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大衆文芸評判記

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著:三田村鳶魚、出版社:中央公論社
 図書館から借りて読みました。1976年発行の三田村鳶魚全集の一冊です。
  三田村鳶魚は江戸時代に詳しく、時代考証の第一人者でした。有名作家の評判の時代小説が史実に反するとしてバッタバッタと切り捨てられていく様子は、むしろ痛快感を与えるほどのすごさです。なるほど、ちっとも知らなかったー・・・、という話のオンパレードです。
  大仏次郎の『赤穂浪士』について、吉良が小姓の差し出す長い煙管(きせる)を受けとって自分で火皿に煙草を詰めて煙草をのんだと書いてあるが、吉良のような大名もどきの高い地位にいた人物が煙草を自分で詰めてスパスパやるなんて、とてもありえないことだと批判しています。
  吉川英治の『宮本武蔵』については、慶長のころにソバはまだなかったし、茶碗もなかったと批判しています。ここらあたりになると、そうなのかなあ、と思うしかありません。ともかく、江戸時代の日常生活の細かい移り変わりにまで精通しているのには驚くばかりです。時代考証の参考書として読んでみて、先人のすごさに敬服してしまいました。

いま、法曹界がおもしろい

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著者:坂和章平、出版社:民事法研究会
 ベテラン弁護士と新米弁護士のコンビで書かれた本、ではない。もうひとり、なんとベテラン事務局長も執筆陣に加わっているので、本に重層的な深味が出ている。事務職員の眼から見たベテラン弁護士の素顔の一端ものぞける。弁護士と法律事務所って、こんな感じで動いているのかと、外部の人にもよく分かる。
  この本はこの4月からスタートした法科大学院生をターゲットとしている。思いたってから、わずか4ヶ月でこれだけの本に仕立てあげる才能はやはり異才と言うべきだろう。
  大学での授業(集中講義)を2冊の本にまとめたのも読んだが、うーん、よく勉強してると感心した。また、映画評まで本にしている。私も映画はつとめて見るようにしているが、ホラー映画のような見たくもない映画は決して見ないので、映画評論家にはなりたくもない。そこを乗りこえている著者を偉いと言うべきか、私にはいささかのためらいがある。
  ともあれ、大阪の名うてのベテラン弁護士が法曹界の実体を分かりやすく紹介している本なので、初心者には一読をおすすめしたい。

アメリカ時代の終わり

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著:F・チャールズ・カプチャン、出版社:NHKブックス
 アメリカ人はインターネットによって情報をふるいにかけ、興味をもつ電子ニューズレターだけを入手し、関心のあるホームページにのみアクセスしている。人々がインターネットを利用する時間が増えるにつれ、旧来のメディアに費やす時間は少なくなる。広範な意見や事実に触れる機会が少なくなることで、より分極化し、よく考えもしない有権者を産み出すことになる危険がある。インターネットによる政治もまた、フェイス・トゥ・フェイスの接触を減少させ、政治の分裂と霧状化を深刻にする。
  Eメールは意見の交換にはなるだろうが、そこには政治対話に活力を与える感情や手振り身振りが欠けている。実際の顔をつきあわせた接触をなくすことで、インターネットは、孤独と社会的孤立を促進し、身体の近接によって培われる新しい関係を欠いた仮想現実ネットワークを拡大させている。
  事態はどんどん悪くなっているようだ。アメリカ人の若い世代は、ほかの世代と比べてより多くの時間をテレビとインターネットに費やしている。こうした個人が成長して、上の世代が亡くなると、市民参加の総量はさらに衰退しそうだ。
  インターネットによって、これまでになく市民は大量の情報を知ることができるようになったという神話がみちあふれています。本当にそうでしょうか。インターネットにのっている情報はテレビで流される娯楽番組と同じで、世論操作の道具にすぎないというと言い過ぎでしょうか?
  私は、もっと生ま身の人間同士のドロドロとしたふれあいがないと、結局、人間として大成しないように思います。小学6年生の女の子がチャットの悪口に怒ってカッターナイフで同級生の女の子の首を切って殺した事件は、このインターネットの仮想現実世界の恐ろしさを象徴しているような気がしてなりませんでした。

イラク便り

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著者:奥克彦、出版社:産経新聞社
 殺された奥参事官(死後、大使)が外務省のホームページに「イラク便り」を連載していたというのを私は知りませんでした。イラクへの人道的な復興支援が大切なこと、そして日本をふくめてNGOの役目がとても大きいことがきちんと紹介されています。国連の機関とともにボランティアが活躍しているし、大きな役割を果たしていることが、現地ではよく見えたようです。
  真面目な人柄が伝わってくる「便り」です。まったく惜しい人が大いなる「誤解」から殺されてしまったものです。残念です。でも、イラクの人々からすると、アメリカ軍の片棒をかついでいる日本は、まさに占領軍の一員であり、敵でしかないのだと思います。自衛隊を派遣している日本の私たち日本人は、イラクの人々からみると加害者以外の何者でもない。私たちは、今、そのことを大いに自覚しなければいけないのではないでしょうか。
  ところで、奥「大使」たちを殺したのはアメリカ軍ではないかという疑惑が依然としてくすぶっています。アメリカ軍も日本政府も、きちんと疑惑を解明しようとしてはいません。たとえば、奥「大使」たちの乗っていた車の銃撃角度です。果たして現地の「テロリスト」によるものなのか。本当はアメリカ軍がやったのではないのか、という点です。
  アメリカ軍は「テロリスト」の犯行と決めつけていますが、必ずしも信用できる説明にはなっていません。そもそも「テロリスト」が犯行というのにも疑問があります。アメリカ軍に反抗している地元勢力を「テロリスト」と呼んでいいものなのでしょうか。
  奥「大使」のメッセージが素直に読めるだけに、イラクの人々の置かれている現実の複雑さを考えさせられます。

在日、激動の百年

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著者:金賛汀、出版社:朝日新聞社
 日本と韓国・朝鮮との関わりは実に深いし、微妙なものだということを、この本を読んで痛感させられました。
  日本が朝鮮半島の主権を侵して併合し、植民地としたことから、加害者であることは言うまでもありません。強制的に朝鮮人を連行して日本各地で働かせた事実もあります。実は、私の父も三井の労務係として、その徴用に手を貸した事実があります。ところが、日本政府は、一時期、朝鮮半島から日本へ流入するのを禁止したこともあるというのです。日本にやってきて食えない朝鮮人を面倒みきれないということで、しめ出そうとしたのです。しかし、戦争末期の人手不足のとき、またもや徴用を再開しました。
  終戦後、朝鮮半島へ多くの人が帰っていきました。しかし、その一部がまた日本へ環流してきました。食えなかったからです。さらに、北朝鮮への帰還問題があります。「天国」ではないようだということが知れわたって、帰還者は激減した。しかし、家族が「人質」のようになった人々は、北朝鮮を批判できなかった。そういうことが書かれています。
  左翼陣営そして反共陣営のそれぞれの内部矛盾も紹介されています。本当に難しい事態に直面し、それぞれの戦後があって今日を迎えているわけです。よくよく勉強になりました。

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