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ストレスとうつ

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著者:徳永雄一郎、出版社:西日本新聞社
 日本人の自殺者は1978年から1997年までは年間2万人から2万5000人でした。ところが、1998年から年間3万人台になって、今日に至っています。男女比では男が72.5%。50代が25%、40代が16%、30代が13%です。働き盛りの男性の自殺が増えているのです。たしかに、弁護士である私も自殺のケースを扱うことがしばしばです。
 うつ病は人口の5%、軽いうつ状態の人は15%いるとみられています。年間35万人がうつ病によって退職し、軽いうつ状態を含めると105万人が退職していると想像されます。現在の高校中退者は8万2000人。高校生の5%がうつ状態に陥っているとすると、4200人がうつ状態で退学している可能性があります。
 著者は、うつ病を病気ととらえず、1人の人間の生き方が壁にぶつかったと考えて診察していると言います。有明海に面した「海の病棟」というストレス専門の病棟をもうけているのが全国的にも有名です。 私も見学したことがありますが、精神科の閉鎖病棟とはまったく違って、明るいホテルのような病棟でした。有明海の潮の満ち引きを窓からゆったり眺めることによって、自然の変化するリズムをじっくり身体で感じることができるのです。朝、のぼってきた太陽の光を全身に浴びて、自分が地球の生き物のひとつであることを実感することができます。そのことによって、それまで自分こそ社会の中心だと思って張りつめていた気持ちがふっと解き放たれていくのです。
 実は著者は、私の中学校のときのクラスメートなのです。おだやかな人柄です。うちの人間ドッグに入りに来いよ。頭のなかまで診てあげるから、と親切な言葉をかけられました。とんでもない。身震いして、ありがたくお断りしました。脳の異常がついに発見された、なんてなりたくありませんからね・・・。あなただったら、どうしますか。診てもらいますか。入りたいなら、紹介しますよ・・・。

先物地獄のワナを解き明かす

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著者:宮崎耕一、出版社:民事法研究会
 著者は法政大学経済学部教授。商品先物取引で大損をした人が知人にいて、その裁判に関わったことから、先物取引の実態を知り、このような本を書くようになったという。
 私は弁護士になってまもなくから先物取引被害の相談を受け、これまで20年以上にわたって、裁判をし、交渉をしてきた。今も進行中の事件が片手ほどある。
 先物取引は予測のつかない相場の世界。でも、間違いなく言えることは、長く取引をしていたら、確実に損をしてしまうということ。客は殺されもするし、自然死(自滅)もする。だから、なんでこんな客殺し商法が政府公認で存在しうるのか、不思議でならない。といっても、先物取引の会社に言わせると、証券会社もみんな同じ事をしている。なぜ、うちだけが目の敵にされなければいけないのか。年寄りが死蔵している金融資産を取引社会にひっぱり上げることで社会に大きく貢献しているのに・・・。
 うーん、そう言われたら、そうなんだろう・・・。でも、悪いものは悪いこと。巧妙なアプローチで近づき、甘言に乗せて大金をだましとる商法は許されないと思う。大勢の人に読んでほしい本だ。

企業情報はこんな手口で盗まれる

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著者:宮崎貞至、出版社:東洋経済新聞社
 元キャリア組の警察官僚だったせいか、著者が日本国憲法について「奴隷の平和」憲法だと悪罵を投げつけているのはいただけませんが、企業情報が盗まれている現実を知ることはできる本です。
 従来の秋葉原タイプのアナログ盗聴器だと、盗聴電波の監視装置ですぐ見つかってしまう。しかし、最近のモバイルフォンはデジタル波なので検知が難しい。だから、プリペイド式の携帯電話をオンにしてスパイを会議室にもぐりこませると、会議内容をリアルタイムで盗聴することができる。たとえば、携帯電話のバッテリーを、盗聴発信器を埋めこんだ別のバッテリーにすりかえたら、半永久的に盗聴できることになる。
 カメラ付き携帯が普及しているから、それで営業秘密を盗み出すのはしごく簡単になっている。会議のとき無線マイクをつかうと、かなり離れていても内容が傍受されている危険がある。無線LAN傍受器もはびこっている。
 名簿業者は1人あたり1円で情報を仕入れ、その100倍の1人あたり100円で販売する。個人情報で一番高く売れるのは金融系の借金履歴つきの顧客リストで、1人あたり1000〜2000円。デパートの外商の顧客リストは1人あたり500〜1000円。
 ファックスの信号傍受は、内容や宛先が正確なので、産業スパイの一番のターゲット。Eメールは、世界中で、100台以上のモニター機に監視されていると覚悟すべきもの。
 うーん、便利な情報化社会ですが、危険もいっぱいなんですね・・・。

司法改革

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著者:日弁連司法改革実現本部、出版社:日本評論社
 司法改革とは何だったのか。その全体像をふり返るためには不可欠の本です。いわば日弁連による司法制度改革「正史」ですから、あまり面白くないと言えば、そのとおりです。
 そのなかでは、久保井・本林という2人の日弁連元会長のインタビュー記事が読ませます。やはり、会長として2万人をこえる弁護士をまとめるうえで、相当の苦労をされたからです。
 法科大学院には、600人の弁護士が実務家教員として出かけているそうです。単なる予備校にならないように弁護士もがんばっているわけです。
 本林前会長は、今の世の中の変化の速さに即応した日弁連の対応ができるようになったことを最後に指摘しています。常勤の弁護士スタッフを抱えてようやく実現した課題です。これまでは東京のほかは大阪・京都くらいでしたが、九州からもスタッフを送り出せるようになりたいものです。
 とにもかくにも、刑事裁判が裁判員制度の導入によって大きく変わりますし、新しく労働審判制度もできました。裁判所改革にしても、外部の意見を反映するシステムがつくられましたので、その透明化はぐんとすすみました。形式ができても、運用がこれまでと同じでは困ります。司法改革は、まさにこれからが正念場なのです。その意味でも、この本は心ある弁護士にとって必読文献だと思います。

ウルカヌスの群像

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著者:ジェームズ・マン、出版社:共同通信社
 ブッシュ戦争内閣を動かす外交チームの実像に迫るとオビにあります。本文を読んで、なるほどと思いました。ウルカヌスというのは、ローマ神話の火と鍛冶の神であり、ライスやウルフォウィッツやアーミテージ、そしてチェイニーやパウエルというグループの自称です。
 ウルカヌスは伝統的な国家安全保障問題を中心的な関心事としていて、国際経済におけるアメリカの役割は民間の経済界にまかせている。ウルカヌスは、アメリカのパワーと理念は大きくみて世界に善をもたらすと信じている。アメリカは強く、そしてますます強くなると確信している。
 コリン・パウエルの考えはパウエル・ドクトリンとして公式化された。明確な目標の必要性、アメリカ世論の支持、圧倒的な兵力の投入。戦争は政治の最終手段であるべき。戦争をするときには、国民の理解と支持の得られる目的を持ち、その目的を達成するために国を挙げて資源を動員し、そして勝利しなければならない、というもの。
 パウエルは、貧しく教育のないアメリカ人ほど戦闘に駆りだされて死んでいく様子に深い不公平感を抱いた。有力者の子弟やプロ・スポーツ選手の非常に多くが予備兵や州兵にうまくもぐりこんだことに憤りを感じてもいた。
 パウエルにとって、アメリカの軍事力を維持するうえで大切なのは、それを控えめで慎重に行使すること。実際のところ、パウエルは世間が思っているようなハト派だったことは一度もない。パウエルは長期にわたる殺伐とした、コストのかかりすぎる軍事的介入をアメリカは避けるべきだという信念をもっていた。しかし、それは実際的な考慮からであり、平和主義的な信念からではない。パウエルがめざしたのは、ベトナム戦争のように泥沼に2度と入りこむことを避けながら、アメリカの軍事力を維持・増強していくこと。
 ウルカヌスのヴィジョンは先制行動論、他の追随を許さない超大国アメリカ、超大国アメリカはその民主的価値を海外で広めることを求める。という3つの要素を統合したものからなる。
 臆病者のタカとは、戦闘の経験がないにもかかわらず、戦争を鼓舞する者のことで、チェイニー、ウルフォウィッツその他のブッシュ政権内の兵役経験をもたない人たちを指していた。この25年間を通じてネオコンたちの根底にある関心は、一貫して変わらなかった。アメリカの主要な敵対者をうち負かすために自国の軍事力と理念を推進することがネオコンの一貫した立場である。
 ウルカヌスはアメリカの能力に対して底抜けの楽観主義を抱いている。
 ウルカヌスたちの予想がはずれてしまったのは、今日では明らかなのではないでしょうか。すでにアメリカ兵の戦死者は15000人をこえました。もっとも、イラク人の死者の方は10万人をこえたとみられていますが・・・。イラク占領の負担は、いまやアメリカ経済への限りない重圧になっているように思われます。いつまでもウルカヌスたちに我が世の春を謳歌させていくわけにはいきません。といいつつ、ライス国務長官の悪びれない自信にみちみちた笑顔には怒りをとおりこして呆れてしまう、というのが私の率直な感想なのです・・・。他国を平気で侵略して、何十万人もの市民を虐殺しておきながら、どうして、あそこまで自信満々でいられるのか、不思議でなりません。

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