法律相談センター検索 弁護士検索

宮大工棟梁・西岡常一、口伝の重み

カテゴリー:未分類

著者:西岡常一、出版社:日本経済新聞社
 著者は10年も前に亡くなられましたが、法隆寺を修理し、薬師寺西塔を再建した宮大工として有名です。私は、これまでの何冊か著者の本を読みましたが、改めて深い感銘を受けました。
 宮大工の祖父は、著者が小学校を卒業して進路を考えているとき、農学校へ行くことを強くすすめました。父の方は、設計図を描ける大工になった方がよいという考えから、工業学校をすすめたのですが・・・。結局、祖父の主張が通りました。
 人間も木も草も、みんな土から育つ。宮大工はまず土のことを学んで、土をよく知らんといかん。土を知ってはじめて、そこから育った木のことが分かるのや、というのです。
 著者は、農学校の学生のとき1反半の田をまかされました。秋の収穫量は3石でした。学年100人中8位の成績です。ところが、祖父はおかしいと批判しました。1反半ならフツーの農民は4石5斗とれる。稲をつくりながら、稲と話し合いをせず、本と話し合っていたからだ。稲と話せるなら、いま稲が水を欲しがっているのか、こんな肥料をほしがっているのか分かる。本と話したから、稲が言うことをきかなかったんだ・・・。これって、すごい言葉ですよね。私も庭で花や野菜を育てていますし、声をかけてはいるのですが。対話しているってところまではいきません。ですから、よく失敗してしまいます。
 木というものは、土の性(さが)によって質が決まる。山のどこに生えているかで癖が生まれる。峠の木か、谷の木か。一目見て分かるようにならなあかん。
 堂塔の建立には木を買わず、山を買え。吉野の木、木曾の木と、あちこち混ぜてはいかん。同じ環境の木で組んでいく。
 木には陽おもてと陽うらがある。南側が陽おもてで、木は南東に向かって枝を伸ばすから、節が多く、木目は粗い。陽うらの方が木目はきれいに見える。日光に慣れていない陽うらを南にして柱に据えたりすると、乾燥しやすく、風化の速度ははやくなる。太陽にいわば訓練されている部分を、陽のさす方向におく。陽おもての方が木はかたい。
 山の頂上、中腹、斜面、南か北か、風の強弱、密林か疎林かで、それぞれに木質は異なる。そうした木の性(しょう)も考慮に入れて使い分け、組みあわす。
 木材を見直すと言いながら、外国の木の資源までつぶしてしまってはならない。木の文化を語るなら、まず山を緑にする。それも早く太くの造林ではなく、山全体に自然のままの強い木を育てること。木を生かすには、自然を生かさねばならず、自然を生かすには、自然の中で生きようとする人間の心がなくてはならない。その心とは、永遠なるものへの思いである。
 著者の2人の息子さんはいずれも後を継いでいません。しかし、弟子はおられます。
 棟梁は自分で仕事をしたらいけない。大きな仕事は、職人に仕事をさせて、それを見ているのが棟梁だ。自分で仕事をしたら、職人として、そこだけを見るようになる。もっと広く仕事全体を見るものなんだ。
 うーん、そうかー、そうなんだー・・・。つくづく感心してしましました。職人の芸(仕事)のすごさ、奥深さをつくづく感じさせる本です。

パレスチナから報告します

カテゴリー:未分類

著者:アシラ・ハス、出版社:筑摩書房
 パレスチナに住む生粋のユダヤ人女性ジャーナリストのレポートを本にまとめたものです。情景描写が生々しく、いかにも不条理な暴力がパレスチナでは日常的となっている様子が報じられていて、胸をうちます。
 イスラエルの兵役制度は、男子が18歳から29歳までに3年間、女子は18歳から 26歳まで21ヶ月の兵役義務がある。ただし、ユダヤ教徒は義務であっても、キリスト教徒とイスラム教徒は志願制。
 多勢のパレスチナ人の若者が自爆攻撃を実行したが、さらに何十人もの若者が実行者になる順番を待っている。だから自爆テロを終わらせたいなら、なぜ、多くのパレスチナ人がそれを支持するかという問いをたてねばならない。人々の支持がなければ、パレスチナ人の組織はあえて自爆攻撃者を送り出し、予想されるイスラエル側の規模拡大につながる応対を招くようなことはしないはずだ。
 つまり、できる限り迅速に、より大きな武力をつかって、より多く殺して苦しめることが、相手に教訓を与え、相手の計画を未然に防ぐことになるという概念は完全に間違っている。
 うーん、そうなんですよね。私も本当にそう思います。
 日本はパレスチナの大きな援助国。しかし、パレスチナ当局に対する援助金は、結果的にイスラエルの占領を補助している。たとえば、イスラエルが破壊したパレスチナの道路や建物を修復するために援助資金が使われる。日本の援助はパレスチナ社会の発展につかわれるのではなく、イスラエルの占領が引き起こしている損害の補填につかわれている。
 ユダヤ人が軍事的な優位だけが自分たちの将来を保障することができると信じ続けていたら、ユダヤ人社会の将来にとっても、とても危険なことだ。
 ユダヤ人であることを強く自覚しているジャーナリストの言葉だけに、すごい重味のある言葉だと思いました。

荒蝦夷(あらえみし)

カテゴリー:未分類

著者:熊谷達也、出版社:平凡社
 平安時代の東北地方は、まだ朝廷が完全におさえきってはいませんでした。坂上田村麻呂が活躍する前のことです。
 高橋克彦の「火怨」では、阿弖流為(あてるい)が主人公となって活躍しますが、その一世代前の話として面白く読みました。蝦夷(えみし)が大和の支配下に入りつつある状況で、なんとか蝦夷の独立性をたもとうとするのですが、大和の大軍の前に徐々に追いつめられていきます。しかし、そんななかでも、蝦夷の意地を示そうとする部族がいるわけです。日本は大和朝廷ひとつで初めからまとまっていたわけではなかったことを再認識させられます。

極限環境の生命

カテゴリー:未分類

著者:D・A・ワートン、出版社:シュプリンガーフェアラーク東京
 ラクダは15日間、水を飲まずにいることができる。全体重の30%が減ってしまうほどの脱水状態にも耐えられる。そのかわりラクダが水を飲むときはとてつもなく大量に摂取する。200リットルを数時間で飲む。バスタブ1杯分を数分間で飲み干してしまう。急に水分が血流に入ると、そのための浸透圧ストレスによって多くの動物の赤血球は破裂してしまうが、ラクダの赤血球は大丈夫。ラクダは体温を変動させることによって、水分の蒸発を減らしている。
 海底から350度という高温のお湯が噴き出している。その熱水の噴出口付近は、予想に反して生物にみちあふれている。超好熱菌がいるのだ。
 うーん、生命って地球上のいたるところに、まさに無数に生きているんですね・・・。45億年前に地球は誕生し、それから10億年すぎて生命が誕生しました。その点は化石があるので、証明は可能。38億年前に生命が誕生したという状況証拠もあるそうです。
 うーん、生命っていったい何だろう・・・。生命の不思議さをチョッピリだけ実感させられました。

太平洋戦争と上海のユダヤ難民

カテゴリー:未分類

著者:丸山直起、出版社:法政大学出版局
 センポ・スギハラとして名高い、リトアニアの杉原千畝・日本総領事が発行したビザで助かったユダヤ人の流れついた先のひとつが上海でした。上海には日本軍が占領した当時、2万人をこえるユダヤ人がいて租界をつくっていました。
 日本軍がユダヤ人排斥に走らなかった理由のひとつに、満州にユダヤ資本を導入しようという狙いがあったことが指摘されています。満州の関東軍参謀長だった東条英機もその趣旨の通達を出しているそうです。日本軍部は日独伊の三国同盟を結びつつも、ドイツの言いなりにはならず、ユダヤ人を排斥しませんでした。それは彼らなりの思惑があったからです。ただ、満州にユダヤ人の入植地をつくろうという日本側のプランはユダヤ人側から拒絶されました。日本軍の占領地という不安定なところに入植しても、将来性がないとユダヤ人側は判断したのです。
 1941年に上海にいたドイツ人は2万5000人。そのうち2万2000人がユダヤ人で、ナチ党員はわずか300人程度でした。日本とドイツの関係がぎくしゃくした原因のひとつがスパイとして摘発されたゾルゲ事件でした。ゾルゲ事件については何冊も本を読みましたが、ゾルゲの使命感と有能さには感嘆すべきものがあります。
 上海にユダヤ人を居住する区域が指定されましたが、そこには中国人やロシア人も住んでおり、いわゆるゲットーとか強制収容所ではありません。通行証があれば外出もできました。ヨーロッパ各地から流れてきたユダヤ人たちは、逆境に耐えつつ、音楽や演劇コミュニティの活動にうちこむ余裕をもち、かえってユダヤ人としての自覚を高めていくたくましさをもっていました。戦後、イスラエルの要人となった人物を何人も輩出しているのです。さすがはユダヤ人です。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.