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若杉裁判長

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著者:菊池 寛、出版社:文芸春秋新社
 図書館から菊池寛文学全集を借りて読みました。かなり古い小説です。なぜ今ごろ読んだかというと、先ごろ夏樹静子さんの講演を聴く機会があったのですが、そのなかで紹介されたからです。
 夏樹さんは『量刑』という推理小説を書いています。裁判長の家庭生活にもふれたストーリーです。裁判長の娘が誘拐され、判決について脅迫されるという舞台設定なのです。裁判官や弁護士に取材した苦労話が語られました。そのなかで、大勢のベテラン裁判官の前で、「裁判官の世間知らず」を問題とされました。多くのベテラン裁判官は「世間知らず」という言葉にひどく反撥します。たくさんの事件を扱うなかで、世の中を表も裏からも自分たちほど知っているものはいないという強い自負があります。むしろ、弁護士の方こそ世間知らずじゃないかと口角泡をとばす勢いで反論の弁を滔々と述べたてるのが常です。たしかに、弁護士がどれだけ世間を知っていると言えるのか。いつのまにか弁護士生活30年を過ぎた私も、世間のことは本当にまだまだよく分かっていないな。そう思うことがしばしばです。でも、裁判官は、自分たちが思っているほどには世間を知らないのではないか。私はつくづくそう思います。
 ところで、若杉裁判長は執行猶予をよくつけるというので名裁判長という評判が高い裁判官でした。しかし、ある晩、自宅に泥棒に入られて、すっかり考えが変わりました。法廷に立たされた被告人は、どれもかしこまった、ペコペコ頭を下げ、神妙に縮みあがっている男ばかりだった。ところが、目の前の泥棒は、そんなおとなしい人間ではなく、見つけたからには居直ってやろうという肚をありありと見せている。赤裸々な人間同志の力づくの関係しかそこにはなかった。若杉裁判長は全身を押し詰まされるような名状しがたい不快な圧迫を感じた。若杉裁判長は、それからは世間が当然に執行猶予がつくと思っていた事件でも、実刑判決を下すようになった。
 うーん、なんだか、まさに絵にかいたようなドラスチックな展開です。
 私は、このごろ、若い裁判官に対する不満よりも、高裁レベルのベテラン裁判官に対して強い不満を抱いています。いかにもことなかれ、現状(行政)追従・追認のやる気のない審理態度と判決が多すぎる気がしてなりません。若い裁判官が重箱の隅をつつくような質問をするのは、まだ許せます。やる気が感じられるからです。でも、無気力な現状追認と自己保身しか考えていないような裁判官にはどんどんやめてもらいたいのです。
 このところ年間に6人ほどの裁判官が10年目の再任を拒否されていますが、私はとても良いことだと考えています。裁判官の評価アンケートを弁護士会で実施しています。福岡では会員の4分の1ほどの回答がありますが、C(悪い)評価の裁判官も少なくはありません。そんな人は裁判官に向かないのです。さっさと国民のために辞めてもらいたいものです。

母に歌う子守唄

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著者:落合恵子、出版社:朝日新聞社
 私の母は大正2年生まれですから、90歳をこえています。家のなかを歩いていて骨折して入院したのです。それが、やはり良くありませんでした。痴呆というわけではありませんが、娘や息子をきちんと認識しているのか、かなり怪しいところがあります。それでも、声をかけると返事してくれますし、変に固まった身体を無理に動かそうとするとにらまれてしまいます。そんな母をつきっきりで介護してくれる姉夫婦には頭が下がります。まったく感謝するばかりです。
 この本には、自分の母親の介護をする女性の苦労がにじみ出ています。年をとって介護を受ける身になってから、その体験をもとに介護について発言できたら世の中は劇的に変わることでしょう。しかし、それはありえません。ということは、介護する人が介護される人の気持ちをおもんぱかるしかないのです。
 信頼していたヘルパーさんに裏切られた話も出てきます。できるはずのない床ずれが母親にできてしまったのです。なぜか。ヘルパーさんは家族の見えないところで手を抜いていたわけです。うーん、困りますよね・・・。
 いつかみんな介護される側にまわるはずなのに、なぜか年々冷たくなっていく世の中です。これって、おかしいですよね?

松下政経塾とは何か

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著者:出井康博、出版社:新潮新書
 松下幸之助が自民党に変わる新党結成を夢見て70億円を投資してつくった「現代の松下村塾」は、一見すると華々しい成果をあげているように見える。なにしろ200人をこす卒塾生のなかから、29人の国会議員、26人の地方議会議員、5人の首長を輩出しているのだから・・・。しかし、彼らは本当に日本のために役に立つ政治家と言えるのだろうか・・・。私はかなり疑問を感じている。街頭でラグビーのユニフォームを着たり、自転車で走ったりのパフォーマンスで、どうやったらテレビの話題づくりがうまくいくのか、そればっかりなのではないか。果たして、国民の生活の実態をふまえて日本の政治がどうあるべきかを真剣に議論しているのか。「負け組」を自己責任だとして突き放した議論をしていないのか。
 松下幸之助は、欲望は力であり、人間の活力だと考えると高言していた。同時に、欲望は力だから、悪にも善にもなるとも言った。
 現実に、政界のなかでの塾出身者の評判はいいどころか、悪い。政治家として何をするかではなく、政治家になること自体が目的となっている。塾出身者は人をだますことはできても、人の心までつかむことはできない。政経塾は、権力を持たない者が成り上がるための装置にすぎない。
 塾生の研修資金は1年目で月に20万円、2年目からは月25万円。加えて年間100〜150万円の活動資金が支給される。寮費は月4500円でしかない。
 塾出身者が民主党に多いのは、自民党から出たくても、すでに選挙区が埋まっているから。小選挙区で自民党候補の空きが出ても、公認されるのは2世か関係者のみで、前職と縁のない新人が出馬できる可能性は限りなく低い。だから、官僚出身者も民主党へ流れている。自民党も民主党もベースに違いはないからだ。
 高校のときの同級生が、いま県知事をしています。大学生のときに同じクラスにいた人物が自民党の代議士になっています。どちらも政界を渡り歩いてきました。ブームに乗って、新自由クラブとか新党なんとかです。当選しなければタダの人とは言うものの、国民不在、政策なしにただ権力と金力を握りたいという自己の欲望のみを優先させて考えているようで、2人とも私はどうにも好きになれません。

金貸しの日本史

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著者:水上宏明、出版社:新潮新書
 金貸しと売春は人類最古の職業だとよく言われます。弁護士生活を30年もしている私も、そうだろうなと思います。日頃の法律相談でもっとも多いのが金銭貸借と男女間のトラブルだからです。
 大化の改新(645年。もっとも史実ではないという学者の意見もあります)ころの出挙(すいこ)が歴史に登場する金貸しのはじめのようです。平安京をはじめた桓武天皇は、平城京にある寺院が金貸しで利子をむさぼりとっていると怒ったそうです。はじめて知りました。世界史としては、紀元前3000年のメソポタミヤ文明で、ハンムラビ法典の麦貸し付けが初めてだそうです。年利33%。銀貨の貸し付けだったら上限が20%でした。
 借金の問題は、貸し手をなくせばいいという簡単な問題ではありません。
 クレサラ被害をなくすことに取り組んでいる運動団体は何年も前から「高利貸しのない社会をめざす」というスローガンを掲げていますが、私には違和感があります。明らかに不可能なことを運動の目標としてよいとはとても思えないからです。銀行や政府系金融機関は高利貸しではないとでも言うのでしょうか。また、クレジット・カードを、今の日本からなくせるというのでしょうか。
 もちろん、暴利を取り締まることは私も必要と考えています。しかし、貸し手の対策とあわせて、借り主側のカウンセリングの充実をはからないと問題の根本的な解決はありえないと私は確信しています。
 ところで、明治10年にできた利息制限法(今の利息制限法は昭和29年に制定。民法制定は明治23年)でも、最高利率が年2割だったのを知りました。

死亡推定時刻

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著者:朔 立木、出版社:光文社
 この著者の『お眠り、私の魂』を読んだときには驚きました。東京地裁の裁判官の行状が迫真的に、まさに赤裸々に描かれていたからです。裁判所の内部に通暁していないと、とてもここまで細部にわたっての描写は無理だと思いました。
 小説家を志したものの、刑事訴訟法に興味を覚えて法曹になったと自らを紹介しています。覆面作家なのですが、いわゆるヤメ判の弁護士ではないかと想像しました。というのも、この本では弁護士界の内情がことこまかに描かれているからです。それも山梨県弁護士会の私選弁護人の無能ぶりが強調されています。被告人の老母から着手金60万円をもらっているのに、殺人事件で、まともな弁護をしませんでした。つくられた自白であり、自分は無罪だと被告人が訴えているにもかかわらず、です。それを、東京の若手弁護士が控訴審での国選弁護人に選任されて見破りますが、悪戦苦闘します。その努力が報われ、ついに逆転無罪を勝ちとる、と言いたいところですが、現実は厳しい。上しか見ていない強権的な判事たちは、重大な矛盾点に目をつぶり無罪とすることなく、死刑を無期懲役にしただけでした。
 刑事裁判の現実をフツーの市民に知らせるテキストにもなる面白い推理小説だ。そう思いながら一気に読みとおしました。

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