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話術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 徳川 夢声 、 出版 白楊社
 話す前に、念入りに草稿をつくり、これを十分頭脳に納め込んでおいて、壇に立ったら草稿は見ない。草稿を卓上に置いておくと、とかく草稿に頼りがちになり、自然に朗読調となって、コトバのもつ生命力がぬけてしまうおそれがある。また、視線が常に下へ注がれがちとなって、聴衆の注意力を散漫にしてしまう。
 ただし、統計表など、大きな数字や細かい数字が必要なときは、その数字を小さな紙片に書いておいて、堂々とこれを読む。すると、聴衆は、正確な数字だと思う。あまりにスラスラと大きな数字を言うと、デタラメを言っていると疑われることがある。
私も若いころは話す前に、きちんと原稿をつくっていました。でも、今では基本的につくりません。目の前の聴衆の顔を見ていると、今、ここで、何を話したらいいのか、自然に頭のなかに話す内容が沸き上がってきます。それに従って話すようにしています。
舞台に出る前は食事しない。
 どんなに空腹でも、お菓子を食べるか、サンドイッチを軽く食べるだけにしておく。本格的な食事は、舞台がすんでから。胃袋が満腹になっていると、頭脳が思うように働かなくなる。そうなんですよね。腹3分目くらいにとどめるべきです。
 舞台に上がったら、原則として水は飲まない。ノドがかわいたからといって水を飲むと、かえってかわきが烈しくなり、声を枯らしやすくなってしまう。
 演説をしてノドがかわくというのは、声帯その他の器官が充血して熱くなっているということなのだから、そこへにわかに冷たいものを流し込んだら、いけないに決まっている。せいぜい、ぬるま湯にしておく。飲み出すと習慣になるので、飲まないでしゃべる癖をつけておく。
 演説するときの格好は、ずっとそのままだと、見あきてしまう。そこで、演説の進行にしたがって、適当に形を変えていく。要は、見た目がギコチなくないよう、ごく自然に見えるように心がける。
 童話の読み方がうまくなりたいと思う人は、目の前に子どもが聞いているつもりで、話すように読む。恥ずかしがらずにかなり大きな声で読む。読むというより語る。漫然と読んでもダメ。いろんな想像力を総動員し、神経を働かしながら読むのが肝心。
 司会者が「5分間以内で…」と注意したときには、きっちり5分間で終わること。それを10分間も15分間もしゃべるのは罪悪でしかない。
 5分間というのは非常に短い時間のような気がするが、実のところかなり長い時間である。たいていの話は、5分あれば、まとまるものである。
徳川夢声とは何者か…。
 大正末から昭和の初め、映画館で上映される映画はカラー(総天然色)となっていたが、実は声も音楽も出ない無声映画だった。そこで活動弁士(かつべん)が登場する。その第一人者が徳川夢声。
 活弁は、映画の始まる前、5~10分間で、本日これからの映画のあらましを語る。これを前説(マエセツ)と言った。
 音声の出る、トーキー映画が本格的に日本で上映されはじめたのは、1931(昭和6)年のこと。アメリカ映画「モロッコ」が一番目のトーキー映画。
 野次は黙殺すべし。聞こえてはいるが、いっこうに平気だと見られるようにする。
話し手の眼を見る。眼以外のところを見てはいけない。
 気持ちや感情を眼にこめて相手を見る。そのとき、何かをしながら聞いてはいけない。
 さすが、戦前の著名な活動弁士(カツベン)の語る話術です。大いに参考になりました。
(2003年2月刊。1800円+税)

楡家の人びと(第1部)

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 北 杜夫 、 出版 新潮文庫
 いま昭和初期の日本とはどんな時代だったのか調べていますので、そのころの状況を描いている、この本を読んでみました。
第1部の主人公・楡(にれ)喜一郎は、第1部の終わりに63歳の若さで亡くなります。大正天皇が大正15年12月末に亡くなったころのことです。直ちに改元があって、昭和となり、昭和1年は7日間だけで、1月1日を迎えて昭和2年となりました。
 楡基一郎は楡病院の院長先生。そして、この病院で働く医師・看護師そして事務職員のさまざまな生態が描かれるのです。この文庫本は第1部で主人公は死んでしまいますが、第3部まであります。
 もう一つ、私が読んでいる加賀乙彦の『永遠の都』は同じ新潮文庫で、7冊シリーズです。どちらも明治から昭和初めのころが舞台であり、主人公が医者で、その経営する病院が危機に直面していること、関東大震災が起きて被害をこうむったことなど、なかに細かい違いはいくらでもありますが、大筋としてよくよく似た状況なのには驚かされます。
 『永遠の都』の時田利平院長は病院に勤めている看護師・薬剤師など、身近な女性に次々に手を出していきます。そして子どもが出来ると、認知をしなくても、一定の援助をしていました。
 そして、体のきつさを克服するため、こっそりモルヒネを注射していたのが、ついに中毒となり、娘たちが入院して治療するように泣いて頼まれたのでした。
 楡病院の話に戻ると、入院患者の多くは精神病の人たちが占めている。
 楡基一郎が発明狂であることも時田利平医師とよく似ています。利平医師のほうも自分で発明・考案に長けていると自負し、そこそこ金銭的な収入をあげているのでした。
 このころ映画は活動写真と呼び、トーキー(音声が出るもの)ではなく、無声映画。なので、活弁(活動写真の弁士)が楽士の演奏(伴奏)とともに口上(こうじょう)を述べ立てる。
 活弁は大正時代のフロックコート姿で登場し、上映の前に「前説(まえせつ)」をやった。要するに、これから上映する映画の概要を紹介するのです。
 どちらのストーリーにも関東大震災の被災状況が登場します。そして、民衆の一部が警察のデマ(放言)に踊らされて罪なき朝鮮人を惨殺するシーンも登場してきます。本当にやり切れない話です。
 当時の民衆の生活が、どちらも実にことこまかく描写されていて、昭和前期の日本の様子が手にとるように理解できます。
(2022年11月刊。670円+税)

「昭和の恐慌」

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 中村 政則 、 出版 小学館
 いま、昭和初期のことを勉強しています。
1930(昭和5)年3月、ロンドンで軍縮条約が成立しました。このとき、岡田啓介軍事参議官(海軍大将)は軍縮に賛成して、次のように考えていました。
 「だいたい軍備というものは、きりのないもので、どんなに軍備をやったところで、これでもう大丈夫だという、そんな軍備なんてありゃせん。いくらやってもまだ足らん、まだ足らんというものだ」
 まさしく正論ですね。今日の「抑止力」論と同じです。だいたい日本が中国に対して「抑止力」をもてるはずがありません。国土の広さがまるで違ううえに、軍事予算も軍人の人数も日本の何倍もあるのですから、かなうはずがありません。
 この軍縮条約について、反対する軍人と右翼は統帥権(とうすいけん)干犯(かんぱん)だと主張しました。要するに、天皇の専権事項だから、政府は決める権限がないというのです。またもや天皇をダシに使ったのでした。
 それにもかかわらず、なぜ政府が条約を締結できたのかというと、軍部の一部が強硬に反対しても圧倒的多数の国民が軍縮条約を支持したからです。
 6月18日、大任を果たして半年ぶりに日本に帰国した若槻礼次郎全権大使を東京駅でなんと十数万の群衆が熱狂的歓声をもって出迎えました。この本には、そのときの様子をうつした写真が紹介されています。東京駅頭に大群衆がノボリ旗を立てて熱狂的に出迎えた様子がよく分かります。
 軍縮条約の締結は、不景気な時代に、少しばかりの希望を民衆に与えるものでした。それほど、民衆は戦争ではなく平和を望んでいたのです。
 そうは言っても民衆がいつも正しく判断するとは限りません。金解禁に対して、その最大の被害者となった民衆は、幻想に踊らされて、これまた熱狂的に金解禁を支持したのです。
 ひき続く不況にあえいでいた民衆は、窮状打開の突破口として、金解禁にむなしい期待をつないだ。これには当時の大新聞がこぞって全解禁を支持し、あおり立てていたこと、金解禁したら、すぐにも好景気がやってくるかのような幻想を振りまいたのです。つまり、民衆は金解禁に世直し的幻想を抱いて(抱かされて)いました。
 同じようなことが今もありますよね。権力側のキャンペーンに乗っかかって、自分の頭で考えなくなると、とんでもない結果が待ち受けているのです。
 戦前の日本を知ることは、戦後の今を生きる私たちにとっても意味がないどころか、大いに役に立つことなのです。さあ、勉強を続けましょう。
(1982年6月刊。1200円)

「今どきの若者」のリアル

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山田 昌弘 、 出版 PHP新書
 「今どきの若者」をどうみたらいいのか、大変勉強になりました。
 でも、この本を読んで腹が立ち、許せないと思ったのは、「世代間対立」をあおる論稿です。萱野稔人という人物は津田塾大学の教授だというのですが、この人は、本当に学者なのか、典型的な御用学者じゃないのか、私はその知性の低さに恐れおののきました。
年金制度について、著者は、若者が高齢者の年金を負担するという前提で議論を進めています。どうして、高齢者の年金を若者に負担させなければいけないというのか、著者はその点に疑問を持とうともしません。自公・政権とまったく同じ発想です。
そして、批判しようとすると、それは「きわめて独善的だ」と、スッパリ切って捨てる。そこには国の予算のなかで、防衛予算が突出して増えていて、そこでは収支バランスなど、なんにも考慮させられていないことをまったく無視しています。許せません。
この著者にかかれば、大学生の学費を無償にしろとか、小・中学校の統合をやめろという世論についても、とんでもない「独善的」だということになってしまうのでしょう。
人間を大事にせず、防衛産業だけを重視・育成しようとする政治には目をやらず、それを当然の前提・聖域としておいて、「世代間の対立」だけをあおり立てる言説をバラまくだけの人間が学者だなんて、やめてほしいです。そんな視野の狭い「教授」様に教わる学生は可哀想としか言いようがありません。
さて、ここからは本書を読んでの感想です。
今どきの著者の置かれている経済的基盤が激変していることを改めて認識させられました。私が大学生のころ(60年近くも前のことです)は、教授料は月1000円(年1万2000円)、寮費も月1000円でした。育成会の奨学金は貸与制が月3000円、家庭教師が週2回で月8000円前後でした。「貧乏」学生(あまり余裕がないというレベルです)でも、なんとかアルバイトしながらも授業には出れました。
今は、年間の学費が何十万円もするので、奨学金では追いつくはずがありません。大学に通うために、「風俗」とかソープランドで売春するという女子学生がいても不思議ではありません。本当にひどい世の中です。自民党政権が大学を金もうけ優先で運営していることの当然の帰結です。
今の若い人は、認められたいけれど、目立ちたくはない。人前でほめられるのを「圧」だと感じる。ゲームやケータイ、そしてスマホによって若者が本を読まなくなったという事実はないとのこと。昔から本を読まない人は多かった。恐らくそれはそうなんだろうと思います。
ただ、はっきりしているのは、「本離れ」ではなくて「雑誌離れ」は劇的に進行していること、そして、書店がどんどん減っていること、これはどちらも重大な現象です。
この本を読んで驚いたことのもう一つが、大学4年生の男子のホストが、好きでもない女性とのセックスが辛いという告白です。ええっ、本当かしらん、とやっかみ半分で思ってしまいました。女の子をたぶらかしてホストクラブで大散財させて、売春させるホストクラブの摘発が相次いでいるというニュースが先ごろ流れていましたが、ホスト後の男の子のほうも辛いというんです。そうなんですか…。知らない世界がたくさんありました。
(2023年11月刊。980円+税)

限界分譲地

カテゴリー:社会

(霧山昴)
吉川 祐介 、 出版 朝日新書
 千葉県八街(やちまた)市と言えば、私の大好きな落花生の産地として有名です。その八街は東京に近い(?)ということで、バブル時代に大々的に宅地が売り出されました。
 1990年代前半、敷地60坪の建売住宅が3000万円から4000万円でした。そして、今は、200万円とか300万円で売りに出されているというのです。10分の1以下です。この本によると、土地の実勢相場は30分の1以下になっているとのこと。
 まあ、福岡県南部に住む私の団地も似たようなものです。買い手がないので、そのまま朽ちていっている家が団地内のあちこちにあります。
 成田空港の周辺にはスリランカ人の住民が多いそうです。
 先日、大川市の周辺地域の土地の売買について話していたら、買い手は外国人(東南アジアからの技能実習生の家にする)か、ヤクザの違法栽培工場(大麻の栽培)のために買われているという話を聞かされました。世の中はどんどん動いているのですね…。
 この本には「草刈り業者」という商売が登場します。遊休地で雑木が生えているのを草刈りするという業者です。1回の草刈りの代金は数千円~1万円といいますから、順当です。私も1回3万円ほどで依頼しています。
遊休地で問題なのは、この雑草伸び放題を何とかしてほしいという近隣からの要請は無視できないこと、そして固定資産税です。たとえ、年に数千円であったとしても、将来、転売できる可能性がなく、自ら使うこともありえないのなら、バカバカしい限りです。
 そこで、「負動産」の引き取りサービスをするという業者がどんどん増えて、広告を打っています。所有者に数十万円から数百万円の手数料を払わせて「引き取り」処分する業者が存在するそうです。
 たしかに、まったく売れない「負動産」も多いけれど、少し「お化粧直し」をしたら売却処分できる物件もあるというのです。まあ、なかには、そういう物件もあるだろうと思います。現に、私の住む古い「住宅団地」でも、いくつかは新築住宅が建って、転入者があるのです。
 「限界」分譲地といっても、いろんな要素があって、一概に決めつけられるわけではないことを知ることができました。著者の体験談もふくまれていて、面白い読み物でもありました。
(2024年2月刊。870円+税)

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