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武家用心集

カテゴリー:未分類

著者:乙川優三郎、出版社:集英社
 オビに「己を見失うことなかれ」とあり、「静謐な筆で描く時代小説集」となっている。私は読む前から、ワクワクするほどの期待感をもっていた。そして、幸いなことに、その期待は背かれなかった。
 私は読む前、少し疲れていた(こんな私でも、たまには疲れを感じることがある)。後頭部から首筋にかけてひどく凝っていて、いかにも血行が悪く、朝起きたとき珍しく頭がスッキリ冴えない。ところが、この本を読みすすめていくうちに、心のモヤモヤが晴れわたり、頭の方もスッキリしてきた。まさに一服の清涼剤になったわけだ。
 藤沢周平の原作を山田洋次監督が映画化した『たそがれ清兵衛』ワールドが目の前に現出する。暗殺を命じられる下級武士の悲哀が語られる。結婚を約束しながら離ればなれになっていて再会したとき、もはや結びあえない境遇におかれた2人の切なさ。病気の母を押しつけあいながら、ついに引きとりを決意する娘の健気さ。
 いつの世も庶民の生活はつましい。愛憎は微妙に心のしこりとなっていく。そんな変わらぬ人の世と人情を見事に描き出している時代小説集だった。

マルチニック・モナムール

カテゴリー:未分類

著者:渡辺眞紀子、出版社:三元社
 いま、NHKラジオのフランス語講座の応用編はカリブ海のグアドループ島生まれの女性作家マリーズ・コンデの自伝的エッセイを題材としています。カリブ海にはフランス海外県があります。マルチニックもそのひとつです。かなり前のことですが、『マルチニックの少年』という映画を見たことを思い出しました。アフリカの映画と思いこんでいましたので、この本を読んで間違いに気がつきました。
 ナポレオンの皇后ジョゼフィーヌは、マルチニックで生まれたクレオール女性(植民地で生まれた白人)だというのも初めて知りました。松江に住んだラフカディオ・ハーンは日本に来る前、マルチニックにいたそうです。
 澄んだ海とジャングルのある島のようです。最近、治安が少し悪くなったとはいえ、ハイチほどひどくはないとのこと。フランス語が通用する国なので、一度は行ってみたいと思います。フランス語を勉強していると、こうやって視野が広がるのが嬉しいのです。
 11月23日、秋晴れの日曜日、仏検一級を今年も受けました。いつものように、出だしの問題は、さっぱり歯がたちません。惨敗です。みじめな気分に陥ります。それでも、長文読解のところで何とか盛り返し、続いて、書き取り、聞き取りでは点数を少しばかり稼ぐことができました。これも毎朝のレッスンの成果です。結局のとこと、辛うじて70点に至るかどうかというところでした。

裏支配

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出版社:廣済堂出版
 田中角栄が逮捕されたとき、私はたまたま東京地検の近くにいました。連行される現場を見たわけではありません。連行した検察官は私が横浜修習のとき指導担当だった松田昇検事でした。それほど有能だという印象は受けたことはありませんでした(むしろ、純朴な感じでした)が、その後、出世街道を驀進していきました。
 この本は田中角栄のプライバシーも暴いています。角栄は醤油が大好きで、いなり寿司にもウナギにも、たっぷり醤油をひたすほど漬けて食べていました。角栄は元旦に目白で新年を祝い、2日に、神楽坂の別宅で認知した2人の息子とともに新年を祝い、3日は佐藤昭とその娘のとともに新年を迎えるのを常としていた。娘の真紀子は、それを知って父親を許さなかった。角栄は真紀子をシャモと呼び、両者の関係はギスギスしていた。それでも、真紀子は角栄を見事に利用しています。それも父親への報復なのでしょう。
 ロッキード事件が、田中角栄の5億円収賄事件とされていることに角栄は我慢ならなかった。実際には1ケタちがう55億円の賄賂がロッキード社から日本政府の高官に流れた。30億円がトライスター導入、そして25億円が対潜哨戒機P3Cオライオン導入だった。角栄の5億円は氷山の一角にすぎなかったのに、結局、解明されないままに終わった。
 自民党による対野党工作について、角栄は、次のように述べています。野党にお金を受けとらせるのは簡単ではない。簡単にお金を受けとる奴はいない。だから、少しずつやるんだ。麻雀で負けるのも、海外旅行に行くときに餞別を贈るのも、そのためだ。そういうところから始まる。一番良いのは奥さん同伴の海外視察旅行だ。そこで奥さんぐるみの関係ができる。日本に帰ってからも一緒に食事をしたりして、そのときに奥さんに贈り物をする。そうやって少しずつ受けとらせるようにする。お金を受けとらせるのは難しいものだ。なるほど、こうやって野党を取りこんでいくのですね・・・。

新宿情話

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著者:須田慎太郎、出版社:バジリコ
 新宿・歌舞伎町の界隈に生きる人々を写真つきで紹介している。極めつけの写真がヤクザのパトロール写真。歌舞伎町には100ヶ所の暴力団事務所があり、2000人がシノギを削っているという。そのヤクザが定期的にナワバリをパレード行進するのだ。さすがに後ろ姿しか写っていないが、いかにも怖そうなヤクザの面々のパレードだ。これで法治国家・日本と言えるのか、自信を喪わせる。風俗産業からスカウトマンからホームレスまで、新宿の表(こちらは、実のところあまり多くない)と裏が紹介されている。

明日からは兵士

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著者:権春五、出版社:PHP研究所
 お隣の韓国には今なお徴兵制度がある。26ヶ月ものあいだ、青春を犠牲にして、人間を殺人マシーンにするための訓練に慣らされる。上官の命令に盲従し、死を恐れず突撃していく兵士をつくりあげるためには、肉体が頑健であること以上に、自分の頭でモノを考えないことが必要だ。モノを考えない国民が多いのは、支配する側にとっては好都合かもしれない。でも、前途ある青年の柔軟な頭が2年あまりも思考停止させられ、型にはめられてしまうことの国家的なデメリットもまた、測りしれないほど大きいと思う。
 この本は、2年間を無事に生きのびた人の視点から描かれ、プラス思考で貫かれている。『オマエラ、軍隊シッテルカ』(バジリコ)は、もう少し悲惨な側面も描いている。
 ところで、李会昌候補が大統領に当選できなかったのは、家族8人の男性のうち、軍隊に行ったのは、たった1人だけだった。しかも、その1人は6ヶ月の短期兵だったことが暴露されたことが大きかった。韓国では26ヶ月の兵役義務を果たさない者は一人前の男とみなされない。私は、しみじみ、平和な、徴兵制のない日本で生まれ育って良かったと思った。人を殺す訓練を積んでなければ一人前の男だとみなされないなんて、とんでもない。

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