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市民の司法は実現したか

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著者:土屋美明、出版社:花伝社
 共同通信の現役の記者が司法改革の全体像をあますところなく描いた画期的な労作です。460頁もある大部の本ですが、自分の書いた新聞の特集(連載)記事をもとにしていますから、重複はあるものの、大変読みやすい内容となっています。はっきり言って、日弁連で出した本よりも視点がスッキリしていて全体像をとらえやすい本です。
 著者は司法制度改革審議会の63回の審議をほとんど毎回モニターテレビを通して傍聴し、すべての検討会に顔を出し、推進本部の顧問会議は毎回傍聴したといいます。すごいことです。ですから、書かれた内容には臨場感があります。
 今回の司法改革について、著者は、当初の予想をはるかに超え、法科大学院の創設など司法の基盤そのものに変革を迫る大規模な具体的成果として結実したとみています。現段階では評価に値する実りをもたらしたのではないかというのが著者の考えです。これは私も同感です。本当に市民のためのものに結実させるか、これからの取り組みにもかかっていますが・・・。
 著者は、裁判員制度・刑事検討会と公的弁護制度検討会の委員をつとめられました。共同通信の現役記者(論説委員)として、ただ1人の委員でした。穏やかで誠実な人柄と高い能力・識見を評価されてのことだと思います。政府の都合のいいように取り込まれるだけだという批判を受けるのを承知で委員になるのを承諾したということです。私は、著者の果たした役割を高く評価しています。
 著者は弁護士(会)についても辛口の提言をくり返しています。
 これまでは少人数の貴族制社会で生きてきたかもしれないが、これからは多人数の大衆社会になる。だから、従来型の発想をしていたのでは社会の動きから取り残される。
 日弁連にしても、会長(任期2年)、副会長(同1年)ら執行部と事務局という態勢、そしてボランティア的な組織のままで、やっていけるのか。
 これまでと同じことを漫然とくり返していたら機能不全に陥ることは目に見えている。日弁連事務局を強化し、組織体制を整備するべきではないか。うーん、そうなんですよね。でも、あまりに事務局体制が強大なものになってしまったら、地方会の意見が十分に反映されるのだろうかという心配もあったりして、難しいところです。
 いまの司法試験は2004年に受験生4万3,367人で、合格したのは1,483人ですから、合格率は3.42%でした。私のときは受験生が2万人ちょっとで、合格者は500人でした(合格率は2%そこそこ)。
 法科大学院で教える弁護士は専任で360人。非常勤講師をふくめると600人にのぼります。
 いまは司法修習生は1人あたり年300万円ほどの給与が支給されています。これが、2010年11月から貸与制に切り替わります。著者はこの点について賛成のようですが、私は弁護士養成に国が税金を投入してもいいと考えます。医師だって自己負担で養成しているじゃないかという反論がありますが、むしろ私は医師養成も国費でやってよいと思うのです。要は、公益に奉仕する人材の育成と確保です。無駄な空港や港湾建設などの大型公共事業に莫大な税金を投入している現状を考えると、よほど意味のある税金のつかい方だと私は確信しています。
 法科大学院を終了しなくても新司法試験を受けられる予備試験が2011年から始まる。これによって、特急コースができてしまうのではないかと著者は心配しています。なるほど、予備試験は法科大学院終了と「同等」レベルのものとすることになっています。しかし、超優秀の人は、それも難なくパスしてしまうことでしょう。何百人もの法科大学院を経ないで新司法試験に合格して弁護士となる人がうまれるのは必至です。彼らには人生経験が不足しているといっても、そんなものはあとからついてくるといって迎え入れるところは大きいと思います。
 この予備試験を太いパイプとして残せという声は案外、弁護士のなかにも多いのです。とくに苦労した人に多いように思います。私は、それでいいのか疑問です。
 丙案というおかしな司法試験の制度がありました。成績順位が524番だった受験歴4年の人が落ち、1066番だった3年の人が合格したのです。2004年度から廃止になって良かったと思います。
 裁判官の高給とりは有名です。具体的には、官僚トップの各省庁の事務次官と同じ給料(月134万円)をもらっている裁判官が230人、検察官は60人いるのです。
 上ばかり見ているヒラメ裁判官が多いというのは誤解だ。組織のなかで、もっとも自由なのは裁判所だ。最高裁や高裁がどう思うかなんて、おおかたの裁判官は考えていない。
 このような藤田耕三元判事の意見が紹介されています。しかし、残念ながら、事実に反すると私は考えています。事実を見つめて自分の頭でしっかり考えるというより、先例を踏襲し、現状追認の無難な判決を書いて自己保身を図る裁判官があまりに多いように思うのです。
 2000年に全国の地裁で有罪判決を受けた外国人は、7,454人いて、そのうち法廷通訳人がついたケースも6,451人となっています。これは、10年前の4.4倍です。裁判所に登録されている法廷通訳人は50言語、3,656人となています。中国語1,574人、英語510人、韓国語369人、スペイン語261人、ポルトガル語134人、タイ語107人、フィリピン語94人、ペルシャ語63人、ベトナム語52人、フランス語51人の順です。
 ちなみに、著者は、ごく最近知ったのですが、私と同じ年に大学に入ったのでした。父親の病気のため生活保護を受けていた家庭から高校、大学へ通い、アルバイトをしながら授業料免除と奨学金で卒業したというのです。まさに頭が下がります。
 私の場合は、決して裕福とは言えませんでしたが、基本的に親の仕送りに頼っていました。もちろん家庭教師その他のアルバイトはしていたのですが、セツルメント活動に打ちこむだけの余裕はありました。
 それはともかく、司法改革とは何か、どのような議論がなされたのかを知る貴重な資料的価値のあるものとして、みなさんにぜひ一読されるよう、おすすめします。

「子どもたちのアフリカ」

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著者:石 弘之、出版社:岩波書店
 表紙にアフリカの子どもの素敵な笑顔の写真が載っています。でも、頁をめくると、とても笑顔で読める内容ではありません。心が凍りつくような情景描写が次から次に続きます。私は福岡までの電車のなかで読みはじめたのですが、それまでの眠気が嘘のようにさめて、背筋をピンと伸ばして厳粛な気持ちで読みすすめました。
 次世代を担う子どもたちの今から、アフリカの未来を考える。オビにはこう書かれています。この内容ははるか遠いアフリカの国の話しであって、日本とは関係ないと考えてはいけないと思います。エイズ、少年兵、奴隷、いずれも日本にも決して無関係ではありません。
 アフリカのエイズ患者は2500万人。2003年だけで300万人が新しく感染し、220万人が死亡した。アフリカの成人の7.5%はエイズであり、なかには成人の4割ほどがエイズ感染者という国まである。これによって、アフリカの平均寿命は1975年に47歳だったのが、今では40歳になった。
 栄養不足人口は33%、就学率は42%でしかない。親をエイズで失った孤児が増えている。スワジランドでは、妊婦の4割がエイズ感染者。エイズの母親から生まれた子どものうち、20%は母体内で、15%は母乳を通じて感染する。
 アフリカのエイズ感染の9割近くは無防備な異性間交渉が原因。アメリカや日本のような先進国では抗エイズ薬のおかげでエイズと共存して生活できる。アメリカではエイズによる死亡者は70%も減少した。しかし、アフリカでは、抗エイズ薬の投与を受けているのは70万人にすぎず、残る330万人は放置されている。
 アフリカには処女とセックスするとエイズが治るという迷信が広くある。また、病気は身体の汚れた状態で、清浄な処女とセックスすれば浄化されるという間違った観念があり、迷信をはびこらせる原因にもなっている。
 アフリカの少女は、生後1週間から初潮までに女性性器を切除されている。毎年200万人が切除され、アフリカ大陸の女性の3人に1人くらいの割合になる。女性に被害者意識はあまりなく、むしろ女性の方が熱心な支持者になっている。
 アフリカには少年兵が多い。イラン・イラク戦争のとき、2000人のイラン少年兵が手をつないでホメイニ師を讃える歌をうたいながらイラク国境の地雷原に突きすすんでいった。あちこちで地雷が爆発して子どもたちが死んでいったあとを正規軍が進んでいった。生き残った少年兵は1割しかいなかった。子どもは頭が空っぽで、つねに命令に従うから司令官が好んでつかう。戦闘の前にはハッシッシやアヘンなどを与えるし、万一つかまったときのために青酸カリのカプセルも与えてある。
 子どもは奴隷としてもつかわれている。たとえばチョコレート。子ども奴隷のおかげで人件費が安上がりになっている。
 世界には、考えなければいけないことがこんなに多いのか、思わず襟をただしてしまう厳粛な内容です。いかにも厳しい現実ですが、決して目を逸らしてはいけないと思い、最後まで読みとおしました。

僕の叔父さん、網野善彦

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著者:中沢新一、集英社新書
 網野善彦は私の好きな歴史学者です。ともかく視点が目新しくて、問題提起が刺激的なのです。いつもハッと眼を見開かされます。
 『無縁・公界・楽』(平凡社)や『異形の王権』など、いくつも読みました。日本の歴史を底辺に生きる人々の生活からとらえすことを学ばされた気がします。百姓を農民ではなく、海辺で働く漁民や、船乗りをふくめるものという提起もあったと思います。
 ただ、私は、宗教学者としての中沢新一をなんとなくうさん臭い人物と思ってきました。中沢新一の本を読んだのは、これが初めてです。「コミュニストの息子」として育ったことの悲哀も語られていて、案外、まじめな人物だったんだなと見直しました。

「不器用な技術屋iモードを生む」

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著者:中野不二男、出版社:NTT出版
 いま携帯電話は耳にあてて聞いて話す道具というより、画面を見る道具になってしまいました。歩きながら画面に夢中になっている人の姿はどこにでも見かけます。
 iモードが誕生して6年がたちました。携帯電話は今や単なるケータイと言った方がピッタリきます。だって、電話というより持ち歩きのできる超小型のパソコンそのものなんですから・・・。ケータイとは違いますが、i−podにも驚きました。単なるウォークマンではないのですね。7000曲も入っていて、画面を見ながら選曲できますし、歌詞まで読めるのですから、すごいものです。
 iモードが誕生するについては、松永真理の「iモード事件」も面白く読みました。熊本で仕事をしていた彼女を、人脈で掘り起こしたんですね。
 この本は、技術屋サイドから見たiモードの開発物語です。私には技術的なことはさっぱり分からないのですが、とても興味深く読みました。技術屋の世界って、事務系とは一味も二味も異なる世界なんだなとつくづく思いました。
 携帯電話がまだ珍しかった時代に、私はそれを持ち歩いていたことがあります。ポケットに入るなんてものではありません。大きさは小城羊羹の1本分くらいです。手にとると、ずしりと重たいのです。バッテリーも同じくらいかさばっていました。ともかく貴重品ですから、大切に扱っていました。今ではケータイが普及しすぎて、公共の場所から公衆電話がなくなりつつあって困ります。要するに、自分のケータイをつかって相手方とダイレクトに交渉したくないときには公衆電話をつかいたいのです。そんなの非通知にすればいいじゃないかと言われるかもしれませんが、自分のケータイにいろいろ入ってくること自体がいやなのです。ケータイの送受信歴がまったく消えないというのも嫌ですよね。
 この本で圧迫面接という手法があるというのを初めて知りました。たたみこむように質問していって相手を追いこみます。質問に対して正確な答えをするかどうかは問題ではなく、圧迫をはねつけて、正面切って答えたり、うまくすり抜けたりする機転のはやさを見るための手法ということです。ほとんど嫌がらせのような手法です。私は体験がありませんが、面接のとき、相手の能力を知るひとつの手法なんだろうなと思いました。

私のかかげる小さな旗

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著者:澤地久枝、出版社:講談社
 著者は旧満州(中国東北部)から16歳の多感な少女のときに日本へ引き揚げてきた。それまで1年あまりの難民生活も体験している。だから、戦争を憎む気持ちが人一倍強い。そして、あくまで人間を大切にするヒューマニストである。
 1947年、東京に出てきた。空襲の焼け跡がそのまま残っていた。いま最高裁のある場所には、米軍のカマボコ住宅が整然とならび、白とグリーンの仮設住宅が鮮烈に日に映えていた。日本人メイドの胸に抱かれた白人の子どもたちは丸々とよく太っていた。
 アメリカによるベトナム侵略戦争がたたかわれていたとき小田実と一緒にベ平連(「ベトナムに平和を!市民連合」)の活動をした。そして、いま「安保条約をやめて、日米平和友好条約を!」という市民運動をすすめている。
 著者は憲法9条2項の意義を訴えている。過去の戦争のほとんどが、自衛を大義名分としてたたかわれたものである。「自衛」という表現には、実は何の歯止めもない。すべての軍隊は、自国の平和、独立、安全を守り、自衛する建前で存在する。しかし、「自衛」は拡大解釈される。日米が第二次世界大戦を始めたときだって、だれも侵略戦争とは言わず、自存自衛のためのいくさと言っていた。
 戦後うまれの人には、憲法は空気のように感じられるかもしれない。しかし、戦争を放棄し、国の交戦権を否認した憲法によって日本はアメリカやロシアのような軍拡競争による国家財政破綻の危機をまぬがれ、一人の戦死者も出さず、他国のだれも殺傷しない戦後の半世紀を生きてきた。
 わたしは政治に絶望したり、グチを言うことはやめることにした。政治はわが手で、という考えに立っている。声をあげよう。 
 74歳の著者は今、「九条の会」の呼びかけ人の一人として、すべての日本人に呼びかけている。著者よりは二まわりほど若い私も、負けずに声をあげていくつもりだ。

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