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帰宅の時代

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著者:林 望、出版社:新潮社
 リンボー先生のエッセイです。私と同じ団塊世代です。「イギリスはおいしい」などで有名ですから、てっきり英文学者だと思いこんでいましたら、なんと、専攻は日本書誌学というのです。それを生かしてケンブリッジ大学の図書館にある日本の古典1万冊を1年かけて分類し、賞をもらったというのです。すごいですよね。1日に40冊ずつ調べるというのですから・・・。
 1年間、毎日毎日、開館から閉館まで図書館にこもって調べあげたのです。最後の1冊を調べ終わったのは、なんと帰国する前日の午後4時だったというのですから、ハンパじゃありません・・・。
 リンボー先生は、自分を磨くのに必要なものに関しては投資を惜しまないと書いています。大賛成です。私も本と年1回の海外旅行には投資を惜しまないことにしています。本は読めそうなだけ、もてるだけ買います。海外旅行は40歳になってから、少なくとも年1回してきました。41歳のとき南フランスに40日間いたのは最高でした。今年もフランスに2週間行って帰ってきたばかりです。弁護士になって以来勉強しているフランス語のおかげで、日常会話には不自由しません(仏検準一級にも一度受かりましたが、今年は不合格でした。ペーパーテストで合格基準点スレスレの73点をとり、口頭試問で25点でしたので、最終合格基準点99点に1点足りませんでした。米国産牛肉の輸入再開に賛成か反対か。3分前に問題文を出されて、3分間スピーチをしなければならないのですが、うまく語れませんでした。まだまだです。フランスの美術館で解説を聞いてすぐに分かるようになりたいと思って、相変わらず、毎日、ラジオ講座も聞いて勉強しています)。
 継続は力なりと言いますが、私も実感として、本当だと思います。リンボー先生は、そのためには強い意志をもつことをすすめます。そして、それには自分自身をしっかり見つめ続けなければいけない。身のまわりにいる他人に流されない。時間は有限なので、一つのことに集中して自己錬磨をしようと念じたなら、他のことは犠牲にせざるをえない。自己錬磨とは、時間を他人のためではなく、自分のために使うことだと思い定めること。人づきあいは自然に悪くなる。変人扱いされることもあるだろう。それに耐えて、自分を貫けるかどうかだ・・・。
 まったくリンボー先生の言うとおりだと思います。リンボー先生は、国民の祝日、休日をカレンダーの上からきれいさっぱり消すことを提案しています。私も、もろ手をあげて大賛成します。ゴールデンウィークなんて、とんでもないことです。休暇は、自分のとりたいときにとれるようにすべきものなのです。お上(おかみ)によって一律に与えられた「お仕着せ」の休日なんて百害あって一利なしです。
 自民党は国民の休日をふやそうとしてきましたが、あれは典型的なインチキです。レジャー産業にとっても、ゴールデンウィークだけ繁盛して、あとは閑古鳥が鳴いている現状を喜んではいないと思います。コンスタントにお客が来た方が、双方にとってよいのです。
 フランスに行って、キャンピングカーが本当に目立ちました。長い長いバカンスを自分の好きなようにウロウロしているのです。これこそ最高の心身のリフレッシュだと思います。労働者に有給休暇を未消化させたら企業は罰せられる。そんな社会に日本も早くしたいものです。

孤将

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著者:金 薫、出版社:新潮社
 釜山には何度か行ったことがあります。李舜臣の堂々たる銅像には畏敬の念を覚えました。秀吉の理不尽な朝鮮侵略戦争に敢然とたち向かった朝鮮水軍の名将です。しかし、不幸なことに、朝鮮の宮廷からは反逆者とみられてしまうのです。その不幸にもめげず、再び日本侵略軍とたたかう指揮をとることになります。
 この本の日本語は見事なものです。拉致され帰国した蓮池薫氏の訳ですが、24年間もの長いあいだのブランクをまったく感じさせない重厚な文体です。中央大学法学部3年生に在学中に拉致された蓮池氏の知的レベルの高さに圧倒される思いでした。
 李舜臣が「乱中日記」を書いていたことを初めて知りました。それ自体も日本語に翻訳されているのでしょうか? どなたか、教えてください。
 原書は韓国では50万部をこえるベストセラーだそうです。

生きるという権利

カテゴリー:未分類

著者:安田好弘、出版社:講談社
 私とほとんど同世代ですが、刑事専門の弁護士としてあまりにも有名です。オウム事件で麻原彰晃の主任弁護人をつとめていましたが、裁判の途中で、自ら逮捕されてしまいました(後で無罪となり、確定しました。警察の嫌らしい弾圧事件だったのです)。
 主任弁護人からみたオウム裁判の実情がよく分かります。著者が弁護人となる前に、ある弁護士から4人でチームを組んで私選弁護人としてやってもいいとの申し出がオウム教団にあったそうです。その着手金は、なんと1億5000万円。アメリカのマイケル・ジャクソン弁護団の費用に匹敵する額ではないでしょうか・・・(アメリカの方がもっと大きいとは思いますが)。
 著者は、当初この事件は本来、私選弁護人としてやるべきだという意見でした。しかし、結局は、国選弁護人として引き受けることになりました。その経過が生々しく語られています。私も、生半可な私選弁護人よりも国選弁護人でいかざるをえないという考えです。
 国選弁護人として、被告人との信頼関係を築きあげるのにはかなり苦労したようです。差し入れも相当したということですし、なにしろ接見時間が「夕方から翌日の朝6時まで」というのもあったというのです。これはまったく驚きました。
 東京拘置所は、麻原を裁判所に連れていくために1億円もの専用の護送車を購入し、さらに5000万円かけて特別の接見室をつくったそうです。護送車はともかくとして、5000万円かけた接見室の構造を知りたいものです。
 東京地裁の裁判長の姿勢が厳しく指弾されています。この本を読むかぎり、糾弾するのには理由があると思います。たとえば、裁判長は弁護団との交渉の途中でしばしば姿を消した。実は、そのとき所長代行の部屋に行って指示を受けていた、というのです。本当だとしたら(恐らく、本当でしょう)、ひどいものです。「裁判の独立」なんて、どこに行ったのでしょうか・・・。
 それにしても、著者の証人尋問に向かう姿勢には驚嘆すべきものがあります。毎回の尋問の前日は完全徹夜だったというのです。刑事弁護は、身をすり減らし、命を縮める作業の連続だというのですから、すさまじいものです。とても真似できるものではありませんし、真似したくもありません。ただ、訊く人間がわくわくしながら訊いていかないと、誰も興味をもたないし、理解もしてもらえないという指摘には、まったく同感でした。
 さらに、著者が自らNシステムのなかに入りこもうとしたというのを知って驚きました。オウム真理教の車とその後をつけていたであろう警察の車を明らかにしようとしたのです。なるほど、ハッカーの技術は、そんなこともできるのかとびっくりしました。
 オウム真理教の事件には、まだまだ解明されていない多くの謎があります。いったい、警察はいつからオウム真理教の一連の殺害等の事件を知っていたのか・・・、警察庁長官殺人未遂事件の犯人は誰なのか・・・、などなどです。

馬・船・常民

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著者:網野善彦、出版社:講談社学術文庫
 奈良時代、大きなお寺が金貸しをしていたという話がでてきます。人に貸せるお金は神や仏のもの。仏や神のものならば、貸して利息がとれる。だから、意識的に銭を神仏のものにすることによって、自由に投資・貸借できるものになる。だから勧進という形態をとる。うーん、そうなんだー・・・。
 平安時代の遊女の社会的地位はかなり高かったという話も出てきます。
 貴族が自分の母親は遊女の出だということを系図に平然と書いていた。遊女の子どもでも、徳大寺実基は従一位太政大臣になっている。
 女性は、昔も今も平気で一人旅に出かけていた。旅に出たとき、たまたま一緒になった男性と関係しても何もとがめられることもなかった。現代日本でも、地方によって二腹(ふたはら)、三腹(みはら)という言葉がある。これは何人の男の子どもを生んだかということ。日本は、性に関して、昔からおおらかな国なのだ・・・。
 このほかにも、いろんな面白い話が盛り沢山です。なかでも私の興味をひいたのは名前の話です。氏の名前は、天皇という称号が確定したころ、天皇から与えられる形になった。そして、戸籍をつくって、国家の支配下に入ったすべての人の氏名・姓名を全部書き上げようとした。逆に、天皇は氏名・姓を失うことになった。
 律令国家が確立して以来、天皇には氏の名前も姓もない。天皇は氏名を与える立場に立ったが、自分には与えてくれるものがない。中国だったら天が皇帝の地位を与えるが、日本の天皇は天命思想を注意深く避けているので、そういうわけにはいかない。それで天皇の氏名はなくなった。
 皇太子が論文を書くとき、名字がないので、徳仁だけでは格好がつかないから、徳仁親王と署名した。しかし、これは本当におかしい。自分に敬称をつけるようなものだから。
 なるほど、天皇には氏(名字)がないのか・・・。その理由を初めて知りました。
 次に庶民です。15世紀になると、一般の百姓、平民は実名を名乗らなくなる。氏名も実名も、もってはいるけれど、公式には名乗らず、二郎、五郎太夫などの仮名(けみょう)だけを使うようになった。それを江戸幕府が制度化して、百姓は、実名、苗字、氏名を公式には名乗ってはいけないことになった。だから、公式な文書に、百姓や一般平民は実名を名乗れない。しかし、実際には、苗字も実名ももっていた。だから、お墓には苗字を書いていた。なるほど、なるほど。私の長年の疑問のひとつがやっと解消しました。
 江戸時代が終わって明治になって、一般平民はそれまで苗字をもっていなかったので、あわてて苗字をつくったという説明を聞いてきましたが、私は本当にそうなのかという疑問をもっていたのです。私の先祖は「由緒正しい」百姓(農家)の生まれですが、江戸時代以前から上杉謙信の落ち武者伝説を引きずってきています。それなのに、明治時代まで苗字がないなんて、おかしいと思ってきました。名前のこともよくよく考えさせてくれる面白い本でした。

自衛隊、知られざる変容

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著者:朝日新聞取材班、出版社:朝日新聞社
 なんだか防衛庁のホームページを読んでいる気がしてくる本です。本文450頁の分厚い本ですが、残念なことに内容は薄っぺらです。やはり自衛隊にヨイショするばかりでは物足りないという典型みたいな本でした。
 後藤田正晴元副総理はインタビューで次のように語っています。
 米国依存だから、戦後の日本には政府全体の情報機関が育たなかった。国の安全は全部米国任せだから、いまのように属国になってしまった。
 (サハリン沖で大韓航空機がソ連戦闘機に撃墜された事件でも、自衛隊がソ連の無線を傍受した記録を先にアメリカに報告したのを知って)、本当に腹が立った。米国が先、日本が後なんだ。これでは米国の隷下部隊ですよ。こんな自衛隊ならいらんと言ったんだよ。
 私もまったく同感です。ところが、この本には残念ながらまったくそのような視点が欠落しています。自衛隊のエリートたちがトクトクといかに自分はアメリカ軍の幹部たちと交流があるかという自慢話のオンパレードです。
 自衛隊の装備や軍需産業についても、その問題点に迫ったとは言えません。私が最近読んだ新聞記事を次に紹介します。
 80年代の防衛費は10年間の合計で30兆5千億円。それが90年代には46兆8千億円と1.5倍に増えた。90年代に90式戦車が300両(3千億円)、イージス艦6隻(8千億円)が配備された。いずれも対ソ戦への備えである。ところがご承知のとおり、ソ連は90年代に入ってすぐに崩壊してしまった。しかし、政府は、以前の計画に従ってそのまま製造し、配備し続けた。北海道に配備された90式戦車は重さが50トンもあるため、北海道では、戦場になりそうなところへは特別に頑丈な橋や道路をつくった。しかし、対ソ戦の心配はなくなった。でも、本土にはこの戦車を通せる橋も道路もないから、北海道に置いておくしかない。ソ連の崩壊する前に配備したのは全体の1割の30両だけで、あとは相手がいないと分かっても配備し続けた。
 イージス艦は対ソ戦用の最新鋭の軍艦だが、実は第1号艦が最初に配備されたのが93年。つまり、ソ連崩壊の2年後だった。いま、イージス艦はインド洋でアメリカの軍艦に重油を供給する日本の給油艦を護衛することに使われている。おそらく世界で一番コストの高い給油活動だ。
 このような莫大な税金の無駄づかいが堂々となされていることを、どうしてマスコミは取材して報道しないのでしょうか・・・。小さい無駄づかいには目くじら立てるのに、何千億円というと、なんでもないことのように見逃してしまうなんて、おかしなことです。そもそも、いったい軍隊というのは本当に国民を守るものなのか、歴史をふり返ってみて国民を守ってきた事実があるのかという根本問題をぜひ視野にいれてほしいものです。
 いま、日本の自衛隊員は24万人。警察の25万人に次いで大きな組織です。その自衛隊のトップ制服組が堂々とマスコミに登場するようになったのは、イラク・サマワへの派遣からではないでしょうか。憲法9条2項を廃止してしまったら、日本は海外に出かけて戦争する国になってしまいます。恐ろしいことです。
 いつもいつも自衛隊の提灯もちの記事ばかり読まされ、いい加減ウンザリします。

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