめるのは、オスの役割。産卵は1日1個ずつで、1回に6~7個の卵を産む。夜間の抱卵は、メスが担当する。アオダイショウなどのヘビが天敵。アオサギも、幼いカワセミを準っている。
 巣の中のヒナたちは、食物を親から受けとると、うしろ(奥)にひっこみ、ほかのヒナが受けとれるように交代する。
日本にはカワセミの仲間は8種。スズメよりひとまわりほど大きい。
宝石のように輝くカワセミの暮らしの一端をのぞいてみました。
(2023年4月刊。2200円)

ラザルス

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者 ジェフ・ホワイト 、 出版 草思社
 多くの国民が食うや食わずで餓死の危険すらあるというのに、北朝鮮は次々にミサイルを打ち上げ、人工衛星まで宇宙空間に飛ばしています。いったい、この貧困そのものの国のどこに、そんなお金があるというのか…。
 北朝鮮の飛ばすミサイルは短距離弾道弾で1発4~7億円。アメリカに届く長距離弾道弾だと、1発30~40億円もかかる。この莫大な費用を北朝鮮は億ドル札やハッカー部隊で稼いでいるのではないか、それが本書のテーマです。
北朝鮮には軍を母体とする超エリートのハッカー集団があるようです。でも、政府機関や軍に属するハッカー組織が存在するのは何も北朝鮮には限らない。世界の多くの国でハッカー集団が組織され、他国政府の情報収集やスパイ活動ないしサイバー攻撃を行っている。
 北朝鮮の異様さが目立つのは、宿敵である韓国政府と軍に対してのサイバー攻撃だけでなく、世界中の暗号資産の収奪をもっぱら標的にしている点。
 ただ、不正に得たデジタル(暗号)資産は、それだけでは利用できず、ドルやポンドなどの現金に換えなければならない。それをどうやって克服するのか…。
 北朝鮮の犯行とされるハッキングで流失した暗号資産の総額は13億ドルにのぼる。
 この本の冒頭は、西インドの人口50万人の都市にキャッシュカードの束を持つ男たちが集まってきて、一斉に何十台ものATMから現金をカードで引き出していったシーンです。2時間あまりのうちに1100万ドルもの現金が引き出されたのでした。
 その犯人のあやつっていたのはラザルスグループ。
 北朝鮮のハッカー集団(ラザルス)は、2015年からは銀行をターゲットに定めている。ハッカー集団(ラザルス)は銀行のインターネットシステムのなかに潜入し、暗証番号の確認なしに現金を入手できるようにした。ハッカーたちは捕まるかもしれないとビクビクしながらネット操作を繰り返している。そして、銀行内のシステムにデジタル記録を削除し、爪痕が残らないようにしている。わずか数文字の変更によって、コンピューターの「ノー」が「イエス」に変わり、10億ドルの預金がしまわれている銀行の金庫室のデジタル扉が開放される。これが、コンピューター社会の怖いところです。
 プリンターを故障と思わせ、緊急メッセージは白紙しか出ないように変えられていた。
北朝鮮は、12歳までの頭の良い子どもたちを「サイバー戦士」に仕立てあげている。「国際数学オリンピック」に参加するほどの天才児たちがいるのです。そして、北朝鮮のハッカーたちの肉親も巻き添えをくってしまうのです。
 今や、銀行までもがハッカー集団に狙われて、ひっかきまわされることが頻繁に起きています。知らなかった、怖い話がオンパレードでした。
(2023年6月刊。2200円+税)

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