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アナトリア発掘記

カテゴリー:未分類

著者:大村幸弘、出版社:NHKブックス
 面白くて、読みながらワクワクしてきました。人生って、辛くてもじっと我慢して続けていると、きっと何かいいことにめぐりあえる。そんな気になりました。
 アナトリアって、どこの国だろう。たいして期待もせずに読みはじめました。ヒッタイト帝国って覚えていますか?そう、鉄と軽戦車の国です。アナトリアとは、今のトルコのことです。そこに日本人の学生が考古学を研究に出かけました。そして、大変な苦労のあげく、ついにカマン・カレホユック遺跡の発掘調査を実現するのです。冬はマイナス20度、夏は40度という大変な地域での発掘作業です。治安の心配もあります。
 表面に露出している遺物から地下のことが分かる。うーん、そうかなー・・・。不思議です。でも、謎解きがされると、なるほどと思います。
 ある世代の人々が建物をつくるとき、地面をならして掘り返すので、下に埋まっていたものが表面に上がってくる。そのまた次の世代の人々が建物をつくるときも、地面を掘り返すので下のものが表面に上がってくる。この営みがえんえんとくり返されるため、丘の最上部まで、本来もっとも下に埋まっているはずの遺物があがってくるのだ。
 12メートルの深さまで掘り下げて、ヒッタイトがどんな人々であったかを推測しています。考古学に少しでも関心のある人におすすめの本です。

韓国の軍隊

カテゴリー:未分類

著者:尹載善、出版社:中公新書
 大韓民国憲法39条には、すべての国民は国防の義務を負うとあるそうです。日本国憲法にそんな義務がないのは幸せです。その韓国の兵役義務の実情を教科書的に紹介した本だ。そう思って読んでいました。2年間の兵役で人生にとって大切なことを学んだという体験談が何度も紹介されていて、嫌になっていきました。しかし、読みすすめるうちに、この本の著者は、必ずしもそれを強調したいわけではないことが分かりました。
 韓国で徴兵制がはじめて実施されたのは日本の植民地時代であった1944年のこと。終戦で廃止され、朝鮮戦争のとき(1951年5月)に復活したのです。
 韓国人の男性がみな兵役を歓迎しているのではありません。兵役逃れも横行しています。有名な俳優が何人も徴兵逃れで評判を落としました。子どもにアメリカ国籍をとらせて兵役を逃れさせようとしている親も少なくありません。遠征出産という言葉があるのです。
 韓国の人口は4800万人。うち70万人が軍人。徴兵制のもとで2年間の兵役を終えた韓国人男性は、10人の部下をもつ分隊長という兵長で除隊することが多い。彼らは軍隊で多少なりとも権力の甘美さを味わう。軍隊で身についた「長」に対する憧れは、社会組織全体に反映され普遍化されていく。兵営生活は、人が権力を志向する上昇型人間に変身する契機となっている。軍事文化が支配してきた社会では権力志向型人間が量産される。そのため、人間の尊厳性が喪失する社会構造が形成されていく。もっぱら出世することだけが最高の価値となってしまうのだ。
 軍隊がのさばる社会は、人間が大切にされない異常な社会です。

公安警察の手口

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著者:鈴木邦男、出版社:ちくま新書
 公然の右翼活動家だった人物が日本警察の実体を鋭く告発した本です。「新右翼」の代表としての活動をやめてなお、公安警察に何十回となくガサ入れされた体験をもつ人ならではの切々たる体験記でもあります。日本の警察批判は、たいてい左翼側からのことが多いなかで、珍しい本です。
 同伴尾行というのを初めて知りました。見えないように尾行するのではなく、すぐ隣りを歩き、公然と尾行するのです。喫茶店に行けば隣りの席に坐ります。電話をかけるときには、すぐそばで聞き耳をたてています。こんなことをされたら、フツーの人間ならカーッとなって突き飛ばすでしょう。それこそ公安の思うつぼです。待ってましたとばかり、公務執行妨害で逮捕します。そのあと恩を売ってスパイになるよう持ちかけるのです。
 公安はむかし活動していて、今はすっかり足を洗った人にもずっとつきまといます。きっとまた犯罪を起こすはずだというのです。まさに、『レ・ミゼラブル』の世界です。
 警視庁公安部に2000人の公安刑事がいて、警察庁に1000人。全国の警備部の公安課・公安係をあわせると全国に1万人からの公安がいる。ええーっ、と驚いてしまいます。公安の一番のターゲットは共産党です。合法政党なのに・・・。もちろん新左翼の各党派やオウムも対象ですし、最近はアルカイダなどもターゲットにしています。なにしろヒマだということになると、行政改革の対象になって削減されかねません。絶えず、そこには怖い団体だと恐怖をあおり、自分の存在意義を売り込む必要があります。
 日常的には、「対象者」ともちつもたれつ、の関係にあります。いえ、ときには公安の方がわざと事件を起こすこともしばしばのようです。ともかく、「過激派」が存在しないとリストラの対象になりかねないのですから・・・。
 優秀な公安刑事は、明るくて人当たりがいい。一見、遊び人に見え、「仕事」を相手に意識させない。そんな指摘があります。スパイを養成し接触するという暗い仕事を毎日のりこえていくわけでしょうから、相当タフな神経が求められることでしょう。でも、本当に、それってやり甲斐がある仕事なのでしょうか?
 私の親しかった弁護士(故人)の父親は公安刑事でした。なぜか家庭が暗い雰囲気だった、大人になってやっと理由が分かったとこぼしていました。人をスパイに引きずりこんだり、密告させたり、犯罪をしたりさせたりって、本当にいやな仕事ですよね。日本を守っているのは公安だという自負心にみちて活動しているそうですが、本当でしょうか。自分の保身ばっかりのような気がします・・・。

峠の落し文

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著者:樋口和博、自費出版
 94歳というので何年生まれかと思うと、私の亡父と同じ明治42年生まれだった。著者は38年間の裁判官生活のあと、東京で弁護士になった。この本は主として裁判官時代の思い出を描いている。弁護士になって、今(といっても昭和61年)の裁判官のあまりのひどさに唖然としつつ、淋しさを感じた体験が紹介されている。和解の席上、当事者の言い分をまったく聞かないまま、裁判官が突如として和解打ち切りを宣言したという。いるいる。今でも、こんな裁判官は珍しくない。私は、そう思った。
 裁判官として、どこまで人(ひと)を信じていいのか迷ったり、法廷での最後の一言で淡々と否認し、それが本当に無罪になったりと、人間心理の奥深いところまで考えさせる思い出が次々に語られていく。人が人を裁くとは、これほど難しいものなのか・・・。読みながらそういう思いにかられた。
 本林徹前日弁連会長や石川元也弁護士など、私の敬愛する先輩たちが再刊して自費出版した本だが、最近の司法修習生にぜひ広く読んでほしいと思った。

山田洋次×藤沢周平

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著者:吉村英夫、出版社:大月書店
 映画『隠し剣、鬼の爪』を封切り日にみた。満席とは言えないけれど、中年というより老年の男女で席はかなり埋まった。スクリーン一杯にしっとり落ち着いた映像が広がり、たちまち江戸時代末期の海坂藩に居合わせた気分になる。
 『たそがれ清兵衛』の真田広之もよかったが、今度の永瀬正敏もなかなかのものだ。東北の山々の遠景がロングショットで登場する。雪をいただく月山の雄姿だ。『阿弥陀堂だより』で信州の自然が丹念に紹介されたのを思い出す。この風景を見ただけでも、忘れかけていた幼いときの原体験に戻ることができて、なんとなくトクをした気分になる。
 山田洋次監督は映画『ラストサムライ』をみていないという。『ラストサムライ』では、新式の大砲や銃によってカツモト軍が倒される。今回の『鬼の爪』では、東北の田舎の藩でも新式銃を取り入れ、西洋式の軍隊に訓練している光景がコミカルに紹介されている。昔の人は両手を大きく振って足をあげて歩くことができなかった。すり足で歩いていたのだ。昔の人が着崩れしなかったのは、上半身を動かさず、下半身だけで動いていたからだ。うーん、なるほど・・・。
 斬り合いのシーンは真に迫っている。演じた役者は本番前に何度もケガをしたという。 藤沢周平は、いまブームだ。どれも似たようなパターンだが、それでも『男はつらいよ』シリーズと同じで、強く魅きつけるものがある。こんないい映画はぜひ多勢の人にみてほしいと思う。映画を興行的にヒットさせれば支持の表明になる。映画は文化だ。ぜひ、映画館へ足を運んでほしい。

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