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市民と武装

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著者:小熊英二、出版社:慶應義塾大学出版会
 現在、アメリカ全土に2億2千万挺の銃があり、最低25ドルで購入できる。10代の死亡原因の4分の1は銃によるもの。高校生の4分の1近くが学校に銃を持ちこんでいる。1990年におきた2万3千件の殺人事件のうち6割で銃が使われた。どうして、こうなったのか?
 先住民や自然の脅威にさらされていた植民者たちの開拓共同体にとって、構成員の武装は権利というよりも、共同体の防衛に不可欠な義務だった。そのため、独立以前のヴァージニアでは家長の武装を要求しており、貧しくて銃が買えないときには政府が供給することにしていた。武装の有無のチェックの場は教会であり、毎日曜の礼拝には銃を持参しなければならなかった。同じころ、マサチューセッツでは、非武装の市民には課税していた。防衛で貢献できないのなら、税を支払って貢献すべしというわけだ。1792年、連邦議会は軍務年齢の市民に全員武装を要求した。
 アメリカの独立戦争のとき、独立革命軍に参加した開拓民たちは対先住民戦の経験者たちだった。植民者は、先住民を文明の圏外とみなし、だまし打ち、非戦闘員の殺害、略奪、焦土戦術など、あらゆる手段を用いた。先住民たちの多くの部族はアメリカ植民者と戦うためイギリス軍と同盟したので、アメリカ軍は焦土戦術で対抗した。
 イギリス側が黒人奴隷に対して、武器をとって国王の軍隊に参加するなら自由を与えると宣言したため、大量の黒人奴隷がイギリス側に逃亡し、アメリカ側は大きな衝撃を受けた。独立派は黒人を兵士に徴募しなかった。武装する権利は自由な市民のものであり、黒人は奴隷はもちろん自由黒人であっても、その権利はなかった。
 イギリス軍には黒人や浮浪者などが含まれ、王政の方が、均質な市民の共同体よりも、多様性に寛容であるという皮肉な事態が出現していた。
 独立軍の方も次第に黒人の参加を認めるようになっていき、最終的には5000人の黒人が参加した。黒人解放運動にとって、武装の獲得と防衛への参加が大きな目標の一つとなっていた。
 アメリカで銃規制がすすまない歴史的経過を知ることができた。

山田洋次の世界

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著者:切通理作、出版社:ちくま新書
 山田洋次監督は私の好きな映画監督です。その山田洋次監督が、ベテランの役者に対して、演じようとか思いを伝えようとかいっさいしないようにと指示するというのです。
 「君の芝居は嘘なのだ。君は嘘をついている。自分に対して正直でないと叱りつけて、彼、あるいは彼女の悪い自信を一度奪いとる必要があるのです。もっと正直になって、裸になってキャメラの前に立ってほしいわけです」
 山田監督は俳優が役柄について質問してくることを嫌う。現場では「無」でいてほしいと願う。役者に対しては、「もっと自然に」「あなたはあなたのままでいい」と繰り返す。だけど、役柄を解釈して型にはめて演じることが身についているプロの役者にとって、それは一番難しいこと。
 『男はつらいよ』の大半を私は見ました。飯塚の古びた旅館で弁護団合宿をしたとき、テレビだったか映画館でだったか、寅さんが同じような古びた旅館に泊まるシーンが出てきてみんなで大笑いした記憶があります。年に2回の新作を14年間つくり続けたというのですから驚異的です。そのうえ毎回200万人もの観客を動員したというのですから、すごいものです。ところが、その割には山田洋次監督の世間的評価は高くありません。朝日新聞をはじめとする大マスコミがワンパターンの話であり、庶民向けの低級の娯楽映画だとして無視してきたからです。
 この本は、山田洋次監督が映画をつくるときの脚本が第一稿から決定稿までそろっている松竹大谷図書館の一次資料を参照しているだけに、新書の軽さに反比例してずっしりと重い内容になっています。著者は、この本の最後に次のように書いています。
 山田洋次は、常に「いま、どうして作る必要があるのか」を自他に問いかけて映画をつくってきた。問いかけの中で、放浪への憧れと現実への桎梏を行きつ戻りつしながら、常に数ミリでも希望に向かって歩んできたのではないだろうか。
 常に「いまどうしてこの映画を作らなければいけないのか」を自他に問い続けてきたからこそ、メジャーシーンで2年以上のブランクを空けることが一度もなく、80本近い作品を作り続け、いまでも現役にいることができているのではないか。世界的にも稀有な存在といえる。
 一見多様な価値観が認められた社会に見えながら、実は生きづらいという意識を人々がもっている。観客は寅さん映画を見て笑いながら、それを感じているのではないか・・・。
 うーん、深くいろいろ考えさせられました。

人の値段

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著者:西村 肇、出版社:講談社
 日亜化学の青色発光ダイオード裁判で発明した中村修二氏に対して会社は200億円支払えという東京地裁の判決が出て、世間に大きなショックを与えました。ところが、東京高裁は桁(ケタ)が2つもちがう8億円で無理矢理和解させてしまいました。
 日本の司法は腐っている。
 私は中村修二氏のこの叫びに同感です。東京高裁は、200億円も出させられたらつぶれてしまうという会社側の主張にやすやすと乗ってしまいました。でも、そんなの嘘でしょ。プロ野球の選手たちの給料を考えてみたら、200億円というのはそれほどのことではありません。また、世間を騒がすほどの巨額の横領事件が起きても、不思議なことに会社がつぶれたということはほとんどありません。
 この本で西村教授は中村修二氏は70億円は受けとれるという試算をしていますが、説得力があります。また、同業の研究者に「ねたみ」の心から来る反撥があることを著者は指摘していますが、私も同感です。
 話は変わりますが、オーケストラの指揮者について紹介されています。
 指揮者はオーケストラの総譜を完全に暗記している。それは、音符の数で10万個。これは、40字、16行の200ページの新書の字数とほぼ同じ。つまり、総譜を暗譜するということは、新書1冊を完全に覚えてしまうことを意味する。
 小澤征爾は、このように暗譜した曲が200曲以上もあるというのです。すごいものです。中村修二氏の話に戻ります。高裁の裁判官たちはかなり考え違いをしていると思います。会社万能だという古い考えにとらわれすぎです。もちろん、それは経済界の強い圧力に屈したということでもあります。ひどいものです。腐っていると言われても仕方がありません。

黙って行かせて

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著者:ヘルガ・シュナイダー、出版社:新潮社
 自分の親がナチスに心酔していて、アウシュヴィッツの看守をつとめていた。しかも、今もそのことを反省も後悔もしていないとしたら、子どもである自分は親に対して何と言うべきか。やはり、ママと呼びかけ、抱きしめるべきなのか。4歳と2歳の2人の子どもと夫を捨ててナチスへ走った母親に、その捨てられた娘が50年たって再会する。そのとき、母親にどう接したらよいのか・・・。実に重い問いかけです。
 最初のうちは、本当にちょっと気の毒だと思ったんだよ。でも、あたしは、すぐにそれを乗りこえた。自分のうけもつ囚人に対して同情やあわれみをもつことはあたしのやってはいけないことだったから・・・。
 不眠症にかかったことなんてない。自分を甘やかすわけにはいかなかったし・・・。焼却されたのは、ただの役立たずだけさ。ドイツをあのつまらぬ人種からとことん解放したやらねばねと思ってね・・・。
 イギリスのチャールズ皇太子の息子がナチスの服装をしたことが問題になっています。ナチスが実際に何をしたのか、真実をきちんと子どもそして孫へ伝えていくことの大切さを今さらながら感じます。

私のサウンド・オブ・ミュージック

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著者:アガーテ・フォン・トラップ、出版社:東洋書林
 映画「サウンド・オブ・ミュージック」の完全リメイク版を東京・銀座の映画館で見ることができました。大画面一杯にオーストリアの山並みと草原が広がり、ジュリー・アンドリュースがギターをもって歌い踊ります。昔みたなつかしい心象風景を思い出し、胸が熱くなりました。DVDを買って自宅でも見たのですが、やっぱり映画は映画館の大スクリーンで見るのが一番です。感動のスケールが断然違います。
 ところで、この本は映画のモデルとなったトラップ・ファミリー合唱団の長女が語る実際の話です。やっぱり、実際の話は映画とはかなり異なることが分かります。子どもたちがみな歌をうまくうたえたのは、死別した母親のもとで音楽にみちた暮らしをしていたからなのです。家庭教師(マリア)が来てはじめて歌をうたいだしたのではありません。
 マリアが修道院で品行方正とは言えず、階段の手すりをすべりおりたり、廊下でうたったり、口笛を吹いたり、お祈りに遅刻したのは事実のようです。そして、マリアは社会主義思想の持ち主だったそうです。父親が子どもたちを笛で呼ぶシーンがありますが、あれは事実でした。ただそれは、住んでいた邸宅が広いからでした。映画とちがって、父親はとても優しいパパだったと、長女である著者はしきりに強調しています。
 ナチスから脱出するときには、山登りなどせず、歩いて駅に向かい、列車に乗って北イタリアに行きました。脱出のラスト・チャンスのころでした。それからイギリス、そしてアメリカに渡り、生活費を稼ぐためにファミリー合唱団をはじめたということです。
 また、「サウンド・オブ・ミュージック」を見てみたくなりました。

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